非常に適当な本と映画のページ

非常に適当な本と映画のページ

2006.11.28
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類

 創元推理文庫の江戸川乱歩全集第四巻。本作品は1931年に出版された。
 名探偵明智小五郎が登場する。「蜘蛛男」事件から約10日後の事件とされる。


粗筋

「蜘蛛男」事件を解決した明智は、休養していたが、東京に呼び戻される。奇妙な事件が発生していたのだ。
 事業家の福田が、脅迫されているようなのだ。日付が書かれただけの手紙を受け取った直後、その日付までの日数が書かれた手紙を毎日のように受け取るようになったのだ。しかもその手紙は屋内に残される。家の者以外は出入りできない筈なのに、脅迫者はどうやって手紙を残しているのか……。
 明智は列車で東京へ向かうが、何者かに拉致されてしまった。
 一方、福田は日付前に殺されてしまう。脅迫の手紙を、今度は福田の兄玉村が受け取る。家の警備を強化するが、それでも手紙は家の中に残される。また、手紙を残した者は身長が2メートルにもなる男と思われた。手形が見付かったのだが、信じられないほど高い位置にあったからだ。
 明智は、拉致した者――魔術師――と会う。魔術師は、明智に、自分の意向を告げる。自分は玉村一家を殺すつもりであると。殺されたくなかったら事件に関わるなと懇願する。明智は拒否した。彼は殺されるところだったが、魔術師の娘文代に助けられ、脱出した。
 玉村家では、当主の善太郎、長男の一郎、次男の次郎、そして長女の妙子に様々な災難が降り懸かる。明智の介入により未然に防がれたが、次男の恋人が惨殺されてしまった。玉村家はなぜ自分らがこんな目に遭っているのかさっぱり分からない。
 玉村一家は、魔術師と対面することとなった。玉村の親と、魔術師の親は知り合いだった。魔術師の父親は、玉村の親に殺されたのだった。魔術師は幼い頃から玉村家に対し復讐するよう言われていた為、現在になってようやくそれを果たすことにしたのだ。
 が、その計画も明智(文代の手助けがあった)によって阻止される。追い詰められた魔術師は、自分が死んでもその意志は引き継がれると言い残し、明智の目の前で自決する。
 張本人が死んだので事件は解決した、と皆が安心していたところ、脅迫が再開する。まるで魔術師がまだ生きているかのようだった。ついに玉村は殺される。
 明智は、犯人を指摘する。玉村の長女妙子だと。実は、妙子は魔術師の娘で、文代こそ玉村の娘だった。赤ん坊の時魔術師が看護婦に金を握らせ、すり替えさせたのだ。
 魔術師は、玉村の娘として成長した妙子に真実を語り、共犯者にした。だから福田と玉村の家に脅迫の手紙がいとも簡単に残されたのだ。妙子は、玉村家が引き取った孤児を共犯者にしていた。高い位置に手形が残っていたのは、妙子がその孤児を肩車していたからだ。
 妙子は逮捕され、明智に協力していた文代は釈放される。文代は明智を慕うようになり、後に明智夫人となる。


楽天ブックス(large)

解説

蜘蛛男ほどのエログロはないが、多少の怪奇趣味が散りばめられていて、悪趣味なジュベナイルみたいな小説。現在この手の小説を新人作家が出そうとしたら、「馬鹿か、お前?」と一蹴されるに違いない。
 残虐行為が繰り広げられているにも関わらず、能天気な雰囲気がある。
 本作品も疑問点が多い。

・魔術師はなぜ玉村家をそこまで憎んだのか。親が玉村家に殺されたのは事実かもしれないが、殺した本人は亡くなっていて、子や孫の世代になっている。親の悪事を全く知らなかった玉村や福田にとってえらい迷惑に他ならなかっただろう。
・自分が狙っているのは玉村家だけで、無駄な殺しは避けたいと言い張っていた魔術師は、なぜ次郎の恋人の洋子(乱歩は洋子という名の女をなぜか殺したがる。蜘蛛男でも富士洋子が死んでいる)を殺したのか。玉村家と関わりはあったが、婚約していたわけでもなく、玉村家の一員ではなかった。なぜ無駄な殺しをしたのか。
・赤ん坊の時に魔術師にすり替えられた妙子は、魔術師の娘でありながら玉村家の娘として育てられた。その育ての親や、兄弟として慕ってきた者を殺す計画に、なぜ加担したのか。魔術師はどうやって自分が実の父親であることを証明し、どうやって自分の共犯にしたのか。
・なぜ登場人物は変装に騙されてしまうのか。三十代後半の明智は老人に変装するが、本人がその変装を取るまで誰も気付かない。特殊メイクはこの時代にもあったのだろうが、当時の技術が近寄っても見破けないほど進んでいたとは思えない。
・魔術師は文代と妙子をすり替えたが、そんなに都合のいい具合に子供をもうけられるか。もしかしたら妙子は魔術師の娘でもなかったのかも知れない。
・文代は明智に協力していた、ということで無罪放免になるが、当時の法律はそこまで甘かったのだろうか。洋子の惨殺の現場に、文代は立ち会っている。マジックショーの美女解体である。美女が解体されたと思ったら元通りになっているというマジック。通常、解体されるのは人形だが、この時は洋子が解体され、文代が入れ替わって「元通りです」と姿を見せる。実際に手をかけたのは魔術師だが、文代はこの無意味な殺人に加担している。文代が何らかの行動をしていれば(明智に通報するなど)、この殺人は避けられたであろう。警察と明智はこの件をどう見たのか。

 本作品も著者が「読者諸君」と読者に語りかける場面がある。こういうのはまさに古くさい。また、明智小五郎のことを著者本人が「この人気者は……」と称するところは興ざめする。
 現在は銃刀法により個人の拳銃所持は禁じられていて、小説に拳銃が登場することはほとんどない。が、本作品ではピストルが当たり前のように登場する。発表当時、一般市民でも拳銃を自由に入手できたのだろうか。
 残りの日々を記した手紙を受け取る、という場面は、ドイルのホームズシリーズをヒントにしたのだろうか。
 全体的にご都合主義が多い探偵小説。
 1930年代のものはどれもこの程度だったのだろう。



関連商品:

人気blogランキングへ

楽天ブックス(large)





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2006.11.28 16:40:52
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: