特別寄稿



● 大変化に対応する政治と政策を(内閣特別顧問、作家 堺屋太一)

 今、日本はもの凄い勢いで変わっている。社会の体質と気質が根本から変
わり出しているのだ。

 例えば、2003年、日本の家計は1兆2千億円もの資金不足、つまり貯
金の取り崩しとなった。日本人は質素倹約で貯金好きというのは、もう過去
のことになってしまった。

 最近の大学生の希望する就職先はマスコミと外資系、それも移動の激しい
金融やコンサルタントという。日本人は勤勉で終身雇用を好むというのも、
昔話になってしまった。

 もう一つ、都会に住む息子や孫を装って、地方の高齢者からお金を騙し取
る「オレオレ詐欺」が話題になっている。ところが地方の高齢者が親や祖父
母を装って都会の若者を騙す「ワシワシ詐欺」は聞いたことがない。都会に
出た若者が働いて、地方にいる高齢者に仕送りをする、という図式はもうな
くなったらしい。今は地方の高齢者が都会の若者にお金を送る世の中なのだ。

 私たちは、こうした新しい現実を直視し、それにふさわしい考え方を創り
出さねばならない。

 世界も今、猛烈に変わっている。私は1962年の通商白書で、世界に先
駆けて水平分業論を提示した。経済水準の近似した国々の間で自由貿易が拡
大し、互いに規格大量生産を発展させる、それが世界経済の発展方向だ、と
いう考え方である。

 実際、水平分業論の中で、日本は大発展し繁栄と平和を享受することがで
きた。ところが、21世紀に入ると様相が一変した。ヨーロッパでも米州で
も経済水準の大いに違う国々が経済統合や自由貿易協定をやり出した。

 グローバル化した企業が、事業企画、技術開発、デザイン創造、部品生産、
組立て製造、販売戦略、広告宣伝、金融運用の各工程を別々の国や地域で行
う工程分業が進んでいる。そしてそこでは、労働集約的な企画・創造や開発
などの工程が、賃金の高い先進国に集中することが明らかになった。ヨーロ
ッパや米州の自由経済地域の拡大は、そうした現実を踏まえたものだ。

 そうであれば、日本も高賃金に耐えられる企画開発工程の集まる国になら
ねばならない。これからの政治政策では、国際的な競争と分担の視点が必要
である。

 官僚たちのセクションごとに分けた机上の計算では何事も進まない。世界
の全貌を見渡して日本の未来の全体像を描き、その上でそれぞれの政見政策
を決定する「政治リーダーシップ」が大事な時期である。



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