暖冬傾向で、ゴルフ場の予約が多い!
100万ポイント山分け!1日5回検索で1ポイントもらえる
>>
人気記事ランキング
ブログを作成
楽天市場
000000
ホーム
|
日記
|
プロフィール
【フォローする】
【ログイン】
JEDIMANの瞑想室
第2章 死の行軍<1>
クロウはバシャバシャという音で目を覚ました。
まず最初に目に入ったのは、隣で寝ているジェイクの顔だった。
爽やかな目覚めとは言いがたいな。
クロウはそうつぶやくと、ものすごく狭い状態の〈ドラグーン〉の中で、首を回して状況を確認した。
皆、泥のように眠り込んでいる。
昨夜、命懸けの脱出劇を繰り広げ、疲れきっていたのだ。
「う………」
クロウは凝り固まった体を、狭いスペースで蠢かした。
小さな窓の外には、海原が広がっている。
遠くに島影が見えた。
ちょうど、日が落ちる時間だった。
昼間は寝通してしまったらしい。
機体は水に浮かべられた笹舟のように不安定に揺れている。
バシャバシャという音は、波が機体を打つ音だった。
クロウは〈ドラグーン〉の天井を見上げ、昨日の事を思い返した。
重傷のナッド、ゾンビ、そして怪物ヘビ。
訳がわからない。
クロウはかゆい背中をかこうとあがいていたが、しばらくして起きているのが自分だけではないという事に気がついた。
レイナとザーンが話していた。
「…………燃料は?」
「島に戻るのがやっとってところです。通信機はどうなんです?」
「長距離用は………島に置いてきた。………おい、そんな目で見るな。仕方ないだろう。あんな状況で長距離通信機の重い機材を持ち出せるか?」
「………じゃあ、どうするんです?」
ザーンのため息が聞こえた。
「…………島に戻ろう。どちらにしろ、通信ができないんじゃ意味が無い。奴らが通信機を破壊してない事を祈るのみだ」
クロウはその言葉を聞いて凍りついた。
またあの島に戻るのか。
たくさんのアンデッドが脳裏に浮かんだ。
昨夜は奇跡的に犠牲者が出なかったが、今日こそはでるかもしれない。
クロウは不安に押し潰され、惨めに小さなスペースで丸くなった。
夜、海岸に上陸した隊員達は、ベースの状況を見て絶句した。
「ひでえな、こりゃ……」
ジョージがつぶやいた。
テントというテントは荒らされ、食糧は食い散らかされていた。
辺り一面に食べかすが落ちている。
だが、武器はどうやら無事のようだ。
アンデッドどもに銃を使えるとは思えない。
「長距離通信機はあったのか?」
ドクがザーンに訊いた。
ザーンが汗を拭きながら頷く。
「ああ。だが、アメリカ本土と直接通信ができるアンテナが折れている」
「ど、どうするんだ!?」
ジェイクが砂浜に座って、ティアに折れた肋骨を看てもらいながら叫んだ。
クロウも同感だった。
こんな島からは、一刻も早くおさらばしたい。
「安心しろ。衛星アンテナは生きている」
ザーンは白い歯を見せながら言った。
「あの山の頂上にこのアンテナを設置し、衛星を経由すれば、すぐにでも通信をアメリカに送れる」
ザーンの言葉に、ジェイクがガッツポーズをとる。
「だが、その前に訊いておかなければならん事がある」
ザーンはそう言うと、おもむろにハンドガンを抜き、アーサーに突きつけた。
アーサーが顔色一つ変えず、ザーンを見返す。
「あなたの知っている事を全て話してもらおう、教授殿」
静かだが、凄まじい威圧がその言葉には込められていた。
アーサーは静かにため息をついた。
「わかった、話そう。既に犠牲者まで出てしまったしな」
「まだ誰も死んでないぞ?」
ジョージが怪訝そうな顔をする。
アーサーは再びため息をついた。
「出たも同然だ。だが、まずは宿営をつくり、トーチカを築こう。また奴らが来るかもしれない」
ザーンはゆっくりと銃を下ろした。
「…………そうだな。よし、ジョージとクロウはナッドを入れるテントを見つけてこい。なるべく状態がいい奴だ。ドクとマイク、それにクレイジーはトーチカを作れ。ジェイク、レイナ、ティア、お前達はベースから出来る限りの物資を回収しろ」
数分後
破壊されていなかったテントを見つけだしたジョージとクロウは、ナッドをそのテントに入れていた。
ナッドの顔は真っ青で、眼は落ち窪み、荒い息をつき、ひっきりなしにうわごとを言っている。
首筋の傷口に巻いた包帯は、新たに湧き出てきた血で赤く染まっていた。
「ナッドの奴、大丈夫かな……」
クロウはテントから出ると、頭をガリガリかきながら言った。
見る限り、ナッドの容態は芳しくない。
「………ティアに任せるしかないさ」
ジョージがうつむきながら言う。
2人は黙りこくり、仲間の元へ歩いて行った。
海岸には焚き火が焚かれ、皆そこに集まっている。
アーサーが、デイビットから手渡された厚い封筒から、何枚かの紙と写真を取り出した。
「私は4年前、この島に孤島状態による固有種がいないか調査に来た。その時に奴ら、あのゾンビと遭遇した。私は一体を殺し、遺体を標本としてベースに持ち帰った。この写真と資料は、その時の物だ」
アーサーは焚き火の近くに写真と資料を置いた。
写真には、何かの手術台のような物に乗せられたアンデッドが写っている。
「私は奴らを〈グール〉と名づけた。まさに食人鬼(グール)という名がふさわしいからな」
資料の方には、一番上に〈グール〉と書かれ、体重や背丈から始まり、精神伝達速度など事細かなデータが記されている。
「奴らは知識のかけらも無い。筋肉は縮小し、正常な精神及び肉体活動―――つまり、生きる事もしていない。奴らは戦闘本能、及び食欲に忠実に動いている。筋肉への指令は小さくなった脳が微弱な精神信号で行っているんだ。つまり神経回路の集中している背骨を撃ち抜けば、奴らはあっという間に死ぬ。だが、私はもっと興味深い奴と遭遇した」
アーサーはそう言うと、封筒から別の写真と資料を出した。
「〈グール〉を捕らえた2日後に捕獲した奴だ」
写真に写っていたのは、恐竜のような顔だちをしたトカゲ人間だった。
瞳の無い大きな白い眼、ずらりと並んだ恐ろしい牙、灰色のゴムのような弾力ある皮膚、そして人型の体。
その怪物は既に息絶えているはずだったが、それでもなお眼を見開き、恐怖を相手に与えている。
「God!」
ドクが恐怖にかられて叫んだ。
アーサーが重々しく頷いた。
「私はこいつらを〈フィア〉(恐怖)と名づけた。まさに名の通りの外観だろう?」
その時、クロウは見た。
焚き火の灯りに照らされたアーサーの顔が、歪んだ喜びに満ちているのを。
それは、最強の兵器を開発した者が、それが大量の命を奪う物と知っていながら開発の成功を喜ぶのに似ていた。
「この〈フィア〉は実に興味深い」
アーサーは憑かれたかのように言った。
「こいつらは〈グール〉から進化した者らしい。全く新しい生物だ!彼らの脳に当たる部分を分析すると、記憶力、理解力、応用力、全て申し分ない事がわかった。いや、それらは既に人間以上の域に発達している。彼らが我らの世界に進出できなかったのは、この島には木以外の資源が無いからだろう」
アーサーはゆっくりと言い切った。
「私がこの島を再び訪れた理由がわかるかい?〈フィア〉がどれだけの進化を遂げているかという事を調査しに来たんだ………」
アーサーは目を閉じた。
まぶたの裏に、一週間前の出来事が浮かんできた。
一週間前、アメリカ、ニューヨーク、国立生物学総合研究所
「―――であるからして、私は〈フィア〉は生物分類上、人類並みの、いや、以上の知力を持つ、孤島で独自に進化した種であると考えます」
アーサー・ホークは、いならぶ生物学界の権威に対して、しっかりと言い切った。
控えめな拍手が起こる。
皆、この説を信じていないのは明らかだった。
まず、〈グール〉の正体すらわかっていないのだ。
その問題を省き、いきなり〈フィア〉がどうこうと言っても、なかなか同意を得られないのは明らかだった。
だが、孤島にいる全く未知の生物は、生物学者達の注目を集めただろう。
そう思いながら、アーサーは演壇を降りた。
廊下を突っ切り、受付嬢の挨拶を軽く受け流し、研究所の外に飛び出す。
アーサーは一刻も早く、この場から逃れたかった。
国が彼の存在に気づいたかどうかはわからない。
だが―――
ガシッ!
突然、肩を掴まれた。
アーサーはピタリと動きを止めた。
嫌な汗がこめかみを伝う。
アーサーはごくりと唾を飲み込むと、ゆっくりと振り返った。
彼の肩を掴んだのは、大柄な兵士だった。
兵士の後ろにスーツを着た小太りの眼鏡の男が立っている。
男は、ずるそうな目でアーサーをじっくりと観察すると、口を開いた。
「アーサー・ホーク博士ですな?」
アーサーは額から汗を噴き出しながら頷いた。
「私はネザル。先ほど、教授の発表した論文に多大な興味を持ちましてな」
ネザルはそう言うと、満面の、しかし冷酷な笑みを浮かべた。
「ぜひともお話をお聞かせ願いたい」
アーサーは目隠しと猿ぐつわを取られた。
突然の事に、思わず目をまたたかせる。
そこは、小ぢんまりとした薄暗い部屋だった。
部屋の真ん中には机が置いてあり、高級なワインが乗っている。
「さて、博士」
ネザルはワイングラスにワインを注ぎながら言った。
「手短に言おう。君の発見した新種の生物は、我々の開発した新兵器だ」
ネザルは言い終えると、アーサーの顔をちらりと見た。
眉一つ動かしていない。
ネザルはにやりと笑った。
「どうやら気づいていたようだな」
アーサーは頷いた。
「島の北端にあるあの施設。あれはあなた方の物だろう?」
ネザルは頷き、ワインを回しながら、うっとりとその深紅の液体に見とれた。
「8年前、生物兵器開発局が、人間の戦闘意欲を飛躍的に高めるウイルスを完成させた。それを投与されると人間は一種の興奮状態に陥り、喜んで戦場に飛び込んでいくんだ。しかも、陶酔状態ゆえに神経が麻痺し、撃たれまくられなければ倒れないというオマケ付だ。もちろん、傷による失血死等はあり得るがね。これを死刑囚などに投与し、最前線へ投入すれば、非常に我が軍に有利な展開を導き出せる。開発局はその素晴らしい効能に狂喜した。だが、思わぬ弊害が明らかになった」
ネザルはそう言うとため息をつき、アーサーを見た。
「なんだと思う?」
「ウイルスによる筋肉と脳の異常的縮小。及び、皮膚や体内組織の腐化」
「その通りだ」
ネザルはアーサーの答えに満足げに頷いた。
「君の言う通り、ウイルス・No.Undead、通称Uウイルスは、筋肉と脳の大幅な縮小、そして皮膚の腐化をもたらした。実験台としてウイルスを投与された犯罪者達は、感染2日後には待ち伏せや挟み撃ち程度の作戦もできなくなった。筋肉は痩せ細り、歩いてもヨロヨロとしか進めない。皮膚は腐り落ち、ぐちゃぐちゃになる。頭の中にはウイルスによる戦闘本能しかない。奴らは血への欲求を満たすため、さ迷い歩く。そう、まさにゾンビのように………」
ネザルはそう言うと、冷酷な目でアーサーを見つめた。
「それが君の発見した〈グール〉だ」
「しかし、なぜあの島に?」
「おお、そうとも。大事なのはそこだ」
ネザルはそう言うとにやりと笑った。
「生物兵器開発局は思わぬ弊害に困惑しながらも、兵器のデータを取るため、アメリカ政府の所有するブラジル沖のある島を選んだ。君が4年前に訪れた島だ、教授。生物兵器開発局はその島の北端に観察施設をつくると、10人のウイルス感染者、つまりグールを島に解き放った。その後、開発局は定期的に犯罪者を放ち、犯罪者につけた体温センサーが何も感知しなくなるまで、つまり犯罪者が死ぬ時間までを計測したりして、次々にデータを取っていた。だが、彼らも予想していなかった事が起きた」
ネザルはため息をついた。
「グールに食いつかれた人間はウイルスに感染し、死後もウイルスによって体を動かされるんだ」
アーサーは絶句した。
ネザルが続ける。
「グールによって死んだ人間はグールになり、すっかり小さくなった脳に強く残るイメージ、つまり戦闘意欲や食欲にひたすら忠実に行動する。また、筋肉の痩化、脳の縮小、さらには『死亡』により、驚異的な低エネルギーでの活動を実現させた。彼らは何も食わなくても30年は『生きる』だろうな。そして、島に犯罪者は放たれ続けた。2年後、つまり今から6年前、島の施設からの通信が途絶えた。おそらく、数の膨れ上がったグールどもに殺られたのだろう」
アーサーは目眩がした。
「ちょっと待って下さい。話をまとめます。軍はウイルス兵器を開発した。しかしそれは失敗だった。ウイルス感染者、つまりグールは知能のかけらも無く、運動能力も極めて低い。だが、感染しても、あるいは感染した状態で死亡しても、体の構成物質が崩壊するまでウイルスによって脳に残った強いイメージ、つまり戦闘意欲に動かされる。そして、グールに噛みつかれた者は感染する、という事ですか?」
ネザルは頷いた。
「そうなるな」
「では、〈フィア〉は?あの驚く程に知能の高い新生物は?」
ネザルはアーサーに冷たい笑みを見せた。
「それがまさに君をよんだ理由だよ、教授。奴らに関しては、我々も一切のデータを持っていない。つまり、見るのも聞くのも全く初めての生物だ」
次にネザルの言った言葉に、アーサーは息を飲んだ。
「アーサー・ホーク博士、あなたにあの島へ赴き、〈フィア〉の精密な調査をしていただきたい」
「そして、私は承知した。グール、つまりウイルスによって変質した人類から新たに進化した種族、〈フィア〉。彼らを政府の完全なバックアップのもと調査してほしいという要求は、私にとって極上の蜜だったんだ」
パチン
火にくべた薪が折れ、火花を散らした。
皆、一様に黙りこくっている。
聞いた話にショックを受けているのだ。
今まで信じてきた政府が、陰でこのような恐ろしい生物兵器を開発してきたという事実。
あのゾンビ達が、実は人間だったという事実。
この島にはいまだに何者かも分からない〈フィア〉という生物がいるという事実。
そして、ナッドが感染しているという事実。
しばらく、沈黙が続いた。
焚き火が再びはぜた。
おもむろに、クレイジーが立ち上がった。
「どうし―――」
クロウが口を開いた瞬間、クレイジーが腰からハンドガンを抜き、ナッドのいるテントに向けて2連射した。
ビチッという音とうめき声が聞こえ、テント幕の内側に血が大量に飛んだ。
テントの中のランタンの光で、血がより鮮やかに映える。
ティアが悲鳴をあげた。
銃声が闇夜に虚ろに響く。
あまりの事に、誰も動けなかった。
クレイジーは肩をすくめた。
「感染者だ」
次の瞬間、ドクの拳がクレイジーの頬にめり込んだ。
クレイジーが火にくべられた薪を吹っ飛ばして尻餅をつく。
「ドク!落ち着け!やめろ!」
クロウは再び拳をあげたドクを背中から抱きしめ、必死に押さえた。
「放せ!」
目を血走らせたドクがわめく。
「こいつは!ナッドを!」
クレイジーは口から血を吐き飛ばしながら立ち上がった。
その彼の頭に、ザーンがハンドガンを突きつけた。
「共に戦ったよしみだ。今ここで貴様の頭蓋をぶち抜く事だけはやめておく。さっさとこの場を去れ!」
クレイジーは理解しがたいと言いたげな表情でザーンを見た。
「あんたらはあのままナッドを殺さずにおけるとでも思ったのか?」
「黙れ!」
ザーンはわめいた。
「さっさと失せろ!イカれたクズ野郎!」
クレイジーは肩をすくめると足元の軽マシンガンを拾い上げ、弾薬ベルトを肩からかけると、悠々と口笛を吹きながらジャングルへと入って行った。
彼の姿が見えなくなると、ベースは再び静寂に包まれた。
波が陸を打つ音だけが、夜空に響く。
「……………明日、あの山の頂上に衛星中継アンテナを設置しに行く。ドク、ジョージ、クロウはついてこい」
「私も行こう」
アーサーが言った。
「この島を調査したい」
「勝手にしろ」
ザーンは吐き捨てるかのように言うと、海辺にどっかりと座った。
「寝ろ。オレが最初の見張りにつく」
クロウはノロノロと頷くと、自らの寝袋を引っ張り出し、中に収まった。
ティアがすすり泣き、ジェイクが必死になぐさめている。
「………最悪だ」
クロウはつぶやき、少しでも体を休めようと目を閉じた。
ヒタ………ヒタ……
クロウは奇妙な音に目を覚ました。
「う…ん………」
彼は渋々と目を開けた。
誰だ、こんな夜中に歩くのは―――
次の瞬間、クロウの心臓は止まりかけた。
彼のすぐ目の前には、ナッドがいた。
『ウイルスは死体を常に活動状態にするため、グールは体を完全に破壊しない限り死なない』
アーサーの言葉が鮮やかに脳裏に浮かぶ。
ナッドが口を開けた。
喉が血を求めるかのように蠢いている。
クロウは悲鳴をあげ―――
飛び起きた。
夜明けだった。
マイクが心配そうにこちらを見ている。
「大丈夫か?」
クロウはぼんやりとマイクを見て、頷いた。
彼の服は汗でびっしょりだった。
「ナッドは?」
「ザーンとアーサー、それにデイビットが埋葬した」
マイクは砂浜にできた盛り土を指さした。
盛り土にはナッドの愛用した銃が刺さっている。
「クロウ、起きたか?」
ドクが近づいてきた。
彼はサバイバル戦闘服を着て、腰には拳銃にナイフ、背中にはアサルト・ライフルを背負い、完全戦闘体勢だ。
「早く準備しろ。行くぞ」
「了解」
クロウはいそいそと寝袋から出た。
二度寝など、したくもなかった。
午前9時、クロウ達はマイクやティア達が見守る中、ジャングルに入った。
先頭を進むザーンは、落ち着き無くカービン銃をあちこちに向けた。
ジョージが衛星通信アンテナパッドを背負い、ザーンに続く。
ジョージの後ろを歩くアーサーは、アサルト・ライフルを背中に回し、周りの様子を一心にメモしていた。
ドクがアサルト・ライフルを油断無く構え、アーサーの後ろを歩く。
クロウは一番後ろでしんがりを務めていた。
「それにしても凄まじく暑いな………」
重い通信パッドを背負うジョージが、しんどそうに言った。
汗が彼のこめかみを伝っている。
「植物の天蓋が湿気を逃がさないからな」
アーサーがメモに物凄い勢いで何かを書きながら言った。
「もっと暑くなるのを覚悟した方がいいぞ」
11時頃、一行は疲れきっていた。
高温のサウナを延々と歩き続けている感じだ。
「隊長、休みませんか?」
クロウが言うが、ザーンは首を横に振った。
「日が暮れるぞ!」
しばらく歩くと、彼らは岩場に出た。
川があるらしい。
滝の轟も聞こえた。
「ジョージ、大丈夫か」
ドクの問いに、ジョージは荒い息で返した。
汗が尋常ではない。
「ザーン、やはり休もう。ジョージが死んじまう」
ドクがザーンに言ったが、ザーンはやはり首を横に振った。
「今日中に頂上にたどり着きたいんだ」
ザーンはそう言うと、大きな岩をよじ登った。
「早くこんな島から逃げ―――」
殺気。
クロウ達はさっと身構えた。
アーサーが唇に人差し指を当てる。
静かに、という事だろう。
ザーンもすぐに岩から降り、カービン銃を構えた。
滝の轟きが遠くから聞こえてくる。
ガサッ!
突然、葉擦れの音がしたかと思うと、奇妙な生物が現れた。
体格は狼にそっくりだ。
奇妙な生物はウイルスによる皮膚の退化によって赤い筋肉をさらけ出し、狼のように筋肉質でスマートな足で岩場を優雅に歩いている。
だが、体つきは異常にがっしりとしていた。
並の狼の1回り以上の大きさはあるだろう。
10センチはあろうかという牙が、日を浴びてギラリと光った。
「あー、博士、あれは?」
クロウの問いに、アーサーは首をかしげた。
「見たことも無いな。恐らく、グールに感染した犬から進化したんじゃないか?フィアとは別の種のようだ」
「どっちにしろ」
ドクが続々とジャングルから現れてくる狼もどきを見て、不安げに言った。
狼は既に10匹に達している。
子供の狼もどきもいた。
「危険じゃないか?」
だが、アーサーは既に聞いていなかった。
「見ろ!子供がいる!奴らは繁殖しているんだ!それに、あのスマートかつ筋肉質な足に、立派な牙!恐らく、狩りに特化した肉食種に違いない!名前は………そうだな……」
「簡単ですよ」
クロウは狼に怯えながら言った。
「単純にグール・ウルフだ」
次の瞬間、狼達がその赤く血走った目を一斉にクロウ達に向けた。
「おいおい、クロウ、お前のネーミングセンスにご立腹のようだぞ」
ジョージが冗談とは裏腹に、冷や汗を滝のように流しながら言う。
「いや、どちらかと言うと……」
ザーンが後退りしながら言った。
「獲物を見つけた肉食獣の目だ」
グール・ウルフ達が明らかに殺気を放ち始めた。
ご丁寧に舌なめずりしている者までいる。
「あの、隊長」
ジョージが言った。
「なんだ」
「1つ、意見を言わせてもらっていいですか?」
「ああ」
「尻尾巻いて逃げましょう」
「いい考えだ」
次の瞬間、5人は脱兎のごとく逃げ出した。
ウルフ達が吼え、一斉に走り出す。
「ったく、何なんだよこの島は!」
「黙って走れ!」
ザーンは文句を言ったクロウに怒鳴りながら、必死に岩場を走った。
グール・ウルフの唸り声がどんどん近づいてくる。
銃声が聞こえた。
ウルフの吼え声が激しくなる。
ザーンは足をくじきそうになりながらも必死に走った。
前方に川が見えた。
青く清浄な流れが渦を巻いている。
2メートルの深さはあるだろう。
川の速さは、とてもではないが人間が泳げるような速さではない。
「くそっ!」
ザーンは思わず舌打ちした。
このままでは、みんなお陀仏だ。
その時、ザーンは川を横切る様に丸木が倒れているのを見つけた。
朽ちかけてはいるものの、橋としては十分だ。
アーサーが彼の近くでアサルト・ライフルをぶっ放した。
グール・ウルフが1匹吹っ飛ぶ。
しかし、すぐに立ち上がり、再び迫ってきた。
どうやら、グールの耐久力も持ち合わせているらしい。
「オマケにあの足の速さ……」
アーサーはつぶやいた。
「実に危険だ」
「早く渡れ!」
ザーンはアーサーに怒鳴ると、丸木に足をかけた。
丸木がギシリと揺れ、一瞬ヒヤリとしたものの、彼は一気に渡った。
アーサーが続く。
ザーンはカービン銃をウルフに向けて連射した。
銃声が轟く。
グール・ウルフ達の筋肉に次々に銃弾が命中し、穴を空けた。
しかし、ウルフは一瞬怯むものの、すぐに追ってくる。
「だめだ!効果が無い!」
アーサーが叫んだ。
「泣きごと言ってる暇があったら援護してくれ!」
ドクがそう叫びながら拳銃を撃ちまくり、丸木を渡っている。
クロウは軽マシンガンを撃ってグール・ウルフを牽制しながら、丸木へと向かっていた。
彼の先をジョージが荒い息を吐きながら走っている。
重い通信パッドが彼の動きを制限しているのだ。
向こう岸から銃声が聞こえ、次々にグール・ウルフ達に炸裂した。
2匹程が倒れ、ようやく動きを止める。
死んだのだ。
ザーンが歓声をあげるのが聞こえた。
「急げ!」
アーサーの声が聞こえる。
振り返ると、ジョージが丸木に足をかけたところだった。
下の濁流を見てか、足が震えている。
高さはそれほど高く無いが、落ちた瞬間溺れ死ぬのは目に見えていた。
と、その時、ザーンがクロウの名を叫んだ。
クロウはハッと前を見て、銃を構えたが遅かった。
グール・ウルフが口からよだれを足らしながらクロウに飛びかかった。
狼の巨体がクロウを押し倒す。
次の瞬間、クロウは凄まじい痛みを感じた。
岩に頭をしたたかに打ったのだ。
ドクの声と銃声が遠くから聞こえる。
クロウは朦朧とした意識の中で、自らを押し倒したウルフが大きく口を開くのが見えた。
牙がギラリと光る。
クロウは必死に腕を突きだし、敵の頭を両横から掴むと、一気に右に回した。
ゴキッ!という音と共に、ウルフがばたりと倒れる。
だが、すぐに次のグール・ウルフがクロウに飛びかかってきた。
目を血走らせ、血に飢えた口を開く。
クロウは手頃な石を掴むと、無我夢中でグール・ウルフの喉に突っ込んだ。
ウルフが突然口内に侵入した異物に目を見開き、よろよろと後ずさる。
クロウは自らにかぶさった狼の死体を蹴飛ばすと、グルカナイフを抜き、口に入った石に辟易しているウルフの喉を斬り裂いた。
グール・ウルフが悲鳴らしき唸り声をあげる。
しかし、別のグール・ウルフがクロウに飛びかかった。
だが、クロウは今度は冷静に対象した。
飛びかかったウルフの体をヒラリとかわしたのだ。
ウルフはそのままクロウの側を飛び過ぎ、凄まじい流れの川に飛び込んだ。
流されていく狼が見える。
だが、息をついている暇は無かった。
グール・ウルフの群れはまだたくさんいる。
クロウは丸木に足をかけ、走り出した。
すぐ下で濁流が口を開ける。
だが、クロウはわき目もふらずに走り切り、何とか対岸へ渡った。
ザーンが筋肉を盛り上げながら丸木を動かし始めた。
グール・ウルフ達が丸木に飛び乗り、器用に走ってくる。
アーサーがアサルト・ライフルを撃った。
先頭を走っていたグール・ウルフが撃たれた衝撃で川に落ちた。
後ろのウルフが一瞬怯む。
その一瞬で十分だった。
ザーンは唸り声をあげながら丸木を動かし、渦巻く濁流に落とした。
ウルフ達が川に落ち、流されていく。
「ふぅ………」
ジョージが額の汗を拭いた。
皆、額から汗を滝のごとく流している。
「危なかっ―――」
「しっ!」
突然、ドクがジョージの言葉を遮った。
「なんだよ」
不満げな顔をしたジョージに、ドクはすぐ近くの平たい岩の上を指さした。
クロウは心臓が止まりかけた。
平たい岩の上には、海岸で遭遇したのと同じ怪物ヘビがとぐろを巻いていた。
巨大な胴。
灰色のゴムのような皮膚。
瞳の無い、白く濁った目は、今は閉じられている。
どこと無く、アーサーの発見した〈フィア〉に顔つきが似ていた。
ただ、〈フィア〉の体は人型だったが、こちらは完全にヘビである。
大蛇はゆっくりと規則的な呼吸を繰り返していた。
恐らく、温まった岩の上で日光浴を楽しんでいるのだろう。
ザーンが緊張で凝り固まった表情をしたまま、大蛇の先にあるジャングルを目で示した。
あそこまで行くぞ、という事なのだろう。
他の4人は頷き、抜き足さし足でゆっくりとヘビの側を通り抜け始めた。
ヘビの呼吸を感じる程だ。
クロウは、ゴクリ、と息を飲んだ。
ドクの顔も緊張に満ちている。
その時、誰かがありきたりかつ致命的なミスをした。
岩場に引っ掛かっていた小枝を踏み砕いたのだ。
パキッ…………
小さいが凄まじい騒音が、静寂の空間に響く。
その瞬間、ヘビがカッと目を開き、鎌首をもたげ、太陽を背に、5人を見下ろした。
白い濁眼が、凶暴な炎を燃やす。
大蛇はグール・ウイルスに感染したヘビが進化したもののようたが、大蛇がグール特有の果てしなき空腹と戦闘本能に突き動かされているのは明らかだった。
しばらくの間、5人と大蛇は見つめあった。
「……グッモーニン」
ジョージがつぶやいた。
ジェイクは暇だった。
正直、彼はクロウ達と共に山頂へ行きたかった。(ティアと一緒にいられるのは嬉しかったが)
ジェイクは皿の上の鶏の唐揚げをがっつくと、海を見つめた。
唐揚げはティアが作ってくれたものだ。
マイクは生真面目に即席のトーチカからジャングルをジッと睨んでおり、デイビットは難しそうな図鑑をじっと眺めている。
レイナとティアは不安を吹っ飛ばそうと、アーティストや美容の話に花を咲かせている。
だが、両者の顔からも一抹の不安が見てとれた。
ま、ナッドがあんな事になっちまった後だもんな。
ジェイクはそうつぶやくと、手頃な石を手にとり、海に向かって投げた。
石が水面を跳ね、遠くに落ちる。
ジェイクはため息をついた。
その時、彼は気づいた。
ジャングルから、不気味な音が聞こえてくる。
レイナとティアも不安げにジャングルを見やり、マイクはトーチカに設置した重マシンガンを固く握っている。
「なんだ?」
ジェイクは立ち上がると、近くにあったスナイプ・ライフルを手に取った。
ジャングルから聞こえるざわめきは、ますます大きくなった。
囁くような優しい声にも、気分を害するような気持ち悪い唸り声にも聞こえる。
レイナがティアを後ろに庇い、軽マシンガンを構えた。
ざわめきがどんどん迫ってくる。
そして―――
バヒュウッ!
何かが空を切る音がしたかと思うと、ジャングルの木々の向こうから、何かが空に飛び出した。
それはこちらに向かって飛んできた。
「い、岩ぁ!?」
ジェイクが思わずすっとんきょうな声をあげた瞬間、直径1メートル程の丸い岩がテントの1つを押し潰した。
歓声のような唸り声が地を震わす。
途端に、ジャングルの闇からたくさんの生物が現れた。
〈フィア〉だ。
フィア達は手に構えた木のボウガンを次々に放った。
石の矢じりを持つ矢が、砂浜に雨あられと降り注ぐ。
「に、逃げろ!〈ドラグーン〉に!」
ジェイクは叫ぶと、浅瀬に着水している〈ドラグーン〉へ向けて走り出した。
背後で矢が砂に突き立つ音がする。
ジェイクは〈ドラグーン〉の右側のドアを開けて中に入ると小窓を叩き割り、銃眼を作ると、そこからスナイプ・ライフルで正確に相手の脊髄を狙い、射撃した。
バタリとフィアが倒れる。
ティアが〈ドラグーン〉に飛び込み、扉の陰からハンドガンで敵に応戦する。
コクピットに乗り込んだレイナが、弾を充填したガトリングを敵に向け、放った。
振動が〈ドラグーン〉を震わせる。
マイクは近くの浅瀬でフィアと取っ組み合いをしていた。
彼の振り回した銃の柄尻がフィアの顔を叩き飛ばす。
フィアはばったりと浅瀬に倒れた。
顎が砕けただろう。
その時、ジャングルから車輪を転がしながら、カタパルトが出てきた。
スプーン状の部分に岩がすっぽり収まっている。
「たった6年でこんな技術を!?」
ティアが驚きに満ちた声で叫ぶ。
カタパルトから勢いよく岩が放たれた。
岩は弧を描き、見事にヘリの後部に突っ込んだ。
バキバキという音と共に、金属が押し潰される。
ティアとデイビットが仲良く悲鳴をあげた。
ヘリの中に置いてあった荷物がギシギシ揺れる。
フィア達の放った矢が機体に当たり、バラバラと音を立てた。
「逃げるべきよ!」
レイナがコクピットで怒鳴った。
「じゃないと、みんなお陀仏だわ!」
ジェイクは頷くと、潰れた機体後部をちらりと見た。
これでは飛べないだろう。
ならば、どこへ逃げるというのか。
「北の施設!あそこへ逃げましょう!」
デイビットが震えながら言った。
「ここよりは安全なはずです!」
ジェイクは頷いた。
「よし。ティア、デイビット、レイナ、荷物をまとめろ。俺とマイクで奴らを足止めする」
ジェイクはそう言うと、外へ飛び出した。
フィアは〈ドラグーン〉のガトリングによってだいぶ掃討されているが、矢の数は減ったように見えなかった。
マイクがカービン銃を撃ちまくり、敵の進撃を阻んでいる。
ジェイクは〈ドラグーン〉から持ち出した軽マシンガンでマイクを援護した。
「マイク、北の施設へ逃れるぞ!」
銃声で聞こえないかと思ったが、マイクはすぐに頷いた。
フィアどもがボウガンを手に、砂浜をじりじりと攻め寄せてくる。
突然、〈ドラグーン〉から凄まじい音が響いた。
ミサイルだ。
ミサイルは低空を飛行し、マイクとジェイクに衝撃波をぶつけると、砂浜にうようよいるフィアに突っ込んだ。
大爆発が起き、大量のフィアが薙ぎ倒された。
敵は皆、生まれて初めて見る兵器に、目を白黒させている。
「今だ!」
ジェイクは怒鳴った。
ティア、デイビット、レイナが〈ドラグーン〉から走り出てくる。
だが、フィア達は思ったより早く立ち直り、再び矢を雨あられと射かけてきた。
「くそっ!逃げろ!」
ジェイクは叫びながら手榴弾を投げた。
爆発が数体のフィアを吹っ飛ばす。
「っし!」
ジェイクがそう言ってガッツポーズをとる。
その時、彼の背後で悲鳴が響いた。
ジェイクが振り向くと、レイナが砂浜にうずくまっていた。
太ももに矢が刺さっているのが見えた。
「レイナ!」
ジェイクは急いでレイナに駆け寄った。
服に血が滲んでいる。
「大丈夫か!?」
レイナは弱々しい笑みを見せた。
「立てないっぽい………」
それを聞いたジェイクは、彼女をおぶった。
マイクがカービン銃で敵を必死に食い止めている。
フィア達はグールと同じく、弾を何回も撃ち込まないと死なないようだった。
しかも、グールと違い、奴らにはボウガンという遠距離武器がある。
「早く早く!ジャングルに逃げましょう!」
デイビットが先頭を走る。
ジェイクとティアは必死に彼を追った。
デイビットがジャングルに飛び込む。
その3秒後、デイビットの悲鳴が聞こえた。
大蛇は口を開き、唸り声をあげ、体をしならせながらクロウ達に踊りかかった。
アーサーが悲鳴をあげ、尻餅をつく。
それが彼の命を救った。
先程まで彼の首があった場所を、大蛇の顎が通り過ぎたのだ。
アーサーの茶色の帽子をヘビの顎がかすり、帽子が近くに落ちた。
帽子を命の次に大事にしているアーサーは、体をそちらへ伸ばし、とろうとした。
それが再び、彼の命を救った。
その事により、大蛇のくねらせた太い胴は、彼の頭蓋を外したのだ。
アーサーは悲鳴をあげながら、岩場を転がった。
手にはしっかりと帽子を握っている。
「この化け物ヘビがぁ!」
ザーンが怒鳴りながらカービン銃を連発した。
ヘビの体にビチビチと音をたてて銃弾が命中する。
しかし、それは大蛇の灰色の皮膚を吹き飛ばすだけで、ほとんど効果をあげなかった。
大蛇はいらだったように体を振ると、ザーンに向かって首を伸ばした。
しかし、ザーンは大蛇の顎を華麗に避わすと、その頭をカービン銃で殴り付けた。
大蛇がうめき声をあげる。
「隊長、避けて!」
ジョージが叫び、彼とクロウが同時に何発もの銃弾をヘビの体に撃ち込んだ。
常人なら、一瞬で絶命するだろう。
しかし、大蛇はいらだったような声をあげただけだった。
ヘビの尾がムチのようにしなり、クロウの腹にぶつかった。
クロウがカエルの潰れるような声をあげ、吹っ飛ぶ。
彼は岩場に突っ込むと、動かなくなった。
「クロウ!」
ドクは叫ぶと、クロウの側に駆け寄り、助け起こした。
クロウの額から、血が流れ出している。
次の瞬間、ドクは殺気を感じ、クロウ共々、右へ転がった。
ヘビの尾が、今の今までドク達がいた場所に叩きつけられ、小石を吹っ飛ばした。
大蛇が吼える。
アーサーのアサルト・ライフルが火を噴くのが見えた。
「ジャングルへ逃げ込め!」
ザーンが怒鳴る。
ドクは必死にクロウを引きずり、ジャングルまで進み出した。
背後で銃声や大蛇の怒り狂う声がする。
だが、ドクは振り返らずにジャングルの端にたどりついた。
彼は気絶しているクロウを下ろすと、銃を手に取り、遠距離から大蛇に向けて撃った。
銃声とヘビの悲鳴が入り雑じる。
ザーン達がその隙にこちらへ逃げ出した。
大蛇はそれを見ると体をくねらせ、岩と岩との間を素早く滑り、ザーン達を追いかけ始めた。
「ドク、援護してくれ!」
ジョージが必死に走りながら叫ぶ。
ドクが頷き、再び銃を乱射する。
しかし、ヘビは岩の隙間を素早く這い進んでくるため、なかなか弾が当たらない。
銃弾が岩に当たり、はじかれる音が聞こえた。
「くそっ!当たらない!」
ドクはいらだって叫んだ。
その時だった。
ザーンが岩場に倒れた。
足を岩と岩との隙間に挟み、動けなくなったのだ。
「ザーン!」
アーサーが叫びながらザーンに駆け寄る。
「何してる!さっさと行け!」
ザーンが痛みに耐えながら言った。
しかし、アーサーはそんな言葉に耳を貸さず、ザーンの足を挟みこんでいる岩をどかし始めた。
「これ以上犠牲者を出したくないんだ!」
アーサーは汗をたらしながら叫んだ。
次の瞬間、ザーン達のすぐ近くで、岩をはね飛ばしながら大蛇が鎌首をもたげた。
大蛇の白い濁眼に2体の獲物が映る。
大蛇が吼えた。
「逃げろ!」
ドクの声が聞こえる。
大蛇はアーサーとザーンを睨み、口を開いた。
牙のずらりと並んだ顎が見える。
アーサーは思わず目を閉じた。
その時、銃声と共に、弾丸が大蛇の頭を貫いた。
大蛇が悲鳴をあげ、銃を構えたジョージに向き直る。
怒り狂ったヘビは一気に体を滑らせ、ジョージの足に噛みついた。
ジョージが悲鳴をあげた。
大蛇の顎がジョージの右足を引きちぎる。
ジョージは足から血を大量に噴き出しながら倒れた。
「ジョージ!」
ザーンは叫んだが、何もできなかった。
大蛇がジョージの体に食らいつく。
血霧が飛んだ。
「ジョージぃッ!!」
ザーンが怒りの声をあげる。
彼は岩場から足を引き抜くと、ハンドガンを撃ちながら大蛇に突進した。
ヘビがザーンに向き直り、吼える。
大蛇は尾を突きだし、ザーンの体に素早く巻きつけた。
「ぐ…………」
ザーンが辛そうにうめく。
ヘビの太い胴にぎちぎちと体を締めつけられているのだ。
ヘビが勝ち誇ったかのような叫び声をあげ、身動きのとれないザーンの肩に噛みついた。
ザーンがつんざくような悲鳴をあげる。
だが、ヘビはアーサーを忘れていた。
大蛇は脳に弾丸をぶちこまれ、衝撃で後ろにのけぞった。
「ザーン、逃げろ!」
アーサーが怒鳴る。
ザーンは緩んだ締めつけからなんとか逃れると、腰の手榴弾を手に取り、痙攣しているヘビの喉に突っ込んだ。
「伏せろ!」
彼は叫ぶと、岩場に伏せた。
次の瞬間、爆発が起きた。
ヘビの頭が張り裂け、肉片と血、そして脳髄らしき物が飛び散る。
どさっとヘビの骸が倒れた。
ドクが走り寄ってくる。
「ジョージ!」
ザーンはぼんやりとジョージを見た。
ジョージは、無惨な姿になっていた。
大蛇の牙にズタズタに引き裂かれていたのだ。
ザーンはジョージの側まで歩くと、カッと開かれた目を閉じてやった。
ジョージの死に顔は、安らかになった。
ザーンはジョージの背負っていた通信パッドを取り、背負うと、一言つぶやいた。
「行くぞ」
ジャングルに飛び込んだジェイクが目にしたのは、デイビットに覆いかぶさり、首筋に噛みついているグールだった。
デイビットは痛みに悲鳴をあげている。
「デイビット!」
ジェイクはレイナを下ろし、近くに落ちていた棍棒サイズの木の棒を手にすると、グールの頭を思い切り殴りつけた。
グールがどさりと倒れる。
デイビットは自らの傷口から溢れる血を見て、卒倒した。
しかし、ジェイクはそれにかまっている暇は無かった。
ジャングルの奥から、何体かのグールがのそのそと歩いてきていたのだ。
「ティア、デイビットを!」
ジェイクはそう言うと、軽マシンガンを構え、真ん前にいるグールに何発もの銃弾を撃ち込んだ。
グールが倒れる。
ジェイクは弾を装填しながら、素早く周りを確認した。
妙だ。
アーサーは、グールには知識のかけらも無いと言っていたが、奴らは明らかにジェイク達を包囲していた。
周囲からじりじりと迫ってくる。
その時、ジェイクは気づいた。
ジャングルの奥の方で、フィアがこちらを観察しているのを。
「まさか……っ!」
ジェイクは喘いだ。
「フィアがグールを指揮しているのか!?」
「きゃあああああああ!?」
突然の悲鳴に、ジェイクは急いで振り返った。
先程デイビットに噛みついたグールが立ち上がり、ティアに迫っている。
「なろっ!まだ生きてたのか!」
ジェイクはそう言いながら照準を素早くそのグールに向けた。
そして引き金を―――
ジェイクは絶句した。
先程デイビットに噛みつき、今またティアに襲いかかろうとしていたのは、ナッドだったのだ。
ジェイクは喘いだ。
「そんなバカな…………っ!」
その一瞬が、ティアにとっては遅すぎた。
グールは唸り声をあげながらティアの左腕に噛みついた。
ティアの悲痛な叫びが響く。
「―――っく!」
ジェイクは我にかえると、急いで引き金を引いた。
銃弾が放たれ、次々にナッドだった物に命中する。
ナッドだった物は唸り、バタリと倒れた。
「ティア!」
ジェイクは急いで駆け寄った。
ティアは傷ついた左腕を押さえていた。
「ティア、大丈……」
「切り落として」
ジェイクはティアの言っている言葉が理解できなかった。
「は………?」
彼女は痛みに潤んだ目で彼を見つめた。
「ウイルスが回る前に!早く!」
「お、おう!」
ジェイクはようやく彼女が自らの腕を切り落とせと言っている事に気がついた。
彼は腰からグルカナイフを抜いたが、どうすればいいのかわからなかった。
ティアの腕がいかにか細いとはいえ、一閃で肉を斬り骨を断つ事ができるようなグルカナイフは存在しない。
とは言え、このまま彼女の腕をこのままにしても………。
「早く!」
ティアが怒鳴った。
「お願い………」
彼女の涙で潤んだ目を見て、ジェイクの心は決まった。
「歯ぁ食いしばれ!舌を噛み切らないようにな!」
ティアは頷き、目を閉じると歯を食いしばった。
ジェイクは額から汗を拭くと、グルカナイフを一気に彼女の左肩に突き立てた。
ティアの声無き悲鳴が響く。
ジェイクは手に伝わる金属が骨を切り裂く感覚を無視し、ギリギリとグルカナイフを動かしていった。
麻酔すら射たれずに腕を切断するなど、拷問以外の何物でもない。
ジェイクはナイフに力を込め、ティアの左腕を肩から切り落とした。
ドサッと音がして、左腕が地面に落ちる。
途端に、ティアは卒倒した。
今頃流れ出した大粒の涙が、彼女の肌を流れる。
拷問まがいの事をされたのだ。
涙をこぼして当然だろう。
ジェイクは急いで服の裾をちぎると、血が噴き出しているティアの肩に巻き、止血した。
その時、ジェイクは背後に迫っている物体にようやく気づいた。
「やべっ………!」
グールの事をすっかり忘れていたのだ。
振り返ると、すぐ後ろにグールが2体いた。
手前のグールが腕をのばす。
「くっ!」
ジェイクはその腕を掴み、一気に引き寄せると、背負い投げの要領で地面に叩きつけた。
しかし、もう一体は対処しきれず、ジェイクは押し倒された。
グールが温かい血を求め、首に食らいつこうとする。
ジェイクは無我夢中でそのグールの顔を押さえた。
グールがいらだったような声をあげる。
ジェイクは必死に腰のハンドガンに手を伸ばした。
届かない。
グールの体が邪魔なのだ。
目の前にグールの口が迫る。
悲鳴が聞こえたのはその時だった。
レイナだ。
「レイナ!」
ジェイクは必死にグールの攻撃を防ぎながら叫んだ。
足を怪我したレイナが、3体のグールに囲まれ、悲鳴をあげている。
そして、グールが彼女にのし掛かった。
「や、やめて!離れて!た、助け―――」
レイナの声がふっつりと途切れた。
グールが何かを貪るような音がする。
「レイナーーっ!!」
ジェイクはグールの下敷きになりながら叫んだ。
返事は、無かった。
ザーン達は大蛇に襲われてからというもの、黙々と歩き続け、山の上の方にある、川の源泉となっている泉でようやく休憩していた。
誰も、なにも言わなかった。
水がさらさらと流れる音だけがする。
「…………グールになるのは何時間後だ?アーサー」
突然、ザーンが口を開いた。
アーサーはしばらく迷った後、ザーンに小さな声で告げた。
「………だいたい36時間後だ。2日後にはグールになっている」
「そうか………」
ザーンはそう言うと黙りこくった。
再び静寂が場を支配する。
ドクが埃まみれになった顔を洗おうと、手を清浄な流れにつけた。
冷たく清い水が、ゴツい手を撫でる。
だが、その一瞬後、凄まじい痛みが彼の手を襲った。
ドクは悲鳴をあげ、慌て手を上げた。
鮮血がボタボタと水に落ちる。
ドクの手には、何匹もの魚が食いついていた。
どの魚もピラニアのような牙を持ち、その牙をドクの手に深く刺している。
ぽちゃぽちゃっと音をたて、何匹かの魚が泉に落ちた。
気づけば、たくさんの魚がドクの手から滴り落ちた血の周りを泳いでいた。
血を飲んでいるのだ。
魚達の目は落ち窪み、異様に光る眼球がひっきりなしに動いている。
「グール・ウイルスに感染した魚だ………!」
アーサーが驚きに身を震わせながらつぶやいた。
「おそらく、川に落ちたグールでも食らったん……」
アーサーの言葉は、ドクの間延びした恐ろしい悲鳴にかきけされた。
ドクの精神状態は、この2日で異常な状態に陥っていた。
グール。
深夜の海岸からの退却。
クレイジーに殺されたおい、ナッド。
ジョージの死。
そして、グール・フィッシュに噛みつかれた事による、自らのウイルス感染。
ドクの緊張の糸がプツンと切れた。
彼は悲鳴をあげながら、大きく腕を振り回した。
手に食いついていた魚が吹っ飛んでいく。
ドクは軽マシンガンを持つと、水中の血に群がるグール・フィッシュに向けて撃ちまくった。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇっ!!」
銃口が火を噴き、水面にいくつもの小さな水柱が立つ。
突然、銃撃が止まった。
弾が切れたのだ。
ドクは狂ったように意味不明な言葉を叫び続けながらナイフを抜き、水中に飛び込んだ。
魚達が喜んでドクの体に突進していく。
クロウは思わず顔を背けた。
しばらくバシャバシャと大きな音がした後、急に静かになった。
………………数分後、クロウは唾を飲み込むと、ドクの飛び込んだ場所を振り返った。
何も、無かった。
血も。
肉片も。
骨すら、無かった。
全て、魚達が食い尽くしたのだろう。
後には、さらさらと水が流れているばかり。
魚の姿も、もう無かった。
ジャンル別一覧
出産・子育て
ファッション
美容・コスメ
健康・ダイエット
生活・インテリア
料理・食べ物
ドリンク・お酒
ペット
趣味・ゲーム
映画・TV
音楽
読書・コミック
旅行・海外情報
園芸
スポーツ
アウトドア・釣り
車・バイク
パソコン・家電
そのほか
すべてのジャンル
人気のクチコミテーマ
競馬全般
[75]浦和~浦和記念予想
(2025-11-26 17:31:13)
GUNの世界
【平成回想】1997年9月号のGUN広告
(2025-11-26 12:53:46)
機動戦士ガンダム
ザク
(2025-11-08 19:05:06)
© Rakuten Group, Inc.
X
共有
Facebook
Twitter
Google +
LinkedIn
Email
Mobilize
your Site
スマートフォン版を閲覧
|
PC版を閲覧
人気ブログランキングへ
無料自動相互リンク
にほんブログ村 女磨き
LOHAS風なアイテム・グッズ
みんなが注目のトレンド情報とは・・・?
So-netトレンドブログ
Livedoor Blog a
Livedoor Blog b
Livedoor Blog c
楽天ブログ
JUGEMブログ
Excitブログ
Seesaaブログ
Seesaaブログ
Googleブログ
なにこれオシャレ?トレンドアイテム情報
みんなの通販市場
無料のオファーでコツコツ稼ぐ方法
無料オファーのアフィリエイトで稼げるASP
ホーム
Hsc
人気ブログランキングへ
その他
Share by: