いなかの猫の天邪鬼部屋

第4話

第4話 亀裂

変化の亀裂。その中で成長するギョンテ、変化するギョンア、渇望するドウ


01.シンにログアウトされたギョンテの亀裂

アン・ギョンテには二つの姿がある。
自身の言語、行動障害の偏見なく能力だけで評価してくれるオンラインのマジンガーハンターの姿は、自信感に溢れ、粗雑な事がない。
しかし、オフライン状態の自閉児アン・ギョンテはどこでも価値を認められない無能力な姿だ。
そのため、世の人々と一定の距離を置く事が、一種のルールだった。
だが、まずシンからプレゼントされた木製ヘッドフォンで警戒心を解いたギョンテは、刑務所大掃除中にシンに、ピトリンチのフィルモグラフィを、データを抜き出すように楽しげに吟じる。
シンとは全く心配なく自身のfavoriteについて情報を話す姿は、さながら幼い子供が、好きな人にどのようにしてでも自分を分かって欲しくて、良く見られたくてアピールしようとして必死に努力する姿と似ている。
自分が好きなビトリンチについて夢中で説明し、披瀝する間、ギョンテは自分がコードを挿さなかった事実すら自覚出来ないまま、後から事実を知り、自分が人と人の間を分ける境界線を、強要されずシンに無防備状態にされた事に戸惑う。
周囲がぎっちりと囲まれた限定された場所で、それでなくとも対人忌避症まであるギョンテが見慣れない人達に囲まれ不安な心理が極度に鋭敏に作用する時、シンの存在はギョンテの唯一の頼れる場所になってくれる。
こうしてシンに情が入ってしまったギョンテは自身の出所日が近付くにつれ、自由になるという嬉しさより、シンと別れる事になるという寂しさが、より大きいほど、シンになついてしまう。
出所前、初めて曲がり傾いた文字で'アン・ギョンテ'という名前の字を書いてやりながら、ギョンテは自身がマジンガーハンターとか罪人番号4687とかではなく'アン・ギョンテ'として自身を覚えてもらいたい気持ちを表す。
常に他人との直接的な接触を恐れ、それどころか自身を上手く隠す事に忙しかったギョンテが、シンには自分が先に近付く姿の例外を適用した のだ。シンはギョンテにとって、オンラインとオフラインの境界を崩した最初の人間なのだ。
こうして、 対人忌避症ギョンテはシンを通して唯一心を許す他人を得る事になった。

02.花柳界のスターになったギョンアの亀裂


ギョンアは、生まれ持った外貌と、それを活用出来る賢い頭脳も持っている、生まれつきの悪女だ。
安酒店の女のように簡単に笑わない女は、テンプロの女ではないというチャンマダムの一言に、仮に花柳界の女だとしても、安い女ではなく上流階級だけを相手にする花柳界の女になるという望みを、ギョンアは、 その誰にでも簡単に笑わないというマーケティングで自分自身を高級に表装し、ダメ男たちの愛感情をとろけさせる事に成功 する。
こうして'笑わないジェニー'になったギョンアは花柳界の新星になり、たちまち知名度1位の名声を鳴らすスターとして生まれ変わり、3年間の服役生活を終えて出所したシンは自分のために花柳界に身を投げたギョンアを取り戻すためにテンプロを訪ねる。
突然のシンとの再会に戸惑いを隠せないギョンアは努めてシンを冷たく追い出す事を急ぐ。一緒に戻ろうという提案に、皮肉るようにシンを押しやるギョンア。ギョンアはシンに戻る事が出来ない女になってしまった。
安物化粧品サンプルなどを集め、肩掛けカバンを背負っていたギョンアが物質的豊かさを知ってしまい、彼女の言葉を借りれば、100万ウォン以下のバッグは恥ずかしくて持てないという女になってしまった のだ。
1話でシンとギョンアがベッドで冗談として交わした対話を通しても、ギョンアは世俗的な欲を持った人物だと知る事が出来る。
野望よりは流れて行くままに順応して素朴に生きる事が楽しいシンからはビジョンを見付ける事が出来ないギョンアは再びグズグズとして貧しかった暮らしに戻るのが恐ろしかったのだ。
金の味を覚えてしまったギョンア はシンに戻って素朴だった暮らしに適応する勇気を出せない。
シンに対する未練を捨てられないギョンアは 自分がシンに戻る事は出来ないが、シンが自分に来て欲しいという言葉で、金とシンと二つともを得られるようシンに頼む。
だがシンは、そんなギョンアを置いてテンプロを抜け出て行く。
金の味を覚えてしまったギョンアがシンの世界で生きられないように、 シンもまた金が権力に直結するギョンアの世界で生きられない人物だから だ。
ギョンアを連れて出て来てシンの世界でも幸せに生きられる条件'金'を得るまで、シンはギョンアをテンプロに少しの間、保留しておく事にする。

03.光を渇望するトラウマ、ドウの亀裂

有するプロジェクトを成功させ、チェドンを株式上場会社に成長させたドウが臨時株主総会を開く動きを見せると同時に不安な気持ちになったチェ会長は、 会長の席に危機意識を感じ、ついにはドウを会社から隔離しようという計画 を立てる。
幼い頃からドウの精神科相談を担って来た主治医から診断書を受け取ったチェ会長の秘書ド・マンフィは、書類を運送する過程で不慮の事故に遭い、命を落とす。
だが、その事故は、予めチェ会長の計画を探知したドウが、事前に腹心ケイに命じてド・マンフィを暗殺せよという指示を出した、物々しい殺害陰謀が潜んでいた。
ド・マンフィが殺害された日、ドウは相当に疲労した姿を見せる。
だが、それは、 単純にドウが人を殺したという罪悪感より、自分とウンスを光と闇に分けた母に対する怨望の感情に、より近い。
たとえばウンスの、闇として生まれた事が悔しいのかという質問に、時々こんな日に泣けなくて悔しいというドウの答えから、 人を殺しても罪悪感や良心の呵責を感じられない自分の欠陥についての無念感 が感じられる。
もう少し細かく掘り下げると、'泣きたいのに泣けない'という言葉は、ドウも '人を殺したという事' が誤った事だとよく分かっているという事だ。
ドウは人を殺したという罪を犯しても良心の呵責を感じられない、そんな自分に相当失望していて、泣ければ泣きたく、良心の呵責も感じられたら良かったという、欠如した感情に対する渇きを表現 する。
良心の呵責を感じられないドウは、そんなコンプレックスに疲労し、 光を渇望する心はウンスを通して慰労 を受ける。
心理学的に、自分と全く違う人物に魅力を感じ、惹き付けられる事を 影心理 と呼ぶ。
影心理は、自分にないものを他の人に代わりに、あたかも自身のもののように適用し、一種の代理満足を感じようとする心理だが、このようにドウが闇のコンプレックスに囚われ疲労している時、光であるウンスが傍にいてくれる事だけで、ドウは自分にない光を持ったという慰労を得る。
過去のトラウマに囚われたドウの亀裂は、ウンスを通して群型を成している。
まるで、善悪の完璧な対立が螺旋のように完璧な並行を成すように…。


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