非常に適当な本と映画のページ

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2006.11.29
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カテゴリ: 邦書

 御手洗潔シリーズ。1986年8月頃の事件とされる。


粗筋

メキシコ湾に面するエジプト島。そこには奇妙な巨大建築が建てられていた。ピラミッドである。クフ王のピラミッドの複製だ。下の部分が石でできていて、上の部分がガラスでできている、というところが違っていた。
 このピラミッドを建設したのは大富豪ポール・アレクスン。風変わりなエジプト研究家で、エジプトのピラミッドの謎を解く為に私財を投じて建てたのである。しかし、ポールはオーストラリアで焼死体として発見され、ポールの実弟リチャード・アレクスンのものとなっていた。リチャードはエジプトやピラミッドには興味がなく、弟の遺産を持て余していた。
 ある映画監督が、アレクスン・ピラミッドをミュージカル映画の舞台に使うことにした。リチャードはこの計画に同意し、主演の松崎レオナと共に撮影に同行する。
 撮影は順調に進んでいた。が、リチャードがピラミッド内の寝室に閉じこもったまま出てこない。ドアをこじ開けると、中でリチャードが死んでいた。地上数メートルの密室で、リチャードは海水による溺死体として発見されたのである。犯人は海でリチャードを水死させ、死体を寝室に運び、そして寝室を密室にしたらしい。なぜそんなことをしたのか……。
 事件前後、レオナは奇妙なものを見る。口が大きく裂けた怪物を見たのだ。このことを撮影スタッフに告げるが、誰も信じてくれなかった。精神科医に診てもらえ、と言われるだけだった。
 警察は、事件捜査のため、映画撮影の中断を命じる。映画の完成が遅れると知った監督は、落ち込む。完成が遅れれば公開も遅れる。映画が失敗する可能性が高くなるからだ。
 そこで、レオナは御手洗潔を呼び、事件を解決してくれと頼む。御手洗の乗り気でなかったものの、承知する。
 御手洗潔は、事件解決の鍵は事件現場のアメリカではなく、エジプトのカイロにあると言い張り、助手の石岡を連れてエジプトへ飛ぶ。そこでレオナと合流した二人は、ピラミッドの内部や博物館を見て回る。博物館で、レオナは事件現場で見た怪物とそっくりのものを見る。古代エジプトの神アヌビスだった。その後、三人は事件現場となったアメリカのエジプト島へ飛んだ。
 アレクスン・ピラミッドに到着した御手洗は、調査を開始する。御手洗は、エジプト島に住む人物と会う。レオナがアヌビスだと思った怪物だった。御手洗は、ピラミッドの内部と海が繋がっていることを知った。そこで事件は解決した、と御手洗は言う。
 御手洗は関係者を集め、事件の真相を告げる。レオナが見た「怪物」とは、ポールの息子ロジャーだった。ポール・アレクスンは、化学兵器で巨万の富を築いたが、代償は大きかった。研究者だった妻が化学兵器からのダイオキシンを曝露し、奇形の子ロジャーを産んだのだ。ポールは、息子を幽閉した。
 リチャード・アレクスンを殺したのは、撮影スタッフの一人ミラーだった。ミラー家は、アレクスン家を祖父の時代から恨んでいて、アレクスン・ピラミッドを利用してリチャードを殺すことにしたのだ。
 ポールは、クフ王のピラミッドを水を汲み上げるための巨大なポンプだと考えていた。アレクスン・ピラミッドは、その概念を元に建設された。ミラーは、その機能を利用してピラミッド内の寝室を海水で満たした。その結果、中にいたリチャードは溺死したのである。
 御手洗の推理により、事件は解決する。撮影は再開され、映画は完成し、公開される。
 御手洗は再びアメリカに渡る。そこで、彼は事件の真相を告げる。撮影再開のきっかけとなった推理は、全て撮影再開の為の演技だったと。
 ピラミッド内の寝室で死んでいたのは、実はリチャード・アレクスンではなく、オーストラリアで焼死体として発見されたと思われていた兄のポールだった。二人は一卵性双生児だったのだ。ただ、リチャードは子供の頃病気がちだった為、学年が二つ下になってしまい、年が二つ離れた兄弟と思われるようになってしまった。
 ポールは、死亡したとされた後も、アレクスン・ピラミッドで奇形の息子ロジャーと暮らしていた。これは弟のリチャードも知っていた。が、撮影間近に、ポールはダイビング中の事故で死んでしまった。リチャードは、兄の遺体を寝室に運んだ。寝室の窓ははめ込みだったが、窓そのものが外せるようになっていたのだ。
 リチャードは、兄の死体を自分の死体に見せかけ、自分が死んだことにした。リチャードは別の人物になりすますことになる。


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解説

よく分からない小説。
 小説構成そのものが理解し難い。最初の160ページあまりは、古代エジプトやタイタニック号のエピソードで占められるが(御手洗は無論登場しない)、ストーリーに何の貢献もしない。ま、ミラーの祖父は、アレクスンの祖父によりタイタニック号に乗った、ということにはなっているが、ミラーは事件と全く無関係なことが判明するので、やはり蛇足だろう。
 まともに書いていれば300ページ程度に留まっていた作品
 御手洗がエジプトに行った理由も分からない。エジプトの博物館で、レオナは自分が見た怪物がアヌビスだと知るが、実際にはダイオキシンによる奇形児なので、結局無関係。そもそもこいつが登場してなかったらエジプトに行くこともなかったのではないか。ストーリーの展開にも影響はなかっただろう。
「占星術殺人事件」、「斜め屋敷の犯罪」、そして「暗闇坂の人喰いの家」では、メイントリックが図解されていた。占星術殺人事件ではくどいほどに図解されていた。
 島田荘司は図が好きなのかと思っていたら、本作品はピラミッド・ポンプのトリックの「解答」は文章だけによる説明。このトリックこそ図で説明すべきなのに、図を全く使っていないから、チンプンカンプン。「ふーん、そうかなあ」くらいしか思えない。このトリックの「解答」は、実は不正解であることが後に明らかにされる。メイントリックではないので、図解は不要だと感じたのだろうか。
 御手洗は日本では名探偵との名声を得ていたようだが、アメリカでは無論無名。アメリカの警察がそんな素人探偵の推理を聞いただけで納得し、中断させた撮影の再開を許可するとは思えない。まして、推理が撮影を再開させるための出鱈目であることが後になって明らかにされるのだから。この部分も不自然。
 島田荘司は奇怪な謎を設定し、それを論理的に解決することで「驚き」を生み出すことをミステリの醍醐味だと論じているが、本作品はその意気込みが空回りした感じ。
 というか、空回りしていない作品の方が珍しい感じがする。
 著者は、自分の厳格なミステリ論に沿ったミステリを書くのがいかに困難であるかを、自作で証明している感じがする。
 本作品には前作「暗闇坂の人喰いの家」で初登場した松崎レオナが登場する。準レギュラー・キャラになっているが、彼女こそ本シリーズの低迷の原因になっている気がする。とにかく自意識が強過ぎて、同じく自意識の強い御手洗と重複して満腹気味になる。
 ミステリの部分が弱くても、人間ドラマの部分が良ければ「小説」としてはそれなりに成り立つのに、本作品のようにミステリの部分が弱いわ、人間ドラマの部分が苛立つわ、では、
 失敗作としか言いようがない。
 本作品で、レオナが主演する映画は「アイーダ87」。数十人のダンサーが躍るというミュージカルだ。作中では大ヒットになる、ということで終わるが、実際のハリウッドでは、この手のミュージカル映画はとっくに衰退期にあった。このような映画が仮に制作されていたとしても、大失敗に終わっていただろう。
 ハリウッド=ミュージカル映画と考える著者島田荘司のセンスは古い気がしてしょうがない(ハリウッドではミュージカルの全盛期は大戦直後)。現在、ミュージカルは映画ではなく舞台が中心で、それはハリウッドではなくブロードウェイの筈。
 作者は本当にロスに行ったことや、ハリウッド映画を観たことがあるのだろうか?
 アケクスンが所有する会社は「アレクスン・カンパニー」となっているが、こんな名前の会社は有り得ない。「アレクスン・エンタープライゼズ」や「アレクスン・コーポレーション」となる筈。
 著者は「カンパニー」の単語を「株式会社」のつもりで使ったようだが、「株式会社」の訳は「カンパニー・リミテッド」が正しい。「アレクスン・カンパニー」だと、日本語に訳すと「アレクスン会社」になってしまい、不自然。
 海外滞在経験が長い者が犯してはならない初歩的なミス。
 この意味でも、日本人作家が易々と外国人や外国を登場させるべきではない。
 作者によると、文明は西に移動するという。エジプトからローマ、ローマからイギリス、イギリスからアメリカ。アメリカの西にあるのは日本。アメリカの次は日本の時代だ、と暗に論じている感じがする。現在は日本の更に西にある中国の時代の到来が見えてきている。
 文明の中心が西へ移動する、という作者の説は正しいかも知れない。しかし、作中で、著者はピラミッドと関係する数字と、太陽系と関係する数字で一致が見られるのは単なる偶然だと御手洗潔に言わせている。それらの一致は数多く試された数字の中で偶々一致しただけで、試したが「外れた」ものは排除され、無視されると。
 同じ理由で、「文明は西へ移動する」という論説も、偶々一致した単なる偶然として処理されたらどう思うのか。



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Last updated  2006.11.29 09:55:56
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