それゆけ!派遣社員! ~研究所編~

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裏情報3-吉沢健人





私と坂本さんの間には、重い空気が漂っていた。


そして、さらに空気を重くする話題へと移った。

もう一人の危険人物、吉沢健人だ。


「吉沢さんはね、鹿島さんとは違って人に危害は与えないの。

 今のところ…だけど。」

「今のところ…って…。」


私は、どんどん気分が悪くなっていくような感じだった。

「その可能性もある人…という意味ですか?」


「そう。」

坂本さんは、はっきりとそう言った。


「どうしてそう思うんですか?」

「彼はね、とにかく物に当たるのよ。」


ためいきまじりに、坂本さんが続ける。


「機嫌が悪いと、大声を上げながら自分の席の上に

 ある物を全て床に叩きつけたり、

 椅子を壁に向かって投げたりするの…。」


「えっ…。 そんな人…いるんですか?」

私は驚いて、思わず聞いてしまった。


「それだけじゃないわ。

 今までに私が知っているだけで、ノートパソコンを

 窓から投げちゃったことが4回あったんだから。」


「えええええええっっっっっ!!!!」

私は思わず、大きな声を出してしまった。


パソコンを、窓から投げるだなんて…。

あまりにも非常識すぎる。

…というか、どう考えてもおかしい。


「もしかして…、その人、精神的な病気ですか?」

と、聞いてみた。


「そう。」

坂本さんは、あっさり答えた。


「ここの研究所は、精神的な病気を持った人、

 その予備軍と思われる人が、たくさんいるの。

 どこの研究チームにも、最低でも1人はいるわ。

 もしかしたら、鹿島さんも、高沢さんも予備軍かも

 しれない…って私は思ってるんだけど。」


私は本当に驚いていた。

精神的な病気の人を差別する気持ちはない。

だが、こんなに多い割合でいる職場があるだろうか…。


「それから…。」

坂本さんは、少し声のトーンを落として言った。

「今はそうでもないけれど、以前はノイローゼで

 自殺する人も結構いたらしいわよ…。

 頭の使い過ぎってことなのかもね…。

 私もよくわからないけれど…。」


確かに研究者ともなれば、私達一般人より

何十倍も脳を使っているに違いない。

でも、ノイローゼになるまで仕事をしなければ

ならなかったのだろうか…。

それとも、気が付いたらノイローゼになって

しまっていたのだろうか…。


日本の最先端の技術を開発する研究者たちに

こんなリスクがあるとは…。

私には、とても衝撃的な話だった。


黙り込んでいる私を気遣ったのか、坂本さんは言った。


「でもね、山中リーダーにも頼んでおくし

 吉沢さんに絶対近づかなければ大丈夫だから…。」


「はい…。」


私は、正直、複雑な思いだった。

吉沢さんは、確かに怖い。

鹿島さんとは違う意味の危険人物…。


でも、それが病気の症状だと知ってしまった今

どうしても、同情の気持ちが沸いてくるのだった…。


だが、この私の同情の気持ちが

自分の首を締め付けることになるとは

その時の私には、想像もしていなかった…。





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