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2019.03.14
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カテゴリ: 時事

「仕事があれば、再犯しない」。刑務所出所者を積極的に採用する「北洋建設」小澤社長の信念- 記事詳細|Infoseekニュース
北洋建設(北海道札幌市)の小澤輝真社長(44歳)は、昨年4月と今年1月の計2回、法務大臣への直訴を敢行した。刑務所などの出所者を更生させるに必要な就労支援の助成を訴えたのだ。◆「仕事があれば再犯しない」との信念で出所者を積極的に雇用北洋建設は、刑務所や少年院などの出所者を積極的に採用する建設会社だ。…



「仕事があれば、再犯しない」。刑務所出所者を積極的に採用する「北洋建設」小澤社長の信念
HARBOR BUSINESS Online / 2019年3月14日 8時31分

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小澤輝真社長

 北洋建設(北海道札幌市)の小澤輝真社長(44歳)は、昨年4月と今年1月の計2回、法務大臣への直訴を敢行した。刑務所などの出所者を更生させるに必要な就労支援の助成を訴えたのだ。

◆「仕事があれば再犯しない」との信念で出所者を積極的に雇用

 北洋建設は、刑務所や少年院などの出所者を積極的に採用する建設会社だ。

 1973年創業の北洋建設は、初代の小澤政洋社長(現社長の父)の時代から刑務所や少年院の出所者を積極的に雇用してきた。その数、この45年間で500人以上。現在、社員約60人のうち20人近くが出所者だ。小澤社長は「仕事があれば再犯しない」との信念で全国の刑務所を飛び回り、就職面接を重ねている。

 法務省政策評価企画室の『再犯防止対策の概容』(2017年10月)によると、2016年の検挙者23万9355人のうち48%の11万4944人が再犯者。その再犯者の約72%が逮捕時に無職だった。出所者は刑務所を出ても、所持金も少なく、身元引受人がいない場合は住所を持てず、働きたくても働けない。結果、その多くが三度の食事と雨風をしのげる住処を求めて、あえて微罪を犯して刑務所に戻るケースが後を絶たないのだ。



 この信念を口にするのが小澤社長だ。刑務所での面接で内定を出した受刑者には社員寮を用意し、仮釈放であれば小澤社長が身元引受人となり更生を計る。

 この取り組みがテレビ番組で報道されると、それを見た受刑者から小澤社長に直接「御社で働きたい」との手紙が届くようになった。北洋建設には全国の刑務所から毎日最低でも4通の手紙が届くという。

◆刑務所に求人ポスターを発送するも、ほとんど貼り出されず

 2017年、北洋建設は「求人情報をより公平に周知させたい」と求人ポスターを作成した。そして、それを全国の刑務所に発送した。ところが、それでメデタシとはならなかった。

 その後、同社が全刑務所に実施したアンケート調査の結果、多くの刑務所でポスターを貼り出していないことが判明したのだ。その理由の記載欄に書かれていたのは、大雑把に言えば以下のような文言だった。

「北海道のような遠方に出所者がわざわざ行くとは思えない」

 この記載に小澤社長は強い違和感を覚えた。

「むしろ逆です。親とも地域とも縁を切った前科者は、むしろ誰も自分を知らない遠い土地に行きたがるものです。僕たちのポスターはその一助になるはずなのに」

◆鈴木宗男・元衆議院議員の後押しで法務省に直訴

 そこで小澤社長が計画したのは、各刑務所への直訴ではなく、全刑務所を管轄する法務省への直訴だった。

 これを手助けしたのが元衆議院議員の鈴木宗男氏だ。同じ北海道が地盤ということもあるが、小澤社長が15年前の29歳のときに北方領土へビザなし渡航をしたとき、鈴木氏が団長を務めていた縁で、以後、鈴木氏は北洋建設の活動に目をかけるようになっていた。今回は鈴木氏が一肌脱ぎ、政界のパイプを使って上川大臣への面会へとつないだのだ。



 小澤社長は、2012年に身体機能を徐々に奪われる難病の「脊髄小脳変性症」に罹患した。知能に影響はないが、運動機能が低下していく不治の病で、実際、小澤社長は歩行能力が奪われ、発声も不明瞭になりつつある。指が常に震えるため文字を書けない。医者は発病時に「余命10年」を告げたので、単純計算すれば余命は3年だ。

◆「僕たちは出所者の更生に全力をかけています」

 小澤社長は車椅子から、ところどころ不明瞭ながらも上川大臣に懸命に訴えた。

「大臣、僕たちは出所者の更生に全力をかけています。彼らに更生してほしいから求人ポスターもつくりました。それを全国の刑務所に送ったけど、貼っていないところが多い。その理由が『当施設が北海道から遠いから』という、地元に帰りづらい受刑者にすれば、実は好ましい条件です。だから、その理由はありえないです」

 これに対して、上川大臣は「確かにその理由はおかしいですね。受刑者には、就職できるのはこのエリアだけと制限するのではなく、全国が対象となるべきです」と同意を示し、こう続けた。



 上川大臣は行政の長として、一定の反省があることを公にしたのだ。

◆鈴木宗男氏の経験談、小澤社長の熱意が上川法務大臣を動かす

 また小澤社長と同行していた鈴木元議員は、国会議員時代に、北海道・国後島の日本人とロシア人の友好の家(通称ムネオハウス)の工事に関わる入札を意図的に地元建設業者に随意契約させたなど複数の罪に問われ、服役した経験をもつ(鈴木氏は冤罪を主張)。

 鈴木氏は小澤社長の話が終わると口を開いた。

「私も、2010年12月から1年間、収監された経験があります。周りの受刑者を見ていると、多くの人が出所しても行く当てがないんです。これはまずいと痛感しました。現場のことを政治家は知らない。少しでも更生できる環境整備を整えていただきたい」

 この言葉には説得力があった。上川大臣が頷いた。

 この取材には大手メディア記者や出版社の編集者など数名が来ていたが、その1人は、「大臣は官僚が作ったマニュアル文書ではなく、自分の言葉で交渉に臨んでいた。行政としての周知が不十分であることも認めた。一気には無理でも、出所者を巡る社会環境が少しは是正されるかもしれない」と語った。

 果たしてその後、北洋建設のポスターは全刑務所で貼り出されることになる。小澤社長の熱意が大臣を動かしたのだ。

◆「出所者の雇用支援のため、公費助成を増やしてほしい」と再び法務省に訴える

 さらに9か月後の2019年1月16日、小澤社長は再度法務省を訪れ、山下貴司大臣と面会して訴えた。

「出所者受け入れには多大な費用がかかります。僕はこれまで約2億円を出所者の更生に費やしてきました。今ではその費用捻出のため、個人の土地も売りに出しています。ぜひ、公費での助成を増やしてほしいです」

 法務省はこれまで無策だったわけではない。例えば出所者の雇用支援として、「協力雇用主」(出所者を雇用する企業)を増やそうとする制度がある。出所者を1人雇用すれば、その企業にその後12か月間で最大72万円の奨励金を支払う制度で、北洋建設も協力雇用主の一つだ。

 さらに、小澤社長が就職希望の受刑者に面接に行く際には、交通費と宿泊費などを合わせて数十万円がかかる場合があるが、その助成もある。

 だが問題は、これら助成のための予算が少ないことだ。北洋建設では毎年、年度途中で底をつくため、面接のための交通費も小澤社長がほとんど自己負担しているというのが現状だ。また、出所者は手持ちの金がほとんどないために、札幌にまでくる交通費や下着も含めて衣服の支給などもしなければならない。

◆余命3年、資金不足で土地を切り売り……しかしぶれない小澤社長の信念

 小澤社長は自社のためだけに助成を訴えたのではない。全国には2017年度で1万8555社が協力雇用主として登録しているが、実際に出所者を雇用したのは4%強の774社に過ぎない。その背景には、助成が少ないことも一因だと小澤社長は捉えている。そして、山下大臣にこう言い切った。

「大臣、出所者がウチで働くと再犯率はゼロなんです。ウチには殺人未遂者も死体遺棄者もいるけど、働いたら全然問題ないんです。こういう会社があることを分かってほしいです」

 山下大臣はゆっくりと頷き、こう約束した。

「今回いただいた話でできることについては、事務方で話し合いをします」

 山下大臣は、2016年12月14日に施行された「再犯防止法」を議員立法で成立させた当事者だ。同法は、仕事や住居がない出所者のため、その職業や住居の確保、刑務所などでの職業訓練などの推進を謳ったもの。だからこそ小澤社長も期待するところなのだが、だからといってすぐに助成の予算が確定するわけではない。

 今年2月上旬、小澤社長から筆者に以下のメールが入った。

「(出所者更生のための)予算が切れてきました。お金が厳しいので、豊浦町にある水の出る8000坪を350万円で、喜茂別町の3000坪を1000万円で売却中です」

 余命3年。それでも、その行動はまったくぶれることがない。

<文・写真/樫田秀樹>






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最終更新日  2019.03.14 16:13:31
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