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203021
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~4~(最終話)
今まで何度も、
この場所からいろんな景色を見てきた。
子供のころは、昼間の都心のビル街や、
遠くを低く飛ぶ飛行機を眺めたり。
そしていつの間にか、
ここは夜景を見る場所に変わっていた。
仕事が終わって帰ってきても
まっすぐ家には向かわずに
手すりにもたれて、ずっと夜景を見たりしていた。
誰にも知られてない、自分だけの場所。
腕時計に目をやる。
もうすぐ日付が変わる・・・。
いちどだけ、深呼吸をする。
空気はあまり冷たくなかった。
去年のほうが寒かったような気がする。
一度しか、かけない。
自分で決めていた。
もし、断られたら、
潔くあきらめよう。
これが最後。
会って、あやまりたい・・・。
無意識に呼び出し音を数えていた。
5回を過ぎた。
気が付かないのか、
気づいてても、名前を見て出ないのか・・・?
7回目のコール音が途切れた。
「はい・・・。」
「・・・・・。」
とっさに言葉が出なかった。
少しの沈黙でも、長く感じる。
こっちが何か言わないといけないのに。
奈緒は、俺からの電話だってわかってるはずだし。
「奈緒・・・?」
「・・・・・うん。」
「ゲンキ・・・?」
「・・・・・うん。」
喉が詰まって次の言葉が出てこない。
奈緒との電話で、こんなになったのは初めてで、
やっぱり、取り返しのつかないことをしてしまったんだと、
改めて思い知った。
でも、今日なんとかしないと、もう二度と話せないような気がした。
「・・・帰ってきた?」
「うん・・・。」
「遅くに、ごめん。」
「・・・なに・・・?」
「あのさ・・・、出てきてくれないかな・・・。」
「えっ?」
「外に、いるんだけど・・・。」
「・・・・・。」
そのまま、切れた。
とりあえず、ハナシはしてくれた。
少しだけ、緊張がとけた。
携帯を閉じて、大きなため息をつく。
そして次の瞬間、我に返って慌てて準備を始めた。
踊り場の上の階段の真ん中に箱を置いて、
その中から取り出した、小さな丸いケーキを乗せた。
キャンドルを2本、ライターで火をつける。
真っ暗な階段に、白いケーキが浮かび上がった。
来てくれるのかわからないまま、待つしかなかった。
このキャンドルがなくなるまでは、待っていよう・・・。
遠くでドアの閉まる音がした。
踊り場から見ると、奈緒がゆっくり歩いて来ていた。
下まで降りて、出迎える。
笑えなかった。
笑える状況じゃないし。
奈緒も警戒したような目で見ていた。
このあいだ、ここで起きたことがよみがえってくる。
「・・・ありがとう。 来てくれて・・・。」
それだけで充分だった。
会うことさえできれば・・・。
あとは自分の正直な気持ちを伝えるだけ・・・。
まだ笑顔は見せてもらえなかったけど、
このあいだより、なんだか子供っぽい顔をしていた。
きっと化粧してないからなんだよな。
「えっと・・・、こっち・・・。」
階段の下で立ち止まったまま・・・。
「・・・心配しなくて、いいから。
見せたいものがあって・・・。」
先に階段を上って、踊り場で待つ。
いちどだけ、大きく息をして、奈緒がゆっくり上ってきた。
「・・・ぅわ・・・。」
キャンドルの灯がゆれるケーキと
奈緒の顔を交互に見た。
硬い表情のまま、じっとケーキを見ている。
「・・・奈緒・・・。」
キャンドルの灯りに照らされた横顔に話しかけた。
「こないだは・・・ごめん・・・。」
横顔のまま、2~3度まばたきをして奈緒が口を開いた。
「・・・私も・・・、ごめん。」
「奈緒は、悪くないよ。」
「・・・潤にひどいこと、言ったし。」
「それは違う・・・。 オレが全部悪かったんだ。
サイテーなことしたし・・・。」
「・・・・・。」
「・・・ごめん・・・。」
ふたりで、目も合わさず、立ったままでいた。
「潤の言うとおりだったんだよ・・・。」
「・・・・・。」
「やさしいんだよ、いつもは。
ちょっと怖い目にもあったけど、
やさしいときのほうが多かったから、
またひとりになるのがこわくって、
自分にしらんぷりしてた・・・。」
鼻の奥がツンとして、思わず目を閉じた。
奈緒は、ずっと前から苦しんでたんだ。
なんであの時、もっと優しく訊けなかったんだろう・・・。
「・・・なんだよ~・・・。」
ほっとしたような、悲しいような、なんともいえないキモチでため息をついた。
「あの店で会ったときからずっと、
潤には見透かされてるような気がしてたんだよ・・・。
それがすっごいイヤで・・・。」
「・・・・・。」
「なんか、知らない人とか、ただの友達とかにさ、
そういうこと、知られるのとはちょっと違って・・・。
すっごいシャクにさわって・・・、
ムキになってさ・・・。」
「・・・・・。」
「恥ずかしーじゃん。」
「・・・なんだよ、今さら・・・。」
横顔の奈緒がうつむいて、少し笑った。
「いまさらカッコつけることないだろ?。
オレのほうが情けないコトばっかやってるよ、
見せてないだけでさ~・・・。」
「・・・そうだよね。」
「えっ!? ちょっ、フォローなしかよっ!」
「ふふっ・・・。」
初めてこっちを向いて笑顔になった・・・。
やっと、一緒に笑いあえた・・・。
「あっ! 時間がないっ!!」
誕生日がもうすぐ終わる。
「はやくはやくっ!!」
「えっ!?」
奈緒を引っ張って、ケーキを間に挟んで階段に腰を下ろす。
「ハタチの誕生日、おめでとう・・・。」
「・・・・・。」
無邪気な顔でじっとこっちを見たまま・・・。
「えっ?」
「・・・歌ってくんないの?」
「なにを。」
「はっぴばーすでいだよ。」
「・・・時間ないから!!」
照れくさくて、わざと急かす。
「んじゃあ、・・・踊って!!」
「も~~!! いいから早く消せって!!」
「消さない・・・!」
「はぁ~!?」
「だって・・・、キレイだよ、消したら真っ暗になるし。」
「・・・・・そっか?」
「うん・・・。 なんか・・・いいカンジ。」
「・・・うん。」
キャンドルの灯りで、なんかまわりが違って見える。
目の前でケーキを見つめてる奈緒の顔が、
今まで見たことのない女の子のように映る。
つい、じっと見入ってしまっていた。
ふと目を上げた奈緒に、あわてて傍にあった袋を手に取った。
「あっ! これ!!」
「・・・?」
「ほら、プレゼント! あ、去年のリクエストのヤツ!!」
「・・・うそ~・・・。
行って来たの? いつ?」
「さっき。」
「ホントに? 自分で行ったの?」
「誰に頼むってんだよ!」
「・・・開けていい?」
「どうぞ・・・。」
箱から出てきた小さなガラスの靴。
キャンドルの優しい灯りに照らされて、なめらかな光を放っていた。
「じゅん・・・。」
「ん?」
「ありがとう・・・。 わざわざ行ってきてくれたんだね。」
「結構楽しかったよ。 パレードも花火も見れたし。」
「あのとき潤いたんだね・・・。 私も見てた。」
「・・・・・。」
奈緒のこと考えながら見てたよ。 ガラじゃないけど。
クチには出せずに、ひとりで苦笑いした。
「イチバンサイコーのプレゼントだよ。 ハタチの記念の。」
「本命のジュエリーじゃあないけどね・・・。」
「でもさ、いい誕生日だよ。
イチバン身近な友達にさ、イチバン楽チンな場所でさ、
スッピンでさ、一番自分らしい気がするよ・・・。」
「・・・そっか・・・。」
その時、すぐ近くに足音が聞こえた。
ふたりで息を潜める。
踊り場の壁から顔をのぞかせたのは、
「・・・えーーっ!? うっそー!!」
今朝とおんなじテンションで目を丸くしてる・・・奈緒のお母さんだった。
「こんばんは~・・・。」
ひっそり挨拶する。
「なに!? どーなってんの!?
だって今朝! 潤くん!
えっ!? マジで??
あっ! ゴメンゴメン、そーいうこと~・・・。」
「もー、ワケわかんない~・・・。」
奈緒がため息まじりにつぶやく。
「あ、ケータイ鳴りっぱなしなのよ! うるさくって!!」
「ごめん~、切っといて!」
「あ~、うん、わかった、・・・けど~・・・。」
意味深な笑顔でまっすぐ見られてる・・・。
「あっ! 違うのっ! そんなんじゃなくって!」
「・・・? そんなんじゃないって??」
「えっと・・・、ハタチの誕生日なのにどーせカレシもいないんだろーって
ちょっとパーティーやってくれてんのっ!!」
「・・・・ふ~~~ん、わかったわかった~・・・。
じゃあね~・・・。 あ、ワインでも持ってきてあげよっか?」
「いいって!」
「あ、写真とってあげよっか?」
「もーいいよっ! じゃあねっ!!」
「はいはい、朝までには帰ってきなさいよ~♪」
「うるっさいなぁ~!!」
お母さんが帰って静かになった。
「ばっかだね~、ホーント早とちりなんだからさ・・・。」
笑いながら奈緒がつぶやく。
「相変わらずかわいいよな、お母さん。」
「え~? そう? もぉぜんっぜん落ち着きなくって~。」
「今朝、会ったんだよ。 それでさ、奈緒が家にいるって聞いたんだ。」
「あ、そうだったんだ・・・。」
「うん・・・。」
「あ~あ、ドロドロになっちゃうね。」
ケーキの上では、短いキャンドルが崩れかかっていた。
「やっぱ消したほうがよくね?」
「うん・・・。」
「ハタチ、おめでとう。」
「・・・ありがと。」
そう言って静かにキャンドルの灯を吹き消す奈緒の唇に目が行って
それだけでなんだか悪いことをしてるみたいな気になった。
「旅行、キャンセルしたんだ?」
「・・・全部、終わらせた。」
「そっか・・・。」
それ以上、何も訊けなくて、
キャンドルをケーキから抜き取りながら、奈緒の言葉を待つ。
「潤は・・・やさしいね。」
「えっ? なんだよ、いきなり。」
「こんな風にさ、ゆっくり話してると、なんか、ほっとするよ。」
「・・・そっか?」
「やっぱ、潤は潤だよ。 変わんない。」
「なんだよ、それ・・・。」
「仕事してる潤しか見ないからね、最近。」
「あ~・・・。」
「すっごい気合入ってるでしょ? 顔が違うもんね。」
「ははは~。」
「今みたいな、どっか抜けてる顔がいちばん潤らしいよ。」
「抜けてる?」
「目ヂカラ入ってない顔。」
「こんなとこでチカラ入れてどーすんだよ~。」
「ふふっ、オーラぜろだもんね。」
「それ褒めてんの?」
「もちろん・・・!」
ケーキにおまけで付けてくれた、ちいさなプラスチックのフォークを差し出す。
「うわ~、いっただっきまーっす♪」
フォークが小さすぎて、ケーキをうまくすくえなかった。
「なんかきたねーな・・・。」
「穴ぼこだらけだね~。
・・・でもおいしーよ。」
「だろ?」
少しずつ崩れていくケーキにときどき笑いながら・・・。
「なんか、ヘンなかんじ。」
「・・・なにが?」
「2年連続、だよ。」
「・・・あ~、そういえば。」
「それもおんなじパターン。」
「・・・だな。」
「来年はこの状況から脱却しなきゃ。」
「・・・・・。」
「フラレた直後の誕生日は、もうやだよ。
潤もさ、そう相手してらんないでしょ?」
そう言って、いちごをクチに入れて、奈緒はシアワセそうに上を向いて微笑んだ。
「いーんじゃね? 来年も。」
「ふふっ、失礼なっ!」
「オレは・・・、いいと思うよ。」
「もー! あたしがやなのっ!
来年こそはシアワセな誕生日がいいよ~。」
「・・・そっか・・・。」
気の利いたことでも言えたらいいのに、その先が進まない。
ドラマみたいにはいかないもんだな。
奈緒の前では、なんにも飾れない。
突然、奈緒をムリヤリ抱きしめた時のことが
フラッシュバックする。
“ぜんぜん価値ないよ! 潤と誕生日過ごしたって!”
アタマの中で、奈緒の声が響く。
トラウマかよ・・・。
自分が情けなくてつい笑ってしまう。
「なによ・・・。」
さすがの奈緒も何か察したらしい。
こっちを見てるのがわかる。
正直、あの言葉がイチバンきつかった。
奈緒が“価値”って言葉を使ったことも、すごく嫌だったし。
でもそれ以上に自分は奈緒を傷つけてしまった。
暴力と同じ、卑怯なやり方で・・・。
だから、言い訳なんかじゃなくって、カッコつけないで、
思ったままのことを伝えよう。
ココロに浮かんだこと、そのまま、言葉にして・・・。
「なんか、やたらと悔しかったんだよね。」
「・・・? どーいう意味?」
「あのオヤジの評判聞いてたからさ、奈緒にわかってもらいたくてさ。」
「・・・うん。」
「でもさ、ホントは違ったんだよ。」
「・・・・・。」
「オヤジがどんなヤツでも・・・・・。」
「・・・・・。」
「オレが、嫌だったんだよ。」
ずっと顔を見られなかったけど、ここはしっかり目を見て話さなきゃな・・・。
「・・・奈緒が、行くのがさ・・・。」
「・・・・・。」
ふたり間の空気が張り詰めていくのを感じる。
薄暗い階段の上で、目の光だけがつながっていた。
「行ってほしくなかったんだ・・・。」
「・・・・・。」
「相手が、あのオヤジだからってワケじゃなくって・・・。
どうしても、行かせたく、なかったんだ・・・。」
「・・・なんで? おかしいよ。」
「えっ?」
思いがけない言葉が返ってきて息をのんだ。
どういう意味だよ・・・。
「だからって、あんなことした潤のことがわかんない。
・・・それより、そんな気持ちになるってことが・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・わかんないよ・・・・・。」
「オレは・・・。」
「だってさ、たまにしか会わないのになんでそんな気持ちになるの?
おかしいじゃん!
やっぱ勢いだったんだよ。
潤、カン違いしてるんだよ。
ノリでそうなったんだよ!
いーかげんなこと言わないでよ!!」
一気にまくしたてた奈緒に、呆然とするだけだった。
「ちがう・・・。」
「ちがわない!
ゼッタイそうだよ!
明日になったら変わってるよっ!」
なにも、言えない。
なんでそんなにかたくなになるんだよ。
ちょっとくらいは素直に聞いてくれてもいいじゃないか・・・。
「言わないでよ、・・・そんなこと・・・。」
声が・・・震えてる?
「奈緒・・・?」
「・・・・・。」
「・・・泣いてんのか?」
「帰る。」
「えっ? ちょっと、待てって!」
立ち上がろうとする奈緒の手首をつかんだ。
その瞬間、一緒にバランスを崩して、
奈緒の手首をつかんだままの手が、ケーキに突っ込んでしまった。
「あっ!」
「・・・やだ~、も~~・・・。」
お互いにチカラなくため息をついた。
「ごめん・・・。」
首に巻いてた薄手のマフラーをはずして、奈緒の手に付いた生クリームを
すばやくふき取った。
「えっ!? ちょっと! いいの?」
「うん・・・。」
いびつにへこんだケーキを間にはさんで、また向き合う。
「オレだって、わかんねーよ・・・。」
「・・・ほら、やっぱし・・・。」
「いや、そうじゃなくって・・・、
奈緒の言うとおりだとも思うよ。
たまにしか会わないし、会ってもそんなにしゃべったりしないし・・・。
オヤジとのことが・・・きっかけになったとは思うけど・・・。」
「・・・・・。」
「奈緒といると、・・・なんか・・・。」
「・・・・・。」
「ホントの自分に戻れるんだ・・・。」
「・・・はぁ~?」
「あっ、それだけじゃなくって!」
「ホント、わかんない・・・。」
「ずっと、奈緒のこと考えてた。
いつの間にか・・・。」
「・・・・・。」
「そうだよっ! ワケわかんねーよっ!!」
「ちょっと、・・・逆ギレ?」
「キレたくもなるよっ! どーしよーもねーもんっ!
これ以上どう説明しろってんだよっ!」
「じゅん・・・。」
「おまえのことが好きになっちまったんだよっ!!!!!」
あ~・・・ひでぇコクりかた・・・。
「・・・・・ばか。」
唇をかみ締めて、鼻をすする奈緒。 悲しそうな横顔を見つめる。
「なに言われてもしょーがねーよな・・・。」
「・・・あの、彼女は・・・?」
「別れた・・ってか、フラレた。」
「それで、・・・寂しかったから・・・?」
「ちげーよっ!」
「・・・・・。」
「なんだよっ! 嫌なら嫌だってはっきり言えよっ!!」
「イヤじゃないよっ!」
突然奈緒が叫んだ。 なみだ声で。
「大好きだよ、子供の頃から・・・。
大事な友達なんだもん・・・。
でも、なんか、いつの間にか、
友達だからなのか、わかんなくなってたんだよ。
好きなんだけど、なんか違うんだよ、
潤は、他の男の子と違うんだよ・・・、ずっと・・・!」
「・・・・・。」
「あたしもわかんない。 ホントのとこはわかんないよ。
じゅんは特別なんだよ、子供のころから。
アイドルやりだしてから、もっとよくわかんない特別なヤツになって。
テレビなんかでカッコつけたりしてるの見ても、
たまにこの辺で会ったりしたら、昔のまんまだったりするし・・・。
潤のこと、どんな風に思ってるのか自分でもわかんなくなって・・・。
だから、あたしも自分でわかんない。
カッコいい仕事してる潤を見て、あこがれてただけなのかもしれないし、
・・・・・だから、自分のホントの気持ちがどんなんなのか、
わかんないんだよ・・・。
わかんないよ・・・。」
「奈緒・・・。」
「こわいんだもん。」
「・・・なにが。」
「潤は特別な、大切な友だちだから・・・、
失うのが・・・こわいよ・・・。」
「失うって・・・? どーいう意味だよ。」
「友達は、ケンカなんかしてもずっと友達でいられるけど・・・。」
「うん・・・。」
「付き合ったりしたら、・・・いつか終わるもん・・・。」
「・・・・・。」
「そしたら、ゼッタイ戻れないもん・・・。」
子供みたいにベソをかきながらつぶやく奈緒。
「ばーか、今から終わること考えてどーすんだよ。」
「・・・だって~・・・。」
「じゃあさ、いつかは死ななきゃいけないからって、
生まれなきゃよかったって、思うか?」
「・・・・・。」
「わかるよ、奈緒が臆病になる気持ち・・・。
でもさ・・・。」
「・・・・・。」
「今、どーなのか、ってこと、だろ?」
「・・・うん・・・。」
「どーなの・・・?」
「いま・・・?」
「うん・・・。」
うつむいてしばらくしてから涙声で奈緒が言った。
「・・・・うれしい・・・。」
「・・・うん、そっかぁ。 よかった・・・。」
「ふぇ~・・・。」
泣き出した奈緒の頭を思いっきりなでまわしてグシャグシャにした。
ホントは抱きしめたいくらいなんだけど・・・。
「でも~~~!」
「ぁあ~!? まだなんかあんのかよっ!!」
「じゅんとのエッチは想像できない~~~っ!!」
「ばっ、ばかやろーっ!! なに言ってんだよっ!」
「やっぱムリ~~!」
「何だよ!そんなコトでっ! オレは想像できるよっ!」
「え~~~~っ!? ドスケベっ!!!」
「はぁ~? ・・・どーすりゃいいんだよぉ~・・・。
だいたいそーいうのは想像するもんじゃなくって
そーなるべくしてなるもんであってさ・・・・。」
「わかってるよ~・・・。でも~・・・。」
子供みたいに泣きじゃくってる奈緒を見て、
ふっとおかしくなって、ひとりで静かに笑った。
「ばっかだよな~・・・。」
こんなやりとり、奈緒とじゃなきゃできないよ。
っていうか、
今までこんなタイプと付き合ったこともないけどね。
「ごめんな・・・。」
「・・・え?」
「こないだ、乱暴なまねして・・・。」
「もう、・・・いいよ。」
「ごめん・・・。」
「・・・あのあと、ずっと、つらかったよ。」
「・・・・・。」
「あたしのこと、好きでもないくせにあんなことして、って。」
「奈緒・・・。」
「・・・でも、もうだいじょうぶ。」
「きもち、わかったから?」
「・・・そだね。」
「ジャマだな、ケーキ。」
「え・・・?」
崩れまくったケーキを階段のイチバン上に移して、
ふたりのあいだにあった空間を埋めた。
去年、ここで抱き合った時は、ただの幼なじみだった。
シャンプーの匂いだけでドキドキしたっけ。
「あ~あ、ひっでえアタマ・・・。」
「え~、誰のせいだよ~・・・!」
「オレのせい・・・。」
さっきくしゃくしゃにした髪を静かに撫でながら、
笑顔で、近づいてく。
「殴る、なよ・・・。」
「ふふっ・・・。」
奈緒の唇は、イチゴの匂いがした・・・。
もう子供のころなんか思い出す必要もないだろう。
幼なじみだったふたりは、ずっと遠くの、まったく別の世界に棲んでいた。
そして今、腕の中にいる奈緒は、
さっきまでとは違う、
初めて出会う女の子になっていた。
これから一緒に、新しい思い出をつくろう・・・。
「引っ越してこよっかな。」
「えっ?」
「戻ってくるよ、ここに。」
「なんで?」
「なんでって? 決まってんだろ?」
顔を上げて、嬉しそうに微笑む。
「知ってる?」
「なに?」
「駅前、マンションが建つんだって。」
一緒に立ち上がって、踊り場まで下りた。
「あ、いつの間にか空き地になってるよ~。」
「うん・・・。」
「じゃあさ、ここからの眺め、悪くなるよな・・・。」
「そうだね・・・。」
「変わってくんだな、いろいろ。」
「うん。」
「オレたちがイチバン変わったけどな~。」
「ふふっ。」
「ゆっくりいこうよ。」
「えっ?」
「先のことなんか心配すんなよ。
これから、わかりあってけばいいじゃん。」
「うん。」
「いっぱい喋って、いっぱいデートしよ。」
「うん。」
「一緒に、花火見よう、今度は。」
「ホントに? いいよ、ムリしなくて。」
「奈緒といろんなことしたいよ。」
「えっ?」
「あ、またヘンな想像したな~?」
「してないよっ!ばかっ!」
「あははっ!
想像できるようになったら言えよっ。」
「も~、なにそれ!
わかったよ、じゃあ、夏コンのうちわでお知らせするよ♪」
「え~~っ!? マジかよ!
イカのうちわもめちゃくちゃみっともなかったのにさ~!」
「潤とのエッチが想像できたよ、って書くよ!」
「おまえさぁ~! それ見つかっただけで退場もんだぜ!
ってか、夏コンの時期まで待たされんのかよ~。」
「はぁ~? ゆっくりでいいって言ったくせにっ! うそつき!」
「ちょ、そんな言い方すんなよっ!」
「カッコつけてテキトーなことばっかし!」
「おまえなぁーーっ!!」
その時、突然奈緒が抱きついてきた。
「えっ?」
「大好きだよ、じゅん。」
「奈緒・・・。」
「なんか、すごい嬉しいよ・・・。
ずっと言いたかったのかも・・・。」
「・・・オレも、奈緒のことがずっと好きだった。」
「・・・じゅん?」
「偶然会えたときなんか、嬉しかったんだよね。」
「あたしも。」
「でもさ、ケンカばっかしてたな。」
「アイドルってキライだったからね。」
「あはは~、なんか感じてた。」
「アイドルになった潤のこと好きだって思うことがさ、
自分には許せなかったんだよね。」
「そっか~。
で、なんで今ならいいの?」
「・・・トシとったからね、お互い。」
「わけわかんね~。」
ここから見える景色も、また変わっていく。
少し寂しいけど、もう振り返らない。
これからふたりで、もっと広い世界に飛び出して行けばいいんだから。
奈緒と一緒だと、どんなところにも行けるような気がした。
飾らずに、ホントの自分でいられる奈緒と一緒に・・・。
今までずっと背伸びしすぎていたのかもしれない。
初めて、本当の恋ができるような気がした。
「なぁ。」
「なに?」
「うちわ、どーすんだよ。」
「えっ? 気になる?」
「べっ、べつに~。」
「ふふっ、じゃあ、もっと早くに返事しよっか?」
「えっ?」
「・・・おっけーだよ。」
「・・・・・?」
「だからぁ、さっきのキスで、しっかり想像できたよ。」
「・・・はぁ~?」
「ほ~んと、わかってないんだからぁ~!」
「・・・・・。」
・・・わかってるって。
こっちは確信犯なんだからさ・・・。
でも、そんなにストレートに言われちゃ、とぼけるしかないだろ・・・?
どっちがわかってないんだよ~・・・。
おしまい 01,Mar.2007
《さいごに。》
楽しかったです♪
思いっきり鳥肌感を楽しんでいただければ幸いです。(笑)
潤くんといえば、年上女性とのオトナの恋愛・・・ってのが浮かびますが、
どーしても、やさしいフツーの男の子を演じてほしかったとよね♪
このふたりはもっと追っかけていきたい気がしてますが、
潤くんをイメージしたものがたりとしては、
次は犯罪ものとか、ホラーものとか、不健全な設定にしたいな♪
なーんつって、そんなアタマ使うものなんか書けないくせに~(^_^;)
それにしても、らぶらぶシーンはムヅカシイ・・・。
隣の部屋でも手こずってます(>_<)
そのまんま(爆)書けたらいいのに~・・・(笑)
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