何時間乗っていたんだろう。とりあえずボートの木製のベンチに座っているとお尻が痛くなる程、その苦痛で永遠とも思えるような時間ボートに揺られた。乗っていたポンポン船は気がつくとエンジンを停め、たくさんの小さなボートが僕らのボートを取り巻いてガヤガヤと怒鳴り声が聞こえる。一瞬ハイジャックか?と思うほどその状況の意味がわからなかった。なにせボートの周りを見渡しても街があるような風景ではない。上の写真でわかるようにダダッ広い湿原の先には人家は一戸も見当たらない。 ボートから荷物を持って外に出ると、なぁんとなく状況がわかってきた。乗っていたボートが街に近づけるのはココまでで、ココからは湿原用の小さなボートに乗って行かなくてはならないのだ。小さなボートにはシェンブリアップにある宿の従業員が乗っていて、「うちに泊まる人はこれに乗ってくれぇ!」と叫んでいる(ようだ)。 窮屈なボートで何時間も座っていてとっても不機嫌になっていた僕は、ここで「ムムムム…」となる。いつもその街に着いてから宿を決める僕が予め宿なんか決めているわけがない。他の乗客はなんの戸惑いもなく次々に小さなボートに乗り移っていき、どんどん小さなボートが泥んこを巻き上げながら見えない岸に向かって走り出していく。残っている小さなボートの人と怒鳴り合いながら(船同士が離れている上にエンジン音がうるさいので)話してみると、宿が決まっていれば岸までのボート代は無料になるが、決まっていないと5ドル(くらいだったと思う)払わなければいけないとわかった。不機嫌な僕は、これを聞いて誰に向けるわけにもいかない怒りで一杯になった。なんでこれ以上のお金を払わなければいけないんだ!バンコクから飛行機で飛んできたのに、まったく快適ではないし、時間はバスの倍はかかっているし、かかるお金は何倍だかわからない。だまされた!バンコクの旅行会社に騙されたんだ!腹がたってしょうがなかった。 ぼくが怒り顔で「もうこれ以上金は払いたくない!ただで乗せろ!」と小さなボートに乗っている人間に、カンボジア人からしたら訳のわからないことを怒鳴っていると、ツツツ…と別のボートが近づいてきて、中の一人が「Are you Hide?」と心配顔で話しかけてきた。え?なんで僕の名前を知ってるの? 「Yeah! I am Hide!」と怒鳴り返すと「いいからこっちに乗れ!」と言う。もう残っているボートは少ない、もう怒っているのもバカ丸出しなので、そのボートに乗り移った。 とにもかくにも長い竿の先っぽにプロペラを取り付けた小さなボートはプロペラを泥んこの中に突っ込んでブルブルと動き出した。「お前は誰だ?なんで名前を知ってるんだ?」と僕の名前を呼んだ僕と同い年くらいの男に尋ねる。困ったような顔をして「聞いてないのか?プノンペンから電話があったんだよ。Hideっていう日本人が来る、って。僕はバイクタクシーをやってるナンチャラだ(名前忘れた:以下ナンチャラ)。」 あぁそうかプノンペンのタクシーの運ちゃんが連絡しといてくれたのだ。でも、もう警戒心で一杯の僕は「このボート代、Freeになるのか?」と聞くと、とっても困った顔をして「わかった、Freeでいいよ」と。 その小さな泥舟は今までの遅れを取り戻さなきゃ!という感じでガンガン飛ばして先に出発した泥舟を猛追していく。水深の浅い泥地帯を強引に進んでいくため、浅瀬に乗り上げたり、プロペラに何かを絡ませたりして止まっている泥舟をヘッヘッへ!ざまぁみろ!という感じで抜いていく。15分も走るとやっと岸が見えてきた。結局、先に出ようが後から行こうが、岸に着くのは皆おなじ時間なのだ。 岸に上がる。でも…なにもないんですけど? ナンチャラに聞いてみると「えぇと…街までは、ここからバイクに乗って15分くらいかかるんだよ…」と申し訳なさそうに、弁解するように答える。ここでまた僕はピンときたので、先制攻撃をしておく。「まさか又お金取るんじゃないよね?」。ますます困った顔を一瞬したナンチャラだったが、覚悟が出来たのか「Freeでいいよ」と。ホント迷惑な外人なのだ。