最果ての世界

最果ての世界

植物天使の小話/エピローグ


 そして、変わりなく話の再開を促そうとした時。それは、訪れた。
 天使の後ろから、その影は音もなくやって来た。私の終わりを告げに。

 人間が私を値踏みするように眺めるその横で、天使は苦しそうに私を見つ
めていた。私の、苦しみを代弁するように。
 私は、なんだか、表現しがたい気持ちだった。確かに、嫌な気持ちはある。
 それでも、苦しそうな天使を見ていると。それ以上に、幸せに感じた。

 人間は、そんなことなど知ることもなく私に鋏を入れる。ぱちん、小さな
音と共に私は人間の手に納まる。
 それでも、私は天使から目を離すことが出来なかった。
 天使は、涙を流していたから。私が、小さな鉢植えから解かれる時。
 その瞬間に、ほろりと小さな雫が天使の頬を伝った。

 私は、天使を見つめながら人の手を介して外へと連れ出される。だんだん
と遠くなって行く天使を、私は最後まで見つめていた。
 この世で、きっと一番の美しい涙なんだろうと思った。
 それだけで、私は充分に思う。何も感じることの出来ない今を、それでも
良いんだと思う。
 私は、最後にあの美しい天使に出会えたのだから。それだけで、充分。



最後まで解らなかった、感情の理由。でも、もう、それで、良かった。
 私には、それが答えだから。私のために泣いてくれた、それで充分だ。
きっと、これからも、あの天使は、何かのために泣くのだろう。
 そして、その何かは答えを見付ける。自分だけの答えを。
       それが、神様が与えた天使の感情の理由なのかも知れない。


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