宇宙は本の箱

     宇宙は本の箱

まだあどけない子供のような・・・

自分の非力 自分の無力を 
いやというほど思いしらされ
自分のなすべきことは何ひとつないことを 
いやというほど思いしらされ
それでも いらいら ぎりぎり
世界を相手どっててでも ぶんなぐり  
ぶんなぐられたい・・・
死ぬほどメチャメチャに傷つけられたら 
どんなにすっきりするだろうというような・・・

おまえは知らないのだ
いつも 私の手のひらからは 
あるはずのものがこぼれおち
あって欲しいものをのせることが出来ず 
それはもはや哀しみなんてものではなくて
私はもうずいぶんむかしから  
こぼれたり ひろえなかった諸々の
空っぽなだけの手のひらを 
それでも にぎりしめ にぎりしめ
たった一人の幾千もの夜を過ごしたのだ

いったい私に 世間並みの どんな言葉を要求するというのだ?



通信の一番最後の私の十代を読んで、顔を隠して泣き出した子は二十歳にはとても見えない華奢な男の子だった。すっかり忘れていたのに、なぜか今夜は思い出してしまった。
私は滅多には喋らないその子の話も聞いた。だが、彼が不幸だったからといって誰を責められよう。責める者がいない時、一番最初に真実を告げた者を憎もうと決めていた坊やの名はなんと言ったか・・・誰も、何も、責めることが適わぬ辛すぎる十代。
今夜はなぜか、その華奢な男の子の頭を撫ぜた夜のことを思う。
どうしているか。。。

今夜はそして、なぜかプラトンのことも思い出した。多分、赤山禅院のせいだ。
プラトンは外ではずいぶんと違った。なにが楽しいのか私にはよく分からなかったが、やたらと楽しそうではあった。遅くなったから食事も一緒にして電車に乗った。
私は電車の中ではもう喋るのをやめて車窓から見える街の夜景を眺めていたが、ふいにプラトンの目を見てしまった。
「着いたよ、降りないの?」「あ!」
プラトンはぴょんと飛び降りて、ドアはしまった。ドアのこちら側で私は手を振った。
プラトンは苦笑したような顔で手を少しだけ上げた。見なけりゃ良かった、そう思った。

次の日、すぐに短いメールが来た。
「昨日はあなたのやさしさに打たれました」


今更なに言ってんだか、じゃー、なんでつきあってんだ?私はそう思った。
それなのに、人は皆、ある日突然気がついたように言う。優しいんですね、と。
主人でさえ猫事件があるまで私を怖がっていた。
「僕、分かってん。ウフフ。僕、もう分かってん」
「なにがー?」「ウフフ、あんた、優しい人やったんやー」
自分の優しさがどんなに嫌いだったか、それは主人にもわかることではなかったけれど、
あの猫事件ではすっかり弱みを握られてしまった。


それにしても、人はそんなにも優しさに飢えているんだろうか?
あのプラトンも?いやいや。
だけど、涙の止まらなかったあの子は卒業制作も放棄した。
どうしていることか。



© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: