Heikの狂暴温泉芸者

Heikの狂暴温泉芸者

発狂する町





「あなた ほんとに それでいいの?」

「後悔さえも しないのね」

「あたしのことなんて
 なんとも思ってないのね?」



 僕は煮え切らずに 頷くだけだった



やがて彼女の大きな瞳から

大粒の涙がこぼれ落ちてきた



両手で かわるがわる

僕の薄い胸を叩く




街路樹のイチョウ並木が

ロケットとなって 連続して

濃紺の空へと飛び立った



すべての道路が渋滞し

クルマがクルマの上を

乗り上げながら

走る 走る

暴走していやがる




電線が断線・停電して

ビルの窓から

明かりが すっかり消え失せる



水道管は とっくに

あちこち 破裂している



本当の 冬の夜に

町は静かに発狂する



共鳴するのは 僕ひとりだ



「どうなってもいい」
「どうなってもいいんだ」



あちこちから 叫び声が聞こえる



パニックだ

パニックの町だ!



「私を捨てないで」の

パニックだ



ゴジラは 定刻を過ぎても

まだ到着しない



【めちゃくちゃにしてくれ】

【何もかも 思いっきり
 めちゃくちゃにしてくれ】



マンホールの蓋が開き

そこから ぞろぞろと這い出た

白装束の邪教の徒たちが

御詠歌を唱える



御詠歌に混じって

甲高い叫びが ほとばしる



 【お前なんて
  誰も必要と していない】

 【お前なんて
  誰も求めて いやしない】




僕はついに

僕であることを 諦める




ネガ・ポジが逆転して

町は暴れるのを止める



そして 町には誰も

いなくなった

僕を残して

誰も いなくなった



涙が とめどなく

全身からこみ上げてくる



本当に 僕は ひとりだ

ひとりっきりだ



生ぬるい風が 一陣と舞う




棺桶に横たわる僕がいる



「まだ燃やさないでくれ」



一体どこの誰が こんな仕打ちを

考え出したのだろうか



僕は白い煙を上げて

燃え尽き果てる



そして ただの 灰となる

一握の 灰となり果てる






二OO四年二月十八日


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