Heikの狂暴温泉芸者

Heikの狂暴温泉芸者

ピーチのキャンドル





四畳半

正方形の

狭く閉じ込められた

部屋の空間




そこへ

正方形の卓袱台を中央に

据え置く




蛍光灯の明かりは

敢えて つけないでおく




真っ暗闇の中

マッチを擦って

卓袱台の上に

ピーチのキャンドルを灯す




きちんと正座して

その炎の揺らめきに

うっとりと 心をまかせる




やがて精神が

むずがゆくなり

生き物のまんまに蠢きだす




子供の頃の秘密基地

そこでボクは

マッチの火遊び

ザラにこすって火をつけるのが

面白く楽しくて仕方なかった




今では幻となってしまった

妹の結婚式での

キャンドル・サービス

親父のくしゃくしゃになった顔に

にじみ光る涙




祖母の亡くなった時に

立派な祭壇に灯された

無数のかぼそい炎の幻影




ゴミの収集日

ビニール袋の山をめがけて

燃えるマッチを

夜明け前

放り込んで

ボヤ騒ぎを起こしたっけ




様々な 炎をめぐる

切れぎれになった 断片の記憶が

このピーチのキャンドルの

揺らめき ゆらゆら

定まらぬ形に連想され

集約されるのが 心の芯




タルコフスキー映画【鏡】では

離れの納屋が

小雨降る中

火事によって崩落してたっけ




形がありながら

ひとつとして

形の定まらぬ

このピーチのキャンドルの ともしびが

悪評高き 魔女の館の扉を叩く




そして おずおず のろのろと

姿を見せ 現れたのは

醜く老いた

実母の すっぴんの

毒々しくも禍々しい 微笑だった






二OO四年二月四日


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