薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月 10
F&B 腐向け転生パラレル二次創作小説:Rewrite The Stars 6
天上の愛地上の恋 大河転生パラレル二次創作小説:愛別離苦 0
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁 12
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻 10
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁 1
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ 5
天上の愛 地上の恋 転生現代パラレル二次創作小説:祝福の華 10
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華 14
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄 1
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊 1
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法 7
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜 18
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は 10
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て 5
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計 9
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫 20
火宵の月 帝国オメガバースファンタジーパラレル二次創作小説:炎の后 1
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母 13
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん 6
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥 7
天上の愛地上の恋 転生オメガバースパラレル二次創作小説:囚われの愛 9
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華 1
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師 4
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥 27
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚 2
ハリポタ×天上の愛地上の恋 クロスオーバー二次創作小説:光と闇の邂逅 2
天上の愛地上の恋 転生昼ドラパラレル二次創作小説:アイタイノエンド 6
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師 1
天愛×火宵の月 異民族クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼と翠の邂逅 1
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている 3
天愛×薄桜鬼×火宵の月 吸血鬼クロスオーバ―パラレル二次創作小説:金と黒 4
火宵の月 昼ドラハーレクイン風ファンタジーパラレル二次創作小説:夢の華 0
火宵の月 吸血鬼転生オメガバースパラレル二次創作小説:炎の中に咲く華 1
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉 54
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~ 6
火宵の月異世界転生昼ドラファンタジー二次創作小説:闇の巫女炎の神子 0
バチ官×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:二人の天使 3
火宵の月 異世界ファンタジーロマンスパラレル二次創作小説:月下の恋人達 1
FLESH&BLOOD 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の騎士 1
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して 20
火宵の月 戦国風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:泥中に咲く 1
PEACEMAKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で 9
火宵の月 和風ファンタジーパラレル二次創作小説:紅の花嫁~妖狐異譚~ 3
天上の愛地上の恋 現代昼ドラ風パラレル二次創作小説:黒髪の天使~約束~ 3
火宵の月 異世界軍事風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:奈落の花 2
天上の愛 地上の恋 転生昼ドラ寄宿学校パラレル二次創作小説:天使の箱庭 7
天上の愛地上の恋 昼ドラ転生遊郭パラレル二次創作小説:蜜愛~ふたつの唇~ 1
天上の愛地上の恋 帝国昼ドラ転生パラレル二次創作小説:蒼穹の王 翠の天使 1
火宵の月 地獄先生ぬ~べ~パラレル二次創作小説:誰かの心臓になれたなら 2
火宵の月 異世界ロマンスファンタジーパラレル二次創作小説:鳳凰の系譜 1
火宵の月 昼ドラハーレクインパラレル二次創作小説:運命の花嫁~愛しの君へ~ 0
黒執事 昼ドラ風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:君の神様になりたい 4
天愛×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー 2
FLESH&BLOOD ハーレクイロマンスパラレル二次創作小説:愛の炎に抱かれて 10
薄桜鬼腐向け転生刑事パラレル二次創作小説 :警視庁の姫!!~螺旋の輪廻~ 15
FLESH&BLOOD 帝国ハーレクインロマンスパラレル二次創作小説:炎の紋章 3
PEACEMAKER鐵 オメガバースパラレル二次創作小説:愛しい人へ、ありがとう 8
天上の愛地上の恋 現代転生ハーレクイン風パラレル二次創作小説:最高の片想い 6
FLESH&BLOOD ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の花嫁と金髪の悪魔 6
薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう) 10
薄桜鬼×天上の愛地上の恋 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:玉響の夢 6
天上の愛地上の恋 昼ドラ風パラレル二次創作小説:愛の炎~愛し君へ・・~ 1
天上の愛地上の恋 異世界転生ファンタジーパラレル二次創作小説:綺羅星の如く 0
天愛×腐滅の刃クロスオーバーパラレル二次創作小説:夢幻の果て~soranji~ 1
天愛×相棒×名探偵コナン× クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧に融ける 1
黒執事×天上の愛地上の恋 吸血鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼に沈む 0
魔道祖師×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想うは、あなたひとり 2
天上の愛地上の恋 BLOOD+パラレル二次創作小説:美しき日々〜ファタール〜 0
天上の愛地上の恋 現代転生パラレル二次創作小説:愛唄〜君に伝えたいこと〜 1
天愛 夢小説:千の瞳を持つ女~21世紀の腐女子、19世紀で女官になりました~ 1
FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇ 2
YOI×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:皇帝の愛しき真珠 6
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず 2
薔薇王の葬列×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:黒衣の聖母 3
天愛×F&B 昼ドラ転生ハーレクインクロスオーパラレル二次創作小説:獅子と不死鳥 1
刀剣乱舞 腐向けエリザベート風パラレル二次創作小説:獅子の后~愛と死の輪舞~ 1
薄桜鬼×火宵の月 遊郭転生昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:不死鳥の花嫁 1
薄桜鬼×天上の愛地上の恋腐向け昼ドラクロスオーバー二次創作小説:元皇子の仕立屋 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君~愛の果て~ 1
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師~嵐の果て~ 1
YOI×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:氷上に咲く華たち 1
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰 2
F&B×天愛 昼ドラハーレクインクロスオーバ―パラレル二次創作小説:金糸雀と獅子 2
F&B×天愛吸血鬼ハーレクインクロスオーバーパラレル二次創作小説:白銀の夜明け 2
天上の愛地上の恋現代昼ドラ人魚転生パラレル二次創作小説:何度生まれ変わっても… 2
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師 1
薄桜鬼×天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿 2
火宵の月 異世界ハーレクインヒストリカルファンタジー二次創作小説:鳥籠の花嫁 0
天愛 異世界ハーレクイン転生ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女 氷の皇子 1
天愛×火宵の月陰陽師クロスオーバパラレル二次創作小説:雪月花~また、あの場所で~ 0
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1
あの町を襲った土砂崩れから、もうすぐ1年が過ぎようとしている。 あの日、かつて暮らしていた町が土砂に覆われているのを見た時、これは天罰だと思った。 ―鬼が来て、あいつらを生き埋めにしてくれたんだ。 木戸亜弥は、そんな事を思いながらテレビを消して自宅を出て大学へと向かった。あの日から―あの震災から母はおかしくなり、あの町に住む新興宗教の教祖と生活を共にするようになった。 胡散臭い女に、木戸家は支配された。 母は女に心酔し、引きこもりの兄と共に家を出た。残された父と亜弥は、町を出た。 東京に戻ると、あの町での生活がいかに異常だったのかがわかった。 あの町は、滅びて良かったのだ―そんな事を思いながら亜弥が駅へと向かっていると、彼女は高校時代の恩師―土方歳三の姿を見かけた。 亜弥が彼に声を掛けようとした時、土方先生の傍に一人の女性が立っている事に気づいた。 その女性は、土方先生の奥さんのようで、妊婦さんのようだった。 「待ったか?」「いいえ。」 その人はそう言うと、土方先生に向かって微笑んだ。 その人は、あの沖田家の若奥様だった。 どうして、あの若奥様が、何故土方先生と一緒に居るのだろう。 そんな事を亜弥が思っていると、そこへもう一人少女がやって来た。 ―荻野さん。 少女は、かつてあの町で高校の同級生だった、荻野真珠だった。 何故、彼女まで土方先生と一緒に亜弥がそんな事を思っていると、三人は何やら楽しそうに話しながら雑踏の中へと消えていった。 世の中には、知らなくていい事がある―そう思った亜弥は、三人と正反対の方向へと歩き出した。 土砂によって崩壊した町の高台には、その昔この町に巣食い、疫病を齎(もたら)した鬼が陰陽師によって封じ込められたという祠(ほこら)があった。 その祠の封印は、何者かによって破られていた。 【完】
Jul 1, 2020
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(もう、さっさと終わらせるしかねぇか。) 胡蝶姫の装束を身につけた歳三は、深呼吸した後、ゆっくりと本殿の中から出て、舞台へと向かった。 周囲の視線を感じるが、歳三はそんな事を気にせずに舞台に上がった。 扇を持って彼が静かに舞い始めると、何故か周囲のざわめきが全く聞こえなくなり、観客達は一心に自分の舞に見惚れていた。 舞い終わった後、歳三は舞台から降りて本殿へと戻った。「ありゃ、見事なもんだ。」「本当にな。」「姫様が乗り移ったのかと持った。」 町民達は口々にそう言い合いながら、荻野神社を後にした。 祭りが終わり、巫女という大役を終えた歳三は、滝に礼を言って荻野神社を後にした。「土方さん、お疲れ様でした。」「ありがとうよ。」「これからどうなさるおつもりで?」「この町を出る。出来れば雪が降る前に。」「俺も・・お供致します。」斎藤はそう言った後、歳三に跪いた。 「なぁ、土方先生はこの町にずっと居るんだろうな?」「居るに決まってるさぁ、土方先生はここの守り神様だもの。」「そうだなぁ。それにしても、あの美人姉妹は何処に行っちまったんだか。」「さぁな。」 町民達がそんな事を話していると、遠くから不気味なサイレンが鳴り響いた。「何だ?」「まぁた山崩れか?」「いつもの事だぁ、どうせすぐに止むべ。」「ほっとけ、ほっとけ。」 サイレンが鳴り響く中、歳三と斎藤、丸山は土砂崩れが起きる前に、車で鬼蝶町から脱出した。 その直後、大規模な土砂崩れが町全体を呑み込み、町民全員が犠牲となった。 因習が根付いた閉鎖的な田舎町は、一夜にして姿を消した。【東北の山奥で大規模な土砂崩れ、町民全員が犠牲に】 東北地方を襲った暴風雨は、山奥にある鬼蝶町を直撃。大規模な土砂崩れが町を呑み込み、町民約400人が犠牲となった。にほんブログ村
Jul 1, 2020
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「どうして東京の記者の方がこんな田舎町に?」「・・実は、毎年この町で奇祭が開かれるという情報を得て、その取材にやって来ました。」「そうですか・・」歳三はそう言うと、斎藤の顔を見た。 顔立ちも、落ち着いた雰囲気も“昔”のままだが、本人は“昔”の記憶があるのだろうか―歳三がそんな事を思っていると、斎藤は一口コーヒーを飲んだ後、笑みを浮かべて言った。「お久しぶりです、副長。元気にしておられて安心致しました。」「斎藤、お前記憶があるのか?」「はい。先程知らない振りをしたのは、人目があったからです。」「そうか・・なぁ、近藤さん・・勝っちゃん達とは会ったのか?」「はい。この前、総司達に会いました。二人共元気そうでした。」「そうか。」「まさか、あの副長がこんな所にいらっしゃるなんて思いもしませんでした。」「まぁ俺は自分でもこんな所に居るのかわからねぇよ。ここでも暮らしは、精神がもたねぇ。」「では、近々この町から引っ越されるおつもりで?」「あぁ、祭りが終わってからな。」「そうですか。」斎藤はそう言うと、リュックサックから一冊の手帳を取り出した。「今日はお忙しい中、取材を受けて下さりありがとうございました。」「こっちこそ、こんな所までわざわざ来て貰って済まねぇな。今日はどうやってここまで来たんだ?」「車で来ました。今夜はここで一泊してから帰ります。」「そうした方がいい。宿はどこだ?」「町外れのモーテルです。」「ここは豪雪地帯だから、雪が降るまでに東京へ帰るんだぞ。」「わかりました。」 斎藤とマンションの前で別れた歳三が部屋へ戻ろうとした時、すかさず近くで雑草取りをしていた主婦が彼に駆け寄って来た。「土方先生、さっきの人は?」「・・古い知り合いです。」「そうなんですかぁ。」 主婦は歳三の話を聞くと、興味を失くしたかのようにそのまま自分の部屋へと戻っていってしまった。 山田一家を殺した犯人が見つからぬまま、“胡蝶祭り”の日がやって来た。 町は朝から賑わっていた。 「凄い人だな・・」 モーテルの部屋から出て、斎藤が祭りのメイン会場である荻野神社へと向かうと、そこは地元民や観光客でごった返していた。 神社の沿道には、ベビーカステラやフライドポテト、焼きそばなどの屋台が軒を連ねていた。「あらぁ、あなたこの前土方先生の家の前で会った!」 突然背後から肩を叩かれ、斎藤が振り向くと、そこには地元民と思しき主婦が立っていた。「ねぇ、この町には祭りの取材で来たの?」「はい・・」「だったら、うちの店の宣伝もしてよぉ。うちはね、今流行りのオーガニック食材を使った・・」 何なのだろう、人が何も聞いてやしないのに、こちらがマスコミと知るや否やすぐに自分の店のアピールをしたりする神経の図太さと厚かましさは、この町の住人特有のものなのだろうか?「ねぇ、山田さんの家で起きた事件、犯人はきっと余所者の木戸一家だと思うのよぉ。だってあそこの奥さん、外で変な機械使って、放射能を防ぐとか何とか言って家の窓全体にアルミホイル貼ったりしてさぁ~、息子も何してるかわからない奴だったしねぇ。」 山田一家の事件なら、テレビのニュースを観たから知っているが、一家全員の死因は皆一酸化炭素中毒死で、焼死体として発見されたのは火の回りが早くて彼らが意識を失っていたからだと、地元警察の公式発表でわかっている。 それなのに、東京から来たというだけで、あの震災が齎(もたら)した、一部の放射能に過敏な人達が偶々この町に移住して来ただけで、勝手に犯人扱いか。 ふざけるな。「これから、鬼が来るわよ。」「鬼、ですか?」「山田さんの所があんな風になったじゃない。鬼がこの町に来て、ここを滅ぼしに来るかも!」 何が鬼だ、この町がもし滅びるようならあんたらみたいな詮索・監視好きの住民達の所為だ。「すいません、そろそろ巫女舞が始まる時間なので・・」「あ~、そうなの、残念ねぇ。」 斎藤が主婦に背を向けて歩き出した時、背後から数人分の視線を感じたが、斎藤は一度も振り返らずに本殿へと続く石段を登った。 丁度巫女舞が始まったようで、揃いの巫女装束姿の中学生達が舞台の上で舞っていた。 観客達の拍手に見送られ、彼女達が舞台を降りた後、この祭りの主役である“胡蝶姫”が舞台に現れた。 薄化粧を施した“胡蝶姫”は、静かに舞い始めた。 観客達は皆、その舞が終わるまで誰も微動だにせず舞台だけを見ていた。にほんブログ村
Jun 30, 2020
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―ねぇ、聞いた?―祭りの主役の巫女が男だって・・―そんなの、嘘でしょう?―本当だって。 胡蝶祭りの主役である胡蝶姫は、代々荻野家の巫女を務めてきた。だが今年は、その巫女が二人揃って不在という不測の事態が起きた為、町の自治会の者達は巫女の代役を立てなくてはならなかった。 巫女は、未婚の女性を意味するので、勿論代役は町の未婚女性の中から選ばなければならなかったが、少子高齢化が進む町で、若い未婚女性は見つからなかった。 この時、祭りを中止すべきだという意見と、続けるべきだという意見で町の住民達は二つに割れた。「巫女が居ないと祭りが・・」「祭りはもうやめるべきです。あんなのはもう、時代遅れです。」「祭りは、この町の・・」 平行線を辿る会議の中、祭りを続けることを決定したのは、自治会長だった。代役選びは難航したが、最終的に巫女には男の歳三に決まった。「面倒臭ぇ・・」 歳三はそう呟きながら、荻野神社の本殿へと続く長い石段を登っていた。「済まないな。土方先生には孫達が世話になっているというのに。」「いいえ。祭りまでまだ時間がありますから、大丈夫です。」「そうか。」滝はそう言うと、歳三の手を握った。 「これからよろしく頼む。」「はい・・」こうして歳三は、祭りの日まで荻野神社へ通う事になった。滝からは直接、祭りの日だけに舞う特別な巫女舞“胡蝶”を歳三は習った。 祭りまであと一週間と迫った頃、荻野神社の氏子の一人でもある山田家が火事に遭い家は全焼し、焼け跡から家族五人の焼死体が発見される事件が起きた。―鬼だ・・―鬼がやって来た。 住民達はそんな事を囁き合いながら、山田一家を殺した犯人の影を怯えた。「山田さんを殺ったのは、あいつらに違ぇねぇ。」「あいつらって?」「ほら、前に山田さんと色々と揉めていた奴らが居たろ?」「あぁ、東京から移住してきた木戸か!」「こっちは親切に玄関先に野菜置いたりしてやってんのによぉ、“放射能まみれの野菜なんか要らない”とか抜かして断るし、毎日外で変な機械使てたなぁ。」「あそこの嫁は頭がおかしかったなぁ。」「そうだな。あいつらに山田さんは散々苦労させられていたなぁ。」 山田家の事件から数日経った頃、町の老人達はそんな事を噂し合いながら酒を飲んでいた。 田舎という所は、自分達のルールに従わない者達を徹底的に排除する。新しく入って来た者は、この町に嫌気が差して出て行ってしまう。 最終的にこの町には、年寄りしか住まなくなる。「それにしても、男が巫女なんてたまげたなぁ!」「今年の祭りはどうなるんだ?」「さぁな。」「まぁ、無事に終わってくれれば何も言わねぇ。」「さてと、そろそろ行くか?」「あぁ。」 彼らがコンビニのイートインから去って行った後、歳三は店の中に入った。「いらっしゃいませ~!」 気怠そうな店員の声に迎えられ、歳三はカゴの中にコーヒーとサンドイッチを食べていると、近くの中学校の校門から生徒達がどっと出て来た。生徒達で埋まった一本道をノロノロと車で進みながら、歳三は溜息を吐いた。 漸く彼が帰宅したのは、コンビニから出て30分後の事だった。駐車場に車を停めて、彼がそこから降りようとした時、一人の青年が歳三の元へとやって来た。「土方歳三さんですよね?はじめまして、俺はこういう者です。」青年はそう言うと、一枚の名刺を歳三に手渡した。そこには、“週刊セブン 斎藤一”と印刷されていた。「斎藤・・お前・・」「どうしました?」「いや、なんでもねぇ。」にほんブログ村
Jun 29, 2020
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その女は、あの時歳三が車で轢きそうになった女だった。 女は無言で歳三の部屋のドアを執拗に叩いた。たまらず歳三は頭のおかしな女が家の周りをうろついていると警察に通報した。 暫くして、外から女の叫び声と警官達の怒号が聞こえた後、静かになった。(何だったんだ、あの女?) 電気を消して寝ようとしたが、闇の中からまたあの女が現れそうな気がして、その夜は電気をつけて寝た。翌朝、歳三が眠い目を擦りながらコーヒーを淹れていると、誰かが玄関のチャイムを鳴らした。 また昨夜のあの女かと歳三が身構えながらインターフォンの画面を覗くと、そこにはスーツケースをひいた忍が立っていた。「忍、どうした?こんなに朝早く・・」「先生にこの町を離れる前に、ご挨拶をと思いまして・・」「その荷物だと、遠くへ行くのか?」「はい。姉も一緒に。」「そうか・・」「では、もう行きますね。」「あぁ、気を付けてな。」歳三が出勤すると、職員室帆の方が何やら騒がしかった。 「土方先生、おはようございます。」「おはようございます、丸山先生。何かあったんですか?」「何でも、あの美人姉妹が姿を消したそうです。」「そうか・・」「さっき自治会の人達がやって来て、祭りが出来ないからどうするんだって校長達に詰め寄って・・もう、滅茶苦茶ですよ。」丸山はそう言って溜息を吐くと、自分の席へと戻った。「肝心の巫女が不在なんて・・」「こうなったら代役を立てるしか・・」歳三が教師へ向かっていると、そんな話し声が校長室の方から聞こえて来た。「先生、おはようございます。」「おはよう。HR始めるぞ。」「はぁ~い。」 その日の夜、千華から一通のメールが届いた。“わたし達は無事です、安心して下さい。” メールには、千華と忍が笑顔を浮かべている写真が添付されていた。“今は引っ越しの最中なので、忙しくてゆっくりと詳細を書く事は出来ませんが、元気にしております。これから寒さが厳しくなりますが、どうかお身体をご自愛くださいませ、総司。”(メールでも、硬い文章は変わらねぇなぁ・・)歳三はそんな事を思いながら、溜息を吐いた。 久しぶりに、歳三は“昔”の夢を見た。 それは、自分達がまだ上洛して間もない頃の事だった。初めて迎えた京の冬は、江戸のそれよりも寒く、寒がりな歳三は風邪をひいてしまった。「トシは寒がりだなぁ、待ってろ、粥を作ってやるから。」「済まねぇ・・」「お前は最近休む暇がなかったんだから、この際ゆっくりと休んだ方がいい。」「わかった・・」歳三は勇の大きな手に包まれるのを感じながら、ゆっくりと目を閉じた。ドアが何者かに乱暴に叩かれた音で、歳三は夢から覚めた。『土方先生、居るんでしょう?』『開けて下さいよ!』 インターフォンの画面を歳三が覗き込むと、そこには何故か校長達の姿があった。「何ですか、こんな朝早くに・・」「すいません、土方先生・・」「先程の職員会議でですね・・」「祭りが開かれる事になりまして・・」 こいつらは、伝言ゲームでもしているのか。朝早くから叩き起こされ、歳三はイライラしながら彼らの話を聞いた。「それでですね、巫女の代役を務めて貰う事になりまして・・」「は?勝手に決めないで下さいよ、そんな事。」歳三はそう言うと、校長達をにらんだ。「でもねぇ・・」「もう決まった事なんで・・」「ねぇ・・」こうして歳三は一方的に、“胡蝶祭り”の主役である巫女に選ばれた。にほんブログ村
Jun 29, 2020
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「何だ!?」 不気味なサイレンの後、スピーカーから女性の音声が聞こえて来た。”只今、大雨洪水警報が発令されました。川の近くに住む方は、高台の公民館へ避難して下さい。“(こんな時に警報か・・) 歳三は溜息を吐きながら窓の外を見ると、濁流が暴れ狂う蛇のように今まさに町を襲おうとしていた。「嵐か・・千華、非常用の食糧は足りておるか?」「はい。」「余り時間がない、急ぐぞ。」「はい、お祖母様。」 大雨洪水警報が発令されて一時間後、不気味なサイレンと共に濁流の唸りが聞こえて来た。「これからどうなるんだ!?」「パパ、怖い!」「胡蝶姫様、どうかお護り下さい!」 公民館に避難した住民達は、外から聞こえる轟音に怯えた。「もう大丈夫だな・・」「あぁ・・」 嵐が町から去ったのは、住民達が公民館からそれぞれ帰路に着いた頃だった。「何とか、危機は脱したな・・」「えぇ・・」「千華、真珠、お前達に話しておきたい事がある。そこへ座れ。」「はい。」「お祖母様、お話とは何でしょうか?」「お前達、町から出て行け。後の事はわたしが何とかする。」「いいのですか?」「構わん。町の因習にこれ以上お前達を縛り付けておくことは出来ん。」「お祖母様・・」「お祖母ちゃん、本当にいいの?」「良いも悪いも、もう決めた事だ。達者で暮らせ。」「お祖母ちゃん・・」 千華は涙を流しながら、滝に抱きついた。「千華、真珠、お前達だけでも幸せになれ。」そう言った滝は、何処か寂しそうだった。 季節は瞬く間に過ぎ去り、鬼蝶町の一大イベントである、“胡蝶祭り”の冬が訪れた。「う~、寒い。」 山あいの集落であるこの町は、盆地なので夏は蒸し暑く、冬は凍えるように寒い。「先生、おはようございます。」「おはよう・・」「先生、厚着しすぎ!」生徒達はそう言うと、厚いダウンジャケットを着た歳三を見て笑った。地元民である彼らは寒さに慣れているようで、皆薄手のコート姿だった。「土方先生、おはようございます。」「荻野、もう身体は大丈夫なのか?」「はい。」「それにしても土方先生は本当に寒がりですね?」「うるせぇ、体質なんだから仕方ねぇだろ!」 歳三はこれ以上校門に居るのが耐えられなくなり、暖房がきいている職員室へと逃げ込んだ。「土方先生は本当に寒がりなんですね。そんなんじゃ祭りの滝行には耐えられませんよ。」「は?滝行?」 毎年冬に行われる“胡蝶祭り”には、男達は皆褌一枚の姿となり、久御山の滝壺へ一人一人身を投げて無病息災を祈るのだという。(そんなの、聞いてねぇ!)「まぁ、東京から来た先生には、色々と祭りの準備を手伝って貰いますよ。」「祭りの手伝い、ですか?」「えぇ、ほとんど書類仕事ですがね。土方先生はお若いから、祭りの櫓づくりの手伝いを・・」「いえ、書類仕事は得意なので、任せて下さい!」 こんな寒い時期に、屋外で力仕事するなんて真っ平御免だ。「・・そうですか、それでは書類仕事の方、任せましたよ。」 こうして、歳三は暖房がきいている中で出来る書類仕事を任された。「あ~、今日も疲れた。」 帰宅した歳三はそう呟いた後、エアコンのスイッチを入れた。 暖房がきいた部屋で、歳三はこたつに入りながらのんびりとテレビを観ていた。もうすぐ観ていた二時間サスペンスドラマが終わろうとしている頃、突然玄関のチャイムが鳴った。(誰だ、こんな時間に・・) 歳三がインターフォンの画面を覗き込むと、そこには包丁を持った白装束姿の女が立っていた。にほんブログ村
Jun 26, 2020
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「こっちよ。」「は、はい・・」 千華と共に車から降りて複合商業施設の中へと入ると、そこは光と音の洪水に満ちていた。 人のざわめき声や人ごみで、忍は少し気分が悪くなってしまった。「すいません、あの・・」「何処か静かな所に行きましょう。」千華はそう言うと、カフェへと向かった。そこは、静かで落ち着いた雰囲気だった。「コーヒーお願いします。」「かしこまりました。」 店員が去った後、千華はスマートフォンの電源を切った。「こういう所では、こんな物は要らないわ。」「はい・・」忍はそう言うと俯いた。「ねぇ、あなたはこれからどうしたいの?」「それはまだ、わかりません。ですが、この町からは出たいと思っています。」「わたしも、同じよ。あんな町、一刻も早くここから出て行きたい。」千華はそう言うと、コーヒーを一口飲んだ。 カフェから出た二人は、色んな店を巡った後、昼食を取る為イタリアンレストランへと入った。「美味そうですね。」「そうね。」「何だか、こういう所に来るのもいいですね。」「もう帰りましょうか?」「はい。」 千華と共に町へと戻った忍は、神社の本宮の方で滝が誰かと言い争っている声が聞こえた。「おいおい、祭りは中止だと!?ふざけるな!」「何と言おうと、祭りは中止にする!」「滝さん、どうしてそんな急に・・」「理由は言わん、帰れ!」滝はそう叫ぶと、街の老人達を追い払った。「お祖母様、さっきの方は・・」「あぁ、あいつらの事なら気にするな。」「そうですか・・」「お祖母ちゃん、今夜はお弁当にしない?たまには手抜きしたいでしょう?」「そうだな。」 一方、歳三は友人の結婚式に出席する為、久しぶりに東京へと来ていた。「よぉトシ、久しぶりだな!」「おぅ、久しぶり!」「田舎暮らしはどうだ、順調か?」「そうでもねぇよ。」歳三はそう言うと、ビールを一口飲んだ。 「おい、大丈夫か?」「あぁ・・」 二次会で少し飲み過ぎた所為で歳三は、そう言うと路上にへたり込んだ。「トシ、どうしたんだ?」「勝っちゃん・・」 歳三が俯いていた顔を上げると、そこには仕事帰りなのか、スーツ姿の勇が立っていた。「すいません、この人の知り合いですか?」「友達の結婚式の二次会で酔い潰れちゃって・・」「そうですか。あとは俺が何とかしますので、勇さんは先に行って下さい。」「わかりました。じゃぁ俺達はこれで。」「トシ、大丈夫か?立てるか?」「うぅ~!」歳三はそう呻くと、近くの植え込みの中に吐いた。勇は泥酔した歳三を抱え、近くのラブホテルに入った。「トシ、水だ!」「あんがと・・」 歳三はそう言うと、勇からペットボトルのミネラルウォーターを受け取った。「お前、下戸なのにどうしてこんな状態になるまで飲んだんだ?」「・・忘れたかったんだ、あの町での事を、全部。」「わかった・・」歳三はそう言うと、目を閉じた。 気晴らしに映画でも観ないか、と勇から誘われるがままに、歳三は彼と学生時代に良く行っていたキネマ座へと向かった。 その日は、タイトルは忘れてしまったが、動物と人間の友情を描いた作品と、アメリカのベストセラー作家の小説が原作の、純愛映画だった。「シネコンよりも、俺は昔ながらの映画館がいいなぁ。何度でも観られるし、飲食物も持ち込み出来るし・・それに、俺はこんな映画館の雰囲気が好きなんだ。」「俺もそうだよ、勝っちゃん。」 キネマ座から出た後、歳三は勇と共にキネマ座の隣にある洋食屋・ピエロで昼食を取っていた。「何だか、街を歩いていると、無意識に“昔”の面影を探してしまうんだよ。」「・・昨夜は迷惑かけちまって、済まなかったな。」「いや、いいんだ。あの町で、ずっと定年まで暮らすつもりはないんだろう、トシ?」「あぁ。」「色々と面倒な事を片付けたら、いつでもうちに帰って来い。お前の部屋は、毎日掃除して使えるようにしてあるから。」「ありがとう、勝っちゃん・・」 勇とピエロの前で別れ、歳三は新幹線とバスを乗り継いで、鬼蝶町へと戻った。 長旅の疲れを癒そうと歳三がシャワーを浴びる為に浴室へ入ろうとした時、不気味なサイレンが町全体に響き渡った。にほんブログ村
Jun 23, 2020
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―行かないで! 闇の中から、誰かの叫ぶ声が聞こえて来る。その声は、忍が聞いた事がある声だった。悲痛な叫び声の後に、誰かが激しく咳込む音がした。忍がその声が聞こえる方へと向かうと、それは襖を隔てた部屋の中から聞こえた。―沖田先生! 忍が部屋の中に入った時、総司は苦しそうな様子で必死に呼吸しようとしていた。―大丈夫ですか、沖田先生!?―もし、わたしが死んだら・・土方さんの事を、お願いしますね。―そんな、縁起でもない事をおっしゃらないでください!―わたしの命は、もう永くありません。だから、こうしてまだ正気を保っていられる内にあたにお願いしているんです。―わかりました。―必ず、わたしとの約束を、守ってくださいね・・―はい、必ず・・ 総司とそんな約束を交わした数日後、彼は意識を失った。―今夜が峠でしょう。 町医者からそう告げられた忍は、すぐさまその足で呉服屋へと向かった。―白無垢用の生地ねぇ・・今はこんな物しかないけれど、これで良ければ・・―ありがとうございます。 呉服屋から戻った忍は、手に入れた生地で総司の為に白無垢を縫った。―沖田先生、入りますよ。 忍が完成した白無垢を持って部屋に入ると、総司は既に息を引き取った後だった。忍は涙を流しながら彼の髪を櫛で梳き、まだ温もりが残るその肌に死化粧(しにけしょう)を施した。―ゆっくり休んでくださいね。 総司の遺体はその日の夜の内に清められ、官軍に見つからぬよう、極秘裏に埋葬した。―さようなら、沖田先生。 忍は総司を見送った後、一路会津へと向かった。 だが、歳三は既に仙台へと発った後だった。 慌てて仙台へと向かった忍だったが、そこでも彼は歳三に会えなかった。そして、彼は漸く蝦夷地で歳三と会えた。―沖田先生は、静かに旅立たれました。―そうか・・ 歳三はそれ以上、何も言わなかった。激しい戦いの末、歳三と忍は敵の銃弾に倒れた。―いつか、また会えるのなら、その時は・・ そこで、長い夢は終わった。「良く寝ていたな。」「おはようございます、お祖母様。」「おはよう。朝餉はもう出来ている。」「頂きます。」 忍が朝餉を食べていると、真珠の祖母・滝は何処かへ外出しようとしていた。「お祖母様、どちらへ?」「祭りの事で、自治会の集まりがあってな、すぐに戻ってくる。」「行ってらっしゃいませ。」 滝を見送った後、忍は台所の流しで食器を洗っていた。その時、誰かが勝手口のドアを叩いた。『どちら様ですか?』『わたしよ、千華よ、開けて。』 インターホンの画面を忍が覗き込むと、そこにはスーツケースを持った千華の姿があった。「何があったのですか、沖田先生?」「夫と離縁してきたんです。」「そうですか、食事はいかがなさいます?」「もう食べたからいいわ。疲れたから、部屋で休むわね。」「はい。」 千華が奥へと消えた後、忍は溜息を吐いて居間へと戻った。家に居るのも何だか退屈で、忍が出かけようかと思った時、千華が居間にやって来た。「忍君、気晴らしに何処かへ出掛けませんか?」「はい・・」 千華に連れられ、忍は彼女と共に複合商業施設へと向かった。「沢山の物がありますね。」「さぁ、これから色々と買いましょう。」「えぇ。」 そんな二人の姿を遠くから一人の男が見ていた。にほんブログ村
Jun 19, 2020
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―ねぇ、聞いたかい?―沖田家の奥様が・・ 歳三がマンションのごみ捨て場にごみを捨てに行くと、近所の主婦達が早くも沖田家の若夫婦の離婚話で盛り上がっていた。 狭い田舎町ではプライバシーなどなく、離婚など今時珍しくない事までを、まるで大事件のように大袈裟に騒ぎ立てる。 この町の人口が年々減っているのは少子化の所為だと住民達が皆口を揃えて言うが、その原因はこの町の閉鎖性にあると歳三は思っていた。 都会から憧れの田舎暮らしを夢見た一家が、次々とこの町から逃げるように去っていったのは、同調圧力と相互監視が当たり前の世界に嫌気がさしたのだろう。「あら土方さん、おはようございます!」「校外学習、楽しみですねぇ。うちの子、楽しみにしているんですよ。」「そうですか・・」「あら、もうこんな時間。」「土方さん、またね。」 主婦達は井戸端会議を早々と切り上げ、ごみ捨て場から去っていった。 人付き合いが面倒なものだと気づいたのは、この田舎町に引っ越して来てからだった。 東京で暮らしていた頃は、他人の視線など気にする事など殆どなかった。 しかし、この町に引っ越して来てからは、やけに他人の視線が気になって仕方がなかった。 自分は気づかない内に、徐々にこの町に巣食っている毒に侵されてしまっているのだろうか―歳三はそんな事を思いながら、コーヒーを淹れた。 コーヒーを飲みながら新聞を読んでいると、スマートフォンが着信を告げた。「もしもし・・」『トシ、俺だ!』「勝っちゃん、久しぶりだな!どうしたんだ、俺に電話してくるなんて珍しいじゃねぇか!」『いやぁ、急にトシの声が聞きたくなってなぁ、あぁそうだ、来週末予定はあるか?』「済まねぇ、今週末仕事なんだ。何かあるのか?」『久御山で合宿する事になってなぁ、お前もどうかと思って誘ってみたんだが・・』「久御山ねぇ・・実は、校外学習でそこに行く事になっているんだよ。」『そうか、じゃぁ会うのが楽しみだな!』「あぁそうだな。」 あっという間に週末を迎え、歳三は勇と久しぶりに久御山で会った。「トシ、久しぶりだなぁ!」「勝っちゃん、少し太ったか?」「バレたか~!」 勇はそう言うと、屈託のない笑みを歳三に浮かべた。「トシは随分と会わない内に痩せたな?」「まぁな・・」「教師は大変な仕事だからな。」「トシ、お前は嘘を吐くと俺と目を合わせようとしないのは、“昔”と変わらない癖だな。」「バレたか・・」歳三はそう言うと、ボリボリと軽く頭を掻いた。「なぁトシ、この後時間あるか?」「あぁ。」「じゃぁ今夜七時に、ここで待っている。」勇はそう言うと、一枚のメモを握らせた。そこには、“今夜七時、西棟のトレーラーハウスBで待ってろ。”と書かれていた。「じゃぁ、またな。」「あぁ。」 久御山の校外学習一日目の夜は、静かに過ぎた。 「真珠が居ないなんて、寂しいわね。」「そうね。」「ねぇ、真珠は今夜、誰に告白するつもりだったのかしら?」「さぁね。」「それにしても、土方先生はどこ?」「知らないわ。」 真珠のクラスメイト達が部屋でそんな事を話している頃、当の本人はトレーラーハウスの中で勇と愛し合っていた。「そんなに、ジロジロ見ねぇでくれ、恥ずかしい・・」「なぁトシ、東京に戻る気はないのか?」「戻る気はある・・あるが、今は戻れねぇ。総司を一人にはしておけねぇ。」「そうか・・なぁトシ、“昔”は色々とお前に寂しい思いをさせたな。でもこれから、ずっと一緒だ。」「あぁ・・」 愛する人の腕に抱かれながら、歳三は静かに目を閉じた。 何故か悲しい夢は、見なかった。「じゃぁトシ、またな。」「あぁ。」 キャンプ場の入り口で勇を見送った後、歳三がキャンプ場の中へと戻ると、丸山が何処か嬉しそうな顔をしながら彼の方へと駆け寄って来た。「さっきの人、土方先生の恋人ですか?」「いいえ、古い友人です。」にほんブログ村
Jun 8, 2020
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「今朝出勤したら、わたしのスマホにこんな物がメールで送られてきた。」洋雄がそう言って隆雄に見せたのは、あの不倫動画だった。「お前は一番大切な時期に、何をやっているんだ!?」「申し訳ございません・・」「相手の女とは早く別れろ、いいな!」「は、はい・・」 父の部屋から飛び出した隆雄は、すぐさま明美を町外れの純喫茶。ジュリアへと呼び出した。「急に呼び出して何の用?」「俺と別れてくれないか?」「はぁ、突然何言ってんの!?あたしは・・」「君との動画が、ネット上に拡散されているんだ。」「それがどうしたっていうの?困るのはあんただけでしょう?」「あ、明美・・」「あたしは失うものなんて何もないわ。さっさと奥さんと別れてよ。」(畜生、俺はどうすればいいんだ?) 同じ頃、真珠―忍は、病室の窓から町の景色を眺めていた。「忍、調子はどうだ?」「少し良くなりました、副長。」「そうか。退院するの、あさってだったな?」「はい。」 忍は退院後、暫く学校を休んで祖母の家に滞在する事になっている。「これから、わたしはどうなるのでしょうか?」「それは、誰にもわからねぇよ。」「そうですか。」 忍はそう言うと、再び窓の外を見た。 ジュリアで隆雄から突然別れ話を切り出された明美は、そのまま車で学校へと向かった。 だが、そこで彼女を待っていたのは、突然の解雇通告だった。「突然で悪いけれど、君の後任は来週来る事になったから。」「そんな・・じゃぁあたしはこれからどうすればいいんですか!?」「そんなのは、自分で考えたまえ。」 明美が職員室で荷物をまとめていると、そこへ歳三がやって来た。「・・次の仕事、早く決まればいいですね。」「うるさいっ!」 明美はそうヒステリックに叫ぶと、そのまま職員室から出て行った。「何あれ~」「自業自得じゃんね。」 明美の後任として来た教師は、朗らかで笑顔が素敵な男性だった。「こんなゴツいけれど、僕こう見えても手先が超器用です、よろしく!」「よろしく~!」 新任の家庭教師・丸山は、男女関係なく生徒達から人気だった。「この学校には珍しいですね、あぁいうの。」「そうですか?」 職員室で歳三がそんな話をしながら事務仕事をしていると、柴田が窓の外で生徒達に囲まれている丸山の姿を見て溜息を吐いた。「何だかね、男らしくないというか・・」「今は個性を大事にする時代ですから、指導する我々も個性を大事にした方が・・」「都会から来た先生は、やっぱり言う事が違うなぁ。」柴田はそう呟くと、そのまま職員室から出て行った。「土方先生、一緒にランチしません?」「いいですよ・・」 丸山に連れられて歳三がやって来たのは、駅前近くのカフェだった。「土方先生は、この町での生活に慣れましたか?」「いやぁ、まだ・・」「ですよねぇ~、僕田舎暮らしに憧れてこの町に来たんですけれど、よくテレビでやっているのはほとんど嘘っぱちですね。」「こういう所は、陰口があっという間に広まりますから、そう言う事言わない方がいいですよ。」「そうですね、すいません。あ、そういえばもうすぐですね、祭り。」「もうそんな時期でしたっけ?」「ネットだと、“美人姉妹の巫女舞が美しすぎる祭り”って、毎年噂になっていますよ。」「そうですか・・」「この町、他の地域と比べて祭りが多いと思いませんか?」「確かにそうですね。」 丸山とのランチを終えた歳三がカフェから出ると、丁度駅前の広場では町長選挙の候補者が演説していた。「わたしは、この町の子供達に・・」「口先だけでしょう、そんなの・・」 数日後、退院した忍は暫く祖母と暮らす事になった。「よぉ来たな。」「お世話になります。」「時が解決してくれる。それまで休め。」「はい・・」 一方沖田家では、千華が隆雄と正式に離婚する事になった。「不倫の慰謝料は必ず頂きますから、そのつもりで。」「あぁ・・」にほんブログ村
May 23, 2020
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※BGMと共にお楽しみください。 どうやら真珠は、階段から落ちて頭を打った後、前世の記憶しか思い出せないようになってしまったようだった。「先生、妹はこれからどうなるんですか?」「それは、まだわかりませんね。いつ妹さんの記憶が戻るのかどうかは、今後の経過を見ないと・・」「そうですか。」 千華は歳三と共に診察室から出ると、突然眩暈に襲われてその場に蹲った。「おい、大丈夫か!?」「はい、突然の事で驚いてしまって・・」「学校は暫く休ませた方がいいだろう。」「そうですね・・」 千華が病院の前で歳三と真珠の事を話していると、そこへ一台の黒塗りのリムジンが停まり、中から隆雄が降りて来た。「千華、またその男と一緒に・・」「ごめんなさい、あなた・・帰るぞ!」千華は隆雄に肩を抱かれながらリムジンの中へと乗り込んだ。“また連絡します。”千華は唇だけ動かしてそう言うと、隆雄と共に病院から去っていった。「あなた、後で話があります。」「何だ?」「わたしと、離婚して下さい。」「・・あの男に唆されたのか?」「今まで家の為にあなたの暴力に耐えて来ましたが、もう限界です。」「黙れ!」激昂した隆雄はそう叫ぶと、千華の顔を殴ろうとした。だがその前に、千華は彼の腕を掴んで、それを背中側にねじり上げた。「わたしがこのままあなたの言いなりになると思ったら大間違いです。」「俺に逆らったら、実家がどうなっても知らないぞ!」「あなたの方こそ、これをネットに拡散されたらどうなるのかしら?」千華はそう言うと、明美と隆雄の不倫動画を見せた。「わたしは家族を守る為だったら何でもするわ。この動画を世間の人にバラされたくなかったら、離婚して下さい。」「考える時間をくれ。」隆雄はそう言うと、奥の自室へと引っ込んだ。「若奥様、食事はいかがなさいますか?」「わたしが適当に作るから、あなたはもう帰っていいわ。」「はい・・」家政婦を帰らせた千華は、自室に入ると机の前に座り、ノートパソコンの電源を入れた。「若奥様、大旦那様がお呼びです。」「わかりました、すぐ行きますとお義父様に伝えて頂戴。」「はい・・」 千華が沖田家当主・洋雄(ひろお)の部屋へと向かうと、そこには彼の愛人であるエミの姿があった。「お呼びでしょうか、お義父様?」「君の妹が学校で事故に遭ったそうだな?」「はい・・幸い軽傷で済みました。」「そうか。」「洋ちゃん、この人に例の話をしたら?」「あぁ、そうだったな・・」 洋雄はそう言って煙草の吸い殻を灰皿に押し付けてその火を消した後、千華をジロリと睨んだ。 「千華さん、あんた最近東京から来た土方先生とやけに親しいようだな?」「えぇ、それが何か問題でも?」「余所者と親しくせん方がいい。」「エミさん、あなた近々海外に行くのですって?」「そうよぉ。」「お義父様、エミさんの留学費用、何処から出ていらっしゃるのか、わたくしが知らないとでも?」「わたしを脅しているのかね?」「いいえ。少しご忠告申し上げただけですわ。」」千華はそう言うと、舅の部屋から出て行った。「何あれ、おっかない。」(わたしはもう、誰からも虐げられたりはしない!) 千華は、ノートパソコンに保存していた動画のデータを、ネット上にアップした。 翌朝、いつものように出勤しようとした隆雄は、先に出勤していた父親から呼び出された。にほんブログ村
May 12, 2020
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「土方先生、大変です!」「どうかなさったのですか、柴田先生?」 何処か慌てた様子で数学科準備室に入って来た柴田を見た歳三がそう尋ねると、彼は歳三に唾を飛ばしながらこう叫んだ。「荻野が階段から転落して怪我をしたんです!」「それは、本当ですか?」「ええ。土方先生も早く病院へ行ってください!」「わかりました!」 机の上に置いてある車の鍵を掴んだ歳三は、数学科準備室から出て駐車場に停めてある自分の車に乗り込んで素早くエンジンを掛けると、そのまま学校から出て病院へと向かった。 一体忍の身に何が起きたのか―そう思いながら歳三が車を病院まで走らせていると、突然彼の前に包丁を持った女が立ち塞がった。 歳三は急ブレーキを掛け、女を轢(ひ)かずに済んだが、女はそこから動こうとしない。「てめぇ、危ねぇだろうが、早くそこから退け!」「・・してよ。」女はブツブツと小声で意味不明な言葉を発しながら、歳三の存在を無視してそのまま闇の中へと消えた。「何だ、あの女・・」歳三はそう呟きながら車内に戻ると、そのまま病院へと向かった。「土方さん、遅いですよ!」「済まねぇ、途中で変な女に会っちまって・・忍の容態はどうだ?」「軽い脳震盪(のうしんとう)で済んだって、さっきお医者様が説明してくれました。」 歳三が病院で千華から真珠の容態を聞いていると、そこへ一人の女子生徒がやって来た。 女子生徒の姿を見つけた千華は、歳三が止める間もなく彼女の頬を平手で打っていた。「貴方が妹を階段から突き落としたのね!」「ごめんなさい、ただ彼女を脅すつもりだったの。殺すつもりはなかったの!」「妹は打ち所が悪かったら死んでいたわ!」「千華さん、落ち着いてください。」歳三が慌てて千華を女子生徒から引き離すと、女子生徒の方は激しく嗚咽しながら床にへたり込んだ。「荻野千華さんですか?」「はい。あの、妹は今何処に・・」「妹さんでしたら、病室に居ますよ。」 千華と歳三が看護師に案内されて真珠の病室に入ると、彼女はベッドの中で眠っていた。「今お薬を打ちましたので、妹さんは眠っておられますが、じきに目を覚まされると思いますよ。」「有難うございました。」看護師に頭を下げた千華は、そのまま歳三の方へと向き直った。「土方さん、さっき廊下に居た子なんですけれど、その子は土方さんの子を妊娠しているって言っているんです。」「何だって!?」「もしかしてその子の事、ご存知ないんですか?」「知っているも何も、廊下で会った子とは俺は初めて会ったぞ?」「そうですか・・じゃぁやっぱり、あの子が嘘を吐いているんですね。」千華がそう言って俯くと、歳三が握っていた真珠の手が微かに動いた。「沖田さん・・それに、土方さんも・・あの、ここは何処なんですか?」「真珠、一体何を言っているの?」「真珠って誰の事ですか?」そう言った真珠は、千華と歳三の顔を交互に見た。彼女の翠の瞳は、何処か遠くを見ているかのようだった。「忍、忍なのか?」歳三が真珠に向かってその名で呼ぶと、彼女は歳三に笑顔を浮かべた。「はい、忍です。」「まさか、そんな・・そんな事が・・」にほんブログ村
Nov 16, 2016
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「土方さんって、昔からモテますよね。男からも、女からも。」「てめぇ、いきなり何言っていやがる!」 昼休み、数学科準備室に入ってきた真珠の言葉を聞いた歳三は、危うく飲んでいたコーヒーで噎(む)せるところだった。「そんなに動揺することないでしょう?」真珠はそう言ってクスクス笑うと、歳三の前に弁当を置いた。「これ、土方さんの為に作ったお弁当です。少し沢庵を多めに入れました。」「有難う。今朝はバタバタしていたから、昼飯を買いに行く時間がなかったんだ。」「土方さん、もしよろしければ、わたしが先生のお宅に行ってご飯をお作り致しましょうか?」「ああ、頼む。後で部屋の合鍵を渡しておくから、放課後ここに来てくれ。」「解りました。では、失礼いたします。」 真珠が数学科準備室から出て教室へと戻ると、沙月が彼女の手を引っ張って友人達が居る席へと座らせた。「ねぇ、本当に土方先生と付き合っていたの?詳しい話を聞かせてよ!」「そんな事を言われても、本当に昔の話だから、あんまり憶えていないのよ。」真珠はしつこく食い下がろうとする沙月の言葉をそう言いながら適当にあしらったが、彼女はまだ納得していない様子だった。「そういえばさぁ、来週だよね、校外学習。」「ああ。もうそんな季節かぁ。」真珠達が通う高校は、毎年六月になると校外学習と称し、町はずれにある久御山で一泊二日のキャンプをする行事がある。 キャンプといっても、久御山の山頂にある宿泊施設の敷地内でバーベキューやキャンプファイヤーをするだけのものなのだが、生徒達にとっては体育祭や文化祭といったメインイベントの次に楽しみな行事のひとつだった。それというのも、キャンプファイヤーの後にこの高校の伝統行事のひとつである、愛の告白イベントがあるからだ。「ねぇ、真珠はイベントに参加するの?」「参加しようかしら。勿論、告白する相手は決まっているけど。」「余裕綽々な態度がちょっとムカつくんですけど~!」「あら、ごめんなさい。」そう言いながら友人達と笑い合う真珠の姿を、憎悪が込められた目で彼女を睨んでいる女子生徒の姿があった。「じゃぁ真珠、バイバイ。」「バイバイ、また明日ね。」 放課後、部活に出る為帰宅する沙月達と教室の前で別れた真珠が道場へと向かおうとした時、一人の女子生徒が彼女の前に立ち塞がった。「荻野さん、話があるんだけれど、いいかしら?」「わたしに話したい事って何かしら?」「貴方、土方先生と付き合っているって本当なの?」「本当よ。それが貴方と何か関係があるの?」「関係があるわよ、大ありよ!」女子生徒はそう言うと、真珠の胸倉を掴んだ。「どうして貴方が、土方先生と付き合っているのよ?貴方なんか、土方先生に相応しくない!」「何をするのよ、離して!」「土方先生と別れてよ、あの人はわたしだけのものなの!」「何を訳の分からない事を言っているのよ!」「貴方は何も知らないようね、じゃぁ教えてあげる!わたしは、土方先生の子を妊娠しているのよ!」 真珠が驚愕の表情を浮かべながら女子生徒の方を見た時、彼女は階段から真っ逆様に落ちていった。(・・忍の奴、遅ぇな・・) 歳三が数学科準備室で真珠を待っていると、学校の外から救急車のサイレンの音が聞こえて来た。にほんブログ村
Nov 14, 2016
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だが明美に刃物を突き付けられた真珠は、それに怯えるどころか、口元に薄笑いを浮かべていた。「何がおかしいのよ?」「そんなちゃちい得物であたしを殺せるとでも思ってるの?」「舐めてんじゃねぇぞ、クソガキ!」真珠の挑発に逆上した明美は、包丁を握り締めて彼女に突進した。だが武術の心得がある真珠は、難なく彼女の攻撃を躱すと、そのまま彼女の脇腹に強烈な蹴りを喰らわせた。 その蹴りを受けた明美は呻いて床に転がり、体勢を立て直そうとしたが、それは真珠が放った膝蹴りによって阻まれた。 明美の髪を掴んだ真珠は、その顔に向けて唾を吐いた。「あたしを余り怒らせないで。」真珠はそう言うと、明美の利き腕を掴んでそれをへし折ろうと無理な方向へと押し曲げ始めた。 苦痛に呻き、両足をバタつかせる明美の顔を見て満足した真珠は、彼女の腕からそっと手を離した。 安堵の表情を浮かべた明美だったが、それは瞬く間に苦痛の表情へと変わっていった。「今回は手首だけで勘弁してあげる。でも今度わたしや土方さんに舐めた真似をしたら、手首だけでは済まないと思いなさいね?」 耳元でそう真珠が脅すと、明美は彼女にへし折られた右手首を左手で押さえながら静かに頷いた。「おい、誰も居ねぇのか、開けろ!」 廊下の方から歳三の怒声と数人分の足音が聞こえ、真珠はそっと明美から離れると、家庭科室のドアの鍵を解除して廊下へと出た。「荻野、無事か!?」「ええ。先生、前田先生が中で怪我をしてしまったので、救急車を呼んで頂けませんか?」「わかった!」 事情を知らない柴田がそう言って家庭科室の中へと入ると、明美は失禁して気絶していた。「お前ぇ、あいつに何をした?」「別に。少し懲らしめてやっただけです。」真珠はそう言って歳三に向かって笑うと、教室へと戻って行った。「真珠、大丈夫だった?」「ええ。それよりも沙月、次の授業何だっけ?」「次は体育だよ。さっさと着替えて一緒に体育館に行こう。」「またバトミントンかぁ。嫌いじゃないけど、いい加減飽きたなぁ。バレーとかしたいよねぇ。」「まぁ外で授業受けるよりもいいじゃない。体育館の中は蒸し暑いけど、日焼けしないし。」「そうね。」 ジャージに着替えた真珠と沙月が体育館の中に入ると、そこには何故か歳三がスーツ姿で柴田とバトミントンをしていた。「あの二人、何やってんの?」「それがさぁ、柴田が土方先生はモテて羨ましいですねぇとか変な事言って絡んできて、きっと土方先生はスポーツ万能なんでしょうからその腕前を見せてくださいって土方先生に無茶ぶりしてきて、今こんな状態になってんの。」「ふぅん・・柴田も大人気ないことするわね。」「でも土方先生が柴田負かしてない?」沙月達が二人の方を見ると、柴田が苦しそうに呼吸をしながらバトミントンのラケットを振るっているのとは対照的に、歳三は汗ひとつ掻かずに柴田とのラリーを続けていた。 やがて柴田は苦しそうに体育館の床に座り込むと、降参のポーズをした。「いやぁ、参りました。お前達、授業は自習な!」 柴田が体育館から去った後、歳三の元に女子生徒達が黄色い悲鳴を上げながら駆け寄って来た。「先生、格好いい~!」「先生、独身ですか~?」「良かったらお昼一緒にどうですか?」 女子生徒に囲まれた歳三の姿を、真珠は何処か醒めた目で見ていた。にほんブログ村
Oct 24, 2016
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※BGMと共にお楽しみください。「あんな言い方をしたら、みんな誤解するだろうが!?それに、あいつらに俺達の前世の事を教室に戻って説明するっていうのか?」「そうしたら、変人扱いされるでしょうね。きっと今頃、みんなはわたしと土方さんの事を好き勝手に噂をしていますよ。」「てめぇは俺をからかっているのか?」「いいえ。こうして土方さんと二人きりになれる機会を作っただけです。」真珠はそう言うと、セーラー服のスカートを捲り上げた。「お前ぇを抱く気にはなれねぇと言った筈だ。」「姉とは肌を重ねたのに?」「あれは、勢いで・・」「勢いに任せて病院で姉とセックスなさるなんて、昔とは大違いですね。」「人の揚げ足を取るんじゃねぇ!」歳三がそう言って真珠を睨みつけると、彼女はそっと彼の背に手を回した。「貴方はご存知ないでしょう?わたしが貴方と再会するまでの間、どれほどわたしが貴方に恋い焦がれていたのかを。」「真珠・・」「お願い、今はその名では呼ばないで。」真珠は歳三のネクタイを掴み、彼の唇を塞いだ。「忍、俺とお前ぇは昔恋人同士だったかもしれねぇが、今はただの教師と生徒の関係だ。俺の事は諦めてくれねぇか?」「いいえ、諦めません。貴方がわたしを抱いてくださるその日まで、わたしは貴方を害する者を排除します。」「それはどういう意味だ?」「言葉通りの意味ですよ。」真珠はそう言って捲り上げたスカートを下ろしてソファから立ち上がると、数学科準備室から出て行った。「沙月、土方先生と何処行ってたの?」「ちょっと、土方先生と話す事があってね。」「何、教えてよ~!」「いくら沙月が友達でも、さすがにそれは言えないなぁ。」 家庭科室で真珠と沙月がクッキーを作りながらそんな話をしていると、明美が二人の方へとやって来た。「二人とも、口を動かさないで手を動かしなさい!」「解りました、先生。授業に集中したいので、スマホをマナーモードにするか、電源を切ってくださいませんか?さっきから着信音がうるさくて堪りません。」「貴方、わたしに口答えする気なの!?」「いいえ、ただ注意しているだけですよ。」「貴方って可愛げがないわね、本当に!」「八方美人よりもマシでしょう。」 明美は真珠を睨みつけると、家庭科準備室のドアを乱暴に閉めた。「ねぇ、前田先生にあんな口の利き方をしてもいいの?」「単位を落としたければ、すればいいわ。沙月、あんな女に構ってないで、さっさと終わらせましょう。」「う、うん・・」 一限目の授業が終わり、真珠が沙月達と共に家庭科室から出て行こうとした時、明美が真珠の腕を掴んだ。「荻野さん、話したい事があるの、いいかしら?」「ええ、いいですよ。」「真珠、大丈夫なの?」「大丈夫よ、沙月。土方先生には心配しないでくれって伝えておいて。」「わかった・・」 沙月達が家庭科室から出て行ったのを確認した後、明美はドアに内側から鍵を掛けた。「わざわざ人払いをさせておいてお話することって何ですか?」「あんたよね、この動画を流したの?」明美はそう叫ぶと、持っていたスマホを真珠に見せた。その画面には明美と彼女の不倫相手である隆雄とのセックスの様子を撮影した動画が映っていた。「そんなもの、知りません。先生が流したんじゃないんですか?」「ふざけるんじゃねぇ!」明美はそう叫ぶと、包丁入れから包丁を取り出し、その切っ先を真珠に突き付けた。にほんブログ村
Oct 24, 2016
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「あら荻野さん、居たの?もうすぐ朝のHRが始まる頃でしょう、教室に戻りなさい。」 明美は自分の背後に真珠が立っていることに驚いたが、すぐに彼女は教師の仮面を被るとそう真珠にここから立ち去るように言った。 だが、真珠はそんな明美の言葉を鼻で笑った。「急に教師ヅラをするんじゃないわよ、このアバズレ。あんたがうちの義兄さんと不倫していること位、とっくに知っているんだから。」「な・・」怒りで顔を赤くした明美に、真珠は一歩近づき、ポケットからライターを取り出すと、その炎を彼女の前に翳した。「土方先生に舐めた口を利くと、あんたをタダじゃおかないから、憶えておきなさい。」「あ、あたしを脅すつもり!?」「あたしはあんたが今何を思っているのか、手に取るように解るのよ・・だってあたしは、あの胡蝶姫の血を継いでいるんだから。」“胡蝶姫”という言葉を聞き、恐怖で顔を引き攣らせた明美は、そのまま真珠に背を向けて家庭科準備室へと去っていった。「荻野さん、ライターを持ってくるなんていけませんよ。」「先生、何処まで見ていたんですか?」真珠はそう言って自分と明美のやり取りを廊下から見ていた養護教諭・山科の方を見た。「最初から・・詳しく言えば、土方先生を前田先生が脅していたところからですよ。それにしても、彼といい君といい、そんなに気が強いと周りから憎まれてしまいますよ?」「憎まれて結構です。あのような輩には罰を与えないといけません。」真珠は口端を上げて笑うと、山科の顔を覗き込んだ。「先生、この事は誰にも言わないでくださいね?」「言う訳がないでしょう。君は僕を信用しないのですか?」「その言葉を聞いて安心しました。それじゃぁわたし、教室に戻らないと。」真珠は山科にそう言って背を向け、教室へと戻った。「荻野さん、おはよう。」「おはよう、沙月。」「おはよう、真珠。今日の一限目、家庭科の調理実習で同じ班だね。宜しくね。」「こちらこそ、宜しく。」「ねぇ、真珠って土方先生と付き合っているの?」「今は付き合っていないわ。昔は土方先生と付き合っていたけれど。」「ええ、嘘~!」友人の沙月が真珠の言葉を聞いて大声を出したとき、朝のHRを告げるチャイムが校内に響いた。「おはよう。」「先生、おはようございます。」歳三が教室に入ると、何故か生徒達が自分を見る目が変だと言う事に彼は気づいた。「出欠を取るぞ、名前を呼ばれた奴から返事をしろ。」「はぁい。」 朝のHRが終わり、歳三が教室から出て行こうとした時、沙月が彼の方へと駆け寄って来た。「土方先生、真珠と昔付き合っていたって本当ですか?」 沙月の爆弾発言に、教室中が一斉にざわめきだした。「嘘!?」「荻野さん、いつから土方先生と知り合いだったの?」「大人しい顔をしてやるわねぇ~」 クラスメイト達が自分をからかう声を真珠は完全に無視すると、歳三の手をそっと取って彼に向かってこう言った。「土方先生、少しお話ししたいことがあるんですけれど、いいですか?」「あ、あぁ・・」「沙月、前田先生に少し授業に遅れるって言っておいて。」「うん、わかった!」 歳三は真珠を連れ数学科準備室に入ると、内側から鍵を掛けて真珠を近くに置いてあったソファに押し倒した。「てめぇ、一体何をした?」「何も。ただ事実をみんなに言っただけです。」そう言った真珠は歳三を見つめると、口端を上げて笑った。にほんブログ村
Oct 24, 2016
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「あたし、パチンコで借金があるんですよねぇ~、悪いんですけれど、それ土方先生が立て替えといてくれませんかぁ?」「幾らだ?」「総額で300万。それさえ払ってくれればこの事は誰にも言いませんから。」明美はそう言って車の窓を閉めると、そのまま雨の中へと消えていった。 自分と千華の情事を撮影した動画がネットに拡散したら、この狭い田舎町で千華は暮らしていけなくなってしまう。千華だけではない、自分や彼女の妹の真珠も、住民達の冷たい視線に晒されてしまう。あの動画をネットに拡散させないためには、素直に明美の要求を呑めばいいのだろうか―そんな事を思いながら歳三がマンションの中へ入ろうとした時、誰かが彼の肩を叩いた。「土方さん。」歳三がゆっくりと振り向くと、そこには制服姿の真珠が立っていた。「真珠、学校はどうしたんだ?」「お祖母ちゃんが学校に来てくれて、今回はお咎めなしになりました。それよりも土方さん、さっき前田先生に脅されていましたよね?」 真珠の翡翠の双眸が、強張った歳三の顔を射抜くかのように見た。「どうしてお前ぇがそんな事、知ってるんだ?」「義兄さんから、お姉ちゃんが土方さんに攫われたっていう連絡が来たから、病院の方に行ってみたんです。そしたら、前田先生の妹さんがお姉ちゃんの病室の前でスマホを弄っていたんです。何をしているのかと彼女に声を掛けたら、彼女はバツの悪そうな顔をしてナースステーションに戻っていきました。」 真珠は鞄の中からスマホを取り出すと、例の動画を歳三に見せた。「その動画、何処で手に入れた?」「あの人、そそっかしいから、自分のスマホをナースステーションのカウンターに置きっぱなしにしてたんですよね。まぁ、この動画以外にも、面白いものが沢山このスマホに詰まってますけど。」 真珠はそう言ってスマホを鞄の中にしまい、歳三にタオルを手渡した。「言っておくがこの前みたいに俺に迫っても、俺はお前ぇを抱く気なんざさらさらねぇぞ?」「そんな事、解っていますよ。それよりもパソコン少しお借りしてもいいですか?」「あぁ、構わねぇよ。」 歳三がシャワーを浴びた後、脱衣所で濡れた髪をドライヤーで乾かしていると、真珠が居るリビングの方から物音が聞こえて来た。「おい、何かあったのか?」「土方さん、これ見てください。」真珠がそう言って歳三に見せたものは、明美が不倫相手と情事に耽っている動画だった。「あの先生、土方さんを脅迫しておきながら、自分も同じ事をしているんですね。」「その動画、あのスマホからコピーしたのか?」「ええ。この動画のデーターのバックアップを取っておきましたから、後はこの動画をどう使うのかは土方さんにお任せします。」「そうか、有難う。」 翌朝、歳三が出勤して職員室に入ると、彼を待ち伏せしていた明美が職員室にやって来て彼を人気のない所へと連れて行った。「先生、お金まだですかぁ?」「お前ぇみてぇな女に払う金は一銭もねぇよ。」「あんた、ふざけてんの!?」歳三の言葉に逆上した明美が彼の胸倉を掴んだが、歳三はその手を邪険に振り払って彼女を突き飛ばした。「ふざけてんのはてめぇだろうが。俺を余所者だと思って舐めて貰っちゃ痛い目遭うのはそっちだぜ?」 歳三は紫紺の瞳で明美を睨みつけると、彼女に背を向けて職員室へと戻った。「何よあいつ、ムカつく!」「ムカつくのはあんたの方でしょう?」 突然背後から声が聞こえ、明美が振り向くと、そこには冷たい目で自分を睨んでいる真珠の姿があった。にほんブログ村
Oct 20, 2016
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前半性描写があります。苦手な方はご注意ください。「お願い、抱いて・・」 歳三は千華の唇を塞ぐと、彼女をベッドへと押し倒した。彼女の病院着を脱がした歳三は、そのまま彼女の首筋から乳房へと唇を吸わせた。「早く、下も触って・・」「そんなに焦(あせ)るなよ、時間はまだたっぷりある。」「いやよ、焦(じ)らさないで!」 千華はそう叫ぶと、歳三のズボンのジッパーを下げ、彼のものを咥えて愛撫を始めた。「やめろ・・」歳三は千華の行動に驚き、彼女の頭を自分の股間から退かせようとしたが、千華は歳三のものを喉奥まで咥えこみ、激しくそれを吸い上げた。「ふふ、漸く大きくなったわね・・」千華はそう言って歳三をベッドの上に押し倒すと、そのまま彼のものを自分の陰部に挿入した。 彼女が歳三の上で激しく腰を振る度に、艶やかな彼女の黒髪が歳三の顔にかかった。「もうやめろ、総司・・」限界が近づいて来たのを感じた歳三は、自分の上に覆い被さっている千華を退かそうとした。だが、千華は歳三に覆い被さったまま退こうとせずに絶頂を迎えると、そのまま彼の胸に顔を埋めた。 そのまま歳三と千華は、互いの身体を激しく貪り合った。 総司の訃報を知ったのは、歳三が蝦夷地の土を踏んでからすぐの事だった。“あの、土方さん・・”“済まない、一人にしてくれ・・” 小姓の市村鉄之助を自室から下がらせた歳三は、降り続ける雪を窓から眺めながら、静かに涙を流した。(総司・・もし来世に生まれ変わることができたなら、絶対に今度は独りでは死なせねぇ!) 激しい雨音を聞いて歳三が目を覚ますと、隣には千華の姿があった。歳三は彼女を起こさないように床に散らばった服を拾い上げて着ると、そのまま千華の病室から出た。 傘を持たずに土砂降りの雨の中を歳三が歩いていると、一台の車が彼の前に停まった。「あらぁ、誰かと思ったら、土方先生じゃないですかぁ~」車の窓が開き、中から同僚教師の前田明美が歳三に声を掛けて来た。「こんな雨なのに傘もささずに帰るなんて大変でしょう?家まで送っていきますよ。」「いえ、大丈夫です。」「沖田家の若奥様と病院で盛り上がった事、誰にも言いませんから。」明美の言葉を聞いた歳三の眉間に皺が寄った。「てめぇ、その話を何処で聞いた?」「やだぁ、怖~い。さっき沖田家の若奥様が入院されている病院で働いている看護師の妹からメールと動画が送られて来たんです。まさかあのお淑やかな沖田家の若奥様があんなに淫らだったなんて・・」 明美はクスクスと笑いながら、歳三に彼女の妹から送られてきたという動画を見せた。そこには病室で激しく互いの身体を貪り合う歳三と千華の姿が映っていた。「この動画、今すぐにネットで拡散させようと思っているんですけれど、そんな事になったら若奥様、あの若旦那様に殺されちゃいますね。」「てめぇ、何が望みだ!?」「お金ですよ、お・か・ね!」そう言って自分に向かって笑う明美の顔が、歳三には悪魔に見えた。にほんブログ村
Oct 20, 2016
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歳三に病院へと連れられた千華は、暫く入院することになった。「いつから、あんな事をされていたんだ?」「結婚してからすぐです。わたしが至らないから、主人はわたしを殴るんです。」 病院着姿の千華は、そう言うと弱々しく歳三に微笑んだ。「この事は、妹や祖母には言わないでください。妹がもしこの事を知ったら主人を殺してしまうかもしれません。」「警察に言った方がいい。あんたの旦那は異常だ。このままだとあんた、あいつに殺されるぞ!」「警察なんてあてに出来ません。主人の親戚が警察の上層部に居るんです。身内の恥なんて、もみ消すに決まっています。それに主人がわたしを殴るのは、わたしが不妊症だからです。」「あんたの旦那の方にも原因があるんじゃねぇのか?そういう事は、病院で調べて貰った方が・・」「一度夫婦で調べて貰いました。そしたら、わたしは妊娠できにくい身体だと、お医者様から言われました。その日から、主人は何かと理由をつけてわたしを折檻するようになったんです。」「あんた、そんな事で我慢しなくちゃならねぇ道理なんてねぇだろうが!」 夫婦の問題に口を挟みたくはないが、歳三は千華の話を聞いている内に彼女に腹が立ってきた。「今からあんたの家族にあんたから聞いた話をしてくる。」「やめてください!」病室から出ようとした歳三の腕を、千華は慌てて掴んだ。「この事が家族に知られたら・・わたしは沖田家と離縁されてしまいます!」「別にあんな奴と夫婦を続けても意味がねぇだろうが?」「貴方は余所者だから何も知らないでそんな呑気な事が言えるんです!」涙を流しながらそう怒鳴った千華の言葉に、歳三は思わず彼女の方を振り向いた。「それ、一体どういう意味だ?」「沖田家と荻野家は昔、敵同士だったんです。両家の間で争いが何度も起こり、その度に多くの血が流れてきました。両家の当主達は、互いの家に娘を嫁がせるという契約を交わし、争うのを止めました。わたしは荻野家の長女だから、しきたり通りに沖田家へ嫁に行ったのです。嫁へ行ったわたしは、生涯婚家の為に尽くす義務があるんです。離婚なんて、とんでもない!」「千華さん、あんたが抱えている事情を詳しくは知らねぇが、そんなしきたりに縛られてあんな家に居たって、あんたが不幸になるだけだろうが!」「土方さんの所為でしょう、貴方があの人と結婚する前にわたしと会ってくれなかったから、わたしは今不幸で惨めな生活をしているんです!」 酷い言いがかりだが、千華は何故か自分が惨めな生活を送っているのは歳三の所為だと思い込むことしか出来なかった。 そうすることでしか、千華は心の平安を保てないのだ。「総司・・お前ぇはすっかり変わっちまったんだな・・」「変わっているに決まっているでしょう?貴方と別れてから、百年以上も経っているんですよ?」千華はそう言ってベッドから降りると、歳三に抱きついた。「さっきは貴方を責めてごめんなさい・・」「いや、気にするな。」「土方さん、ひとつお願いがあります。わたしを抱いてください。」「総司・・悪ぃがそれは出来ねぇ。」「抱いてくれないのに、どうしてその名前でわたしを呼ぶの?」「それは・・」歳三が千華を見ると、彼女の顔は涙で濡れていた。 その顔を見た途端、歳三の脳裏に辛い前世の記憶が甦って来た。“わたしを置いていくの、土方さん?” 北へと向かう歳三が総司に別れを告げに彼の療養先である千駄ヶ谷を訪れた時、彼はそう言って自分を責めるような顔をした。 その時の総司の顔と、千華の顔が重なって見え、歳三はいつの間にか千華を抱き締めていた。にほんブログ村
Oct 18, 2016
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病院の廊下で男―千華の夫・沖田隆雄と殴り合いの喧嘩をした歳三は、看護師の通報を受けた警察によってパトカーで警察署に連行された。「あんた、ここに来たばかりだろう?それなのに面倒を起こしたら後々困った事になるよ?」 歳三を取り調べた刑事は、隆雄との示談が成立したらこの事件は白紙にしておくと言って来た。「まぁ、あんたは沖田家の若奥様を守ろうとして殴ったんだから、一応正当防衛として認められるね。沖田家の若様の方も、自分の非を認めたし。もうあんたは帰ってもいいよ。」「待てよ、今総司・・じゃない、千華さんは何処に居るんだ?」「ああ、彼女ならさっき若様と一緒に家に帰ったよ。」「馬鹿野郎、そんな事をしたら、彼女はあいつに殺されちまうだろうが!」「若様はそんな事はしないよ。若奥様の事を心から愛していらっしゃるからね。」 歳三は自分を取り調べた刑事に、千華が夫から暴力を受けていることを何度も訴えたが、彼は聞く耳を持たなかった。 千華の身が心配で堪らなかった歳三は、彼女の嫁ぎ先である沖田家へとタクシーで向かった。 沖田邸は、まるで時代劇に登場するかのような立派な武家屋敷だった。『どちら様でしょうか?』 歳三がインターホンを押すと、中から家政婦と思しき女性の声が聞こえた。「あの、若奥様はご在宅でしょうか?わたくしは若奥様の妹さんの担任をしております、土方と申します。」 暫く女性は黙り込んでいたが、数秒後玄関ドアのロックが外される音が聞こえた。「土方様、ようこそいらっしゃいました。若奥様は母屋でお待ちです、こちらへどうぞ。」 着物に割烹着姿の家政婦と共に歳三が母屋の中に入ると、奥の部屋から女の悲鳴が襖越しに聞こえた。「若様、土方様がお見えになりました。」「そうか。暫く待つように言ってくれ。」 数分後、歳三が客間で千華を待っていると、そこへ隆雄が現れた。「病院での事は、本当に済まないと思っています。千華さんの様子が気になってこちらへ伺ったのですが、彼女は今どちらに?」「あぁ、妻でしたら体調を崩して今部屋で休んでおります。」「そうですか・・では、千華さんによろしくとお伝えください。」「解りました。」 客間から出た歳三が沖田邸を後にしようとした時、奥の部屋から女がすすり泣く声が聞こえた。 その声は、先程奥の部屋で聞いた悲鳴のものと同じ女の声だった。「そこに、誰か居るのか?」歳三がそう言いながら恐る恐る奥の部屋の襖を開けると、そこには全裸で部屋の隅に蹲っている千華の姿があった。「千華さん、どうしてこんな・・」「こいつがわたしに恥をかかせたから、罰を与えただけですよ。」 歳三の背後から突然隆雄が現れてそう言うと、手に持っていた木刀で彼は千華の白い裸体を容赦なく打った。痛みのあまり千華が呻き声を上げると、隆雄の目に残忍な光が宿った。「先生、こいつはわたしにいたぶられるのが好きな淫乱なんですよ。こうしている間にも、こいつは股を濡らしてわたしのものを欲しがっているのですから。」隆雄はそう言うと、口に咥えていた煙草の火を千華の柔肌に押し付けた。「夫婦水入らずの時間を邪魔しないでいただけませんかねぇ、先生?」「悪ぃが、それは聞けねぇな。」歳三は隆雄を睨みつけ、スーツの上着を千華に羽織らせると、そのまま彼女を横抱きにして沖田邸から去っていった。「お客さん、その人は?」「悪ぃが運転手さん、病院に行ってくれねぇか?」 タクシーの運転手は、サイドミラー越しに歳三が抱いている女性が千華だと解り、黙って病院までタクシーを走らせた。にほんブログ村
Oct 18, 2016
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「土方さん・・じゃなかった先生、おはようございます。」 歳三の声に振り向いた真珠の白い頬は、赤い血で汚れていた。「てめぇ、一体何をしてたんだ?」「別に。ただこいつが生意気な口を利いたから懲らしめてやっただけです。」まるで天気の事を話すかのように、真珠は暢気な口調でそう言うと床に伸びている男子部員の脇腹を蹴った。 男子部員が痛みのあまり呻くと、真珠は舌打ちしてそのまま血だらけの木刀を持ったまま道場から出て行こうとした。「おい待て、何処へ行くつもりだ?」「そんな事、土方先生には関係ないでしょう?」真珠は自分の腕を掴んでいる歳三の手を邪険に振り払うと、そのまま道場から出て行ってしまった。「おい、大丈夫か?」歳三が床に倒れている男子部員の方へと駆け寄ると、彼は苦しそうに呼吸していた。「誰か、救急車呼べ!」 道場を出た真珠は、保健室に入るとそのままベッドに身体を投げ出した。「またあなたですか。いけませんね、ずる休みは。」ベッドを仕切るカーテンが勢いよく開き、白衣姿の男が真珠の前に現れた。「さっきひと暴れしたので、疲れたんです。少し休ませてください、先生。」「貴方はいつも誰かと喧嘩していますね。一体貴方は何と戦っているのですか?」「さぁ、わたしにもわかりません。先生こそ、どうしてわたしの事を気に掛けるんですか?」「貴方みたいな子を更生させるのが、わたしの役目だからですよ。」 男はそう言って真珠に微笑むと、彼女の唇を塞いだ。「悪い男(ひと)ですね、先生って。」真珠は男からのキスを受け入れ、彼の背中に手を回した。「先生、また妹が何かやったんですか?」 真珠によって暴力を振るわれた男子部員に付き添う為病院へと向かった歳三は、そこで千華に会った。「ええ。あの、あいつはいつもあんな事をするんですか?」「妹は・・真珠は、いつも誰かと喧嘩ばかりしないと気が済まないみたいで・・中学の時は一番荒れていました。精神科にも通わせましたが、お医者様から原因が判らないと・・わたしは恐らく、前世の事をあの子が引き摺っているんだと思うのですが、土方先生はどう思われますか?」「千華さん、貴方は前世の記憶があるんですか?」「ええ。わたしと貴方が前世では恋人同士だったことや、前世では悲しい別れをしたことは、全て憶えています。いつか会えると信じていました、土方さん。」 千華はそう言うと、人目も憚(はばか)らず歳三に抱きついた。「千華さん、やめてください。貴方にはご主人がいらっしゃるのでしょう?」「どうして主人と結婚する前に、貴方と会えなかったのかしら。そうしたら、貴方と結ばれていたのに。」 千華は歳三の胸に顔を埋めて涙を流していると、突然歳三は激しい殺気に襲われた。「千華、こんな所で何をしているんだ!?」「あ、あなた・・」 千華がそう言って怯えた目で自分達の前に立つ男を見た。「わたしに隠れて浮気でもするつもりか?誰がお前達を食わしてやっていると思っているんだ!」 銀縁眼鏡を掛けた男は怒りに滾った目で千華を睨みつけると、彼女の髪を鷲掴みにして彼女を無理矢理歳三から引き離し、彼女の顔を容赦なく拳で殴った。 固いリノリウムの床に倒れたまま動かない千華の姿を見た歳三は、気が付くと男の胸倉を掴んでいた。「てめぇ、総司に何をしやがる!?」「貴様、何者だ!?」「うるせぇ!」 歳三はそう男に怒鳴ると、彼の顔面を拳で殴った。にほんブログ村
Oct 10, 2016
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翌朝、歳三は外から聞こえる車のクラクションの音で目を覚ました。 眠い目を擦りながら彼が寝室から出ると、キッチンでは朝食を作っている真珠の姿があった。「土方さん、おはようございます。」「おはよう。昨夜は良く眠れたか?」「はい。もうすぐ朝ご飯できますから、待ってください。」 数分後、食卓に並べられたのは、鮭の塩焼きと玉葱と人参の味噌汁に白ご飯、そして沢庵の漬物だった。「どうぞ、召し上がってください。」「美味そうじゃねぇか。」歳三がそう言って真珠が作った朝食を頬張ると、彼女は嬉しそうな顔をしてその様子を見ていた。「それじゃぁ、わたし部活の朝練があるので先に出ますね。」「ああ、気を付けて行って来い。」「はい。土方さん、ひとつお願いがあるのですが・・」「何だ?」「キス、してくださいますか?」「そんな事、お安い御用だ。」歳三はそう言って真珠に向かって微笑むと、彼女の唇を塞いだ。「行ってきます。」真珠が部屋から出て行った後、歳三は車で学校へと向かった。「土方先生、おはようございます。」 教職員用の駐車場に車を停め、歳三が車から降りると、この学校へ赴任した日に学校を案内してくれた体育教諭・柴田が声を掛けてきた。「おはようございます。」「今日は早いですね。これから部活ですか?」「はい。柴田先生は?」「わたしはそろそろ校門で生徒の生活指導をしなければなりません。あぁそうだ、土方先生にお耳に入れたいことがあるんですが・・」「何でしょうか?」「剣道部に、荻野っていう生徒が居るでしょう?あいつは問題児ですよ。」「問題児?」「ええ。あいつは剣道部のエースなのですが、いつも誰かと喧嘩ばかりして、何度か警察沙汰になったことがあります。あいつに深入りするのは止めた方がいいですよ。」柴田はそう言うと、歳三に背を向けて校門の方へと駆けていった。 柴田の話を聞いた歳三は、自分の為に朝食を作った真珠が問題児のように見えなかった。一体彼は自分に何を伝えたかったのだろうか―そんな事を思いながら歳三が剣道部の練習が行われている道場へと入ると、いつも中から朝練に励む部員達の声が聞こえてくる筈なのだが、今日に限って道場は静まり返っていた。「先生!」「どうした、何かあったのか?」 歳三が道場の中へと入ると、一人の男子部員が彼に駆け寄って来た。「僕がいけないんです、僕が弱いから・・」「俺に解るように話せ。」「荻野さんが大変なんです!」 男子部員に手をひかれ、歳三は目の前に広がっている光景に目を疑った。 そこには、木刀を片手に二年の男子部員を容赦なく打ち据える真珠の姿があった。その横顔は、夜叉そのものだった。にほんブログ村
Oct 10, 2016
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「忍、どうしてお前はここに来たんだ?」「それは、先生にお情けを頂く為です。」 そう言うと歳三の前世の恋人・忍こと真珠は、着ていたセーラー服の胸元のリボンを解き始めた。「おい待て、性急すぎないか?」「わたしはもう、100年以上も待ちました。お願いです、抱いてください土方さん!」真珠はそう叫ぶと、歳三の上に馬乗りになった。「忍、やめろ!」真珠の手がズボンのベルトに伸びようとした時、チャイムの音が鳴った。「服を着ろ。」「わかりました。」真珠は舌打ちすると、解いていたリボンを結び直した。 歳三がインターフォンの画面を覗き込むと、一人の女性が画面に映っていた。 その女性の顔を見た歳三は、驚愕の表情を浮かべた。(総司!) その女性は、かつて歳三が愛した恋人・総司と瓜二つの顔をしていた。「お姉ちゃん・・」「忍、知り合いか?」「知り合いも何も、この女性はわたしの姉の、千華(ちか)です。」「お前の姉ちゃんが、俺に何か用なのか?」「さぁ、知りません。」そう言った真珠は唇を尖らせ、何処か拗ねたような顔をした。「すいません、こちらに妹が来ていませんか?」 歳三が部屋のドアを開けると、総司と瓜二つの顔をした真珠の姉・千華がそう言って彼を見た。「お姉ちゃん、土方先生に何か用なの?」「用って、貴方がいつまで経っても帰って来ないから心配したんじゃないの!そしたらここのマンションの管理人さんから貴方が来ているって聞いたから来たのよ!」「そんな事を言って、噂の土方先生に会いたかったんじゃないの、お姉ちゃん?今は人妻でも、土方先生とは前世で恋人同士だった仲だものね?」「黙りなさい!」顔を怒りで赤く染めた千華は、そう叫ぶと彼女の手を掴んで無理矢理立ち上がらせた。「ほら、家に帰るわよ!」「嫌よ、わたしは帰らないわ。わたしは一晩土方先生の部屋に泊めて貰うの。」真珠は姉の手を振り解くと、そう言って歳三にしなだれかかった。「駄目よ、家に帰るの!お父さんだって心配しているわよ!」「あの人が心配しているのは自分の世間体だけでしょう?もうすぐ町長選挙が近いし、嫁入り前の娘が独身の教師の家に押しかけた何て噂が広まればあの人の政治家生命が危ういものね?」「真珠、いい加減にしなさい!」千華が妹に手を上げようと左腕を振り上げた時、歳三は反射的にその腕を掴んでいた。「妹さんには俺がよく言って聞かせますから、今日はお帰りになってください。」「すいません・・先生、それじゃぁ妹の事を宜しくお願いしますね。」千華は歳三に頭を下げると、部屋から出て行った。「これで邪魔者は居なくなりましたね。」「いいのか、家に帰らなくても?親父さんが心配しているんじゃないのか?」「言ったでしょう、あの人が心配しているのは世間体だけだって。」自分の父親の事なのに、真珠は何処か冷めたような口調で言った後歳三の胸に顔を埋めた。「こんなことをしても、俺はお前ぇを抱かねぇぞ?」「わかっていますよ、そんな事。暫くこうしておいてくださいよ。」「ったく、しょうがねぇな・・」 真珠が歳三の胸に再度顔を埋めると、彼の鼓動の音が心地よく耳朶に響いた。にほんブログ村
Oct 6, 2016
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※BGMと共にお楽しみください。 1869(明治二)年3月。 この最果ての地に来て二月余り。 鳥羽・伏見の戦いから始まり、宇都宮、会津、仙台と負け戦を重ねて北へ北へと進軍してきた末に辿り着いたのが、この蝦夷地だった。京では桜の季節を迎えようとしているというのに、この地はまだ白い雪に覆われている。歳三は目を閉じ、京都に居た時の頃を思い出していた。京の冬は、蝦夷地の冬と同じくらい寒さが身に沁みたものだったが、何故か寒いと感じなかったのは、近藤や総司達が居たからなのかもしれない。近藤達はもう自分の傍には居ない。彼らは自分を残して、鬼籍に入ってしまった。一人になって、急に寒さが身に沁みる。(寒ぃなぁ・・)強い北風が吹きつけてきて、慌てて歳三はコートの前を掻き合わせたが、冷たい風が容赦なく彼の頬を打つ。コートを握り締めた手はかじかみ、指先が寒さで赤く染まっていた。冷気に晒され、次第に歳三の意識は徐々に薄れていった。このままここで死ぬのも悪くはない―そう彼が思っていると、風が唸る音と共に誰かが自分を呼ぶ声が聞こえた。ふわりと何か暖かいものが肩に掛けられた感触がした後、歳三は意識を失った。―土方さん、起きてくださいよ。こんな所で寝たら、風邪をひきますよ? 闇の奥から聞こえて来たのは、懐かしい総司の優しい声だった。―ほら、起きて。 そっと自分の手を優しく握る総司の手の感触がして、歳三が目を開けると、そこには自分を心配そうに見つめる一人の青年の姿があった。「土方さん、良かった・・」 宝石のような翡翠の双眸に涙を溜めながら、青年は桜色の唇からそう言葉を紡ぐと、歳三の胸に顔を埋めた。「心配かけて、済まねぇな・・」「土方さん一人の身体ではないのですから、もうあんな無茶な事はしないでください!」「あぁ、解っているよ。」「約束ですよ?」 青年の絹糸のような金色の髪を撫でながら、歳三は彼の名を呼び、そして眠りの底へと深く沈んでいった。「・・先生?」 いつの間にか眠ってしまったようで、歳三はゆっくりとソファから身体を起こした。そこには自分の手を握る少女の姿があった。その少女の姿と、脳裏に残っていた映像に現れた青年の姿が重なった。「・・どうやら、思い出してくださったようですね。」少女はそう言うと、華が綻ぶかのような笑みを浮かべた。「漸く会えたな、忍。」「お久しぶりです、土方先生・・土方さん。」にほんブログ村
Oct 6, 2016
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「てめぇ、昨日の・・」 歳三がそう言って画面の向こうに居る少女を睨んでいると、彼女の背後からマンションの管理人が現れた。『土方さぁん、ちょっと開けてくれないかしらぁ?』そう言いながらも彼女は勝手に施錠されたドアのロックを解錠しようとエプロンのポケットから歳三の部屋の合鍵を取り出していた。「今開けますから!」慌てて歳三がドアを開けると、管理人は愛想笑いを浮かべて少女と歳三を二人きりにさせた後、そそくさとその場を後にした。「俺に何の用だ?」「あの、昨日の事を謝りたくて来ました。」「まぁ、こんな所じゃ人目につくから、入れ。」「は、はい・・」 歳三は少女を部屋に招き入れた。「お邪魔します。」「それで、俺に謝りたい事って何だ?昨日神社の境内で急に俺に抱きついて首筋を噛んだ事か?」「それは、理由があって・・」少女はそう言うと、俯いた。「その理由は後で話してくれ。まずはお前ぇの名前を聞こうか?」「わたしは荻野真珠と申します。」「しんじゅ?変な名前だな。」「真珠じゃありません、真珠と書いてまじゅと読むんです。あの、貴方は確か、先週うちの高校に赴任してきた土方先生ですよね?」「あぁ、そうだが・・何で俺がここに住んでいることを知っているんだ?」「ここのマンションの管理人さん、うちのお祖母ちゃんとカルチャースクール仲間なんです。」「そうか・・」 田舎のネットワークは狭いと聞いたことはあるが、まさか真珠の祖母とマンションの管理人が知り合いだとは思わなかった。「それで、昨日俺にお前ぇがしたことに何の理由があるんだ?」「実は、先生の“気”に特別なものを感じてしまったので・・」「突然オカルトじみた話をされても訳がわからねぇよ。一体どういうことだ?」「こういうお話を初対面の先生に話すのは信じて貰えないかもしれませんが・・わたしには、特殊な能力があるんです。」「特殊な能力?」「普通の人には見えないものが見えるんです。お祖母ちゃんが言うには、わたしには“胡蝶姫”の血をひいているからだと・・」「そのなんとか姫って何だ?」「あぁ、先生は余所からいらっしゃった方だからご存知ありませんよね、胡蝶姫と鬼の伝説。胡蝶姫は昔、この土地を治めていた領主の娘で、人ならざるものが見える能力を持った巫女だったのです。胡蝶姫はこの土地を守り、領民達から慕われていました。けれど彼女は、孤独だったんです・・自分が持つ能力の所為で。」 そう言った真珠の宝石のような翡翠の双眸が少し翳ったのを、歳三は見逃さなかった。「無理に話さなくてもいいんだぜ?」「いいえ、先生にもこの土地の伝説と、それに纏わる因習を是非知って頂きたいのです。」真珠は俯いた顔を上げ、歳三を見つめた。その瞳には、強い意志の光が宿っていた。「あの・・こう言うのも変ですが、先生を昨日一目見た時、わたしは先生の姿を通して大切な人の姿と重ねて見ていたのかもしれません。」「大切な人?」「上手くは言えませんが、昔・・わたしが生まれるずっと前から、先生とわたしは恋仲・・詳しく言えば互いに愛し合う関係だったような気がするんです。」 真珠の言葉を聞いた途端、歳三の脳裏にある映像が浮かんできた。イラスト素材提供:Little Eden様にほんブログ村
Sep 29, 2016
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※BGMと共にお楽しみください。「・・畜生、降って来やがったか。」 この辺鄙(へんぴ)な田舎町に引っ越してきてから一週間が経った。この町にある高校で教師をしている土方歳三は、徒歩で片道一時間半かけて町に唯一あるコンビニで買い物をした帰り道、運悪く雨に降られてしまった。生憎傘を持っていなかった歳三は、全身ずぶ濡れになってしまった。 雨が止むまで何処かで雨宿りをしようと思った彼だったが、辺りは田圃(たんぼ)ばかりで民家や屋根付きの建物が一軒も見当たらなかった。歳三が暫く歩くと、やがて鬱蒼な森に囲まれた神社が見えてきた。(荻野神社ねぇ・・神様には悪いが、少しここで雨宿りさせて貰うとするか。)赤い鳥居をくぐった歳三は、そう思いながら本宮へと続く長い石段を上った。(ふぅ、やっと着いたな・・) 歳三が朱塗りの本宮の前に立つと、突然何処かから鈴の音が聞こえて来た。(何だ?) 歳三が鈴の音が聞こえてくる方を見ると、そこには一人の少女の姿があった。 長い金髪を波打たせた彼女は、翠の瞳でじっと歳三を見つめていた。「俺に何か用か?」「・・見つけた。」少女はそう低い声で呟くと、突然歳三に抱きついた。「お、おい!」突然少女に抱きつかれ、歳三は驚いて思わず彼女を突き飛ばしてしまった。少女は悲鳴を上げて地面に倒れ、彼女が纏っていた巫女装束は泥に塗れてしまった。「済まねぇ、大丈夫か?」歳三が慌てて少女を抱き起そうとすると、彼女は再び歳三に抱きつき、彼の首筋を噛んだ。「甘い・・」「てめぇ、いきなり何すんだ!」歳三がそう言って少女を睨みつけようとした時、彼女の姿は何処にもなかった。(狐に化かされたのか?)神社から自宅マンションの部屋に帰宅した歳三は、シャワーを浴びる為に濡れた服を洗濯機の中へと放り込んだ。 その時、彼は首に違和感があることに気づき、鏡の前に立った。すると、彼の首には何かに噛まれたような傷跡が残っていた。(何だ、これ・・)歳三の脳裏に、神社で会った少女の姿が浮かんだ。あの少女は一体何者なのか―そう思いながら歳三はシャワーを浴びた後、そのままベッドで眠った。 翌朝、歳三が台所で朝食を作っていると、突然玄関のチャイムが鳴った。(こんな朝早くから誰だ?)そんな事を思いながら歳三がインターフォンの画面を覗き込むと、そこには昨日神社で会った少女が立っていた。にほんブログ村
Sep 29, 2016
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