宇宙は本の箱

     宇宙は本の箱

わが心の木本青年


人生で二番目に出会った心から大切にしたいと思った本だった。

ちょうどその頃、テレビで偶然にもその小説のモデルとなった人の番組をやっていて、その小説の中の木本君が実在の人物であった事を知った時の感動は、本を読んだ時の比ではなかった。画家志望だった木本君の本当の名を木田金次郎と言った。

私の胸を熱いものが流れた。

それがもとで有島武郎はずいぶん読んだ。
ほとんど忘れてしまったけれど、一番最初に全集を手元に置いた作家だ。
評論も古書もたくさん買った。今では読みもしないけれど。
後年、私は木田金次郎の美術展のカタログを手に入れた。
極寒の北海道でたくましく生きた人が、生涯忘れることのなかった絵を描く事への情熱。
そのカタログは白黒で、「こう、盛り上がってるように描いてみたい」と言っていたように盛り上がってるのかどうかはよく分からなかったけれど、感慨ひとしおだった。

本に固執しなくなってから十年以上。
若き日はどんな事があっても持って逃げようと思っていた本にももう未練なく、
去年、そのカタログは、木田さんの地元の方に送った。


君よ、春が来るのだ。

冬の後には春が来るのだ。

君の上にも確かに、

正しく、力強く、

永久の春が微笑めよかし・・・・








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