星を巡る

過去の詩 祈り


 「祈り」という行為が好きです。
 それは何かに向かう姿勢であり、なにかを慈しむ心であると思います。

 祈るときに気づく、人の心にあるなにかしらの神聖な場所が、わたしは何よりも愛しい。そこは澄みわたり、ほのかな光をたたえています。
 その場所が、どう生きていくかを教えてくれる。

 そして、人が自分を慈しむことの、なんと清いことでしょう。自分を大切にできる者こそが、他人を大切にするすべを知るのですから。
 そのとき、弱肉強食ですらわたしは美しく感じるのです。

 祈りはなにもかもを内包し、さらに力強く大きくなって、わたし達の上に戻ってくるでしょう。
 生きることは、祈りそのもののように思います。








「朝顔」



かたく かたく 絞られて 
尖った蕾の 朝顔は
一日ごとに みるみると
ゆるゆる ゆるんで 開きます

水色 むらさき 紅 ピンク
いつだってこんな風に 心が開くといいのにね

朝顔の花が咲く朝は
ときどき 誰かに祈ります








「何かが降る日」



風のないこんな夜は
なにかが降りてくるのでしょうか

しっとりと
指の間にまで
濃密な大気が入り込む

まぶたに真実を
唇に祝福を

吐息に呼気に
繰り返し
私が満ちていく
この清い祝福に 満たされていく








「祈り」


何にか は わからないけれど
こみ上げるように 祈りたくなるときがある

朝焼けの雲をめざす あの風
夕闇を切り裂いて飛んでいく あの翼
あなたも知っているだろうか?
あの 心臓が空翔るような気分を?

今夜ここに 心からの祈りを

わたしよ やみくもにも 幸せになってくれ
あなたよ やみくもにも 幸せであってくれ

世界に命あふれ
美しいものも みにくいものも
全て等しく 抱きしめたく
愛しいものであってくれ








「待ち人」


いつか わたしと出会う者よ
どこかで今も 旅している者よ
どうか 待ちくたびれてしまわないで
少しずつでも 立ち止まりながらも
わたし達は歩いているのだから

わたし達は 名前も分らない者どうし
けれども
きっと通り過ぎてしまわない
同じ色の灯火をかかげて
その魂で繋ぎとめよう 
待ち人よ

聖なるかな 君の清らかな光は
時を越えてやってくるもの
聖なるかな この世界に向けて
救われる想いで わたしは祈るのだ

君がわたしに 灯りを投げたように
わたしの祈りが
君の足下を照らす せめて一筋の光でありますように

たとえ 出会うことがなくても
幸せに君よ
幸せに君よ









「さようなら」


そんな風に簡単に
さようなら と言ってしまわないで

風が 君の髪をなでたがっているのに
キンモクセイの香りが
君に抱きしめて欲しがっているのに

秋の空に トビの声が吸い込まれていく
風と雲と星のすみか
いつかわたし達は あそこを登っていくのだ

だから ねえ 手をつなごう

ねえ いつか君も
どのみち 行ってしまうのに
振り返りもせず
誰もが一人で行ってしまうのに








「秘密」


わたしは ただ 知りたいの
世界の秘密を
研ぎ澄まされたほんとうのことを

答えに 恐れさえしなければ









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