~3~






   次に彼女に電話できたのは、
   ツアーも終わって一週間以上経ってからだった。

   いろんなサイトを見たり、電話をかけまくったり、
   空き時間に店を回ったりしたけど、
   壊れたところを修理することはできなかった。
   もう製造中止になっていて、部品もなかったから。

   でも、同じモデルはネットで見つけることができた。
   かなり昔のものだったけど、当時はたくさん出回ってたらしい。

   なのに、達成感は全く感じられなかった。
   あれだけ古いんだから、きっと誰かの思い出のものかもしれない。
   だとしたら、同じモデルでも、彼女にとっては何の価値もない。
   代わりのものでしかないんだから・・・。

   それでも、誰かのために時間を作って調べたり、
   歩き回ったりするのは楽しかった。

   なんか久し振りの感覚。 
   好きな子へのプレゼントを探してる時のような・・・。

   そんな毎日も、もう終わるんだな・・・。
   彼女に双眼鏡を返すその日で・・・。

   いろいろ考えながら、遠い呼び出し音を聞いてた。

    「・・・はい。」
    「あ、あの、相葉です!」

   ヤバイ・・・、急に心臓がバクバクしだした。

    「こんばんは・・・。」

   彼女の、今までと変わらない優しい声。
   心臓の音が、彼女の耳にも聞こえてしまうんじゃないかと思うくらい
   全身に響く。

    「えっと・・・。 あ、会いたいんですけど!」
    「はい?」
    「あっ、じゃなくて! ・・・いや、そうなんだけど・・・!」

   落ち着け落ち着け~・・・!
   息が整わない。 
   きっと鼻息ばっかしか聞こえてないんだろうな。

    「あの・・・、双眼鏡なんですけど、・・・。
     すみません、やっぱり修理できませんでした・・・。」
    「えっ・・・、ずっと探してらしたんですか?」
    「・・・すみません。」

    「こちらこそ、ごめんなさい。 お忙しいのに・・・。
     ほんとに、ありがとうございました・・・。」
    「いえ・・・、それで、お返ししたいんですけど・・・。」

    「あ、取りに行きますから・・・! いま、どちらですか?」
    「はいっ! いや、あの、今日は・・・、ちょっと・・・。」

   グラビア撮ってるスタジオに来てくれなんて言えない。
   私服ならまだしも、すごいハデなかっこだし~。

    「ごめんなさい、お忙しいんですよね。 いつがよろしいですか?」
    「えっと~~・・・。」

   ここんとこ、秋のイベントのミーティングやらリハやらで
   夜はいつ帰れるのかまったく予想がつかない。

   ほんとはゆっくり会いたいんだけど・・・。

    「あした・・・、だったら、昼ごろには時間空きますけど・・・。
     こちらから持って行きます。
     時間がハッキリしないんで、そのほうが・・・。」
    「・・・はい、じゃあ、お待ちしてます。
     お昼頃でしたら、すぐ出られますから。」

    「どこに行ったらいいですか?」
    「はい・・・。 このあいだの公園のお向かいに
     オープンカフェがあるんですけど、そこでいいですか?」
    「はい、じゃあ明日、行く前に電話します。」
    「はい、お願いします。」

    「あ・・・じゃあ、えっと~・・・。」
    「・・・あした。」
    「はい、あした・・・。」

    「・・・失礼します・・・。」
    「あ、はい・・・。 どうも・・・。」

   ・・・あ~~!! なにやってんだろ!
   ぜんぜんキメられなかった!

   電話切るのもモタモタして、みっともない・・・。
   おまけに、いきなり明日だなんて言って・・・。

   夜の生放送の、リハの合間の昼休みだから、2時間もない・・・。

   ケータイを閉じたままのポーズで、
   廊下の壁にもたれて、大きなため息をついた。

   彼女にも、結局何もできなかったのに、
   逆に気をつかってもらうなんて・・・。

   ケータイを胸の前で握り締めたまま、
   傍で見たらヘンなポーズだな、と我に返った時

   イヤな予感はあったけど、やっぱり・・・、ニノに見られてしまってた。

    「あいばさ~~ん! だ~いじょうぶですかぁ~?
     戻ってきてくださぁ~~い!!」
    「なっ、なんだよっ!! 
     オマエなんでこう・・・、いつもいるんだよっ!!」

   すっげーかっこ悪いトコ見られた。 たぶん涙目だろうし・・・。

    「あぁ~~、恋のはじまりって、まわりまでシアワセにするのね~。
     こっちまでとろけちゃいそ~でぇ~~っす!」
    「うっせー! 声高すぎ!!」
    「地声だよっ!! 悪かったなっ!!
     つぎ会うときまでに顔シメとけよっ!!」
    「カオっ?!」
    「そんなゆるんだ顔で、今日のテーマに合うわけねーだろっ!」
    「わっ、わかってるよっ!!」
    「ほぉ~・・・、プロの仕事、見せてもらおうじゃねーか・・・。」

   勝手にひとり芝居をしながら歩いてく、ニノの後ろ姿をぼ~っと見送る。

   恋、のはじまり・・・?
   テキトーなこと言うんじゃねーよ・・・。

   ドキドキするのはさあ・・・、
   彼女のしゃべり方がていねいで、緊張するからで・・・。

   それに相手が誰でも、あーいう風に優しく話しかけるんだろうし・・・。

   だいたいあんなにかわいかったら、カレシくらいいるだろうし・・・。

    「顔はシマッたか~~?!」

   さっき閉じたばかりのスタジオのドアが開いて、
   ニノがひょこっと顔を出した。

    「・・・まだ・・・です・・・。」

   投げやりっぽくつぶやいた。

   胸の奥のざわざわした感覚は消えない・・・。

   明日、彼女に会ったら消えるのかな・・・。

   ・・・もう考えるのはやめよう!!

    「あ~~~っもうっ!!」

   思わずアタマをグシャグシャにかきむしった。

    「あーーーーーっ!!」

   ニノの甲高い叫び声で気がついた。 けど遅かった。

    「なーにやってんだよっ!!
     どんなテーマだよっ! そのアタマっ!!」

   もうチカラなく笑うしかなかった。 笑い事じゃないけど。

   ニノが怖い顔でヘアメイクさんの腕を引っ張って来る。

   余計な考えを振り切るように、おもいっきり頭をさげた。


つづく    11,Nov.2004






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