JEWEL

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蒼き月満ちて 一

シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。

オメガバース・二次創作が嫌いな方はご注意ください。

「お産まれになられたぞ!」
「男か、女か?」
「双子のお子様達だったが、片方は・・」
蒼い月が空に浮かんだ夜、シエルと双子の兄・ジェイドは生を享けた。
双子でありながらも、シエルは健康で甲種(アルファ)であるジェイドとは違い、病弱で丙種(オメガ)であった為、姫君として育てられた。
周囲は、名門貴族でありながら丙種として産まれたシエルの事を蔑む者が居たが、兄がいつも守ってくれた。
―ほら、あの瞳・・
―何と気味の悪い・・
―魔物ではないのかしら?
一族の集まりに出席したシエルは、御簾越しに聞こえて来る女達の囁き声に俯いた。
「シエル、大丈夫だ。僕が居る。」
「兄様・・」
シエルが兄と違うもの。
それは、左右の瞳の色が違う事と、男女両方の性をその身に持っている事だった。
だが、その事で両親は兄と自分を差別しなかったし、シエルは家族に愛されながら育った。

あの日が来るまでは。

賊に襲撃され、両親と兄を眼前で殺されたシエルは、ならず者達に陵辱された。

(助けて・・)

生き地獄のような日々の中で、シエルはあの日燃え盛る屋敷から唯一持ち出した母の形見の箏を爪弾く事だけが、生きる糧となっていた。
そんな中、いつものようにシエルが箏を弾いていると、風で御簾が捲り上がり、空に浮かぶ蒼い月が見えた。
その月は、常世に居る兄の化身に見えた。
(兄様、どうして僕を置いて逝ってしまったの?)
シエルが袖口で涙を拭っていると、何処からか伽羅の香りがした。
「嗚呼、芳しい蜜の香りがすると思ったら、愛らしい姫君がいらっしゃるなんて。」
「あなたは・・」
月に照らされた、美しく端正な顔立ちをした直衣姿の男は、紅茶色の瞳でシエルを見た。
「さぁ、わたしと共にいらっしゃい。わたしが、あなたを救って差し上げます。」
差し出された男の手を、シエルは取った。
「若様、その子は・・」
「わたしの番です。」
主に抱かれている姫君を見た家人は一瞬驚愕の表情を浮かべたが、その後は黙って主が車の中に入るのを見送った。
男―セバスチャンは、己の腕の中で眠るシエルの髪を梳きながら、彼女こそ己の運命の番だと確信した。
甲種として生を享けたセバスチャンは、東宮(皇太子)という身分も相まって、彼の元には山程縁談が来ていたが、彼はそれを全て断った。
(何かが違う。彼女達は美しいが、それだけではわたしの魂を震わせる事は出来ない。)
そんな思いを抱えながらセバスチャンは父帝から持ち込まれた縁談相手の元へと向かったが、その相手にもときめかなかった。
父帝には適当な言い訳をしなければ―そう思いながらセバスチャンが牛車に揺られていると、突如外から蜜の香りが漂って来た。
(この香りは・・)
甲種の本能が、セバスチャンの奥底で目覚めようとしていた。
「停めろ。」
「はい!」
牛車から降りたセバスチャンは、香りの主を捜した。
すると、その香りはある貴族の屋敷から漂って来た。
御簾の向こう側に居たのは、美しい少女だった。
(この子が、わたしの・・)
セバスチャンの視線を感じた少女は、紫と蒼の瞳で怯えたような顔をしながら自分を見つめていた。
「さぁ、わたしと共にいらっしゃい。わたしが、あなたを救って差し上げます。」
セバスチャンが差し出した手を、少女は握った。
「あなたは、誰?」
「わたしは、あなたの背の君ですよ。」
シエルは、いつの間にか眠ってしまった。
「あの子は、一体何処へ消えた!」
「申し訳ありません・・」
シエルが消えた事に気づいた男は、使用人達にシエル捜索を命じた。
「お帰りなさいませ、東宮様。」
「お帰りなさいませ。」
セバスチャンがシエルを抱いて牛車から降りると、使用人達が彼を出迎えた。
「暫くこの子と二人きりにさせておくれ。」
「はい・・」
寝所に入ったセバスチャンは、シエルをそっと御帳台の上に寝かせた。
「ちょっと、失礼しますね。」
セバスチャンはそう言いながらシエルの衣を脱がすと、その白い肌には無数の傷があった。
特に目立つのは、背中に捺された焼き印だった。
幼い少女が、一体あの屋敷でどんな扱いをされて来たのか、セバスチャンには容易に想像できた。
「安心なさい、あなたの事はわたしが守って差し上げます。」
セバスチャンはそう言うと、そっとシエルの額に口づけた。
「ん・・」
シエルがゆっくりと目を開けると、そこにはあの男が隣で寝ていた。
「おはようございます。」


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