最果ての世界

最果ての世界

始まりの風


 大地のように広がる空を、ただ見上げていた。
 見上げる彼女の顔には、複雑な色が見える。

 その表情を撫でるように、風が彼女の髪を靡く。
 風は、全てを優しく撫でるように…。
 まるで、彼女の心を押し潰す何かをも軽くしようとしているように…。
 だが、それでいて、彼女に何かを望むように…。

 その風に吹かれ、彼女はそっと光を閉ざす。
 両の瞳を閉じ、その風を体で、その心で感じる。
 そして、瞳を開く。その瞳で高き空の彼方を見つめる。
 瞳に宿る迷いを、心に映す不安を、細き腕で抱き留める。

 そして、決断をする。

 彼女は、その決意を胸に空から瞳を逸らす。
 誰かにではなく、自分のために。
 その胸に手を当て、踵を返す。そして、その足を進める。


 彼女の去った、その場にはまだ風は吹いていた。
 苦しむ彼女を見守るように、優しい風は空へと昇る。
 まるで、始まりを告げるように…。


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