実 験 小 説   お と ひ こ 。

Oct 17, 2005
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類



 白い魔法の粉が、かけられたような薄くて光る肌 

 まつげと唇だけが、ふんわりと潤い、

 瞳の色はとても薄く……



 ──彼女のそばだけが、その世界の中で澄んでいて──……

 その彼女が、ゆっくりと、僕に笑むと──……









 僕は何の迷いも無く、電車を降りた──……

 降りて、向かいの、彼女が佇んでいたホームに向かって

 走り出す──……



 何でそんなことをしたのか。

 彼女になんと、声をかけるのか……。

 そんなこと一つも頭に無くて。

 ただ、その澄んだ空気に

 僕は、ほんの少し触れてみたかった。









 でも──…… 

 僕は、発車した電車を

 ただ、見送ることしか出来なかった。





 ひとめしか逢ったことのない、彼女を探し続けている。



 始発でここまで来ると、ギリギリまで彼女を待つ。

 彼女への唯一の手がかりは、この駅だけ。

 もう逢えないかもしれない……。でも、逢えるかもしれない……。

 いつも同じことを考える。



 ……彼女が来たら、なんと声をかけよう。


 グルグル考える。


 ……久しぶり……てのも、おかしいし。


 グルグル……。


 ……はじめまして……でも、ないよな。


 いつも、でも結果は同じ……。


 ……キミにアイタカッタ……。


 その気持ちだけが、ぎゅっと心をつかんで……

 僕は弾かれるように、そのホームから走り去り、

 電車に飛び乗り──…… 日常へと戻る……。




 ……そのうち、なくなるんだろうか……こんな気持ち。




 雨が容易に、雪に変わる季節になっても、彼女を待つこと

 止められなかった……。


 すぐにぬるくなる缶コーヒー……。

 一本をポケットに突っ込むと、僕は、もう指定席となった、

 少しペンキのはげたベンチに、深く腰掛け、

 彼女を待ち続けていた。




 ──こんなこと、止めればいいのにな……。



 こんだけ待ったのに、逢えないんだから……

 どうせ一生、もう逢えやしない。

 逢えないに決まってる!!



 でも……。



 いつもそう思っても、考えてしまう……もしかしたら、彼女が……。

 今、その階段を降りてくるところかもしれない。

 今、駆けつけてるところかもしれない。

 今──……



 ハラハラと舞う雪。

 ホームにも少しずつ、雪は吹き込んでくる……。



 なんのけなしに僕は、携帯をポケットから取り出していた。

 ちっぽけな雪空を見つめると、僕はメールを打ち出す。

 僕に宛ててのメール──……


────────────────────────────────
──────────────────────────────── 

 きみは いつになったら

 ここにやってくるの 


 もう こないの?

 それとも これないの?


 なにか理由があって

 これないの?


 その理由はきみを

 苦しめているの?


 もし苦しめてるのなら

 哀しませてるのなら・・・


 僕はとても心が

 痛いです。。。


 きみの力になにひとつ

 なれないことが・・・


 ただひたすら

 痛いです。。。



 きみが幸せなら

 いくら待たされても

 僕はかまわない。。。


 きみが幸せかどうか・・・

 それだけを、僕はいま知りたい。。。

────────────────────────────────
──────────────────────────────── 

 メールを打って、僕のPCに送信。



 ……なにやってんだよ。俺……。



 そう思いながらも、彼女に宛てたメールを

 自分のPCへ僕は送り続けること

 やめられなかった……。



 ここで待つ、永遠にも感じるほどの時間を、

 ありったけの想い……彼女に送るはずの言葉──…… 

 ひとり打ち続ける……。



 そのうち、そこで、打ち続けるだけでなく、

 自宅でも、彼女になったつもりで、僕は、

 自分自身を癒すように……僕に向けてメールを

 打つようになっていた──……




 ──毎朝駅で見る、僕が僕に宛てたメール……。



 でも、不思議と僕は、自分自身で書いたメールのはずなのに

 彼女が僕に、送って来てくれてるような気がして……



────────────────────────────────
──────────────────────────────── 

 学校の方は どうですか? 

 勉強との両立……

 大変かもしれませんが

 あなたなら 頑張れるって

 わたし 信じてるからね^^



 遠くから 応援することしか

 出来なくて ごめんなさい……。



 わたしとあなたって

 きっと……


 織り姫と彦星なんだと思う。


 お互い あるって信じることしか

 いまは出来ないけれど



 きっと いつか逢えると思う。。。


 わたしはあなたと


 また逢えるって、信じてるから。。。


 逢える日。楽しみに待ってようね^^


────────────────────────────────
──────────────────────────────── 



 周りから見たら、僕はおかしいのかもしれない。

 でも──……

 僕はそんなメールをやめること……出来なかった。

 そんな日々を止めること……出来なかった……。





 ……そしてついに、その日が来てしまった。








お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  Oct 17, 2005 10:27:16 PM


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: