菅 直人 私の年金未加入問題について


菅 直人


<民主党代表辞任>

5月10日の両院議員懇談会において民主党代表辞任を表明しました。辞任の理由は私自身の国民年金未加入問題で国民の皆さんに年金への不信感を高め、併せて民主党の仲間にも大変な迷惑をかける結果になった事の責任を取っての引責辞任です。これまでご支援をいただいてきた皆さんに感謝と共にお詫びを申し上げます。そしてこの際この間の経緯について詳しく説明をしておきたいと筆をとりました。

<年金法案>

昨年の衆院選で民主党は、国民年金と厚生年金などの被用者年金とを統合する年金制度の一元化を柱とする年金の抜本改革案をマニフェストに盛り込みました。一元化が含まれない政府案に対して国会論戦を挑んでいた時、社会保険庁の国民年金キャンペーン広告に出た江角さんの年金に未加入が報道されました。私が「江角さんに国会に参考人としてきてもらえばいい」と発言したことに、多くの方からの批判がありました。
私としては「べたなぎ国会」と揶揄されていた国会の論戦を盛り上げるためと考えてのことですが、江角さんに対するいじめと誤解して受け取られたようです。今考えればこの頃に私自身の年金納付状況をしっかり調査しておけば今回のような展開にはならなかったと反省しています。国民年金の支払いは銀行口座から自動引き落としで振り込んでいるので未納はなく大丈夫と思っていました。

その後4月23日、中川、麻生、石破の3閣僚が国民年金の未納を発表し、枝野政調会長が国会で厳しく責任を追及しました。ちょうど翌日が衆院選補欠選挙の最終日で、選挙応援で「未納三兄弟」という言葉を積極的に使ったことが後に反発を強める原因になりました。

補欠選挙が終わって4月28日改めて地元の社会保険事務所に秘書をやり、私の年金加入状況の資料を取り寄せました。資料によると、国民年金に国会議員になる前から加入し、厚生大臣になった1996年1月の時点で資格喪失(脱退)となり、厚生大臣を辞めた同年11月の時点で資格を再取得し、その結果厚生大臣在任中の10ヶ月が無年金(未加入)扱いになっていることが判明しました。大臣になったからといって国民年金を脱退する理由は何もないにもかかわらず、何故この様な間違いが生じたのか厚生大臣時代の事務の秘書官に問い合わせたところ、大臣になると国家公務員共済の組合員になるが、大臣には医療保険のみが適用され、年金は適用されないので国民年金を脱退してはいけなかったという説明でした。法律を調べてくれた専門家からは「法律の規定が複雑で矛盾していて、どこかで間違いがあったのだろう」ということでした。未加入扱いが判明した4月28日、すでに民主党の「次の内閣」メンバーの年金納付状況を発表することになっていたので、発表したうえで「未加入は行政上のなんらかの間違い」と説明しましたが、これも反発を強める理由になったようです。

翌日からの欧米訪問を控え、大型連休に入る直前のこの時点で正直に「未加入」を発表したことが大きな誤解をうける事になりました。今考えるともう少し詳しく再調査して発表すれば、あれほどの誤解と反発は受けなかったと反省しています。

<法律上と行政上の問題>

その後徹底的に調査をしてみました。結論は「法律上の矛盾と行政指導の不徹底」が原因ということです。つまり国民年金法では「国家公務員共済の組合員は国民年金の加入できない」と解釈できる条文(第七条二号)がある一方で、国家公務員共済組合法(第七十二条二項二号)では大臣には国家公務員共済の組合員にはなるが年金は「適用しない」との規定があります。そこで当時、国民年金の窓口であった各自治体は、国家公務員共済の組合員になると届を提出させ、国民年金法にもとづいて国民年金の資格喪失とする指導が行われていました。

私の場合、健康保険証を兼ねている共済組合員証を持って妻が市役所の市政センターに国民健康保険の脱退手続に行った時、窓口で国民年金の資格喪失(脱退)手続も併せてするように書式を渡され、手続をしてしまったというのが事実関係です。武蔵野市役所に提出した届け出書類では、国民年金の資格喪失の理由として国家公務員共済の組合員などを意味する「2号該当」という項目に丸印がつけられていました。これは市役所の間違いというより、社会保険庁が大臣の例外的扱いについて自治体を十分指導していないために生じたことだと考えます。

<社会保険庁が誤りを認める>

5月14日になって社会保険庁も厚生大臣就任時の資格喪失の手続きが間違いであったことを認めました。当日、武蔵野社会保険所長から「資格喪失の取り消し」を行った通知と、厚生大臣在職期間中も国民年金資格があった事の証明書が私あてに発行されました。これで私の言った「行政上の誤り」があったことが証明されたことになり、ホッとしました。

資格の回復を認めた上はこの期間の保険料の支払いも認めるべきで、協議を継続しています。私の場合、銀行からの自動引き落としで納付されていた保険料まで社会保険事務所から返納されていたという問題もあり、近いうちになんらかの是正措置がとられるはずです。実は江田五月参議院議員も科学技術庁長官在任期間、私と同様、国民年金の資格喪失扱いになっていたそうです。しかし、その後の交渉で社会保険事務所が間違いを認め、江田さん宛に大臣の期間の納付通知が改めて送られてきて支払い、未加入期間は解消されています。

<ご理解をいただければ幸い>

以上の説明からお分かりいただけるように、私の年金未加入問題は日本の年金制度が一元化されておらず複雑であるという根本問題に加えて、国民年金法と国家公務員共済組合法の矛盾、さらには国家公務員共済の年金部分だけが大臣には適用されないという特例的扱いを社会保険庁が自治体に徹底していないために生じた出来事です。社会保険庁が私に対する資格喪失手続きが間違っていたことを認めたからといって「覆水盆に返らず」で、影響がこれで完全に回復するとは思いません。しかし地元やこれまで私を支援してくださった皆様に、私がマスコミを通して主張していたことが「嘘」ではなかったことを理解していただければ幸いです。

2004年5月17日

(1)武蔵野社会保険事務所長名の書面(資格喪失取消)
http://www.dpj.or.jp/seisaku/unei/image/kan_nenkin1.pdf



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