『星空の下で』 ~1~






   偶然とか運命とか言える出会いって、めったにあることじゃないよね。

   でもあの時、ほんの少しの時間と距離がふたりの間にあったら
   お互いの人生は大きく変わっていただろう。

   いや、何も変わらない、いつもとおなじ毎日が続いていた。

   たったひとつの星が、ふたりを導いていたんだ。

   いつもは星空なんて見上げることないのに・・・。







   何万年かに一度の、地球と火星の大接近だって、誰かが言った。
   小さなギャラリーに、ひとりでの撮影の仕事。

   機材のトラブルもあって、待ち時間にそんな話をしていた。

   近くの公園だと、空が広いからすぐ見つかると聞いて
   ギャラリーの中も暑かったし、
   時間つぶしにその公園に行ってみることにした。

   結構明るくて大きな公園で、
   池もあって、ジョギングしてる人もいたし、
   火星が良く見えるからなのか、
   双眼鏡や大きな望遠鏡で星空を見てる人たちもいて、
   ちょっとしたお祭りみたいでワクワクした。

   ゆっくり池の周りを歩きながら、みんなが見てる方を見上げると
   すぐにわかった。

   かなり明るい星。
   最初は飛行機かと思ったくらい。

   あんなに大きな星は見たことなかった。 
   オレンジに輝いてる。

   途中でおじさんの集団を見つけた。 
   でっかい望遠鏡をのぞいてる。

    「あの~、でっかく見えるんですか?」
    「あ~、でっかいよ、でっかい!」

   おじさんたちは、笑いながら手招きした。
   のぞいてみると・・・たしかにでっかい。

    「あ~、そのまんまですね~・・・。」
    「そうだなあ、そのまんまだなあ・・・。」
    「なんか、目で見たほうがきれいですよね。」
    「うん、そうだよね~・・・。
     星はね、遠くから見るのが一番きれいだよなあ・・・。
     オネエチャンもな~・・・!」
    「あははっ!」

   その時ケータイが鳴った。
   フリータイムの終了の合図。
   おじさんたちに挨拶して走り出した。

   ホントきれいだよな~・・・走りながら見とれてしまっていた。

   そのとき

   何かが動いた気配がして、あっと思った瞬間
   カーン!と、蹴飛ばしてしまった。

    「うわっ!・・・えっ、なになにっ?!」

   ひとりで大騒ぎしてキョロキョロしてると
   すぐそばに、固まってこっちを見てる人がいた。
   わ、かわいい~!と、思ったのは一瞬で・・・。

    「あ、あの・・・僕、なんか・・・。」  
    「ごめんなさい・・・!」

   こっちをじっと見たまま、緊張した顔で彼女は言った。

    「大丈夫ですか・・・?」
    「えっ? はい、・・・いや、だけど、なんか、蹴りました・・・。」

   遠くのほうを見てもなんだかわからない。
   どこまで蹴っ飛ばしたのかも・・・。

   彼女も向こうの方をあてもなく見渡してるだけだった。

    「あの・・・何だったんですか?」
    「・・・双眼鏡です・・・。ごめんなさい、取り落としてしまって。
     お怪我ないですか・・・?」
    「あ、はい、なんとも・・・。 えっ、でも、ドコ行ったんだろ。」

   池の中に入った風でもなかったし・・・うろうろしてると、

    「あの・・・だいじょうぶです・・・。お急ぎなんですよね?」
    「あ・・・」

   確かに急いでるけど・・・
   このまま放って行く訳にはいかない・・・
   ・・・カワイイし?

   表情は硬いまま・・・
   困ったような顔をして、まっすぐこっちを見ている。

    「いえ、見つかるまで。」
    「でも、ホントに・・・たいした物じゃないですし・・・。」
    「いや、確かあの辺・・・。」

   植え込みのそばに行ってみると・・・あった!
   ワンクッションで止まってた。 と、思ったら・・・。

    「あっ・・・。」

   レトロな双眼鏡は、フチの薄い所が大きく欠けていた。
   縁石に当たったんだろう・・・。

   駆け寄ってきた彼女は、割れた双眼鏡を見ても何もなかったかのように

    「ありがとうございます。・・・よかった、見つかって。」

   俺の手の中から大事そうに受け取ると、バッグの中に仕舞おうとした。

    「あっ、ちょっと待って、壊れてる!」

   無理やり双眼鏡を奪い取った。

    「大丈夫です、ホントにありがとうございました。」

   と彼女は取り戻そうとしたが、渡したくなかった。

    「あっ、ダメダメ! 僕、何とかします!」
    「いいんです、私が落としたんですから・・・。」
    「だって、こんなに割れてちゃ・・・預からせてください!」
    「そんな・・・困ります・・・!」
    「あっ!・・・」

   彼女が双眼鏡を引っ張った瞬間、左手の人差し指に痛みが走った。

   欠けてたのを忘れてた・・・。

   たいして切ってなさそうなのに、
   なんか大げさにみるみる血が滲んでくる。

   彼女の顔が、また緊張でこわばる。

    「ごめんなさい!」

   かわいそうなくらいオロオロして、かえって申し訳なかった。

    「いや、だいじょうぶ、だいじょうぶ! 見かけほどじゃないから!」
    「あの・・・あっ、こっち!」

   左手首をつかまれて、そのまま引っ張って行かれた。

   連れて行かれたのは、水のみ場だった。
   そのまま、ぬるい水で傷を洗ってもらいながら・・・、

    「もう大丈夫ですから、これくらい・・・。」
    「でも、土が付いてたし、きれいにしておかないと・・・。
     あの、救急箱持ってきます! 職場すぐそこですから・・・!」
    「いいです、いいです! 僕もすぐそこだから・・・!」

    「・・・お近くなんですか?」
    「はい、通りの向こうのギャラリーで撮影・・・あっ・・・。」

   しゃべり過ぎたかな? 
   恐る恐る彼女を見ると、ノーリアクション・・・。

    「あのギャラリー、撮影多いですよね・・・。」
    「はぁ・・・。」

   なんか撮影スタッフと思われてる? 
   ま、いいか、ややこしくなくって。

   気が付くと、彼女にしっかり手を握られてた・・・!
   と思ったら、ティッシュで指を押さえられてるだけだった。

    「このままでしっかり押さえててください。
     ほんとにごめんなさい・・・、なんてお詫びしたらいいか・・・。
     お仕事に差し支えないですか・・・?」
    「はい、かえって迷惑かけてすみません・・・。
     で、あの双眼鏡ですけど・・・いいですか?」
    「・・・。」

   返事のない彼女を残して、先に元のベンチのところに戻る。
   ドサクサで、地面に転がったままの双眼鏡を拾って、
   後を追ってきた彼女に向き直った。

    「一週間・・・二週間くらい時間もらえますか?
     よかったら連絡ください。 ケータイの番号言っておきますから。」
    「・・・はい・・・。」

   彼女はケータイを出さずに、メモ帳に番号を控えた。
   掛けるつもりないのかもしれない・・・。
   番号を書き終わったのを見て、名前を言ったけど無反応・・・。






   仕事の呼び出しからかなり遅れて、ケガまでして帰ったことで、
   スタッフに迷惑をかけてしまった。

   でも、なんだか不思議な夜だった。

   ほんのわずかな時間の、見知らぬ人とのやりとりが、
   遠い夢のように感じたけど、
   何かを手にするたびに鈍く痛む指と、手元にある壊れた双眼鏡が、
   現実だったんだと思わせる。

   最後まで、緊張した表情しか見せてくれなかったから、
   次に会うことがあったら、彼女の笑顔を見たいと強く思った。

   自分のことを知らないってだけで、思わず無防備になってしまったけど、
   それだけじゃない何かが、胸の奥に引っかかってる。

   また会いたい・・・、笑顔が見てみたい・・・、

   それだけじゃない、何か・・・。


つづく    12,Oct.2004


     ひとこと・・・

     2003年の8月の終わり、プラネタリウムの火星の観測会に行きました。

     プラネタリウムって、作り物であっても、
     街中では見ることができない満天の星空を楽しめて、
     ココロが開放されるというか・・・癒されます。

     あの日、公園で見た火星はホントにでっかかった!

     何日かあとのお月様とのランデブーもステキでした。

     ものがたりに関しては、偶然の嵐で娯楽に徹しようと思います。
     エスカレートしないように、自粛しながら進める・・・つもりです。

     次回から、嵐のみなさんにも、ほんの少しですが登場して頂きます。
     特に二宮くんが、何かにつけて絡んでまいります。(個人的趣味で)

     お好みでない方は、どうぞひっそりスルーしてやって下さい・・・。





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