非常に適当な本と映画のページ

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2006.11.29
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カテゴリ: 邦書

 推理作家鮎川哲也が本格推理短編一般公募した結果出版された短編集第11弾。12編収録されている。残りは こちら


粗筋

「キャンプでの出来事」:小松立人
 大学の友人グループがキャンプに行く。その内一人(甲賀)が賭けをやろうと呼びかける。残りの仲間が何でもいいからメッセージを決める。そして誰でもいいから友人を決める。翌日、その友人の家に行く。友人はメッセージを真っ先に言うかどうか、という奇妙な賭けである。
 甲賀はずっと監視されているので、メッセージをその友人に伝えることはできない。メッセージを言わせる友人は仲間が自分らで決めるので、甲賀が事前に手続きをするのも無理。
 本当に友人は真っ先にメッセージを言うのだろうか、と仲間は疑っていたが、翌日その友人を訪ねると、彼らの顔を見た途端にメッセージを口走った。仲間はびっくりする。甲賀はキャンプ中、公衆電話に近付いてないし、携帯電話を持っていなかった。メッセージはどうやって友人に伝わったのか……。
 ……甲賀は車からガソリンを抜いておき、ガソリンスタンドに寄らせた。ガソリンの給油口にメモを入れておき、ガソリンスタンドの給油員にメッセージを友人に伝えてくれと頼んだのだった。
 本編では成功したが、実際にやった場合、成功するかは疑わしい。給油員が素直に応じるとは思えないからだ。また、フルサービスが当たり前の日本では使えるトリックだが、セルフサービスが多い海外では使えない。
 これも犯罪がない。ほのぼのしているが、インパクトに欠ける。やはり推理小説は殺人がないと物足りない。

「この世の鬼」:赤井一吾
 桃太郎という男が金太郎という老人を殺すことにする。以前から殺したいと考えていたのだが、金太郎がまるで殺してくださいと言わんばかりに密室に閉じこもるようになったので、殺人を決行することにしたのだ。
 金太郎は桃太郎が自分を殺したがっているのを知っていた。密室殺人を犯させるよう、密室になり易い部屋をわざわざこしらえた。
 桃太郎は金太郎を殺す。鍵を使って外に出て、密室を完成しようとしたが、鍵は一度かかると二度と使えない特注のものだった。桃太郎は金太郎の死体と共に食料のない部屋に閉じ込められてしまう……。
 ……桃太郎は金太郎の死体を食べ、外からドアが開けられるのを待った。
 これ、本格推理か? と首を捻りたくなる。選者は本格推理を、とくどく述べているのに、最近収録されているのは本格推理とは思えないのが多い。なぜだろうか。
 登場人物の名前となっている桃太郎と金太郎は、何か意味があるのだろうか。

「暗い箱の中で」:石持浅海
 篠原、金沢、水島、そして由紀子の四人は、社員に嫌われている女性課長との問題で会社を辞めることになった理恵の為に送別会を開くことにした。理恵が遅れて会社を出てきて、全員が集まった。問題の女性課長は週末前にも拘わらず会社に残っているという。
 五人が集まり、さあ、目当ての店に行こうとしたところで、由紀子はその店が載っている情報誌を会社の女子更衣室に忘れたことに気付いた。
 五人で揃って会社に戻ることにした。エレベータに入る。そうしたら地震が発生し、エレベータが止まってしまった。ふと気付くと、由紀子がナイフで刺殺されていた。
 エレベータには殺された由紀子の他に四人しかいない。誰が、何の理由で由紀子を殺したのか……。
 ……犯人は理恵。彼女にとって、由紀子殺害は急遽実行した犯行だった。由紀子を殺したのは、由紀子が女子更衣室に戻るのを何が何でも阻止せねばならなかった理由があったからだ。
 その理由とは、女性課長を刺殺し、その死体が更衣室にあった、ということである。だから理恵は会社を出るのが遅れたのだ。由紀子殺害に使ったナイフは、女性課長を殺した凶器でもあった。
 理恵は送別会の後そのまま外国に逃げるつもりだった。女性課長の死体が発見されるのは週明けだから、余裕で逃げられると思っていたが、由紀子が忘れ物を取りに死体のある更衣室に戻ると言い出した。それだと即座に犯行が発覚してしまう。理恵が阻止する機会を探していたところ、偶然にも地震でエレベータが止まった。理恵はとっさに由紀子を刺すことにした……。
 サスペンスあり、意外性あり、満点に近い。よく50枚未満にこれだけ盛り込めたなと感心してしまう。
 ただ、理恵が遺体を更衣室の床に放置したのは油断のし過ぎでは、と思ってしまうが……。

「怨と偶然の戯れ」:鈴木康之
 大学教授が図書館を訪れる。寄贈品を見る為だ。そこで図書館長が殺される……。
 ……トリックがあるようなのだが、さっぱり分からなかった。登場人物が多過ぎるのである。ストーリー構成も50枚しかないのに入り組んでいる感じがした。犯人が明らかになってもその根拠が理解できず、ちんぷんかんぷん。
 選者はトリックを見逃したら読者に落ち度があると言うが、もう少し整理しなかった作者と、そんな小説を選んだ選者にも落ち度があると思うのだが……。

「魔術師の夜」:由比俊之介
 前夜にはビルが三つあった。男は端のビルで一晩過ごす。翌日目を覚ますと真ん中のビルにいて、自分がいた筈のビルは跡形もなく消えていた……。
 ……消えていたビルは消失していた、というトリックらしい。ビルの色を変えたトリックを図入りで説明していたが、よく分からなかった。
 おまけに、推理する素人探偵役がなぜか最後になって自殺するという訳の分からない結末は、素人っぽい。
 センテンスを強調する為に点が振ってあるが、乱用しているため、綾辻行人の小説同様、単に読み辛いだけ。こういうことはやめて欲しい。
 作者は本作品を応募した時点で17歳だった。それが唯一の特徴。

「つなひき」:魚川鉾夫
 市内をグルグル回ることがトリックになっているようだが、何を言いたいのか最初から最後まで全然分からなかった。
 市内の散策ルートを紐に例えて図で説明しているが、それが分かり難さに拍車をかけている感じ。
 作中作はきちんと書かないと無駄に複雑になるだけ。


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解説

本短編集は「暗い箱の中で」のような傑作がある一方、「怨と偶然の戯れ」、「魔術師の夜」、「つなひき」など途中で放り出したくなるものも多く、同じ人物が選んだとは思えなかった。


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Last updated  2006.11.29 16:47:25
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