非常に適当な本と映画のページ

非常に適当な本と映画のページ

2006.11.27
XML
カテゴリ: 邦書

 田中芳樹が大人気作家の地位を気付くきっかけとなった全十巻のスペースオペラの第四巻。


粗筋

銀河帝国と自由惑星同盟は、サルガッソスペースという、航行不可能な宙域で隔たれていた。帝国と同盟を行き交いするには、サルガッソスペースを通っている二本の細い回廊を使うしかない。一方がイゼルローン回廊。イゼルローン要塞が置かれている回廊であり、重要拠点とされていたのはそれが理由である。もう一方がフェザーン回廊。正式には帝国の一部でありながら自治権を持ち、事実上独立した勢力の惑星フェザーンがあり、帝国も同盟も政治的な理由で通過できなかった。だからこそ帝国も同盟もこれまでイゼルローン回廊を中心に戦争を繰り広げていた。
 ラインハルトは銀河帝国の実質的な支配者となったが、元首はあくまでも前皇帝の7歳の孫だった。ラインハルトは自分が皇帝になることを望んでいたが、そのタイミングを計りかねていた。根拠無しに皇帝を廃して自分が王座に座ることはできないし、7歳の幼帝を殺害して皇帝の座についても市民から反発を買う。それどころか、幼帝が単に病死したとしても謀殺したのではと疑われる恐れがあり、ラインハルトは幼帝を何が何でも生かす必要に迫られ、幼帝を持て余していた。
 そんなところ、フェザーンの実力者が提案する。フェザーンに亡命した元貴族らをそそのかし、幼帝を誘拐させ、自由惑星同盟に亡命させる。フェザーンは同盟政府に働きかけ、亡命を認めさせる。
 こうすれば、帝国は「同盟は我が皇帝を誘拐した」という理由で同盟に対し大攻勢をかけられる、とフェザーンはいうのだ。ラインハルトはこの提案に同意する。
 フェザーンは経済上、これまで帝国と同盟の両方の存在を必要としていたが、社会秩序が低下しつつある同盟を見捨て、帝国一本に絞る道を選んだのだ。
 しかし、ラインハルトはフェザーンの提案を受けながらも、フェザーンの思い通りに動くつもりもなかった。ラインハルトはフェザーン回廊の通過を許可をしろ、と要求する。フェザーンは渋々ながらも同意する。どうせフェザーンは帝国を経済的に支配するのだから、と。
 ラインハルトとフェザーンの思惑通り、貴族は幼帝を誘拐し、同盟に亡命する。ラインハルトは同盟に対し宣戦布告した。イゼルローン回廊から同盟に侵攻すると見せかける為、イゼルローン要塞に大艦隊を送り、攻勢を始める。
 しかし、主力艦隊はフェザーン回廊に進めていた。ラインハルトは、フェザーンを信用できなかった。単に通過許可を得ただけでは、同盟に侵攻しても、回廊を閉鎖されて侵攻軍が同盟内で孤立する恐れがある。ラインハルトはフェザーンを占領し、帝国の支配下に置くことにした。
 ラインハルトは、同盟屈指の智将ヤン・ウェンリーをイゼルローン要塞に釘付けにしておく一方、フェザーンを攻略した。軍事力は無に等しいフェザーンは、容易に降伏する。
 フェザーンの自治領主で、これまで帝国や同盟に対し数々の陰謀を働いていたルビンスキーは、身を隠すことを強いられた。


楽天ブックス(large)

解説

本シリーズはますます破綻している感がある。
 ラインハルトは問題なく成功しているが、あくまでも著者が彼をひいきにしている小説の中の世界だから、としか言いようがない。現実の世界でこんなことをしたら失敗に終わるのは必至。
 ラインハルトはわざと幼帝を誘拐させ、同盟への亡命を許した。そして同盟に対し「我が皇帝を誘拐した」と激怒する演技をしてみせる。これに対し、実状を知らない銀河帝国の民は、ラインハルトの思惑通り「我が皇帝を奪った同盟を潰せ」と怒り、ラインハルトの宣戦布告を支持する。
 宇宙航行技術を確立している時代だというのに、帝国市民の情報収集能力や知識や意識はよくて20世紀中頃程度。21世紀の市民の意識をはるかに下回る。少しでも思考力があれば、「あれほどの天才ラインハルトが、なぜ幼帝の誘拐を許す失態を犯したのか」と疑って当然なのに、そうしない。
 ラインハルトの扇動を鵜呑みにして戦争を支持し、戦場に送られ、死んでいくアホ市民。こんな連中だと、貴族に抑制されて当たり前だと言いたくなる。とにかくラインハルトにとって都合のいい愚民。
 ルビンスキーは「フェザーンの黒狐」と呼ばれるほど知略に長けている、とされるが、ラインハルトによるフェザーン侵攻を易々と許してしまうところを見ると、そんなに凄い存在とは思えない。口だけは立派でいざとなると尻尾を巻いて逃亡する同盟国家元首トリューニヒトと殆ど同じ。
 なぜこれまで帝国や同盟がフェザーンを経由して敵側に攻め込まなかったのかも不明。フェザーンは経済的に帝国も同盟も支配していたとはいえ、支配欲の強くて傲慢な帝国の貴族らや、全宇宙を解放するという理由のみで存在している同盟首脳の誰もが思い付きもしなかったとはおかしい。
 イゼルローン回廊で無謀かつ無益な戦闘を延々と繰り広げることには同意しながら、フェザーン回廊へは「条約で禁止されている」として馬鹿正直に順守し、侵攻経路にしないのは矛盾している。
 ラインハルトはフェザーン経路で同盟に侵攻することを思い付いたことで天才とされているが、まともな戦略家ならとうの昔に実行に移していたこと。常人でも思い付くことをやったからといって天才と称されるのはどうか。著者田中芳樹はどうやらラインハルトという人物を祭り上げる為に他のキャラを極端に馬鹿にしている気がする。
 そもそもサルガッソスペースや回廊は科学的根拠があるのか。著者が都合のいい状況を展開する為の設定に過ぎない感じがして、その有り得ない範囲内でキャラが四苦八苦する様子を見ても感動は少ない。



関連商品:

人気blogランキングへ

楽天ブックス(large)





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2006.11.27 10:47:56
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: