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いなかの猫の天邪鬼部屋
最終話
最終話 生き残った者
水の泡になってしまった、理性を失った者達の都市ネオモナコ。
ウンスが去り、ドウに、シンに、ギョンアに、ドリームチームに、そして私たちに残して行った物。
"出血多量によって心臓停止状態があまりにも長く続きました。
手術前に既に出血量があまりにも多い状態で、あちこちの臓器が損傷した可能性が大きい。"
01.あまりにも遅く気付いたウンスの純粋さ、シンの涙
シンは
ウンスが死んでようやくウンスの純粋さを
悟った。
彼女に向かってきちんと一度笑ってやれたかもしれないという遅過ぎた後悔
が押し寄せ、ウンスが再び目を覚ましたら必ず彼女の傍で一緒に笑ってやるとギョンテと分かち合った約束も、もう守れない約束になってしまい、チェ・ウンスは取り戻せない遠い場所へ去ってしまった。
冷たく冷えてしまった彼女の死体の前で、シンはただ黙って涙を流すだけだった。
いつも冷たく放り出しても振り向けば当然のように常にその場所にいてくれ、また、いつかまた具合が悪くなったら、粥も作ってくれ看病もしてくれただろうウンスだから、シンはそんな彼女がこうして突然自分の傍を去る事は想像も出来なかった。切れてしまった受話器越しに、シンに、当分の間は粥を作ってあげられないと思うと
涙ぐんでいたウンスの言葉は現実になり
、シンはもう、また食べたかったウンスの粥をもう食べられなくなった。
ウンスはいつも危なっかしく
チェ会長とドウの危険に顔を出していた。
シンが気付けずにいた間にも、ウンスはとても一つの血筋である父と兄の紐を放せないまま、彼らの犠牲の羊になり、静かに疲労していた。
少しだけ関心を持って振り返ってみれば、傷だらけの彼女を発見し、守ってやれたのに、シンと私たちは彼女の存在をあまりにも当然のように受け入れ、その間もウンスは資本主義の犠牲の羊になり、手を回すにはあまりにも遅くなってしまったほど、放置されていたという事ではないだろうか。
02.光を失った陰、ドウの涙
心だとまで表現
していたウンスを失ったドウは抜け殻のように全てを失った白紙の状態に戻って行く。それは、ややもすればドウが最も純粋な瞬間なのかもしれない。ドウの夢とネオモナコ、全ての野望はウンスに由来していたため、
ウンスの死によってドウは全ての意味を喪失
してしまう。
真っ白な白紙帳のように全てがリセットされたドウの前に、ウンスは誰よりもまぶしい微笑で彼の前に現れる。
ウンスは今すぐにでも泣きそうで疲れて見えるドウに問う。
まだ涙が出ないのか
と。
私たちは、ドウをサイコパスかもしれないと推測する。そして、涙が出ないとも考える。
しかし、ウンスが死んだ日、私たちはドウが誰よりも大きく激しく感情に苦しめられ疲労する姿を見た。その疲労の中にはウンスを失ったという絶望感と悲しみも見えた。
よく、サイコパスは感情がない人間を言うが、正確には良心の呵責を感じられない人間を意味する。サイコパスは自身の感情に誰よりも正直で、喜びや悲しみ、怒り、絶望、楽しみ、全ての喜怒哀楽を感じる事が可能だが、他人の喜びや悲しみ等の感情共感能力が抜け落ちている。一言で言えば無限利己主義者とも言える。
即ち、ドウはウンスの死を誰よりも大きく悲しみ、動揺し、悲観し、絶望しているのだ。
だが、
ドウは最後まで涙を流さなかった。
私たちは金が全ての定規になる資本主義の人々を指して、
"冷血な、血も涙もない人間"
とも呼ぶ。
泣きたいのに泣く方法を知らなかったドウは、自身の度を越した利己心と抑圧によって死ぬしかなかったウンスを見送ってしまった。
涙が出ないのかというウンスの質問に、ドウはしばらくの間、言葉を続ける事が出来ない。何も答えられないまま短い場面は終わった。
その短い瞬間、ドウは何を考えていたのだろうか。そうやって、愛していたウンスが死んだにもかかわらず、ドウの目に涙が流れなかったのは、
彼が本当に血も涙もない資本主義者の象徴化だから
だったのだろうか?
03.残されたシンとギョンア:ネオモナコを夢見る
チェ会長が病床に就き、夫ドウまでが前科者に精神病まで患い、まともな会社運営を期待出来なくなると、
ギョンアはチェドンの全ての経営権
を集め受ける。彼女は、自分の運命を根こそぎ台無しにした男だが愛するという熱病が、そんな彼の夢まで捨てる事を出来なくさせる。ギョンアはドウの夢を引き継ぎ、
ネオモナコとシンの人達が一緒に共存出来る方法を模索
しようとする。
ドウの夢ネオモナコは、当初'シンの人達'は排除して設計された国で、ギョンアがネオモナコの中にドウの夢とシンの人達を全て包容すると言う事自体が現実性のない事のように見えるが、それはギョンアと
今この時代の私達に残された宿題
も同然だ。
以前は一枚の布団を被って寝ていたシンとギョンアが、気まずい付き合いでも友情を続けて行ったように、
シン(私達)はギョンア(開かれた資本主義)と付き合い続け、対話を試み、一緒に共存出来る妥協案を模索すべきだという事
だ。
彼女は出生が民主主義の人であるため、彼らの立場を誰よりもよく知っていて、開かれたマインドで協議する準備が出来ている。
シンとギョンアは互いの世界を守りながら、民主主義と資本主義が合う接点で持続的に向き合い、そこで時には衝突もし、時には妥協もし、時には取引もする事だ。
その中で私達は、ギョンアが探して来たドウの夢とシンの人達が一緒に共存出来るネオモナコを発見するかもしれない。
ドウの夢を引き継いだギョンアはネオモナコを夢見、ウンスの遺志を引き継いだシンはミョンド市でまだ場所を掴めていない市民達のために民主主義の思想が根を下ろすように、負担でも努力する事だ。
ドウとウンスが一つになれなかったように、妥協案を見付けられず、
生前に成し遂げられなかったチェ兄妹の夢を、生き残った者、シンとギョンアが続けて行く事が、彼らに課題として残された。
04.世界で最も重い三文字
ジェミョンは、幼い頃、自分を空港まで見送ってくれた父を思い浮かべる。
別れを惜しんで父の後ろ姿が消えるまで振り向き続けながら、重い歩みを踏み出さなければならなかった幼いジェミョンは、心の中で父を許せなかった。捨てられたという傷は、父に対する軽蔑と恨みに変わり、ジェミョンにとって父は、ただ戸籍上の家族に過ぎなかった。
ジェミョンが成長する一瞬間一瞬間を記録しながら息子を想っていた平凡な父の愛を、父が死んでようやく確認するようになったジェミョン。
入国当時、ジェミョンにとって父という名前が持つ重さは、冗談で取って食べるようにあまりに軽く、取るに足らないものですらあった。
だが、回を重ねるに従い、父の死についてのベールが脱がされるうちに、ジェミョンは大きく憤怒し、そんな過程の中で、ジェミョンは捨てられたという恨みに覆われて忘れていた自分の中の父への想いと愛を取り戻す。
復讐を終えてようやくジェミョンは父の写真を取り出し、
軽く呼んでいた三文字
を染み入るように悲しい声で詠じた。
"アボジ…"
ジェミョンにとって最もやる瀬なく、最も重い三文字。
LAで待つ人々も、行かなければならない理由もなかったが、ジェミョンは韓国を発った。
16年振りに韓国を訪ねた彼は、誰よりも弱者を守ってやれる法が、むしろ金という定規に振り回されて正しい正しくないが判断され、強者のために存在するという事を目撃する。
金が無い庶民たちは、不十分に場所を失い、時には武力衝突が起きるのも、言論の自由が抑圧されるのも、無実の人が審判される
'有銭無罪・無銭有罪'社会を肌で体感
した。国際弁護士だった彼は、そんな韓国の法に強い拒否感を感じ、職業的不信感を感じたのだ。
こうしてジェミョンは、シンに意味深長な短く力強い最後の挨拶だけを残して去った。
'私が再び戻って来たくなるようにしてみろ'
と。
シンとジェミョンの夢、
資本主義社会の利益と民主主義社会の繁栄、二頭の兎
を捕まえる事が出来る新しい理想国家ネオモナコという言葉こそ、ジェミョンが戻って来たくなる韓国の姿だという事だ。
そして私たちは、そのために何が出来るのだろうか。ジェミョンは再び韓国の地を踏む事が出来るだろうか。
05.チェ・ウンスとソ・ギョンア、ドウにとっての彼女たちの意味
シン(GOD)から絶対に開いてはならない箱を受けたパンドラは、禁忌を破って箱を開け、その中を覗き見た。
箱が開かれる瞬間、不幸や呪詛、疾病などの悪くて嫌悪されるものが世界に溢れ出た。
世界が闇で満たされると、パンドラは絶望したが、箱の隅から小さく弱い光が出るのを見た。それは希望という光だった。
こうして人間は、どんな不幸の前でも希望という小さな光を発見するようになったと言う。
◎彼女チェ・ウンス
ドウにとってウンスとは
パンドラの箱の光のような存在
だった。
かつてチェ会長(父)を通じて世界の闇を見たドウは、唯一の光だったウンスに希望を探す。この小さな光が消えないよう
風が入らない場所に隠しておき
、世界にはそれでもウンスという光があるという事に慰労を得ようとした。
世界に対する嫌悪感が濃くなればなるほど、ウンスに対するドウの執着は更に強くなる。善悪を自分とウンスに分けられて生まれたというドウは、
自分が悪くなればなるほど、ウンスから善の心を受けて慰労されようとし
、それでも満たされないと、全ての心をウンスに求める。自分が持っていようとしても汚されるものなら、むしろウンスに全部を求める方法を選んだのだ。
そんなドウにとってウンスは唯一心を慰労される事が出来る世界の
唯一の聖地であり安息地
だった。辛く苦しい時、ドウの心の全てを慰労する事が出来る唯一の場所としてウンスを選んだのだ。
ドウはそんな
聖地を守り抜く完璧な城壁
を作らなければならないという義務感を持っていて、そう考えて思い付いたのが
ネオモナコ
だ。
父も誰もむやみに入って来てのさばる事が出来ない堅固な城壁、だが城壁を積むのに集中しようとして、本来重要だった聖地を守り抜けなかったドウの愚かさを遠回しに言うと
'牛が居なくなった牛小屋の修理'
ではないだろうか?
◎彼女ソ・ギョンア
こうして唯一の心の安息地だったウンスを失い、居るべき場所を失ったまま彷徨うドウは、
次の選択としてギョンアを選ぶ。
完璧な聖地ではないものの、自らも軽蔑する自分の本来の姿を見ても傍に残ってくれる唯一の人としてギョンアに希望を賭けていたドウは、最後まで傍に残ってくれた彼女から、一人ではないという希望を発見する。この上なく寂しさを燃やすドウにとって、ギョンアは、今後使い道の多い道具として利用価値が大きい女として残ったという事だ。
エルサレムでは人を殺した罪人が逃亡する城を逃避城
と呼ぶ。
その城の中に入れば、罪を追求する事も審判する事も出来ず、罪人はその城の中でだけは罪社感を受ける事が出来る。
ドウにとって
ウンスが安息地ならば、ギョンアはそんな逃避城のような存在
だ。行き場所がなかったドウが、ウンスがいない空席を代わりに埋めて休息する事も逃亡する事も出来る、そんな存在。
ドウは今後もギョンアに対価のない愛を要求する
だろう。
曖昧な彼の義務感がギョンアを疲労させても、ギョンアはドウを捨てない覚悟が出来ていた、毒のある(善く見れば、強い)女で、ギョンアのそんな
積立式愛
が、後日ドウが人間更生プロジェクトの良い標本として残る事を希望する。人間は変わる事が出来るという希望を(笑)。
06.無防備な都市、ゲームは終わらなかった
光を失ったドウは狂いたかったが、ドウにとって狂う事はウンスまで否定する事になってしまうため、狂う事が出来なかった。
ドウが狂わなかった事は、多くの事を意味する。ドウが狂わなかったのと同様に、悪もまた変わらなかったという事を。
ウンスの死を悲しむ事は出来ても、自責しない事がドウの悪だ。
悲しみを後ろにしたままシンに向かって'私は間違わなかった'と言いぼんやりと腐っていたドウは、変わらない自分を濾過なく見せてくれた。
-お兄さんにもゲームを勧めてみようかしら。ゲームは負けたり死んだりしてもやり直せばいい。でしょう?
-完全にリセットする事も出来ます。リセット。RES...
ウンスは死んだが、ドウは生きている。
ドウがシンの生涯を根本から揺り動かしていたように、シンもまたドウの生涯を根本から変え、ドウが認めた唯一のライバルになった。世界のたった一つの光を失ったが、ある意味唯一の弱点さえもなくなったドウは、徹底した悪の象徴になって再び世界を見下ろしている。モノクロの世界で今や唯一のカラーになったシンとシンの人達を標的に、ドウは微かな微笑を浮かべて新しいゲームを始めるためのウォーミングアップに入った。
再び初めからゲームはリセットされたが、ドウという悪の設定はフォーマットされないまま、ゲームは、新しい
闘いは既に始まっている。
ついに、惜しさの中でドラマ<ナムジャイヤギ>が20話を最後に結末を迎えた。
ドラマを全て見た後に残った惜しさは3つ、まだこのドラマを見送るには、あまりにも深く入ってしまった情による未練と、まるで21話が再び始まるべきだというような余韻と、最後に<漢城別曲>や<魔王><いいかげんな興信所><メリー&テグ恋のから騒ぎ><京城スキャンダル>等々
いわゆる名品ドラマと呼ばれるドラマが溢れ出ていた2007年を境に、年々そんな類の作品に接するのが難しくなっていたが、
特に2009年は、より刺激的だったり単純な曲線を描く作品が主流になっていて、単に低い視聴率のドラマを慰労するように呼ぶ名品ドラマという呼び名が頻繁だったその時、視聴者として堂々と<名品ドラマ>を見ているという呼び名が恥ずかしくない、そんな立派な作品が、女王の陰に隠されて(内助の女王、善徳女王)多くの人々と共に出来なかったという惜しさだ。
韓国というのは、何しろ情が深くておせっかいが多い国で、
好きなものは一緒に楽しもうとする劇性
があり、こうして私達が生きている現時代を風刺し、興味深く描き出した<ナムジャイヤギ>のような作品は、可能ならば多くの人達が接していればと願う。
今、私達の社会が抱えている問題を扱うドラマであるドラマ<ナムジャイヤギ>は、興味深いがそれほどドラマの視聴主導権を持っている女性たちに大きくアピール出来なかったようだ。
だが、今年も同時間台放送局のドラマが視聴率5%にも及ばず静かに音もなく消えてしまったドラマが際立って多い年で、KBSだけ見ても、日々ドラマや週末連続劇を除いて今年<花より男子><アイリス>以後に大きく面白く見たドラマもない。
それに比べると<ナムジャイヤギ>は、その広く知れ渡った'女王'たちを相手に視聴率を10%まで引き上げたのだから、善戦したも同じで、それだけでもほろ苦い慰労だったと思おう。
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