ひとりしゃべり

ひとりしゃべり

消えない思い


本当に最後の最後までがんばっていた。
私は彼に何て言えばよかった
がんばって?
患者はもともとがんばってるんだから
がんばれは酷な言葉だという。
けれど彼はきっと、がんばって
そう言って欲しかったんだ。
彼は本当にがんばっていた。
私が見かねて、無理しなくても
そう言ってしまった時
彼はひと言、「そっか・・・」
そう言って箸を置いた。

ごめんね
薬を流し込むために
持ち上げようとしたカップさえも
ぷるぷると震えていた。

それでも希望を捨てきれず
重箱の隅をつつくようにして調べ上げ
前日の言葉を謝って、一度拒否したイレッサを
できるようにがんばって
そう言った。
彼はそのことについて何も言わなかったけど
一瞬力が戻ったように見えた。
私のためにもがんばるって
癌を縮めますよって笑った彼に
なぜ私はがんばってと言い続けることができなかったんだろう。
彼の最後の生きる力を奪ったのは
本当は病気なんかじゃなくて
私だったのかもしれない。

あの時の言葉に深い意味はなかった。
ただ見ていられなかった。
食事のために身を起こしていることさえ
体力を奪うように思われたから。
でも彼にとっては、お米一粒でも
がんばることをやめることは
死に直結していたんだ。

私は何を見てたんだろう
そばにいて、あなたの何を見ていたんだろう


2004/02/24


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