最果ての世界

最果ての世界

戦場の舞姫。


「それにしても、珍しいね。こういうお願いを聞くなんて。」
トトは、腕輪を前足で突付きながらエマに聞きました。
「なんとなく、あの子の気持ちが解るから…、かしらね。」
エマは、ウーリィの去った出口を見ながら答えました。
「トトにも、解る日が来るわよ。」
エマは、そう言ってトトの前足が遊ぶふたつの腕輪を取りました。
「また僕の事、子供扱いしてる…。」
そんなエマを見上げて、トトは不機嫌そうに呟きました。
「そういう意味ではないのよ、これはね。」
エマは、腕輪のひとつを自分の腕に嵌めながら言いました。
「この腕輪の重さが解るようになれば、トトにも解るわよ。」
そして、残りのひとつをトトの首に付けながら言いました。
「エヘヘ~、エマとお揃いだ~!」
そんなエマの言葉をすっかり忘れて、トトははしゃいだ声を上げました。
「そういう所が、まだまだ子供なのよ。」
そんなトトに苦い笑みを浮かべてエマは言いました。
「エマとお揃い!エマとお揃い!」
テントの中をはしゃぎながら飛び回るトトには、もう聞こえていないようでした。

「なんだか、戦場でこんな出会いがあるなんてね。思ってもいなかったわ。
 それでも、もうここで何かを得てしまったんだものね。
 明日でこことは、お別れになるのね。思ったよりも、短い時間だったわ。」
そんなトトを微笑ましく眺めながら、エマは呟きました。
そうして、次の舞いを披露するのはどんな場所になるのかと思いました。

それは、きっと、エマにもトトにも解りません。
何故なら、どんな国でも、どんな場所でも、彼女は舞うからです。
誰かのために、自分のために、トトのために、何かのために。


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