JEWEL

JEWEL

Red:birthmark 1

両性具有·男性妊娠設定あり、苦手な方はご注意ください。

「おい、あっちに逃げたぞ!」
「追え!」
闇の中、尊は母に手をひかれながら只管走っていた。
「お母さん、何処行くの?」
「尊、これを。」
母はそう言うと、尊の首に自分が愛用していたメダイのネックレスを提げた。
「もしお母さんがいなくなっても、マリア様があなたを守って下さるからね。」
「お母さん!」
夢中に尊が走っている内に、彼は転んで母とはぐれてしまった。
「お母さん、お母さん!」
「居たぞ!」
「捕まえろ!」
尊は涙を堪えながら、再び闇の中を走り始めた。
そして、尊は今も土砂降りの雨の中を走っていた。
「あっちだ!」
「追え!」
尊はアスファルトの、ぬかるんだ地面を裸足で暫く走っていたが、ぬかるみに足を取られ、転んでしまった。
「てめぇ、ふざけやがって!」
再び逃げようとした尊の髪を、彼を追っていたチンピラが乱暴に掴み、尊を殴りつけた。
「おやめなさいな。」
「黒江さん・・」
少し癖のある髪を揺らしながら、スーツ姿の男は尊の前に屈み込んだ。
「ここで逃げても、あんたは死ぬのよ。だったら、あたしと一緒に帰りましょう。」
尊はスーツ姿の男の手を取った。
「尊、尊は何処だ、尊!」
「黒江さんが、今捜していますから・・」
「えぇい、離せ!」
大和田組組長・義成は、尊が逃げた事を知り、荒れた。
「尊なら、ここに居ますよ。」
「尊~!」
義成は、部下が連れて来た尊の姿を見るなり、彼を抱き締めた。
「尊、わしの元に戻って来てくれたのか、わしの女神!」
「・・心配かけて、申し訳ありませんでした。」
「尊~!」
義成のしわがれた手に触れられながら、尊はこの生き地獄から誰か自分を救ってくれないだろうかと思っていた。
「なぁ、あれって・・」
「組長の愛人・・」
「え、ウソ!?」
「男かよ・・」
義成の葬儀に現れた喪服姿の尊を見た参列者達は、口々にそう言いながら彼を見た。
「未亡人って感じねぇ、あなた。」
「黒江さん・・」
葬儀を終えた後、尊が池の鯉を見つめながら溜息を吐いていると、そこへ黒江がやって来た。
「あなた、これからどうするつもりなの?」
「わかりません・・」
「あなた、綺麗だし賢いから、お店を一軒やったら生きていけるんじゃないかしら?」
「えっ・・」
「ま、勝手に独りでおやんなさいな。」
こうして尊は大和田組を出て、義成が遺したスナックを経営する事になった。
長い間水商売の世界で生きて来たので、はじめは上手くいかなかったが、何とか独りで生活できる位に尊はスナックを繁盛させる事が出来た。
低血圧で貧血持ちの尊にとって、スナック経営は天職そのものだった。
贅沢な暮らしを望まなければ、雨風しのげる家で暮らせる。
尊はそれで充分だった。
そんなある日、尊がスナックの開店準備をしていると、一人の男が店に入って来た。
「すいません、まだ準備中・・」
その男は、銀縁眼鏡越しに尊を鋭い眼光で見つめると、オールバックで固めた髪を乱暴にかきむしり、スツールの上に腰を下ろした。
「お疲れのようですね、何か飲まれます?」
「水。」
「わかりました。」
尊は店の冷蔵庫からペットボトルに入った水を取り出し、それを男のグラスに注いだ。
「どうぞ。」
尊が男にグラスを渡そうとした時、男が尊の手を掴んで自分の方へと彼を引き寄せた。
(え?)
「あの、お客様?」
尊が怯えながら男を見ると、彼は尊の唇を塞いだ。
「んっ・・」
男は尊の口内を舌で犯しながら、着物の上から尊の身体をまさぐった。
「何を・・」
「済まん、魔が差した。忘れてくれ。」
男はそう言って俯いたが、彼のスラックスの前が不自然に膨らんでいる事に尊は気づいた。
「帰る。」
「待ってください。そのままだと、お辛いでしょう?」
尊は入り口のドアに鍵をかけ、『準備中』の札をかけた。
「今、楽にしてさしあげますから。」
出会って数分なのに、尊はその男と身体を重ねた。
「また、いらして下さいね・・大河内春樹警視正。」
「お前、いつの間に・・」
「大丈夫、僕はあなたの事を何にも詮索しませんから、あなたも僕の事を詮索しないで下さいね。これから仲良くしましょう?」

尊はそう言って男―大河内春樹に妖しく微笑んだ。

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