島流れ者 - 悪意なき本音

島流れ者 - 悪意なき本音

ハリウッドカルチャー



まずは白く整った歯。歯並びをここまで気にするのはアメリカ人の他にいるだろうか?よくテレビのジョークにイギリス人の歯並びが悪くて、コメディー番組に出てくるイギリス人を真似した役者はイングリッシュアクセントだけでなく、作り物の歯並びの悪い入れ歯をして出てくる。始め、本当にイギリス人はそうなのかと疑っていたが、やっぱり、本当だった。イギリスから送られてくる番組に出てくる地元の人たちを注意してみると実際に歯並びが悪い人が多い。

歯の矯正はここアメリカでは当たり前で、12~13歳になると歯並びの悪い子供は十中八九前歯にブリッジを掛けて2~3年過ごすことになる。大人になっても歯並びの悪い人は、貧しい家庭に育ったと思われる。(昔はこういった傾向になかったそうなので、年配の人は該当しないが。)だから、こうした環境に影響されて外国から来た人が30歳近くなって歯の矯正をすることもある。

そして豊胸手術も大変人気がある。実は以前に住んでいたアパートの隣の住人がこの手術に使うシリコンを製造販売する会社に勤めていた。彼女自身はその必要も無いほどいい形の背の割りに大きめな胸だったが、友達のオランダ人が去年豊胸手術をした。彼女の背は170センチほどあり、スポーツ万能なので、程よく付いた筋肉とすらりとしてモデルのように美しい体を持っている。

偶然に(今考えると必然だったのかも)彼女はその会社に勤めることになった。入社間もなく彼女が私に打ち明けた。“実は豊胸手術をしようと思ってるんだけどね、社員価格でシリコンが安くなるし、私の義理の父が美容整形外科だから、手術はタダになるのよ。”それを聞いて私は以前にプールのロッカールームで見た彼女の大きくはないけどちょうどいい形のいい胸を思い出した。“え?何で?XX,そんな必要は無いと思うけど。今でも十分魅力的なのに、何で健康を害する危険を冒してまで豊胸する必要があるの?”しかしその時点では彼女はすでに固く決意していたらしく、三ヶ月ほど経った後にあったら彼女の胸は二倍に膨らんでいた。

その彼女だけでなく、私の義理の妹もそれをつい最近したのであった。彼女は本来異常に大きな胸だったので、20代前半に小さくする手術をした。十年ほどたった今、その手術が失敗であったのに気がついた。本人曰く、肉のない萎んだ胸が垂れ下がってきて、それはそれは見れた物ではなかったそうだ。スポーツジムのインストラクターとしてヨガ、エアロビクスなどを教える彼女としては、美しく誰にも羨まれる身体を持つことは必須条件であるとして、いったん小さくした胸を元に戻すことにした。当然、人工的な素材を身体に入れて...

そして誰でも年取ったら必ず経験する皺や染み。昔からこういった手術はあったけれど、それはごく一部の人たちの間で行われていたのが、ここに来て、本当に誰でもと言うほどやっている。新聞、雑誌を見てもケミカルピーリングなどの広告が山ほど載っている。知人でそれをした人を幾人か知っているが、みんな40代から50代の普通のおばさんである。別にテレビに出ているんじゃないんだから、そこまでしなくたっていいのにと思うが、それらのごく普通の一般人を駆り立てた最大の要因はやはり、同世代で活躍しているハリウッドのベービーブーマー達ではなかろうか?分りやすい例を挙げるなら、ゴールディーン・ホーン、バーバラ・サランドン、シェリーなどなど。今でも30代にしか見えない美しい彼女達はみな孫がいるほどのおばあちゃん世代なのである。アップでテレビに映る顔には皺や染みの一つすらない。確か、10年ほど前に上映された、“永遠に美しく”と言う、ゴールディ・ホーンとメリル・ストリープが共演した映画があったが、これのテーマとなるいつまでも若くいたいという女性の願望が、もはや夢ではなく、比較的お値打ちに実現可能となったのである。ちなみに普通に年を取って皺も目立ってきたメリル・ストリープに対し、つるんとした肌を今でも保っているゴールディ・ホーンは対照的である。

ハリウッドカルチャーはもはや娯楽だけはなく、私達のライフスタイル、思想にまで影響を及ぼしているのはこれを見ても明らかだ。だから、テレビや映画を見るときはそのことを頭に入れて、のめり込み過ぎないようにほどほどにしたほうがいいかもしれない。しかし、今から100年後には、こういった整形手術がもっと身近になって、ごく普通の人が人生の中で三回ほど全く別人になって、そのつど新しいライフスタイルを持つのが当たり前になるんじゃないかと思ったりする。


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