カフェ・ヒラカワ店主軽薄

カフェ・ヒラカワ店主軽薄

2007.01.07
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カテゴリ: ヒラカワの日常
アダム・スミスを読んでいると、
世界の全体を捕まえるという気迫のようなものにまず圧倒されてしまう。
あまりに、かれの
「神の見えざる手」が有名になりすぎたために、
市場原理の発見者のように思われているが、
そして、それは事実なのであるが
あまりに、そこばかりが強調され過ぎるのは
かれの本意ではないだろう。
それ以上に注目すべきことは、

いかにして自由なところに位置付けるかということに向けて
あくなき追求をしているということである。
「神の見えざる手」は、そのためにスミスが発見した
「方法」なのであって、すべてをそれにゆだねよとは
かれは何処にも書いていない。

考察は多岐にわたっている。
分業の発生とその分析からはじまり
貨幣の起源、商品、価格、資本、地代、税、
植民地経営、国家、公共事業、教育と、およそ
地上にあらわれる人間が作り出したもののすべてを視野に入れる。
そして、すべてを視野に入れなければならない理由もまた

驚くのは、それらの考察は
今の政治状況の中においても色あせることのない示唆にあふれている
ということである。

彼は市場原理主義の発案者のように思われているが、
注意深く読めばそうではないことはすぐにわかる。

それゆえ教育の必要性を説き、
公共事業の必要性にも多くの紙枚を割いている。
彼が『諸国民の富』を書いた時代背景を考えないと、
彼が権力による市場への介入や、
社会のためにやるだと称して商売をしている徒輩を
激しく攻撃した真意はつかめないだろう。

そして、かれがその公正さへの追求といったものを
どのような方法をもってすれば、もっとも合理的かつ説得的に
語りうるのかということを考えた末に採用した戦略が
「損得勘定」という人間に普遍的な欲望で世界を裁断するという
ことではなかったかと思うのである。

かれの理性によって世界を描き出すという壮大な野心に比べると、
アダム・スミスの片言節句から市場原理主義を作り上げたエピゴーネンたちの
言葉にはどこかにイデオロギッシュな利益誘導の匂いを感じてしまう。
ミルトン・フリードマンは、ノーベル賞を受賞した、
現代の市場原理主義の首魁だが、
その文体が示す顔つきにはどこか底意を感じてしまうのである。
説得力のない言葉を使うなら、
フリードマンには、どんなに「理」があっても「愛」がない。

分業の分析からはじめられたこの壮大な考想は、
重商主義政策を批判し、英国の植民地支配を批判して、
次のような感動的な言葉でしめくくられていることを
多くの人は省みることがない。
アダム・スミスに戻れと御用経済学者は言うかもしれないが、
かれの心情の先にまで戻ったためしはないように
思える。

「いまこそ、わが支配者たちは、国民ばかりか、どうやらみずからもふけってきたこの黄金の夢を実現してみせるか、それができないなら、率先この夢から醒め、国民を覚醒させるよう努めるかすべき秋(とき)である。計画を完遂できないのなら、計画そのものを捨てよ。そして、もし、大英帝国のどの領土にせよ、帝国全体を支えるために貢献させられないというのなら、いまこそ大ブリテンは、戦時にこれらの領土を防衛する経費、平時にその政治的・軍事的施設を維持する経費からみずからを解放し、未来への展望と構図とを、その国情の真にあるべき中庸に合致させるように努めるべき秋(とき)なのである」









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最終更新日  2007.01.08 09:27:41
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スミスのココロ。  
かんき さん
平川さん、新年おめでとうございます。
ケンブリッジ数理経済学の泰斗、アルフレッド・マーシャルの
「cool head and warm heart」を思い出しました。

A・スミスは『道徳感情論』もおもしろいですが、お読みに
なられましたか?
またお話うかがいたく思います。

末尾ながら、昨日の新年緒戦は大敗いたしました。…。 (2007.01.10 00:32:04)

Re:スミスのココロ。(01/07)  
かんきさん
道徳感情論は読んでいませんが、早速取り寄せてみます。また、囲みましょう。 (2007.01.10 16:14:56)

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