最果ての世界

最果ての世界

植物天使の小話/弐


風に吹かれず。いつものように、外の空気を感じず。私は、小さな鉢の中で
外を見つめていた。何ひとつ変わらない、フィルター越しの世界。
 しかし、その日はいつもなら訪れるはずのない影を作り出した。私を覆う
ヒトの形をした影。私は、特に何かを感じるでもなく。ただ、思った。

        『 あぁ、私を摘みに来たのね。 』

 そう思っただけだった。でも、その影は何かするでもなく私を覆っている
だけだった。少し疑問に感じ、何をしているのか。影だけを見つめた。
 すると、そこにある影はヒトには存在しない大きな鳥の翼のようなモノを
映し出した。そこで、初めてその影の主に意識を移した。

 そこには、ヒトと同じ姿をした。でも、ヒトにはない白い翼を持つ者がい
た。私は、その存在をなんと言うのか知らないので。それが何かとは、良く
分からない。

『私は、ヒトの言葉を借りるなら「天使」という存在です。貴方の最後の
願いを、叶えに来ました。貴方は、何を願いますか?』
 彼女は、私の気持ちが解るかのように。まず、自分の存在の名を明かした。
そして、私の願いを聞いた。はっきりというならば、私には願いなんてもの
はなかった。この鉢植えの世界しか知らない。風雨に晒されることも、渇き
に耐えることもない、ヒトの恩恵に預かっている世界。


でも、もし、本当に叶う願いであれば。私は、ひとつだけ願う。
    私は、外の世界を知りたい。自然と共に、生きたい。
それだけが、私の願い…。


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