宇宙は本の箱

     宇宙は本の箱

夜が明けても


夜が明けても一番はやい電車には乗らない。ただ灯りを眺めるだけ。


わし おまえ好きやから おまえ とくや。

そんな言葉をふいに思い出したが、愛は 愛した者の方が得よ。
やっぱり今朝もそう言った。

愛は 愛しきった者が得。徳。


雨にけぶる山あいに揺らめく明かりを見ながら、二十歳のある寒い日に、車の流れを見下ろしながら振られなくっちゃいけないなぁなんて思ったことも思い返した。切ない恋愛物が好きなのは、女が女になっていく過程がきっとすきなんだと思う。女であることがきっとずっと好きだ。その苦しさが、その切なさが、実は嫌いではなかったのだ。

ところであの終わりはあの人流にはどっちが得だったか。あの人はいつも首を振ったが。
愛は愛しきった者が得。愛しきらなかった者はきっといつまでも後ろめたい。


雨は降り続く。
子猫のせいで馬鹿ほどはやく起こされて外ばかり見ている。
雨降り路地、猫達は遊べない。
私は窓辺に肘をつき、珈琲ばかり飲んでいる。



© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: