それゆけ!派遣社員! ~研究所編~

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裏情報3-鹿島さなえ





ピンク色の蛍光ペンでマークがついているのは

「鹿島さなえ」「吉沢健人」という名前。


「まず鹿島さんの話をするわね…。」

憂鬱そうに、坂本さんが切り出した。


「彼女は、見た目は普通だし、どちらかというと

 おとなしくて目立たないタイプの女性…。

 だけど........。」


坂本さんは、何かを思い出しているようだった…。


そして、私の目を真っ直ぐ見てこう言った。


「もし彼女に嫌われるようなことをしたら

 ここでは働けないと思って。」


坂本さんの怖い顔と、キツイ口調に私はドキッとした。


私は恐る恐る聞いてみた。

「嫌われることって、例えばどういうことですか…?」


「それは…。」

と言った後、坂本さんは大きくためいきをついた。


「それは…『鹿島さんが嫌だと感じること』

 としか言い様がないんだけど…。

 たとえば、こっちが無意識にしたことや

 あたり前のことでも、鹿島さんが不快に思ったら

 大変なことになるの…。」

と、少し悲しそうに答えた。


「大変なことって…。 どういうことですか…?」

私は、だんだん不安になってきた。


「前任の原田さんは… ロッカーの中に

 コーヒーをまかれて、私服や靴を汚されたり

 お財布を盗んだって泥棒呼ばわりされたり

 不倫してるとか、身に覚えのないことを

 いいふらされたり…

 ホントにかわいそうだった…。」


坂本さんは、その時のことを思い出したのか

少し涙ぐんでいるようだった。


そして、私は何も言えずにいた。

あまりにも、想像を超えた嫌がらせだったからだ。


「彼女ね、最初の頃は普通だったらしいの。

 でもある日、彼女の書類に不備があって、

 それを指摘したら、それから豹変したんだって。

 嫌がらせもどんどんエスカレートして…

 彼女が使用していたカーディガンが

 トイレのごみ箱に捨ててあったり

 彼女の車に傷もつけられたの…。

 でも、車に関しては証拠はないけどね…。」


「そんなことまで........。」

私は、ただただ驚くしかなかった…。


そして坂本さんは、再び怖い顔で私に言った。


「だから、彼女には近づかない方がいい。

 とはいっても、きっと彼女から近づいてくると思うけど

 必ず、適度な距離を置くこと。

 飲み会やサークルの誘いには、やんわり断ること。

 書類の不備があったら、山中リーダーから話してもらうこと。」


話し終わると、坂本さんは悲しい顔をして

うつむいてしまった…。


私は、もしかして…と思い

「前任の原田さんは…

 その嫌がらせが原因で辞めたんですか…?」

と、聞いてみた。


坂本さんは、うつむいたまま

「正直…わからない…。 

 でもね…。 彼女は、うつ病で辞めちゃったの…。

 ホントにある日突然、ここに来られなくなっちゃったのよ…。

 もう限界だったのかもしれない…。」

と、涙声で答えた…。


私は、会ったこともない原田さんに、心から同情した。

書類の不備が発端で、嫌がらせをされて

うつ病にまでなってしまうなんて…。


「山中さんは、このことを知っているんですか…?」


「もちろん知ってる…。

 でも彼女のチームのリーダーが話しても、

 山中リーダーが話しても、ますます原田さんへの

 嫌がらせがエスカレートするだけで…

 何も解決しなかったの…。

 だから最後はみんな、腫れ物に触るように

 してただけ…。」


(上司が部下の行動をコントロールできないなんて…

 そんなことあるんだろうか…。)


私は信じられない思いだった。


そんな私の気持ちを見抜いたかのように、

坂本さんはこう続けた。


「総務部は、普通の会社と同じ縦社会だけれど

 研究チーム内はね…、縦社会じゃないの。

 部長が黒と言えば黒…。

 そういう世界じゃないのよ。

 上手く表現できないんだけど

 それぞれ独立しているというか…。

 だから、新入社員でもリーダーに

 意見をすることもあれば、たて突くこともある…。

 そういう世界なの…。」


私は、ものすごく驚いていた…。

縦社会じゃない…。という意味が、のみ込めずにいた。


「ちなみに…。」

私は気になったことを切り出した。

「ちなみに坂本さんは、彼女と付き合いがあるんですか?」


「そうね…。 廊下で会えば、当たり障りのない雑談はしてる…。

 でも、決して深入りはしないように気をつけてるの。

 飲み会に誘われても、やんわり断ってるし…。」


「そうなんですか…。」


「とにかく、彼女とは適度な距離を置いて

 決して深入りしちゃダメよ。」

坂本さんは、強く私に念を押した。


「はい…。」


そんな恐ろしい人、言われなくても

関わりたくはない…。


鹿島さなえ…。


そんな恐ろしい人と同じ職場で働くことが

私にできるのだろうか…。


私の心は不安でいっぱいだった…。





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