薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月 10
F&B 腐向け転生パラレル二次創作小説:Rewrite The Stars 6
天上の愛地上の恋 大河転生パラレル二次創作小説:愛別離苦 0
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁 12
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻 10
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁 1
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ 5
天上の愛 地上の恋 転生現代パラレル二次創作小説:祝福の華 10
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華 14
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄 1
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊 1
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法 7
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜 18
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は 10
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て 5
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計 9
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫 20
火宵の月 帝国オメガバースファンタジーパラレル二次創作小説:炎の后 1
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母 13
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん 6
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥 7
天上の愛地上の恋 転生オメガバースパラレル二次創作小説:囚われの愛 9
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華 1
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師 4
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥 27
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚 2
ハリポタ×天上の愛地上の恋 クロスオーバー二次創作小説:光と闇の邂逅 2
天上の愛地上の恋 転生昼ドラパラレル二次創作小説:アイタイノエンド 6
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師 1
天愛×火宵の月 異民族クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼と翠の邂逅 1
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている 3
天愛×薄桜鬼×火宵の月 吸血鬼クロスオーバ―パラレル二次創作小説:金と黒 4
火宵の月 昼ドラハーレクイン風ファンタジーパラレル二次創作小説:夢の華 0
火宵の月 吸血鬼転生オメガバースパラレル二次創作小説:炎の中に咲く華 1
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉 54
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~ 6
火宵の月異世界転生昼ドラファンタジー二次創作小説:闇の巫女炎の神子 0
バチ官×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:二人の天使 3
火宵の月 異世界ファンタジーロマンスパラレル二次創作小説:月下の恋人達 1
FLESH&BLOOD 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の騎士 1
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して 20
火宵の月 戦国風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:泥中に咲く 1
PEACEMAKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で 9
火宵の月 和風ファンタジーパラレル二次創作小説:紅の花嫁~妖狐異譚~ 3
天上の愛地上の恋 現代昼ドラ風パラレル二次創作小説:黒髪の天使~約束~ 3
火宵の月 異世界軍事風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:奈落の花 2
天上の愛 地上の恋 転生昼ドラ寄宿学校パラレル二次創作小説:天使の箱庭 7
天上の愛地上の恋 昼ドラ転生遊郭パラレル二次創作小説:蜜愛~ふたつの唇~ 1
天上の愛地上の恋 帝国昼ドラ転生パラレル二次創作小説:蒼穹の王 翠の天使 1
火宵の月 地獄先生ぬ~べ~パラレル二次創作小説:誰かの心臓になれたなら 2
火宵の月 異世界ロマンスファンタジーパラレル二次創作小説:鳳凰の系譜 1
火宵の月 昼ドラハーレクインパラレル二次創作小説:運命の花嫁~愛しの君へ~ 0
黒執事 昼ドラ風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:君の神様になりたい 4
天愛×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー 2
FLESH&BLOOD ハーレクイロマンスパラレル二次創作小説:愛の炎に抱かれて 10
薄桜鬼腐向け転生刑事パラレル二次創作小説 :警視庁の姫!!~螺旋の輪廻~ 15
FLESH&BLOOD 帝国ハーレクインロマンスパラレル二次創作小説:炎の紋章 3
PEACEMAKER鐵 オメガバースパラレル二次創作小説:愛しい人へ、ありがとう 8
天上の愛地上の恋 現代転生ハーレクイン風パラレル二次創作小説:最高の片想い 6
FLESH&BLOOD ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の花嫁と金髪の悪魔 6
薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう) 10
薄桜鬼×天上の愛地上の恋 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:玉響の夢 6
天上の愛地上の恋 昼ドラ風パラレル二次創作小説:愛の炎~愛し君へ・・~ 1
天上の愛地上の恋 異世界転生ファンタジーパラレル二次創作小説:綺羅星の如く 0
天愛×腐滅の刃クロスオーバーパラレル二次創作小説:夢幻の果て~soranji~ 1
天愛×相棒×名探偵コナン× クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧に融ける 1
黒執事×天上の愛地上の恋 吸血鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼に沈む 0
魔道祖師×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想うは、あなたひとり 2
天上の愛地上の恋 BLOOD+パラレル二次創作小説:美しき日々〜ファタール〜 0
天上の愛地上の恋 現代転生パラレル二次創作小説:愛唄〜君に伝えたいこと〜 1
天愛 夢小説:千の瞳を持つ女~21世紀の腐女子、19世紀で女官になりました~ 1
FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇ 2
YOI×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:皇帝の愛しき真珠 6
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず 2
薔薇王の葬列×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:黒衣の聖母 3
天愛×F&B 昼ドラ転生ハーレクインクロスオーパラレル二次創作小説:獅子と不死鳥 1
刀剣乱舞 腐向けエリザベート風パラレル二次創作小説:獅子の后~愛と死の輪舞~ 1
薄桜鬼×火宵の月 遊郭転生昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:不死鳥の花嫁 1
薄桜鬼×天上の愛地上の恋腐向け昼ドラクロスオーバー二次創作小説:元皇子の仕立屋 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君~愛の果て~ 1
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師~嵐の果て~ 1
YOI×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:氷上に咲く華たち 1
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰 2
F&B×天愛 昼ドラハーレクインクロスオーバ―パラレル二次創作小説:金糸雀と獅子 2
F&B×天愛吸血鬼ハーレクインクロスオーバーパラレル二次創作小説:白銀の夜明け 2
天上の愛地上の恋現代昼ドラ人魚転生パラレル二次創作小説:何度生まれ変わっても… 2
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師 1
薄桜鬼×天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿 2
火宵の月 異世界ハーレクインヒストリカルファンタジー二次創作小説:鳥籠の花嫁 0
天愛 異世界ハーレクイン転生ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女 氷の皇子 1
天愛×火宵の月陰陽師クロスオーバパラレル二次創作小説:雪月花~また、あの場所で~ 0
全10件 (10件中 1-10件目)
1
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。「困るわね、さっさとしてくれないと。」「申し訳ありません・・」「謝るのならだれにも出来るわ。大事なのは成果をいかに出せるかという事よ。」「はい・・」「それと、もう土方さんに絡むのはお止めなさい。あなたと彼女とでは、“格”が違うのよ。」「でも・・」「まだわからないの?あなたって本当に馬鹿ね!」 秀子の容赦ない罵詈雑言の鞭を受け、千代は堪らず両手で顔を覆って泣き出した。「すぐに泣くんだから、この役立たずが!」 秀子はそう叫んで千代を睨みつけ、その場から去っていった。 呆然とした千代が暫くその場に立ち尽くしていると、突然大広間の方から歓声が聞こえて来た。 何だろうと思って千代がそちらの方を見ると、そこには歳三と千景の姿があった。 歳三は、美しい真紅のドレスを着ており、それが彼女の美しく白い肌に映えていた。 金髪紅眼の千景と並んで立つと、まるで一幅の絵画のように美しい。(本当に、お似合いの二人だわ・・) 千代はその場から、誰にも知られずに風間邸を後にした。「婚約おめでとう、土方さん。」「ありがとうございます、先生・・」 風間家のパーティーに出席していた歳三を待ち受けていたものは、千景の爆弾発言だった。「今宵、貴様らに集まって貰ったのは他でもない、俺とここに居る土方美貴嬢との婚約を発表する為だ。」「はぁ!?」 まさしく、“寝耳に水”だった。「まぁ、それはおめでとうございます!」「どうか、お幸せに!」「おいてめぇ、どういう事だ?俺は・・」「貴様と結婚する為には、外堀を埋める事が一番であろう?」「てめぇ・・」“再会”した千景は、傲慢な性格に加え、策士となっていった。「“あの時”、お前は俺から逃げたが、今度は逃がさんぞ。」 千景はそう言いながら歳三を自分の方へと抱き寄せると、口元に不敵な笑みを閃かせた。(畜生、やられた!) こんな状況だと、断るのが無理だという事に気づいた。 このまま、どうするべきか―そんな事を歳三が考えている間にも、事態は歳三にとって不利な状況へと追い込まれている事に気づかなかった。「お嬢様、風間家から結納品が届いておりますよ!」「わかった・・」(こうなりゃ、腹をくくるしかねぇな。) 風間家から届いた結納品は、どれも見事なものばかりだった。 中でも一番美しいのは、一流の職人の手によって作られた純白の西洋風の花嫁衣装、ウェディングドレスだった。「まぁ、随分とハイカラなものになったもんだねぇ、花嫁衣装も。まぁ美貴さんなら、白無垢もこのドレスも似合いそうだ。」 そう言いながら歳三を見つめた“女狐”の目は、冷たい光を湛えていた。「良い旦那をつかまえたわねぇ、あんた。」「は?何の事でしょうか?」「風間家といやぁ、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの資産家だ。一体どんな手管を使って若様を落としたんだい?」 その言葉を聞いた時、歳三の顔は怒りで赤くなったが、彼女の挑発に乗っていけないと思い、彼は深呼吸した後、“女狐”にこう尋ねた。「こちらこそ逆に聞きたいですね。妻子持ちの男をどうやって落としたのかを。」「・・生意気な口を利くようになったね。仮にも、あたしはあんたの・・」「“母親”ではありませんよ、あなたは単なる居候ですよ。」「何だって!?」「勉強の邪魔です、出て行ってくださいな。」「ふん、偉そうに!」 長野から東京へと戻った刑事は、土方信子に会いに行き、例の話について尋ねてみた。 あの“蔵”で、もう一人女が首を吊って死んでいたのだった。「その女の名は?」「確か、浅野千代って言いましたかねぇ。」 信子はそう言うと、古びたアルバムを刑事に見せた。「この人が、私達の曾祖母です。弟と瓜二つでしょう?」 結婚式でウェディングドレスに身を包んでいる女性は、まさに土方と同じ顔をしていて、その写真を見た刑事は、謎の寒気に襲われた。(何だ、今のは!?)にほんブログ村
Apr 30, 2023
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。話は、明治の末頃にまで遡る。 その家の蔵には、気が触れた女が監禁されていた。 そこは所謂、“座敷牢”だった。 女は恐らく、統合失調症だったのであろう、見えない“敵”と毎日戦っていたと、その頃に勤めていた女中がそう日記に残していた。 女はやがて死んだ―蔵の梁で首を吊ったのだった。 その頃から、女の姿を女中達が見て怯えるようになった。 そして、蔵の中に入ったり、近づいたりするだけで気が触れたり、謎の高熱を出して寝込んだりするなどの怪現象が続出した。 お祓いなどをしてみたが、全く効果はなかった。 そして遂に、“呪い”の死者が出た。 死んだのは大助という少年で、例の蔵に入った後、失踪して箱根山中で遺体が発見された。 女中が大助の殺害を仄めかすかのような遺書を残し、蔵の梁で首を吊った。 事件の真相は、未だにわかっていない。「その蔵を、見せて頂けないでしょうか?」「それは出来ません。」「そうですか。」 あの蔵にはまだ何か隠された秘密がある―そうにらんだ刑事は、蔵に監禁された女性の事を詳しく調べ始めた。「お嬢様、おはようございます。」「あぁ、おはよう・・」 風間家のパーティー当日の朝、ときは妙に張り切っていた。「今日はパーティーまでに色々と準備をしませんと!」「準備って何の準備だ?」「色々ですわ!」「へぇ・・」 朝食の後、歳三はときと共にまた百貨店へと向かった。「これから夏に向けて、色々と新しいお洋服などを買いましょう!」「そんなに買わなくてもいいだろう・・」「いいえ、いけません!」「わ、わかったよ・・」 ときと共に夏物のワンピースや靴などを買って帰宅した歳三は、玄関先で君菊と会った。「またお会いしましたね。」「どうも・・」「まぁ君菊様、もう帰られるのですか?」「えぇ、他に仕事がありますので。」「お気をつけてお帰り下さいませ。」「はい。」 君菊が帰った後、歳三が自室に入ると、そこには君菊が手掛けた真紅のドレスがハンガーに掛けられていた。「これは、美しいですわ!」「そうだな・・」 そのドレスは、歳三の白い肌によく映えていた。 そして、その日の夜。「お嬢様、お気をつけて行ってらっしゃいませ!」「あぁ、行って来る!」 風間家のパーティーには、政財界の名士などが集まる華やかなものだった。「千代様、あなたもいらしていたのですね!」「当たり前でしょう、何て言ったって風間家のパーティーですもの!」 そう言って瞳をキラキラさせながら風間邸のパーティーに取り巻きと共に出席した千代は、一人の娘とぶつかった。「ちょっと、何処を見ているのよ!」「す、すいません・・」 ぶつかった娘は、分厚い度のある眼鏡をかけ、所々ほつれたおさげ姿の、地味な女中だった。「こんな子に構う必要はありませんわ、行きましょう。」「そうね。あなた、邪魔だから退いてくれる?」「はい・・」 娘は俯いたまま、千代達に道を譲った。「あら浅野さん、あなたとこんな所で会うなんて・・」「先生・・」「ちょっとあなたとお話ししたいのだけれど、いいかしら?」「はい・・」 千代は、少し怯えたような顔をしながら、秀子と共に人気のない場所へと向かった。「あの件は、進んでいるのでしょうね?」「いいえ、まだです。」にほんブログ村
Apr 30, 2023
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。 歳三が、英二、もとい原田と共に出かけた先は、銀座の百貨店だった。「どうして、こんな所に?」「来週末、風間家のパーティーに招待されただろう?色々とドレスを選んでやるよ。」「ドレスなんて、別にいいって。」「ときがそんな事を聞いたら怒り狂うぞ。“お嬢様の美しさを引き立てるドレスを是非選んでくださいませ”って頼まれたんだよ。」「お前ぇも、大変だな。」「まぁな。」「なぁ原田、俺ぁまだこの世界に生きている実感がねぇんだが・・」「そうか。まぁ、俺もあんたと同じだよ。上野の戦で死んだあと、この時代に生まれちまったんだ。まさか、土方さんとは兄妹になるなんて、思いもしなかったぜ。」「俺もだ。」「さてと、まずはドレスを選びに行くとするか。」 原田はそう言うと、歳三を慣れた手つきでエスコートした。 婦人服売り場には、美しいワンピースやドレスなどが飾られていた。「いらっしゃいませ。」「妹の美しさを引き立てるようなドレスが欲しいんだが・・」「まぁ、暫くお待ちくださいませ。担当の者を呼んで参ります。」 そう言って店員は、売り場の奥へと消えていった。「お待たせ致しました。」 数分後、二人の前に現れたのは、洋装姿の店員だった。「わたくしは、この百貨店の専属デザイナーの、君菊と申します。」「済まねぇが、あんたにお任せした方が良さそうだ。」「まぁ、嬉しいですわ。ではお客様、どうぞこちらへ。」「は、はぁ・・」 デザイナーの君菊と共に奥の部屋に入った歳三は、そこにも美しいドレスが並べられている事に気づいた。「お客様は肌がお美しいので、真紅のドレスが似合いますわね。」「そ、そうか。」「お好きな色は何がございますか?」「赤かな。」「まぁ、それは良うございますわ。お客様の誕生石は?」「エメラルドだ。」「まぁ、ではお客様の美しさを引き立てるドレスをお作り致しますわね。」「頼む。」 君菊と共にドレスの生地を選んだり、装身具を選んだりなどしていたら、あっという間に時間が経ってしまった。「出来るだけ早く仕上げますわ。」「宜しく頼む。」 百貨店を原田と共に出た歳三は、帰りに洋食屋で夕食を取って帰宅した。「お帰りなさいませ。」「ただいま。疲れたからもう寝る。」「お休みなさいませ。」―ピッ、ピッ 規則的な機械音が、“彼”が生きている事を知らせてくれる。「まだ、意識は回復しないのですか?」「はい。脈拍や呼吸は安定しています。」「そうですか・・」 集中治療室の前で看護師とやりとりをしていた刑事は、そっとその中に居る男の姿を見た。 彼は数日前、国道沿いのコンビニの駐車場で意識不明の状態で運ばれた。 病院へ搬送された時、彼はうわごとのようにある言葉を呟いた。“蔵・・”と。 幸い、男の身元はすぐに判明した。 男の名は、土方歳三。 東京の出身で、現場にあるコンビニの近くには、彼の母の実家があった。「遺品整理、ですか」「えぇ。といいますのも、大奥様の十三回忌の前に、遺品整理をするようにと、信子様が歳三様にお命じになられたのです。」「つかぬ事をお聞きいたしますが、その屋敷には蔵はありますか?」「はい、ございますよ。ですが、あそこは呪われているんです。」「呪われている?」「あの蔵に近づいたり、入った者は呪われたんです。」にほんブログ村
Apr 30, 2023
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。土方様、少しよろしいかしら?」「何だ?」 歳三がいつものように女学校の教室にある自分の席で弁当を食べていると、そこへ千代とその数人の取り巻きがやって来た。「あなた、節操ないわね。風間家の若様と伊庭家の若様を二人共誑かすなんて。」「は?」「そうよ、嫁入り前の娘が・・」「人にモテない僻みかよ、下らねぇ。」」「な、何ですって~!」「千代様!」 これ以上千代達と話したくなかったので、歳三は教室から出て図書室へと向かった。(へぇ、面白そうな本があるなぁ。) 歳三がそう思いながら本棚の中にある一冊の本には、『赤と黒』と金字で印刷されていた。「あら土方さん、来ていたのね。」「吉野先生・・」「その様子だと、またあの子達から逃げて来たのでしょう?」「えぇ、まぁ・・」 吉野はどうやら、千代達の事を良く思っていないようだ。「先生は、あいつらの事を知っているんですか?」「えぇ。千代さん・・浅野さんは土方さんが自分より優秀な事を妬んでいるから、あなたに絡んでいるのよ。放っておけばいいわ。」「は、はぁ・・」「じゃぁ、わたしはこれで失礼するわ。」 吉野はそう言って歳三に微笑んだが、その目の奥は笑っていなかった。(あの人、どうも苦手なんだよな。) 放課後、図書室で借りて来た本を歳三が読んでいると、そこへ斎藤がやって来た。「お嬢様、お迎えに上がりました。」「兄貴は?」「英二様なら、“野暮用がある”とおっしゃって、今日はお嬢様をお迎えに上がれないと・・」「そうか・・それじゃ、行こうぜ。」「はい。」 教室を出た歳三が斎藤と共に廊下を歩いていると、音楽室の方から吉野の怒鳴り声が聞こえて来た。「一体いつまで待たせるつもりなの!?」「申し訳ありません・・」「あなたにはがっかりだわ!」 そっと少し開いた扉の隙間から音楽室の中を覗くと、そこには吉野から怒鳴られている千代の姿があった。(あの人とあいつの関係がわからねぇな・・) 斎藤と共に帰宅し、自室で読書をしていた歳三だったが、音楽室で覗き見た光景が忘れられず、集中できなかった。 歳三は本を閉じて、眠った。「奥様、お電話です。」「えぇ、わかったわ。」 歳三の担任・吉野秀子は、事務作業をする手を休めた後、電話の受話器を取った。『久しいな、秀子。』「あら、あなたがわたくしに電話して下さるなんて珍しい事。何かご用かしら?」『とぼけるのはやめろ。“例の件”について何か掴んでいるのだろう?』「まぁ、落ち着いて下さいな。そのことについては明後日、お話致しますわ。」『・・わかった。』「では、良い夢を。」 そう言った秀子は、口端を歪めて笑った。(これからね・・)「お嬢様、起きて下さい!」「どうした?」「今日は色々と用事が立て込んでおりますよ!」「折角の日曜日の朝くらい、ゆっくりさせてくれよ。」「いけません、さぁ起きて下さいませ!」「わかったよ・・」 歳三は欠伸を噛み殺しながら、ベッドから出た。「起きたな、美貴。さぁ、行こうか?」 居間に歳三が入ると、原田が彼女に笑顔を浮かべてそう言った。「わかりました、お兄様。」「お気をつけて行ってらっしゃいませ。」にほんブログ村
Apr 30, 2023
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。「随分と、手荒い歓迎だな。」「人ん家に勝手に入って来た後の言い訳がそれか?もう一度痛い目に遭いてぇようだな?」「気が強い所は、昔と変わっておらぬな。」「うるせぇな!」「その様子だと、また振られてしまったようですね?」「ったく、よせって俺が言っているのによぉ、“あいつが女である事をこの目で確かめぬと納得がいかん!”とか言って・・」「それで、返り討ちに遭ったという訳ですか。」「あぁ。」「自業自得ですね。」「うるさいぞ、お前達。」「お黙りなさい、風間。大体あなたは自己中心的過ぎます。この前、わたしがクッキーを焼いた時、あなた全部食べていましたね。」「フン、あれは俺の為に焼いてくれたのだろう、天霧?」「いいえ、違います。あのクッキーは慈善バザー用に奥様から頼まれて焼いたものです。」「何だと・・」「千景、入るわよ!」「は、母上・・」 千景が恐る恐る背後を振り返ると、そこには鬼のような形相を浮かべた母が仁王立ちしていた。「天霧の代わりに、あなたが慈善バザー用のクッキーを焼きなさい!」「ご冗談でしょう、母上?」「いいえ、わたくしは本気ですよ。明朝までに、クッキーを200個作りなさい!」「何と・・」「いいわね!」「天霧・・」「そんなお顔をなさっても駄目です。手伝いますが、途中までです。」「つくづくお前ぇは、こいつには弱ぇよなぁ?」「“手間がかかる子”ほど、放っておけないというでしょう?」「まぁ、そうだな。」 千景は天霧達と協力して明朝までに何とか200個のクッキーを作った。「疲れた・・」「お部屋でゆっくり休んで下さいね。」「わかった・・」 フラフラとした足取りで寝室へと向かう千景を、天霧は笑顔で見送った。「さてと、俺も休むとするか。」「そうですね。」 天霧と不知火がそんな話をしている頃、土方家では八郎がまだ家に帰りたくないと駄々をこねて歳三を困らせていた。「嫌だ、まだ帰りたくない!」「八郎、お願いだから離れてくれ・・」「やだぁ!」「困りましたわね、もうすぐ美枝様がいらっしゃるというのに・・」 ときがそう言って溜息を吐いていると、そこへ藤田五郎もとい、斎藤一がやって来た。「どうかなさったのですか、副・・お嬢様?」「あ・・」 斎藤の顔を見た八郎が、一瞬怯えたような表情をした。「彼と、少しの間お話ししてもよろしいでしょうか?」「あぁ、構わねぇが・・」 斎藤はそう言うと、八郎を中庭へと連れて行った。「いい加減、“演技”をするのは止めたらどうだ?」「ふぅん、君って、“昔”から鋭いよね。」 そう言って斎藤と対峙した八郎は、翡翠の瞳で彼を睨んだ。「あんたがポロで怪我をしたのは事実だが、その怪我は軽いもので後遺症もなかったと、あんたのカルテも書いてあった。それなのになぜ、あんな事をしている?」「トシさんの気がひけるから。トシさんはいつも、“あの人”の事ばかり見ていたから、僕が“演技”をすればトシさんが僕の事を見てくれるかなぁって。」「副長は、俺がお守りする。」「言っておくけど、トシさんは誰にも渡さないよ。“今度こそ”、トシさんを僕のものにするんだ。」(恐ろしい奴だ・・)「八郎、何処だ~?」「トシさ~ん!」 斎藤に背を向けた八郎は、再び“演技”を始めた。 歳三を、自分のものにする為に。にほんブログ村
Apr 30, 2023
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。「やっと会えた、トシさん!」 そう言った青年は、突然歳三に抱きつき、暫く歳三から離れようとしなかった。「まぁ八郎さん、みっともない真似はおよしなさい!」 奥の部屋の襖が開き、慌てて青年の母親と思しき女性がやって来た。「お嬢様、大丈夫ですか?」「あぁ。」「申し訳ございません、お嬢様。うちの八郎がとんだご無礼を・・」「いや、俺は大丈夫だから謝らなくていい。」「八郎さん、帰りますよ。」「嫌だ~!トシさんとずっと一緒に居る。」「わがままを言ってはなりませんよ!」 歳三にしがみついて離れようとしない八郎に苛立った女性は、そう叫んだ後八郎の頬を平手で叩いた。「うわぁぁ~、トシさん!」「美枝様、今日は八郎さんとこちらでお預かり致しますから、先にお帰りになってくださいな。」「でも、奥様に何とお伝えすれば・・」「それはわたくしの方からお伝え致しますわ。」「では、八郎様の事を宜しくお願い致します。」 ときに美枝と呼ばれた女性はそう言って歳三に向かって頭を下げると、土方家を後にした。「わぁい、トシさんと今日は一緒に居られるね!」「八郎様、お部屋で休みましょうね。」「うん!」 年の割に幼い子供のような言動をする八郎に、歳三は違和感を抱いた。「なぁとき、ひとつ聞いてもいいか?」「何でしょうか、お嬢様?」「昼間俺に抱きついて来たのは誰だ?やけに俺に懐いていたような・・」「あの方は、伊庭八郎様とおっしゃって、伊庭子爵家のお坊ちゃまですよ。眉目秀麗、頭脳明晰な方で、乗馬がお好きな方でしたが、数年前ポロの試合中に酷い怪我をされて、あのように・・」「そうか。とき、あいつは随分と俺に懐いているようだが・・」「八郎様は、昔近所の子供達からいじめられていたところをお嬢様に助けられたとかで・・」「へぇ・・」「それよりも、今週末風間邸で行われる夜会が楽しみですわね。」「風間家だと?」「いけませんわ、お嬢様。急に動かれては・・」「済まねぇ。」「奥様は、風間家の若様がお嬢様の事をお気に召していらっしゃると聞き、とても嬉しそうでしたわ。」「へぇ・・」「大方、あの女狐は財産目当てでお嬢様を風間家へ嫁がせて厄介払いさせたのでしょう。まぁ、あの女狐は金が全てですものね。」「なぁとき、あの人は“旦那様の後妻”だと言ったが、俺とは血が繋がっていないのか?」「えぇ。凛子様・・お嬢様のお母様はお嬢様をお産みあそばされた時に産褥熱でお亡くなりになられて、旦那様があの女狐をこの家に入れたのが、お嬢様が三歳の時でございました。その時あの女は、匡坊ちゃまをその腕に抱いていたのです!」「じゃぁ匡と俺は腹違いの姉弟という事か?」「えぇ、そうなりますわね。」(何だか、とんでもねぇ家に生まれちまったな・・) 湯船に浸かりながら、歳三はそう思った後深い溜息を吐いた。(箱館で死んだと思ったら、まさか女に転生していたなんてな・・これからどうなるんだか。) 風呂から上がった歳三が脱衣所で濡れた髪を拭いていると外が急に騒がしくなった。「いけません、お嬢様はまだ・・」「ええい、そこをどけ!」 脱衣所の扉が勢いよく開き、金髪紅眼の少年―風間千景が入って来た。「漸く会えたな、我妻よ!」「さっさと出て行け、この変態!」 歳三は千景にそう怒鳴ると、彼の顔面に己の拳をめり込ませた。にほんブログ村
Apr 30, 2023
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。「土方さんが事故に遭われたと聞いて、わたくし達心配しておりましたのよ。」 女学生達の中から、リーダー格と思しき一人の少女がそう言いながら歳三の前に立った。「あぁ、それはありがとう。」「ま、まぁ・・」「行きましょう、皆さん。授業に遅れてしまうわ。」「そうね。」 歳三の反応に対し、女学生達は少し拍子抜けしたような顔をした後、校舎の中へと逃げていった。(何だ、あいつら?) 歳三がそう思いながら校舎の中に入ると、突然彼は背後から誰かに肩を叩かれた。「土方さん、もう元気になったのね、良かったわ。」(え、誰?) 歳三が振り向くと、そこには見知らぬ女性が立っていた。「あ、あのぅ・・」「あぁ、事故の所為で混乱しているのね。わたしはあなたの担任の、吉野よ。」「吉野・・先生・・」「その様子だと、教室の場所がわからないみたいだから、先生と一緒に行きましょう。」「は、はい・・」 こうして歳三は、女性と共に教室へと向かった。「土方さん!」「もう大丈夫なのね!?」「良かったわ、大した事なくて!」 教室に入ると、歳三の方へ十人位の女学生達が駆け寄って来た。(何だ、こいつら?)「皆さん、そんな事をして土方さんを困らせては駄目よ?」「はぁ~い!」「皆さん、土方さんに会えて興奮してしまったみたいね。」(何だか、わからねぇな、この人・・) そんな事を思いながら、歳三は自分の席に着いた。(一体何がどうなっているんだかわからねぇが・・まぁ、慣れるしかねぇか。) 昼休み、歳三が弁当箱の蓋を開けると、中には美味しそうな卵焼きと沢庵、そして白米の上に焼き鮭が載っていた。「頂きま~す!」 そう言って歳三が、胸の前で手を合わせた後、焼き鮭ご飯を美味そうに頬張った。 沢庵を食べ終え、空になった弁当箱の蓋を閉めていると、そこへ今朝自分に声を掛けて来た女学生がやって来た。「土方さん、ちょっとよろしいかしら?」「あぁ、いいが・・」 彼女と共に教室から出た歳三の姿を、心配そうに見つめている一人の娘が居た。「貴女、一体どういうつもりなの?」「は?」「今朝、英二様と一緒にお車でここにいらしたでしょう?」「あぁ、それがどうした?」「いくらお兄様でも、年頃の男女が一台の車の中に居るなんて、嫌らしい!」「はぁ?そんな事を言うだけの為に俺をここへ呼び出したっていうのか?」「そうよ!」「はっ、下らねぇな。」「な、何ですって?」 面倒臭ぇ事になったな、と歳三は目の前に立っている女学生の姿を見て思った。 こういう時に相手を刺激してはいけないと思ったのだが、つい歳三はこんな事を彼女に言ってしまった。「ただ兄貴に車で学校まで送って貰っただけだ。あんたには関係の無い事だろう?」「何ですってぇ~!」「千代様、落ち着いて下さい!」「千代様!」「あなたは、わたくしが英二様をお慕い申し上げている事を知りながら、そんな事を~!」 そうヒステリックに叫んだ女学生が気絶するのを見た歳三は、その場を後にした。「ただいま・・」「お嬢様、お帰りなさいませ。」「誰が来ているのか?」「えぇ、それが・・」 玄関ホールに見慣れない革靴が置かれているのを見た歳三がときにそう尋ねると、客間から一人の青年が丁度出て来る所だった。「トシさ~ん!」 青年はそう叫ぶと、歳三に抱きついた。にほんブログ村
Apr 30, 2023
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。 一体ここは何処なのか―ふとそう思った歳三は、ときにこう尋ねた。「今、何年なんだ?」「まぁお嬢様、おかしな事をおっしゃいますね。今は大正十年(1920)五月ですよ。」「そ、そうか・・」「姉さん、一体どうしてしまったんだい?まだぼけるには早いよ。」「あ、あぁ・・」(こいつ、誰だっけ?)「え~と・・」「まぁ匡坊ちゃま、そんな事をおっしゃって。」 歳三が目の前に座っている青年の名を思い出そうとしていると、すかさずその様子を見ていたときが助け舟を出した。「もうすぐ姉さんの誕生日だね。そろそろお嫁に行く年じゃないの?」「そうか?」「まぁ、姉さんは美人だから、引く手あまただろうね。」「そ、そうか・・」「お嬢様、どうぞ。」 ときはそう言うと、歳三の前に沢庵を置いた。「ありがとう・・」「いいえ。」 沢庵を箸で一つ摘まむと、それを美味そうに齧った。「姉さんは、本当に沢庵が好きなんだなぁ・・」「あ~、美味ぇ。」「まだご飯がありますから、松前漬けもどうぞ。」「あぁ、頼む。」 朝食の後、歳三が自室に戻って寝間着からときが用意してくれた着物と袴に着替えていると、丁度そこへ一人の下男が中庭の掃除をするのが窓から見えた。(斎藤・・) 無言で箒を持って中庭に散らばっている落ち葉を集めているのは、間違いなく自分のかつての部下であった斎藤一だった。 彼に声をかけようかどうか歳三が迷っていると、やがて彼は何処かへ行ってしまった。「お嬢様?」「彼は・・」「あぁ、あの子ですか?あの子は藤田五郎といって、会津から来たうちの家の書生ですよ。」「彼と話したい。」「わかりました。」「今日はすぐに帰る。行って来ます。」「行ってらっしゃいませ。」 風呂敷包みを持って歳三が玄関ホールから一歩外へと出た時、一台の車が歳三の前に停まり、中から洋装姿の青年が出て来た。「美貴、今から学校か?」「は、はい・・」(こいつ、誰だ?) 赤髪といい、金色の瞳といい、青年はあの槍使いに似ていた。「まぁ、英二坊ちゃま!こちらにおいでになるなんてお珍しい!」「とき、久しぶりだな。大陸での仕事が一段落着いたから、久しぶりに日本へ帰る事にしたんだ。」「まぁ、そうなのですか。」「美貴とは久しぶりに会えたから、こいつを学校に送っていくついでに話でもしようかなと思ってな。」「お兄様・・」「さぁ、行こうか。グズグズすると、学校に遅れるぞ。」「えぇ、わかったわ。」 歳三が青年と共に彼の車に乗り込むと、彼はじっと歳三の顔を見た後、こう言った。「また会えたな、“土方さん”。」「原田・・」「まさか、あんたの“兄”として転生するなんて、思いもしなかったぜ。」「なぁ原田、うちに居る藤田って書生はもしかして・・斎藤なのか?」「あぁ。でも土方さん、あいつには余り近づかない方がいいぜ。」「どうしてだ?」「まぁ、色々とあいつの実家が複雑な事情を抱えているみたいなんだ・・」「複雑な事情?」「まぁ、その事については後で話す。」「わかった。」「学校、頑張って来いよ。」「あぁ。行って来る。」 女学校の前で車から降りた歳三の元に、数人の女学生達がやって来た。(何だ、こいつら?)「土方さん、ご機嫌よう。」にほんブログ村
Apr 30, 2023
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。「は、遺品整理?」『そうよ。今、仕事で大阪に居るから、今日がその日だって事をすっかり忘れていたのよ。じゃぁ、そういう事だから!』「おい、姉貴!」 待てって、と電話の相手にそう告げようとした男は、既にその音がダイヤルトーンへと変わった事に気づき、舌打ちした。(ったく、何かと俺をこき使いやがって・・) 男―土方歳三は、舌打ちしてスマートフォンを助手席へと放り投げた。 その日、歳三は会社の上司から、“研修施設の下見”を命じられ、人里離れた山中を車で彷徨っていた。 大学時代に苛酷な就職活動を乗り越え、中堅としてそれなりの地位を会社から与えられ、それなりにやり甲斐のある仕事をしている、つもりだった。 東日本大震災の時、歳三は度重なる残業の所為で身体を壊し、入院した。 それが原因なのかどうかはわからないが、彼は退院後、本社から地方の支社への転勤命令が出た。 当時結婚していた妻は、署名・捺印済みの離婚届を置いて出て行ってしまった。 それ以来、彼女とは会っていない。 新しい会社での仕事は、今までのものとは違い、退屈な雑用ばかりだった。「ったく、一体何処なんだよ。」 歳三はそう言って時折舌打ちしながら、只管車のハンドルを握ってカーナビの頼りにならない指示に従った結果、何とか山から下りて、国道沿いの道に出ることが出来た。(ふぅ、助かったぜ。) 歳三がそう思いながら国道沿いのコンビニの駐車場で一服していると、厄介な上司からラインが来た。『研修は中止になりました。』(最初からそう言えよ!) 今日はとことんついていない―歳三がそんな事を思いながらコンビニでのトイレ休憩を済ませて車に戻ろうとした時、一人の老婆が車の前に立っている事に気づいた。「誰だ、あんた?」「お嬢様、探しましたよ。さぁ、帰りましょう。」「おい・・」 歳三は有無を言わさず自分の手を握る老婆から逃げようとしたが、枯れ枝のような彼女の手はビクともしなかった。「サァ、“参りましょう”。」 意識を失う前、何処かで箏の音を歳三は聞いたような気がした。 その後、鋭い痛みが右脇腹に走った。(あぁ、俺は・・) あの時、死んだのだった。―・・嬢様 何処からか、誰かが自分を呼ぶ声が聞こえる。(誰だ?) 歳三が寝返りを打っていると、誰かが自分を揺り起こす気配がした。「起きて下さい、お嬢様!早くしないと学校に遅れてしまいますよ!」「え・・」 歳三が目を覚ますと、そこは寝台の上だった。「まだ寝かせてくれよ。」「いけません。」 歳三の前に仁王立ちしていた女中頭のときは、そう叫ぶとシーツを乱暴に引き剥がした。「何だよ、もう・・」 欠伸を噛み殺しながら歳三が鏡台の前に座ると、そこには十代の少女となった己の姿が映っていた。「さ、支度致しませんと、遅れてしまいますよ!」 ときはそう言いながら、歳三の黒髪に櫛を入れ、素早くそれをマガレイトに結い上げた。「あら、まだ着替えていないのねぇ。」「お母様・・」「さっさと支度を済ませて降りて来な。こっちは暇じゃないんだ。」 突然部屋に入って来た女はそう言って歳三を睨みつけると、部屋から出て行った。「誰だ、あの女?」「旦那様の後妻ですよ。薄気味悪い女狐ですよ。」にほんブログ村
Apr 30, 2023
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。 何処からか、寂し気な、“何か”の音がする。 その音にまるで惹き寄せられるかのように、少年は音が聞こえて来る方へと向かった。 音が聞こえて来たのは、あの蔵だった。“おいで”と、蔵の中から誰かが呼んでいるかのような気がして、少年はそっと蔵の扉を開けようとした時―「まぁ坊ちゃま、いけませんよ、こんな所まで来ては!」 少年の小さな手が蔵の扉に届こうとした時、彼が居なくなった事に気づいた女中頭がそう叫びながら彼の元へと駆け寄った。「人の声がする。」「人の声ですか?」「うん、あの中から聞こえて来た。」「わたくしには、何も聞こえて来ませんよ。」「でも・・」「さぁ、こんな所に居てはいけません。戻りましょう。」「うん・・」 少年は彼女に手をひかれながら、蔵を後にした。“命拾いしたわね。”と、クスクスと笑う“声”が闇に包まれて消えていった。「なぁ、本当にあそこから声が聞こえて来たのか?」「そうだよ・・」 数日後、少年は、従弟の大助と共にあの蔵の前に立っていた。「なぁ、中に入ってみようぜ。」「え?」「今日は、お祖母様達は夕方まで出かけて帰って来ないからいいだろう?」「でも・・」「何だよ、つまんねぇの。もういいよ、俺一人で入るから。」 大助はそう言うと、蔵の扉に手を掛けた。 すると、それは難なく開いた。 大助が中へと入ろうとした瞬間、黒い“何か”に全身を覆われ、煙のようにその姿が掻き消えてしまった。「ひぃっ!」 少年は悲鳴を上げ、助けを呼びに蔵から離れ、母屋へと向かった。 大助は、その日から永遠に姿を消した。 それが、最初に起きた異変だった。 大助が失踪して一月も経たない内に、彼の母親に仕えていた女中の一人が死んだ。“わたしが、坊ちゃんを殺しました”という遺書を残して。 警察がその遺書に書かれている内容通りに箱根山中を捜索すると、大助の遺体が発見された。「大助、どうしてこんな・・」「奥様、お気を確かに!」「奥様!」 大助の母・千代は気が触れてしまった。「僕の所為だ、僕が・・」「坊ちゃまの所為ではありませんよ。」「でも・・」「言いつけを守らなかった大助様が悪いのです。ですから坊ちゃまは、何も気にせずお休みになって下さいませ。」「うん、わかったよ・・」 女中頭の子守唄を聞きながら、少年は徐々に眠りの世界の住人となっていった。 だが彼は、自分を寝かしつけている女中頭の名を呼ぼうとした時、声が出なかった。「サァ坊ちゃま、ゆっくりと“お休みなさい”。」 最期に少年が見たのは、女中頭の不気味な笑みだった。 闇の中から、何処か淋し気で不気味な箏の音が響き、消えていった。 それから、約100年もの歳月が経った、ある日の事―にほんブログ村
Apr 30, 2023
コメント(0)
全10件 (10件中 1-10件目)
1