JOKER†TRICK

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予感と前兆


そこは美しい建築美と活気に満ちた街である。
土地柄上、幾度と無く古龍の襲撃に逢うが、その度に街中が協力して復活を遂げる。
ディビナが所属しているハンターズギルドもここにあった。

そこにある「古龍観測所」という施設。
季節を告げる花の開花を予測する様に、各地からの目撃情報や生態を元に
古龍の所在を予測・特定する事を目的とする施設だ。

「博士……、もう14時間もその古文書の解読作業をしておられますよ……?
 もうそろそろ休んではいかがでしょうか」
観測所で働く竜人族の女性が、
白髪で眼鏡をかけ、いかにも「学者」という風貌の老人に声をかけた。
「いや!ワシは大丈夫じゃ!
 こんなに興奮する出来事に出会えるとは……。長生きはするもんじゃわい!」

女性はため息をついたが、解読の内容自体には興味がある様子だった。
「ホレ、見てみるのじゃ。
 この部分は、いままで見られていた飛竜種とも古龍種とも違う特徴を記しておる」
「……私には解読できません。いったい何と?」

「よいか……?ここにはのぉ……」





「そうニャ、その時黒くてデカいのが何かしたのニャ」
ポッケ村のアイルーはそう語る。
曖昧な答えに満足できず、シャルが問う。
「何かしたって……、一体何をしたの?」

しばらく考え込む素振りを見せて、アイルーは答えた。
「とにかく、何かしたのニャ」
「え~、気になるじゃ~ん」
ガックリして座り込んだシャルに、白猫は続けた。

「アイルー族の伝承なんてみんなそんなもんニャ。
 あんたらの伝承みたいに”キョダイリュウノ ゼツメイニヨリ……”
 なんてのを期待してるならお門違いってやつニャ!」


「ごめん、遅くなった!」
「あ、ディビナ。そういえば待ち合わせしてたんだ」

(忘れてたの…ね……アハハ)
「で、修理するボウガンは?」
「あぁそうそう、ライトボウガンなんだけどね~?」

轟竜の討伐から一週間。
ダルク、ディビナ、シャルの3人は同年代と言う事もありよくチームを組んでいた。
ファフニールはというと、どこぞのギルドマスターから直々の依頼が来たとかでしばらくはポッケ村に来ないらしい。

また、チームを組む様になってから、シャルの使うボウガンの整備はディビナが請け負っていた。
「ここのグリスが切れてるね。装填口のスライドドアも開きにくい、タダで直しとくよ」
「詳しいのね~。ホント頼りになるわ、こん時だけは」


「ん、何か言った?」
「ううん」
(ホント、夢中すぎて周りが見えてないというか……)


3人に新しい依頼が舞い込むのは、その2日後だった。



~~

「さ~~~~~~~~~っむい!」

シャルの声が静かな洞窟内に響き渡る。
「ジトジトしてるし、おまけに虫はいるし、もうイヤー!」
「しょうがないだろ……、依頼なんだから」

もうハンターなんてやめてやる!と豪語するシャルを無視して、ダルクは洞窟の奥へと進む。
今回の依頼は体内電流を操る飛竜、フルフルの討伐である。
そのために沼地の奥にある洞窟にまで来たのだが、なかなか目的のフルフルが見付からずに
全員がイライラし始めていた。


しかし、招かれざる客はその時を待っていた。



ピタ

ディビナの肩に液状の物が落ちてきた。
ギルドの紋章が入った肩当てがジュウと音を当てて溶ける。

(まさかっ……!!)
シャルの腕を掴み、思いっきり前へ突き飛ばす。
その反動も使ってディビナは横へ身を逃した。


刹那


鳴き声と共にフルフルが落下してきたのだ。
間一髪間合いから抜け出たディビナはペイントボールをぶつけた。
ダルクとシャルもすぐに戦闘態勢に移る。

目の前に現れた白い巨体は、匂いをかぐ様な動作の後
ショートした回路の様な音を立てて首をもたげる。

「あぶない!」
3人がかわしたそこに、強烈な電流が走り抜けた。
「白くて、ヌルヌルで、気持ち悪い上にビリビリなんて……」

ディビナがガンランスを展開する。
「文句言う暇あったら、さっさと片付けちゃおう」
「う~」

それから十分ほど、激しい戦いが続いた。
フルフルは窮地に追い込まれるたびに己の身に電気を纏って
3人をはじき飛ばそうとしてくる。

電気玉をかわしては攻撃し、首を受け流しては反撃を加える。
そしてそのまた5分後。白い巨体は地に伏していた。



不愉快な依頼を終え、村に戻ってきた一行。
しかし何やら村の様子がおかしい。

「何だろ……?」
「人達も動揺してるみたいだね」

「おい、あれを見ろ」

静まりかえった村の中、唯一煙を上げている煙突を見付けてダルクが言った。
それは村長の家だった。

玄関の戸は開けっ放しになっており、中には5~6人の村人が来ていた。
彼らはベッドがある場所を囲んで立っていた。
そのベッドにいたのは……。

「村長!」
ダルクが思わず声を上げる。
そこには傷を負った村長が横たわっていた。

「村長、ご無事ですか!」
「おぉ……、ダルク。よぅ帰った……。依頼は……?」

「私の事はどうでもよいのです!それより何が?」


「古龍の襲撃じゃよ……。
 観測所の方で数日前見失ったクシャルダオラが、今日この近辺で見かけられての。
 ハンター達も依頼で調度出払っておって、2人のハンターと共に討伐に向かったのじゃ」



そこまで言うと疲れたのか、村長は”話は明日じゃ”と言って家からみんなを出してしまった。
ダルクはそれから夜までずっと考え込んだ顔をしていた。

「あの村長が古龍討伐……ですか」
ディビナがため息をつく。

「村長の片手剣の腕は確かだ。老いたとは言え、古龍ごときに後れを取るなどと……」
ダルクはやはり動揺している様だった。
「それにそのクシャルダオラ。観測所が見失ったと言っていた……。
 生態からしてこの時期にこの付近に来る事はまずないはず」


「どういう事です?」
ディビナが問う。

「つまり……」

「何か異変が起こっているという事だ」


「確かに最近、ガブラスの目撃情報が無いにかかわらず古龍が現れるなど、
 観測所の予測の範疇を超えた事態が次々に起こっています。
 学者の一部はこの事を『何かの予兆』だと報告していますしね」


「そこまで調べてたのか……」
「マニアの情報網は強いですよっ」

フッ。とダルクが小さく鼻で笑って見せた。
「やはり、お前には話しておかねばならないな」

「……何をですか?」


「今ギルドで極秘裏に行われている計画と……」






「俺の正体についてだ」

《次章 No Title へ続く》


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