薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月 10
F&B 腐向け転生パラレル二次創作小説:Rewrite The Stars 6
天上の愛地上の恋 大河転生パラレル二次創作小説:愛別離苦 0
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁 12
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻 10
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁 1
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ 5
天上の愛 地上の恋 転生現代パラレル二次創作小説:祝福の華 10
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華 14
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄 1
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊 1
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法 7
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜 18
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は 10
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て 5
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計 9
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫 20
火宵の月 帝国オメガバースファンタジーパラレル二次創作小説:炎の后 1
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母 13
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん 6
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥 7
天上の愛地上の恋 転生オメガバースパラレル二次創作小説:囚われの愛 9
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華 1
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師 4
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥 27
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚 2
ハリポタ×天上の愛地上の恋 クロスオーバー二次創作小説:光と闇の邂逅 2
天上の愛地上の恋 転生昼ドラパラレル二次創作小説:アイタイノエンド 6
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師 1
天愛×火宵の月 異民族クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼と翠の邂逅 1
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている 3
天愛×薄桜鬼×火宵の月 吸血鬼クロスオーバ―パラレル二次創作小説:金と黒 4
火宵の月 昼ドラハーレクイン風ファンタジーパラレル二次創作小説:夢の華 0
火宵の月 吸血鬼転生オメガバースパラレル二次創作小説:炎の中に咲く華 1
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉 54
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~ 6
火宵の月異世界転生昼ドラファンタジー二次創作小説:闇の巫女炎の神子 0
バチ官×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:二人の天使 3
火宵の月 異世界ファンタジーロマンスパラレル二次創作小説:月下の恋人達 1
FLESH&BLOOD 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の騎士 1
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して 20
火宵の月 戦国風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:泥中に咲く 1
PEACEMAKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で 9
火宵の月 和風ファンタジーパラレル二次創作小説:紅の花嫁~妖狐異譚~ 3
天上の愛地上の恋 現代昼ドラ風パラレル二次創作小説:黒髪の天使~約束~ 3
火宵の月 異世界軍事風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:奈落の花 2
天上の愛 地上の恋 転生昼ドラ寄宿学校パラレル二次創作小説:天使の箱庭 7
天上の愛地上の恋 昼ドラ転生遊郭パラレル二次創作小説:蜜愛~ふたつの唇~ 1
天上の愛地上の恋 帝国昼ドラ転生パラレル二次創作小説:蒼穹の王 翠の天使 1
火宵の月 地獄先生ぬ~べ~パラレル二次創作小説:誰かの心臓になれたなら 2
火宵の月 異世界ロマンスファンタジーパラレル二次創作小説:鳳凰の系譜 1
火宵の月 昼ドラハーレクインパラレル二次創作小説:運命の花嫁~愛しの君へ~ 0
黒執事 昼ドラ風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:君の神様になりたい 4
天愛×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー 2
FLESH&BLOOD ハーレクイロマンスパラレル二次創作小説:愛の炎に抱かれて 10
薄桜鬼腐向け転生刑事パラレル二次創作小説 :警視庁の姫!!~螺旋の輪廻~ 15
FLESH&BLOOD 帝国ハーレクインロマンスパラレル二次創作小説:炎の紋章 3
PEACEMAKER鐵 オメガバースパラレル二次創作小説:愛しい人へ、ありがとう 8
天上の愛地上の恋 現代転生ハーレクイン風パラレル二次創作小説:最高の片想い 6
FLESH&BLOOD ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の花嫁と金髪の悪魔 6
薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう) 10
薄桜鬼×天上の愛地上の恋 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:玉響の夢 6
天上の愛地上の恋 昼ドラ風パラレル二次創作小説:愛の炎~愛し君へ・・~ 1
天上の愛地上の恋 異世界転生ファンタジーパラレル二次創作小説:綺羅星の如く 0
天愛×腐滅の刃クロスオーバーパラレル二次創作小説:夢幻の果て~soranji~ 1
天愛×相棒×名探偵コナン× クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧に融ける 1
黒執事×天上の愛地上の恋 吸血鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼に沈む 0
魔道祖師×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想うは、あなたひとり 2
天上の愛地上の恋 BLOOD+パラレル二次創作小説:美しき日々〜ファタール〜 0
天上の愛地上の恋 現代転生パラレル二次創作小説:愛唄〜君に伝えたいこと〜 1
天愛 夢小説:千の瞳を持つ女~21世紀の腐女子、19世紀で女官になりました~ 1
FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇ 2
YOI×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:皇帝の愛しき真珠 6
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず 2
薔薇王の葬列×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:黒衣の聖母 3
天愛×F&B 昼ドラ転生ハーレクインクロスオーパラレル二次創作小説:獅子と不死鳥 1
刀剣乱舞 腐向けエリザベート風パラレル二次創作小説:獅子の后~愛と死の輪舞~ 1
薄桜鬼×火宵の月 遊郭転生昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:不死鳥の花嫁 1
薄桜鬼×天上の愛地上の恋腐向け昼ドラクロスオーバー二次創作小説:元皇子の仕立屋 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君~愛の果て~ 1
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師~嵐の果て~ 1
YOI×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:氷上に咲く華たち 1
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰 2
F&B×天愛 昼ドラハーレクインクロスオーバ―パラレル二次創作小説:金糸雀と獅子 2
F&B×天愛吸血鬼ハーレクインクロスオーバーパラレル二次創作小説:白銀の夜明け 2
天上の愛地上の恋現代昼ドラ人魚転生パラレル二次創作小説:何度生まれ変わっても… 2
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師 1
薄桜鬼×天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿 2
火宵の月 異世界ハーレクインヒストリカルファンタジー二次創作小説:鳥籠の花嫁 0
天愛 異世界ハーレクイン転生ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女 氷の皇子 1
天愛×火宵の月陰陽師クロスオーバパラレル二次創作小説:雪月花~また、あの場所で~ 0
全15件 (15件中 1-15件目)
1
「う~ん・・」「大丈夫ですか?」「あぁ、少し楽になった。」 コルセットを締め過ぎて気絶してしまった歳三は、自室で横になって休んでいた。「情けねぇな、あんなコルセット如きで気絶するとは・・」「仕方ありませんわ、コルセットをおつけになるのは初めてだったでしょうし、慣れればいいのですわ。」「そうか・・」(慣れるものなのかねぇ?) そんな事を思いながら歳三が執務室で書類仕事をしていると、外から誰かがノックする音が聞こえた。「どうぞ。」「陛下、ハノーヴァー伯がお見えになりました。」「通して。」「失礼致します。」 執務室に入って来たハノーヴァー伯の顔色が悪い事に、歳三は気づいた。「顔色が悪いようだけれど、何があったの?」「それが・・」 ハノーヴァー伯は、軽く咳払いすると、異端審問官達が、魔力がある子供達を半強制的に“寄宿学校”へ入学させている事を歳三に話した。「その“寄宿学校”というのは、どういう所だ?」「あそこは、学校ではありません、収容所です!」 いつも冷静沈着なハノーヴァー伯が初めて声を荒げる姿を見て、歳三は思わず羽根ペンを床に落としそうになった。「申し訳ありません、興奮してしまって、つい・・」「いや・・いつも冷静なあんたがこんなに感情的になるのも珍しいと思ってな・・」「それにしても、イリウス司教の横暴ぶりは目に余るものがあります!何でも、彼は異端審問官に賄賂を渡しているとか・・」「へぇ・・」「陛下、近々狩りが行われるそうですよ。」「狩り?」「毎年この季節になると、陛下主催の鹿狩りが行われます。」「そうか。」「あの、失礼ですが、乗馬は・・」「あぁ、馬なら大丈夫だ。それでその狩りとやらはいつあるんだ?」「来月です。」「来月!?準備する時間がねぇぞ!」「ご心配なく、準備の方はわたくし共が滞りなく進めております。」「そうか、ありがとう。」「陛下、お茶を入りました。」「ありがとう、入って来てくれ。」「失礼致します。」 女官が、紅茶が入ったティーポットを載せたワゴンを押しながら執務室に入って来た。「本日の紅茶は、ブルーランド産の茶葉を使ったものです。」「ブルーランド?聞いたことがねぇなぁ。」「この国の南部にある、風光明媚な所ですよ。」「へぇ、一度行ってみたいなぁ。」「是非いらして下さい。ブルーランドは、美しい碧い海と白い砂浜があるのですよ。」「そうか。」 ハノーヴァー伯と歳三がそんな事を話していると、廊下から急に慌しい足音が聞こえて来た。「陛下、大変です!西部で、反乱が起きました!」「反乱だと!?」「はい。イリウス司教率いる僧侶達が、王宮に向かって進軍しているとの事!」「至急皆を集め、閣議を開け!」 歳三は、王宮に貴族達を集め、閣議を開いた。「イリウスは、一体何を考えているのやら・・」「陛下、これは由々しき事態ですぞ!」「イリウスをただちに捕え、処刑すべきかと!」「そうです、手遅れになる前に!」「陛下、ご決断を!」「陛下!」「イリウスを捕えよ。」 閣議が終わった後、歳三は溜息を吐いた後机に突っ伏した。「イリウスは、一体何を考えていやがる?」「それは、本人にしかわからぬ事です。イリウスがおかしな事をしでかす前に早く彼を捕えねば!」「陛下、申し上げます!イリウスが西部の教会に立てこもり、魔力を持つ子供達を連れ去っているとの事!」「何だと!?」「至急西部へ向かうぞ!」 歳三達は、イリウス司教が立て籠もっている西部の教会へと向かう事になった。「長旅になりますので、どうかご無理はなさいませんように。」「わかった。」「トシ、気を付けてね。」 ヴィクトリアに見送られ、歳三とハノーヴァー伯は王宮を出て西部へと旅立った。 一方、歳三の帰りを待っている雪華は、自室で針仕事をしていると、突然息苦しさに襲われ、激しく咳込んだ。「どうしたの、雪華ちゃん、大丈夫?」「すいません、急に息苦しくなってしまって・・」「松本先生、呼んでくるから横になって休んでいて。」「わかりました・・」 雪華は布団の上に横になりながら、歳三の身を案じた。「松本先生・・」「辛そうだな。ちょっと、診てやるから楽にしな。」「はい・・」 松本が雪華を診察した時、彼の背中に奇妙な形の痣がある事に気づいた。「この痣、どうした?」「あぁ、これは生まれつきなんです。」「そうか。どうやら、色々とあり過ぎて身体が参っちまったみたいだから、ゆっくり休みな。」「はい。」 雪華が布団に入るのを確めた後、松本は部屋から出て行った。「先生、雪華ちゃんの様子は?」「ただの風邪だ。まぁ、ここのところ色々とあったからな。」「ええ。こっちも大変ですけれど、土方さんも色々と大変でしょうね。」 総司は、遠い異国―異世界で奮闘している歳三の事を想った。 王宮を歳三一行が出発して一週間が経った。「陛下、もうすぐ宿に着きます。」「そうか。」 その日は朝から土砂降りの雨が降っていて、歳三達も馬も疲れていた。 宿に着くと、歳三は浴室で温かい湯の中に浸かり、ほうっと息を吐いた。「陛下、失礼致します!」「うわぁっ!」 歳三は慌ててローブを纏うと、ハノーヴァー伯は少し気まずそうな顔をした。「何かあったのか?」「はい。陛下にお会いしたいという方が・・」「こんな時間にか?」 歳三は濡れた髪をそのままにして、浴室から出た。「陛下、夜分遅くに申し訳ございません。わたしは、ポッコラ村の村長、ジョゼフと申します。」 そう言って歳三に向かって恭しく頭を下げた男は、疲れた滲んだ顔で村の窮状を訴えた。 彼いわく、村の食糧は異端審問官に奪われ、村人達は飢えに苦しんでいるという。「このままでは、わたし達は飢え死にしてしまいます!陛下、どうか・・」「ハノーヴァー、馬の用意を。」「夜間での移動は危険です、陛下。朝を待った方がよろしいかと。」「そうだな・・」 だが、この雨の中自分に会いに来た男の切迫した様子を見る限り、朝まで待てない。「少し、村の様子を見て戻って来る。」「わかりました、わたしもお供致します。」 松明の灯りに時折照らされながら、歳三はポッコラ村の村長・ジョゼフの案内で村へとやって来た。 そこは、何の変哲もない農村だった。「陛下、こちらへどうぞ。」 ジョゼフの案内で、歳三は彼の自宅へと向かった。「あなたは、外でお待ち下さい。」「しかし・・」「ハノーヴァー伯、俺は大丈夫だ。」「わかりました・・」 ハノーヴァー伯は、少し不満そうな顔を浮かべたが、ジョゼフの家の外で待つ事にした。「足元に、お気をつけて・・」「わかった。」「みんな、陛下にお見えになられたぞ!」「陛下!」「陛下、万歳!」「陛下~!」 ジョゼフが扉を開け、家の中に入ると、そこには数十人もの村人達が集まっていた。 赤ん坊を抱いた若い女、病を抱えた老夫婦―様々な村人達が、一斉に歳三を見た。 彼らの目には、希望の光が宿っていた。「ジョゼフ、何故ここに俺を呼んだ?」「イリウスが、この村の子供達を拉致し、西部へ連れて行ったのです!領主様にも助けを求めましたが、取り合ってくれず・・」「それで、俺に助けを求めたのか・・」「子供達を、どうか助けて下さい!」 そう言って縋るジョゼフの訴えを、歳三は見逃す事は出来なかった。「はい・・」 ジョゼフの家から出た歳三は、ポッコラ村の子供達がイリウスに拉致された事をハノーヴァー伯に話した。「イリウスめ・・」「イリウスの暴走を止めねぇとな。」「ええ。」 雨の中、歳三達は漸く西部へと辿り着いた。「あれが、イリウスが根城にしている教会です。」 白い霧の向こうには、美しい白亜の教会が聳え立っていた。 そこには、魔力を持った子供達が監禁されていた。「食事だ、ガキ共!」 教会の地下牢には、鉄枷を足首につけられた子供達が虚ろな瞳で粗末な食事をしていた。“ねぇ、いつここから出られるのかなぁ?”“あいつらが居ない夜の間なら抜け出せるかもしれない。” 牢の中で、二人の少年達が魔力で会話をしていた。“ねぇ、誰かがこっちに来るよ。”“敵かな?”“ううん、味方だよ。” 少年の一人は、じっと鉄格子越しの窓から微かに見える月を眺めた。「本当に、やるのですか?」「ここまで来たら、やるに決まっているだろう。」 歳三はそう言うと、ハノーヴァー伯と共に子供達が監禁されている教会の地下牢へと向かった。 そこは暗く、人の気配は微かに感じられるものの、子供達のそれは全く感じられなかった。(クソ、一体どうすれば・・) 歳三がそんな事を思いながら地下牢を進んでいると、奥の方から一羽の鳥が飛んで来た。(何だ?) その鳥は、二人の少年達が居る牢の上空を旋回していた。「おい、大丈夫か?」“助けて・・”「今、助けてやる!」 歳三がそう言って牢の錠前を髪につけていたヘアピンで器用に壊すと、少年達はそのまま外へと逃げていった。「おい、ガキが逃げたぞ!」「捕まえろ!」「クソ、見つかっちまった!」「どうしますか?」「どうするもこうするも、逃げるしかないだろ!」 歳三はそう言うと、衛兵の一人を殴って気絶させた。「お前ら、ここから逃げるぞ!」 歳三は子供達を連れて地下牢から脱出し、ポッコラ村へと向かった。 教会の地下牢に監禁された子供達は、酷い栄養失調になっていた。「安心しろ、もうお前達を傷つける奴らはいねぇ。」“わかった・・” 子供達は、ポッコラ村の近くにある町の病院で治療を受けていた。「子供達が回復するのは、時間がかかるでしょう。」「そうか・・」「子供達の身の安全を確保しなければ・・」 ハノーヴァー伯は、溜息を吐いた。「これから、どうする?イリウスの野郎を拷問するか?」「暫く様子を見ましょう。」「そうか。」 歳三は病院からホテルへと向かう帰りの馬車の中、ある事を考えた。「皆さん、新しい仲間です。」「アリシアです、よろしくお願い致します。」 魔力を使って変身した歳三は、イリウスの屋敷にメイドとして潜入した。「あんた、仕事が早いわね。メイドの経験はあるの?」「はい。」「そう。じゃぁひとつだけ忠告しておいてあげるけれど、イリウス様には気をつけな。」「それは、どういう意味ですか?」「あいつは、根っからの女好きなのさ。特にあんたみたいな美人は。」「まぁ・・」「ここで波風立てないようにするには、あの爺に目をつけられない事だね。」「はい、わかりました。」 イリウスの屋敷で歳三が働き始めて五日が経った頃、事件が起きた。「旦那様、お許し下さい!」―可哀想に。―あの子は、確か・・「何かあったのですか?」「あの子は、旦那様の指輪を盗んだんだってさ。」「指輪?」「何でも、旦那様が王宮から持ち出した物なんだってさ。」「まぁ、どんな物なのですか?」「大きいトパーズの指輪よ。」(トパーズの指輪か・・確かそれは、王位継承者の証の筈・・) 何故そんな貴重な物を、イリウスが持っていたのか。 歳三がそんな事を思いながらイリウスの部屋を掃除していると、何かが机の上で光っていた。 それは、メイド達が話していたトパーズの指輪だった。(あの爺、自分が指輪を置き忘れている事に気づいてねぇじゃねぇか。) 歳三がそっと指輪をハンカチで摘み上げると、廊下でメイド達の悲鳴が聞こえた。「どうしたの?」「旦那様が・・」 悲鳴を上げたメイドが指した先には、首を切断されたメイドの遺体があった。「何という事・・」「旦那様は、暖炉の上にあった剣で・・」「旦那様は、どちらへ?」「旦那様は、森へ行かれたわ。」「そう。」 歳三は、イリウスの屋敷から出て、森へと向かった。 森の中は、不気味な程静かだった。(あの爺は、一体何処に・・) 歳三がイリウスを捜していると、野太い男の悲鳴が湖の方から聞こえて来た。(何だ?) 湖の方へと彼が向かうと、そこではイリウスが誰かに向かって剣を振り回していた。 湖の中に居るのは、大きく翼を広げたドラゴンだった。「ひぃ、来るな、来るなぁっ!」 イリウスは、ドラゴンを倒そうと剣を振り回したが、ドラゴンに勝てる筈がなかった。 やがてイリウスの手から剣が離れ、彼はそのままドラゴンに頭から喰われた。 骨と肉が引き裂かれる音と共に、湖が血で赤く染まってゆくのを、歳三はただ見るしかなかった。 やがて腹を満たしたドラゴンは、翼を広げて湖から去っていった。「あら、あの子は?」「ほら、この前ここに入って来た・・」「あなた達、さっさと仕事なさい!」 イリウスの屋敷からポッコラ村へと戻って来た歳三は、ハノーヴァー伯に湖で起きた事を報告した。「そうですか。イリウスが死んで良かったです。」「あぁ。」「子供達の治療は病院に任せて、我々は王宮へ戻りましょう。」「わかった。」 西部を発ち、王宮へと戻っていた歳三一行は、王都まであと少しという所で、足止めをくらった。「イリウス派の残党だと?」「はい。」「身の安全を考えて、今はこの場に留まりましょう。」「わかった。」 歳三がハノーヴァー伯とそんな事を話していると、近くの叢で大きな音がした。 歳三が叢を掻き分けながら謎の男の出所を探っていると、そこにはまだ卵から孵化したばかりのドラゴンが居た。「陛下、このドラゴンは・・」「多分、親とはぐれたんだろう。誰か、ドラゴンに詳しい奴は居るか?」「わたしの部下に、ドラゴンに詳しい者がおります。」「そうか。」 歳三はそう言うと、震えているドラゴンを優しく抱き上げ、その場を後にした。 その様子を、一人の男がじっと見ていた。「あれが、女王の成り代わりか・・」にほんブログ村
Jun 30, 2022
コメント(0)
「さぁ、どうぞ。」「はぁ・・」「そんなに硬くならないで。」そう言って女王の妹であるヴィッキーことヴィクトリアは、歳三に優しく微笑んだ。「突然こんな所に連れて来られて、不安でしょう?」「えぇ、まぁ・・」「ヴィッキー、あなたこの方に聞きたい事があるのではなくて?」「あぁ、そうだったわ。トシゾウ様、私の子をご存知なの?」「はい・・」「あの子は、わたしの手で育てたかったのだけれど・・」「あなたに、あの子は育てられなかったのよ、だから・・」「姉様、やめて!」ヴィクトリアはそう叫ぶと、ティーカップを乱暴にソーサーの上に置いた。「落ち着きなさい、ヴィッキー。」「だって・・」「トシゾウ様、この子は興奮すると少し手がつけられなくなるの。」「はぁ・・」「ヴィクトリア様、大変です!」「まぁ、何があったの、そんなに慌てて?」「それが・・ヴィクトリア様にお会いしたいという方がいらっしゃって・・」「わたしに、会いたい人?」「はい・・」「トシゾウ様、申し訳ないけれどわたしはこれで失礼させて頂くわ。」「はぁ・・」何処か慌しい様子でヴィクトリアが女官達と共に部屋から出て行くのを歳三は戸惑いながら見送った。「あの子ったら、落ち着きがないのねぇ。」 エリーザベトはそう言って溜息を吐きながら、紅茶を一口飲んだ。「妹は、昔から落ち着きがない子でね、乳母達をいつも困らせていたわ。」そう言って笑みを零すエリーザベトの表情は、とても寛いだものだった。姉妹の関係は、いまいち歳三にとってはわからないものだが、彼女達のそれは余り険悪なものではなさそうなものだった。「どうか、あの子の事をよろしくお願いしますね、トシゾウ様。」「はい・・」ヴィクトリアの部屋をエリーザベトと共に出て行った歳三が廊下を歩いていると、自分を睨みつけていた金髪紅眼の男と擦れ違った。「調子に乗るなよ。」「レオンの事は、気にしなくてもいいわ。」「はぁ・・」「今日は少し疲れただろうから、部屋で休みなさい。」「わかりました。」「陛下、湯殿の準備が出来ました。」二人の前に、水瓶を持った女官が数人現れた。「そう。」「あの水瓶には何が入っているのですか?」「牛乳よ。牛乳は美容に良いの。」「そうですか。」「では、また夕食に会いましょう。」「はい・・」女官達によって用意された部屋に入った歳三は、そのまま寝台の上に寝転がった後、目を閉じた。「何という事・・」「そんな、陛下が・・」「これから、どうすれば・・」 外が急に騒がしくなったのは、夕方の事だった。(何だ?)部屋から出ると、何やら女官達が慌てた様子で湯殿の方へと走ってゆくのを見た歳三が湯殿へと向かうと、その前には人だかりが出来ていた。「一体、何があった?」「陛下が、血を吐かれて・・」「え?」歳三が湯殿の中に入ると、そこには浴槽の中で死んでいるエリーザベトの姿があった。(一体、どうして・・)先程まで、彼女は生きていたというのに。「陛下・・」「さぁ、陛下の遺体を外へ・・」女王の突然の死により、宮廷内は混乱した。「あぁ、陛下が・・」「姉様・・」エリーザベトの死因は、中毒死だった。「どうやら、浴槽の中に毒が仕込まれていたようです。」「まぁ・・」ヴィクトリアは、姉の解剖をした医師の言葉を聞いて絶句した。「トシゾウ様、これから一体どうすればいいのかしら?姉様の他に、この王国を治める人は居ないわ。」絶大な魔力とカリスマ性を持った女王急逝の報せを知った国民達は、大いに彼女の死を嘆き悲しんだ。彼女の葬儀には、全国民が参列した。「トシゾウ様、こんな時間に呼び出してごめんなさいね。」「いいえ。」「あのね・・こんな事をあなたに頼むもどうなのかと思うのだけれど、姉様の代わりに、この国を治めてくれないかしら?」「は?」青天の霹靂とは、まさにこの事を言うのだろうか。「どうして、俺が・・」「あなたから、姉様と同じ強い魔力を感じるの。」「魔力?」「ええ。魔力は人それぞれ違うけれど、あなたのそれは姉様と同じなのよ。姉様の魔力と同じ物を持っている人は、珍しいの。」「珍しい事なのか?」「はい。あぁ、勿論ずっと姉様の代わりをして貰うっていう話ではないのよ。暫くの間だけ・・」「わかった。」「ありがとうございます、トシゾウ様・・」「俺が、これからどう女王の身代わりをすればいいのか、教えて下さい。」「わかりました。」葬儀の後、歳三は京に居る仲間達に宛てた文を書いた。「これを、京に居る仲間達に。」「かしこまりました。」(これから、忙しくなるな・・)「土方さん、暫く帰って来られないみたいですよ。」「そうか。」「鬼副長が居ない間に、色々とのんびり出来ますよね。」「それはどうかな・・何せ、トシの代わりに俺が色々と事務仕事をしないといけないからなぁ・・」勇はそう言うと、副長室の机に積まれている書類の山を思い出し、溜息を吐いた。「はぁ・・」ヴィクトリアから頼まれ、歳三がエリーザベトの“代役”として女王を務める事になったのだが、余りの仕事の多さに彼は息つく暇がない程忙殺される日々を送っていた。女王の仕事量は、膨大且つ多岐にわたるものが多い。「毎月の衣装代や美容代にこんなに金使うのかよ・・使い過ぎだろう。てか風呂は一日一回位でいいだろ・・」そう呟きながら、歳三はエリーザベトの私室で彼女の帳簿を見ていた。「陛下、よろしいでしょうか?」「いいわよ、入りなさい。」「失礼致します。」そう言って部屋に入って来たのは、レオンだった。「一体、何の用かしら?」「貴様、一体何のつもりだ?何故、陛下の身代わりをしている?」レオンはそう言うと、腰に帯びている長剣の切っ先を歳三に向けた。「お前ぇの主の妹に頼まれたんだよ!」「嘘を吐くな!」「本当よ、レオン。」「ヴィクトリア様・・」「剣をおさめて、レオン。」「何故です・・何故、こんな男に陛下の身代わりをさせるのです!?」「この方は、姉様と同じ魔力の持ち主だからよ。一部の、特に“あの人達”に姉様の死を知られてはならないの。だから、暫くの間この方に、姉様として振る舞って貰う事になったの。」「そうですか・・」「レオン、あなたにも協力して貰うわ。あなたは、姉様の懐刀的存在だからね。」「わかりました。」ヴィクトリアの言葉を聞いてレオンは渋々彼女の提案を受け入れたが、歳三の事を余り信用していないようだった。「陛下、ハノーヴァー伯爵がお見えになります。」「わかったわ。」(誰だ、それ?)「ハノーヴァー伯爵は、姉様に媚を売ろうとしている貴族よ。きっと、異端審問官の事で話があるんだと思うわ。」「異端審問官って、なんだ?」「教会が管理している所よ。主に、魔力がある子供達を国中から集めているわ。」「へぇ、厄介な奴らなんだろうな。」「ええ。だから、彼らと話している時は気をつけて。」「わかった。」歳三は女官達に身支度を手伝って貰い、華やかなドレスとティアラを身に着けると、そのまま“謁見の間”へと入っていった。「陛下、床に臥せられておられたと聞いておりましたが、ご快復されて良かったです。」そう言って歳三に向かって笑みを浮かべたのは、ハノーヴァー伯爵だった。「伯爵、あの後どうなっているの?」「相変わらず、教会は異端審問官の横暴を許しております。陛下、このままでは・・」「わたしが教会へ直接出向きましょう。」「それはありがたい!」「陛下、イリウス司教がお見えになりました。」「そう。」「ご機嫌麗しゅうございます、陛下。」「イリウス、先程ハノーヴァー伯爵から、あなた方が異端審問官の横暴を許していると・・」「お言葉ですが陛下、わたくし共は、“正しい事”をしているだけです。」「“正しい事”ですって?」「はい、わたくし共は、魔力を持たぬ子供達を育成しているのです!」イリウス司教は、そう言って歳三を見た。「魔力など、神に背くものです!」「それをわたしの前で言うのですか?」「ひっ・・」歳三から睨まれ、イリウス司教は恐怖の表情を浮かべていた。「魔力を持たぬ子を育成する、ですって?それは、この国を、そしてわたしを否定する事になるのですよ?」「も、申し訳ありません!」「わかればよろしい。これ以上、あなた方の横暴は許しません。」「ははぁっ!」“謁見の間”から出た歳三は、大きな溜息を吐いた。「お疲れ様でした。」「ったく、疲れたぜ・・」歳三は寝台に横たわると、そのまま着替えもせずに眠った。「陛下は?」「お部屋でお休みになられております。」「そうか。」「何か、気になる事がおありなのですか?」「陛下の様子が、少し変わったように見えないか?」「はぁ・・」「ヴィクトリア様に少し探りを入れてみる事にしよう。」イリウス司教は、そう言うと闇の中に消えていった。「誰だ?」歳三が目を覚ますと、部屋で微かに人が居た気配を感じたので、彼は寝台の近くに置いてあった愛刀を取ると、黒衣を纏った刺客が襲って来た。(何なんだ、こいつ!?)「そこまでだ!」「はっ!」「何だ、てめぇは?」「エリーザベト女王陛下は剣の達人だと聞いておりましたが、まさかここまで腕が立つとは、聞いておりませんでしたなぁ。」そう言って笑いながら歳三の前に現れたのは、イリウス司教だった。「貴様、何のつもりだ」!?」「それはこちらの台詞ですよ。姿形は女王陛下と同じだが、偽者だ。さてと、我々と一緒に来て頂けませんかな?」「断る、と言ったら?」「それは、困りますなぁ・・では、力ずくで・・」イリウス司教が手を叩くと、部屋に刺客達が入って来た。「やれるもんなら、やってみやがれ!」 歳三はそう言うと、刺客達と斬り結んだ。「トシゾウ様!」「ヴィクトリア様、来ないでください!」「イリウス司教、一体これはどういう事なのです!?」「こやつは陛下の偽者ですぞ!」「落ち着きなさい!わたくしがトシゾウ様に陛下の身代わりを頼んだのよ。」「何故、そのような事を?」「“彼ら”の目を欺く為よ。」「“彼ら”って、一体誰の事だ?」「それは明日、お話致します。」「わたしは認めませんぞ、このような紛い物の女王など!」イリウス司教はそう吐き捨てると、その場から去った。「お休みなさい。」「お休みなさい、ヴィクトリア様。」(これからが、色々と大変だな・・)歳三は再び寝台に横になると、そのまま朝まで眠った。「おはようございます、陛下。」「おはよう・・」「さぁ、お召し替えを致しましょう。」「着替えは、自分でする。」「そうは参りません。」女官達によって髪を結われた歳三は、寝台の柱に掴まり、コルセットを締められていた。「なぁ、締め過ぎじゃないか?」「いいえ、これ位致しませんと!」「そうですわ!」(苦しい・・)「陛下、どうなさったのですか?」「いや・・じゃなくて、いいえ・・少し胸が苦しくて・・」「まぁ、それはいけませんわ!」「誰か、お医者様を!」コルセットを締め過ぎて、歳三は軽い貧血を起こしただけだった。作品の目次はコチラです。にほんブログ村
Nov 2, 2021
コメント(0)
「本当にわたしに似ているわね。まるで鏡に映しているかのようだわ。」 歳三の顔を見た異世界の女王―エリーザベトはそう言うと、自分の傍で控えている金髪紅眼の男の方へと向き直った。「レオン、彼と二人きりで話したい事があるの。お前は席を外しなさい。」「お言葉ですが、陛下・・」「わたしの言う事が聞けないの?」冷たい光を湛えた紫紺の瞳でエリーザベトが男を睨みつけると、彼はそのまま部屋から出て行った。「俺と二人きりで話したい事とは何だ、女王様?」「娘がそちらでお世話になっているようね。アメリアは少し世間知らずなところがあるけれど、己の立場を弁えた子だから、決してそちらにご迷惑をおかけするような事はしないと思うわ。」 エリーザベトの言葉は、自分の娘の事でありながらも、何処か事務的で冷たいものだった。(アメリアが母親ら逃げ出して来たというのは、嘘じゃねぇな・・) 歳三の脳裏に、母親から逃げて来たと言っていたアメリアの今にも泣きだしそうな顔が浮かんだ。 彼女は実の母親からどんな扱いを受けて育ったのだろうか。そんな事を歳三が考えていると、扉が軽くノックされた後、金髪紫眼の女性が部屋に入って来た。「姉様、この方はどなたなの?」「ヴィッキー、用事があるのならノックくらいなさいな。」「したわよ。姉様が聞こえなかっただけじゃないの。」そうエリーザベトに言いながら、女性はチラリと歳三の方を見た。歳三は彼女が自分の恋人と瓜二つの容姿をしている事に気づいた。「こちらはわたしの妹の、ヴィクトリアよ。ヴィッキー、こちらの方はトシゾウ=ヒジカタ様よ。」「初めまして、トシゾウ様、ヴィクトリアです。」「こちらこそ初めまして、ヴィクトリア様。」「そんな他人行儀な呼び方はお止しになって。ヴィッキーと呼んでくださいな。」 ヴィクトリアがそう言って笑った時、彼女が右手薬指に嵌めている指輪が、恋人が身に付けている指輪と同じ物である事に気づいた。「その指輪・・」「ああ、これ?昔恋人から贈られた物なの。」「そうなのですか。実はその指輪と同じような物を、見たことがあるんです。」「それは、本当なの?」「はい。実はわたしの小姓は、貴方と瓜二つの顔をしているんです。」「その子の名前は?何というの?」「雪華といいます。ですが昔、彼は祖母から別の名前で呼ばれていたと、わたしに以前話してくれました。」歳三がそう言ってヴィクトリアの方を見ると、彼女は大粒の涙を流していた。「すいません、俺・・」「いいの、謝らないで。ねぇトシゾウ様、これからわたくしの部屋でお茶でも頂かないこと?」「は、はい・・」「姉様、暫く彼をお借りするわね。」「わたしに断りを入れなくても結構よ、ヴィッキー。」エリーザベトがそう言って呆れたような顔をして妹の方を見た。「それじゃぁ行きましょうか、トシゾウ様。」 ヴィクトリアは歳三の腕に自分のそれを絡ませると、そのまま姉の部屋から出て行った。作品の目次はコチラです。にほんブログ村
Feb 17, 2017
コメント(0)
イラスト素材提供サイト:薔薇素材Mako's様 西本願寺の屯所を謎の男達と共に後にした歳三は、彼らと共にアメーシア王国へと向かった。「お前らが言う女王陛下の元には、どうやって行けばいいんだ?」「それはお前が知らなくても良い事だ。」金髪紅眼の男は、そう言うと歳三を睨んだ。 やがて彼らは、京の町外れまで来た。 そこには、一本の桜の木が生えていた。「下がっていろ。」 金髪紅眼の男は部下にそう命じると、木の幹に手を置いた後、素早く呪文を唱えた。 すると桜の木が紫の光に包まれ、やがてそれは鋼鉄製の扉へと姿を変えた。「行くぞ。」歳三は目の前で起きた現象を信じられずに呆然とした様子でその場に立ち竦んでいたが、男達が扉の中へと入っていくのを見て、慌てて歳三も彼らの後を追った。 扉の向こうには、西洋の街並みが広がっていた。 石畳の道、煉瓦造りの建物。(ここが、総司が話していた異世界・・)「おい、何を呆けている、行くぞ!」「わかったよ。」歳三が男達と共に街を歩いていると、自分達が道行く人々から厳しい視線を浴びている事に気づいた。―ほら、あいつらが来たよ。―頭から取って食われちまうから、近づくんじゃないよ 幼い子供を連れた母親達は子供の手を取って歳三達の前から足早に立ち去り、そのまま自分達の家の中へと入っていってしまった。「随分とてめぇらは嫌われているようだなぁ?」「うるさい、黙って歩け。」 暫く歳三達が歩くと、白亜の宮殿が彼らの目の前に現れた。「中で女王陛下がお待ちだ、行くぞ。」「ああ、解ったよ。」 男達に両脇を固められ、歳三は宮殿の中へと入った。広間はフレスコ画で描かれた天使の絵で彩られた天井が広がり、射す光の隙間で白亜の大理石の床が時折硝子のように輝いていた。「レオン様、お帰りなさいませ。」 広間の廊下を歳三達が歩いていると、彼らの前に深緑のドレスを着た一人の娘がやって来た。「女王陛下はおられるのか?」「はい。レオン様、そちらの方は・・」「余計な詮索はするな。」「わかりました・・」娘は金髪紅眼の男に睨まれると、恐怖に顔を引き攣らせて彼に道を譲った。「陛下、レオンです。例の男を連れて参りました。」「入りなさい。」 玲瓏とした声が白い扉の向こうから聞こえた。「失礼いたします。」 扉が開き、男達と共に部屋に入った歳三は自分と瓜二つの顔をした異世界の女王と対峙した。作品の目次はコチラです。にほんブログ村
Jan 19, 2017
コメント(0)
「副長、わたしにお話とは何でしょうか?」「武田、お前が隊内であの娘について妙な噂を広めていると総司から聞いたが・・それは本当か?」 歳三の言葉を聞いた武田は、口元を少し歪めて笑った。「何を根拠にそのような事をおっしゃるのですか、副長?」歳三は武田を睨みつけたが、武田は飄々とした口調でこう言った。「他に用が無いのなら、わたしはこれで失礼いたします。」武田はさっと立ち上がり、副長室から出て行った。「土方さん、噂の事、武田さんから聞きました?」「ああ。あいつに上手い事はぐらかされたがな。」歳三はそう言って溜息を吐くと、文机の前に座って溜まっていた書類の処理を始めた。「総司、ここは本当に京なのか?」「何を馬鹿な事を言っているんですか、土方さん?僕達が居るのは、紛れもなく帝がおわす京の都ですよ。まぁひとつ違っている事といえば、向こうの世界―アメーシア王国があるという事だけですかね。」「前から気になっていたんだが、そのアメーシア王国っていうのはどんな国だ?西洋の国か?」「まぁ、一言でいえばそうですけど、あちらの国を治めているのはエゲレスと同じ女王なのですよ。その女王というのが、土方さんと瓜二つの顔をしているんですって。」「俺と同じ顔をしている女王か・・一度でもいいから、その顔を拝んでみてぇもんだな。」歳三がそう言って笑うと、雪華が湯呑を載せた盆を持って入って来た。「お茶が入りました。」「有難う。そこに置いといてくれ。」「はい。」雪華がそう言って湯呑を置くと、歳三はちらりと彼の方を見た。「なぁ雪華、アメリアの様子はどうだった?」「最近良く眠れているみたいです。でも、噂の事で少し傷ついているみたいです。」「そうか。噂の事は気にするなとあいつに伝えておいてくれ。」「解りました。」雪華はそう言って歳三に向かって頭を下げると、副長室から出て行った。 書類処理を一通り終えた後、歳三は腰下まである長い髪を一房摘んだ。五稜郭で死んだとき、洋装に合わせて髪は短く切った筈だったが、この世界に飛ばされてから髪は昔の長さに戻ったらしい。 総司から聞いた話が全て本当なのだとしたら、異世界の王国を治める自分と瓜二つの顔をしている女王に一度会ってみたいと思った。何故自分がこの世界に飛ばされたのかが、彼女に会えば少しは解るのかもしれない―そう思いながら歳三が畳の上に寝転がっていると、外の方が急に騒がしくなった。「何だ、貴様ら!」「新選組副長、土方歳三はここに居るか?」 歳三が副長室から外に出ると、そこには真紅の軍服姿の男達が隊士達と睨み合っていた。「てめぇら、何者だ?」「土方歳三だな?」「ああ、そうだが・・てめぇら、俺に何の用だ?」 男達の中からリーダー格と思しき男の一人が歳三の前に現れ、男は歳三を紅い瞳で睨んだ。「女王陛下がお前に会いたがっている。我らと共に来て貰おうか。」 傲岸不遜な口調でそう言った男は、再度歳三を睨みつけた。「総司、留守の間近藤さんの事を頼む。」「わかりました。」 男達と共に屯所から出て行く歳三を、総司は黙って見送った。作品の目次はコチラです。にほんブログ村
Jan 4, 2017
コメント(2)
イラスト素材提供サイト:薔薇素材Mako's様「その方が、貴殿の隠し子か?」 歳三達が新八に連れられて局長室に入ると、会津藩士・吉田浩一郎はそう言いながら歳三とアメリアの顔を交互に見た。「トシ、こちらは・・」「某は会津藩士の吉田浩一郎と申す。本日こちらへ参ったのは、最近京の街で広がっている噂の真偽を確かめる為である。」「吉田殿、貴殿は何か誤解をしておられるようだ。ここに居る娘と、わたしは親子ではありません。」「土方殿、貴殿は江戸でも京でも浮名を流していると、こちらに居る近藤殿が某に話してくれたが・・」(近藤さん、何で余計な事を言うんだよ?)歳三が抗議の視線を近藤に送ると、彼は済まなそうな顔をして俯いた。(済まん、トシ。知っていることを話せと言われたものだから、つい・・)「娘、名を何と申す?」「アメリアと申します。」「土方と並んで座っている所を見ると、まるで実の親子のように見えるな。やはり、噂は確かだったか。」「暫しお待ち下され、吉田殿。誰かが流布した噂を信じるとは、武士のする事ではございませぬ!」 自分の所為で歳三が不利な立場になってしまったことに気づいた近藤がそう吉田に抗議したが、彼は近藤の言葉を鼻で笑った。「壬生狼ごときに武士の何たるかを説く筋合いなどない。詮議の日時は追って連絡する故、某はこれにて失礼する。」吉田はもうこんな場所には居たくないと言わんばかりに、袴の裾を乱暴に払うとそのまま屯所を後にした。「ったく、俺達を馬鹿にしやがって・・」「落ち着け、トシ。」「近藤さん、一体誰がそんな噂を流したんだ?」「犯人捜しをするのは嫌だが、俺はそれとなく噂の事を平隊士に尋ねてみたんだ。そしたら、噂を流しているのは武田だと・・」「武田が?」近藤の口から武田観柳斎(たけだかんりゅうさい)の名を聞いた歳三は、眉間に皺を寄せた。新選組五番隊組長である武田は、剣技の腕は立つものの、男色家故に隊内外で幾度となく痴情に絡んだ騒動を起こしていた。「平隊士達の話によると、武田が台所で話をしているアメリア君の姿を見て、トシに瓜二つの顔をしているから驚いていたようなんだ。」「だから、根も葉もない噂をあいつが広めたっていうのか?」「ああ。だが俺は平隊士達の話を聞いただけからだな。本人をここへ呼び出して直接話を聞かない事には埒が明かん。」「そうか。じゃあ俺が直接武田に噂の事を聞いてやるよ。」歳三はそう言うと、局長室から出て行った。「あ、副長・・」「武田は何処に行った?」「武田さんなら、今巡察中ですが、そろそろお戻りになられる頃かと・・」「あいつが巡察から戻ったら、副長室に来るように伝えておけ。」「わ、わかりました・・」歳三の剣幕に怯えた隊士は、そう言うとそのまま脱兎のごとく中庭から去っていった。「土方さん、たかが噂如きでカッカし過ぎですよ。」「その噂の所為で新選組(おれたち)の評判が悪くなったらどうするんだ?」「元からわたし達に対する京の人々の評判が悪いのはもう慣れっこじゃないですか?今更そんな事を気にしてどうするんです?」 飄々(ひょうひょう)とした口調でそう言いながら、総司は武田率いる五番隊が巡察から戻って来た事に気づいた。「武田さんが巡察から帰って来ましたよ。もしかして土方さん、武田さんを斬ろうだなんて思っていませんよね?」「馬鹿、そんな物騒な事を考えちゃいねぇよ。」総司の言葉を聞いた歳三はそう返して彼に向かって笑ったが、その目は全く笑っていなかった。作品の目次はコチラです。にほんブログ村
Dec 12, 2016
コメント(0)
イラスト素材提供サイト:薔薇素材Mako's様「失礼ですが、貴方の叔母様はどのような身分の方なのですか?」「わたしの母は、アメーシア王国を統べる女王です。ヴィクトリア叔母様は、母の妹に当たります。」「そうでしたか・・では、もしわたしの母が貴方の叔母様ならば、わたし達はいとこ同士ということになりますね。」「ええ。」アメリアと雪華がそんな話をしていると、台所に総司がやって来た。「二人とも、ここに居たんだ。早くしないと朝餉のおかず、なくなっちゃうよ。」「はい、解りました。」 二人が広間に入ると、そこにはおかずを奪い合う永倉新八と藤堂平助の姿があった。「新八、俺のおかずを盗るなよ!」「こういうものは、早い者勝ちなんだよ!」新八はそう言いながら、平助が残していたおかずを箸で横からかっさらっていった。「やめねぇか、新八、平助!幹部がそんな下らない事で争っていたら、隊士達に示しがつかねぇだろうが!」歳三がそう言って二人を睨むと、慌てて新八は平助が残していたおかずを彼の皿へと戻した。「いつも騒がしくて済まないね。」「いいえ、いつもの事なのでもう慣れてしまいました。」雪華は半ば呆れたような顔をしながら、そう言って朝餉を食べ始めた。「どうしたの、アリシアちゃん?」「いえ・・何だかこうして皆さんと食卓を囲むということが、今までなくて・・」アメリアの言葉を聞いた歳三は、彼女がどんな家庭環境で育ってきたのかが容易に想像できた。「そうか。これからお前は食事を広間で俺達と取ればいい。いちいちお前の部屋まで運ぶのは面倒だからな。」「有難うございます。あの、後でお話ししたいことがありますので、お時間を・・」「解った。」 朝餉の後、アメリアと雪華は副長室へと向かった。「失礼いたします。」「アメリア、俺に話してぇことってのは何だ?」「セッカさんは、母親を探す為に変な男達に絡まれて、貴方に助けられたのですよね?」「ああ、そうだが。それがどうかしたか?」「実は、セッカさんが先程わたしに見せてくれた指輪と同じ物を持っている人を、わたしは知っているんです。」「何だと、それは本当か?」「はい。わたしの叔母のヴィクトリアが、セッカさんと同じ指輪を持っていました。」アメリアはそう言うと、雪華を見た。「その指輪がどんなものか、見せてみろ。」「これです。」雪華が歳三に首から提げているルビーの指輪を見せると、歳三は眉間に皺を寄せた。「この指輪・・一度何処かで見たことがあるな。」「本当ですか?」「ああ。だが何処で見たのかは思い出せねぇんだ。雪華、悪いが俺がお前を助けた時の事を話してくれねぇか?」「解りました。」雪華がそう言って歳三と初めて出会った時の話をしようと口を開きかけた時、突然副長室の襖が勢いよく開いた。「大変だ土方さん、会津藩の役人が屯所に来てるぜ!」「会津藩の役人がここに来てるだと?それは本当か、新八?」「ああ。何でも噂の真偽を直接土方さんに確かめたいんだとさ。」「噂?どんな噂だ?」「それが・・アメリアちゃんが、土方さんの隠し子じゃねぇかっていう噂が、京の街で広がっているらしい。」「はぁぁ~?」新八の言葉を聞いた歳三は、驚きのあまり声が裏返ってしまった。作品の目次はコチラです。にほんブログ村
Dec 12, 2016
コメント(2)
イラスト素材提供サイト:薔薇素材Mako's様 夜が明け、アメリアは自分に与えられた新選組の屯所内にある一室で、朝日の光を受けて目を覚ました。「ん~、気持ちいい!」アメリアがそう叫びながら思い切り手足を伸ばすと、部屋に雪華が入って来た。「アメリアさん、土方さんがお呼びです。」「解りました、すぐに行きます。」 彼女が雪華と共に幹部隊士達が集まる広間へと向かうと、そこでは歳三と丸眼鏡を掛けた男が何やら話をしていた。「あの・・」「アメリア、昨夜はよく眠れたか?」「はい。あの、そちらの方はどなたですか?」「あぁ、君とは初対面でしたね。初めまして、わたしは新選組総長の、山南敬助(やまなみけいすけ)と申します。貴方が、アメリアさんですね?」「はい・・あの、これからお世話になります。」「君の処遇について昨夜局長と副長と共に話し合いましたが、貴方は副長である土方さんの小姓に就くことに決まりました。雪華君、新人のアメリアさんに色々と仕事を教えてあげてくださいね。」「はい、解りました。アメリアさん、これから宜しくお願いしますね。」「こちらこそ、宜しくお願いします。」 アメリアはそう言うと、雪華に頭を下げた。こうして、彼女は歳三の小姓として新選組で働くことになった。小姓といっても、仕事は主に掃除や洗濯、炊事などの家事全般であり、たまに歳三が幕府の要人との会合に出席するときは護衛として彼と会合に出席するくらいのものだった。「アメリアさんは、お料理がお上手なのですね。今朝の朝餉、隊士の皆さんが嬉しそうに食べていましたよ。」「料理や裁縫といった家事は、全て祖母から教えて貰いました。わたしは、母ではなく祖母に育てられましたから。」「まぁ、そうなのですか。わたしも、祖母に育てられました。でもその祖母は、数年前に病死してしまいました。」「何だかわたし達、似ていますね。」「ええ。アメリアさんのお母様は、どのような方なのですか?」「母は・・わたしにとって恐ろしい人です。国民達には慕われているけれど、母は国民達に全ての愛情を注ぎ、わたしが熱を出しても気にも掛けない人でした。」アメリアはそう言って口を噤(つぐ)むと、溜息を吐いた。「嫌な事を聞いてしまいましたね、ごめんなさい。」「いいえ。それよりも雪華さんは、何故新選組にいらしたのですか?」「わたしも、貴方と似たような境遇で育ちました。数年前に祖母が病死した時、祖母はわたしの出生に纏わる物を渡してくれました。」「貴方の出生に纏わる物?」「はい、これです。」 雪華はそう言って着物の衿元を寛げると、首に提げている指輪をアメリアに見せた。 それは、ダイヤモンドが周りに鏤められたルビーの指輪だった。「祖母が臨終の際にこれをわたしに手渡し、死んだとされている実母が生きている事を彼女は教えてくれました。わたしはこの指輪を手掛かりに、実母の事を調べようと生まれ育った村から出て京に来た時、運悪く柄の悪い連中に絡まれてしまって、土方さんに助けられて彼の小姓として新選組で暮らすことになったんです。」「そうだったのですか。」アメリアはそう言ってルビーの指輪を見た途端、自分の叔母が雪華と同じ指輪を持っていることを思い出した。「アメリアさん、どうかなさいましたか?」「いいえ・・その指輪と同じ物を持っている人をわたし知っているんです。」「その人とは、誰なのですか?」「ヴィッキー叔母様・・わたしの母方の叔母にあたる、ヴィクトリア叔母様です。」アメリアがそう言って雪華の方を見ると、彼は驚愕の表情を浮かべながら指輪を握り締めていた。作品の目次はコチラです。にほんブログ村
Dec 10, 2016
コメント(0)
イラスト素材提供サイト:薔薇素材Mako's様 浴室でレオンと激しく互いを貪り合った後、エリーザベトが浴室から出ると、数人の女官達が彼女の前に現れた。「陛下、ハノーヴァー伯爵がお見えになります。早くお召し替えを。」「解ったわ。」エリーザベトが鏡台の前に座ると、女官達はそれぞれ彼女の髪を櫛で梳いたり、彼女の爪の手入れをしたりしていた。「一体伯爵がわたしに何の用なのかしら?」「さぁ、存じ上げません。あの方は、ただ陛下のお顔が見たいだけなのでしょう。」「まあ、そうでしょうね。」エリーザベトがそう言って笑うと、女官達も彼女につられて笑った。「これは陛下、いつも麗しゅうございます。」「あら、有難う伯爵。お世辞でそう言って頂けるだけでも嬉しいわ。」執務室へとやって来たハノーヴァー伯爵は、いつものようにエリーザベトの容姿を褒め称えると、彼女の手の甲に接吻した。「それで、わざわざわたしに会いたいが故に、領地から遠路はるばる来たというの?」「はい、陛下。それもありますが、我が領地である問題が起きているのです。」「ある問題、というと?」 エリーザベトは伯爵の言葉を聞くと、眉間に皺を寄せた。「ええ。最近異端審問官の横暴が酷過ぎると、わたしの元に領民達からの苦情が殺到しているのです。」「彼らは異常よ。小さな子供が魔力を持っているとわかれば、徹底的にその魔力を封じ込めようとする。彼らの雇い主が異常者だから仕方がない事だけど。」 エリーザベトは開いていた扇を閉じると、伯爵を見た。「それで、貴方はわたしに何をして欲しいの?」「異端審問所の閉鎖を、教会に頼んで欲しいのです。わたくしの力だけでは、彼らを抑えることは出来ません。」「・・わかったわ。すぐに教会宛に手紙を書きましょう。」 エリーザベトがそう言ってソファから立ち上がると、ノックもなしにエリーザベトの妹・ヴィクトリアが美しい金髪を波打たせながら執務室へと入って来た。「お姉様、アメリアが居なくなったというのは本当なの?」「ヴィッキー、今わたしは大切な話をしているところなの。後にして頂戴。」「お姉様、実の娘が居なくなったっていうのに、どうしてそんなに薄情な態度を・・」「ヴィクトリア!」エリーザベトの凛とした冷たい声が、執務室の空気を微かに震わせた。「ごめんなさい、お姉様。また後で伺う事にするわ。」「そうして頂戴、ヴィッキー。伯爵、異端審問所の事についてはわたしに全て任せて頂戴。」「わかりました、陛下。ところで陛下とレオン様がただならぬ関係だという噂が宮廷内に流れておりますが・・」「噂は事実よ。伯爵、わたしの事は諦めてくださらないかしら?」「え、ええ・・そう致します。」伯爵が落胆した様子でエリーザベトの執務室から出て行った後、彼と入れ違いにヴィクトリアが執務室に入って来た。「お姉様、先程は場を弁えない態度を取ってしまってごめんなさい。」「いいえ、わたしの方こそ貴方に厳しくしてしまって悪かったわ。でもヴィッキー、あの子は、表向きではわたしの“妹”となっているの。だから人前で、あの子の事をわたしの娘だと言わないで。」「わかったわ、お姉様。あのね、お姉様にお話ししたいことがあるの。」「何かしら?」「レオンの部下から先ほど聞いたのだけれど・・わたしの可愛い天使が・・マリエッテがあちら側に居るって・・もしそれが本当だとしたら、わたし・・」「ヴィッキー、はやまった行動を取っては駄目よ。その情報は貴方をおびき出す罠かもしれないわ。」「でも、たとえその情報が嘘だとしても、わたしはあの子に会いたいのよ、姉様!」そう言ってヴィクトリアは、美しい深紫の瞳を涙で潤ませた。作品の目次はコチラです。にほんブログ村
Dec 9, 2016
コメント(2)
イラスト素材提供サイト:薔薇素材Mako's様エリーザベトに扇子で打たれた頬に血が伝っても、レオンはそのまま彼女の前に跪いていた。「もう下がりなさい。」「は・・」レオンはそう言ってゆっくりと立ち上がり、そのまま謁見の間を後にした。「レオン様、お待ちください!」謁見の間から出たレオンが大理石の廊下を歩いていると、エリーザベト付の侍女が彼の方へと駆け寄って来た。「レオン様、これで・・」「要らぬ。大した怪我ではないからな。」「ですが・・」「俺はしつこい女は嫌いだ。」レオンはそう言って侍女に鋭い一瞥(いちべつ)を与えると、彼女は慌てて彼に頭を下げて去っていった。―おい、あれ見ろよ。―また陛下と痴話喧嘩でもしたのか?口さがない連中がレオンと廊下で擦れ違うたびに、そんな陰口を叩き合っていた。だが当の本人はそんなものなど何も感じなかった。自分が女王の愛人であるという噂など、とうに聞き飽きた。それに、その噂は事実なのだから、コソコソと女王と密会するなどみっともない事をするのはレオンの性には合わなかった。 レオンは暫く宮殿内の廊下を歩き、目的の場所へとたどり着いた。そこは、女王専用の浴室だった。 絶大な魔力を持つ『黒蝶王』であるエリーザベトが、その魔力を高める為、一日に四度入浴する習慣があることを、レオンは知っていた。「陛下は中におられるか?」「はい。」女官はレオンの顔を見ると、そのまま浴室の中へと彼を案内した。「陛下、失礼いたします。」 レオンが浴室に入ると、白い大理石を使った巨大な浴槽の中央に、部屋の主は居た。 抜けるようなエリーザベトの白い肌は湯を弾いて輝いていた。「来たのね。」湯煙の中からレオンの姿を確認したエリーザベトは、そう言うと彼に向かって微笑み、彼の方へと近づいた。「痕が残ってしまうかしら?」エリーザベトはそっとレオンの白い頬に残る真新しい傷を撫でると、婀娜(あだ)めいた目で彼を見た。「失礼いたします。」レオンがゆっくりと服を脱いで裸になるのを、エリーザベトは黙って見ていた。「陛下、アメリア様は俺が全力を尽くして必ず見つけ出します。」「その話はもういいわ。それよりもレオン、今からわたしと裸の付き合いをしましょう?」「ええ、喜んで。」 レオンは女王の黒髪を口づけると、そのまま彼女と浴槽の中で戯れた。「俺が陛下の愛人であるという噂が宮廷内で広まっています。」「事実なのだから、そんな噂を気にしない方がいいわ。レオン、もっと早くに貴方と出会っていたのなら、わたしは幸せになれたでしょうね。」「昔の事を悔やんでも仕方がありませんよ、陛下。それよりも俺とこの先築く未来についてお考え下さい。」「そうね・・」エリーザベトは深紫の瞳でレオンを見つめると、そっと彼の唇を塞いだ。「陛下、貴方を心から愛しております。」「わたしもよ、レオン。」作品の目次はコチラです。にほんブログ村
Dec 8, 2016
コメント(0)
※このイラストはMARRISA様から頂きました。無断転載はおやめください。「母から、逃げてきました。」「お母さんから?」総司の問いに、アメリアは静かに頷いた。「母はいつもわたしに冷たくて・・そんな母の態度に、わたしは耐えられなくなって母から逃げたんです。」アメリアはそう言ってしゃくりあげながら、首から提げているロケットを握り締めた。「それは?」「これは、母がわたしの誕生日にくれた物です。」「ロケットの中を見せてくれないかな?少しだけでいいから。」「解りました。」アメリアはロケットを首から外すと、中に入っている写真を総司に見せた。 そこには歳三と瓜二つの顔をしている女性と、彼女の隣には一人の男性が写っていたが、顔の部分が焼き焦げており、誰なのか解らなかった。「ねぇ、この人が君のお母さんなの?」「はい。母はわたしを未婚で産みました。父の顔は、知らないんです。」「そう・・」(何だか、この人土方さんに似ているような気がする・・)「ソウジさん?」「中を見せてくれて有難う。ねぇアメリアちゃん、もし君さえ良ければ、ここで暮らさない?君とわたしが会ったのも何かの縁だし・・」「でも、あの方がどうお思いになられるのか・・わたし、さっきあの人に失礼な態度を取ってしまいましたし・・」アメリアは不安げな表情を浮かべながら、チラリと歳三の方を見た。「土方さん、この子行く場所がないみたいですよ。」「それがどうした?若い娘を野宿させる気なんざさらさらねぇよ。」「お世話になります。」「アメリア、とか言ったな?ここで世話になる以上、俺達の足を引っ張るような真似はするな、解ったな?」「はい!」「土方さん、失礼いたします。」 副長室の襖がスッと開き、雪華が部屋に入って来た。「ヴィッキー叔母様!」アメリアは雪華の姿を見るなりそう叫ぶと、彼に抱きついた。「あの、どちら様ですか?」「ごめんなさい、人違いでした。余りにも貴方が叔母様と似ていらしたので、つい・・」「まぁ、そうでしたか。わたしは雪華と申します。」「アメリアです。こちらで暫く暮らすことになりましたので、どうぞ宜しくお願い致します。」「こちらこそ。土方さん、島田さんから羊羹(ようかん)を頂きました。」「わざわざ有難う。そこに置いておいてくれ。」「解りました。」雪華はそう言うと、歳三の前に羊羹を載せた皿を文机の上に置いた。「アメリア、今後のお前の処遇についてだが、一度近藤さん達と話し合ってから明日決める事にした。お前は風呂に入って部屋で休め。雪華、アメリアを風呂まで案内してやれ。」「わかりました。アメリアさん、わたしについて来てください。」「はい。」こうしてアメリアは、新選組に保護されることになった。 一方、アメーシア王国の首都・ラミアに建つ壮麗な宮殿の中にある謁見の間では、宝石を鏤(ちりば)め、銀糸で刺繍を施された漆黒のドレスを纏った一人の女が眉間に皺を寄せながら玉座に座っていた。 彼女の前に跪いているのは、『緋鬼』の隊長・レオンだった。「女王陛下に申し上げます。アメリア様をあと少しの所で取り逃がしました。」「報告はそれだけなの?」 威厳に満ちた口調でそう言った女―アメーシア王国を統べる女王・エリーザベトは冷たく光る深紫の瞳をレオンに向けた。「申し訳ありません。」無言で玉座から立ち上がったエリーザベトは、持っていた扇でレオンの頬を容赦なく打った。作品の目次はコチラです。にほんブログ村
Dec 8, 2016
コメント(0)
その男達は揃いの真紅の軍服を着て同系色の帽子を被り、腰にはサーベルを提げていた。―緋鬼(あかおに)や・・―いややわぁ・・ 彼らの姿を見た町民たちが、嫌悪の視線を彼らに送りながらひそひそと囁き合いながら道の端に寄って彼らに道を譲った。(なるほど、あの娘はこいつらから逃げていたわけか・・)総司がそんな事を思いながら軍服姿の男達を睨みつけていると、彼は一人の男と視線がぶつかった。すっと総司の前に現れた男は血のような紅い双眸で彼を睨みつけると、腰に提げていたサーベルを鞘から抜き、その切っ先を総司の喉元に突き付けた。「貴様、何を見ている?」「別に。緋鬼さん達が一体ここに何の用なのかなぁって。」 口調こそはのんびりとしているものの、男を睨みつけている総司の表情は険しかった。「我らは一人の娘を追ってここに来た。貴様、何かを知っているのなら痛い目に遭う前に吐け。」「知らないよ、そんな娘。それよりも勝手にわたし達の縄張りに入って来ないでくれる?」総司はそう言って愛刀の鯉口を切り、男が持っているサーベルを彼の手から弾き飛ばした。「隊長!」「貴様ぁ!」「やめろ、ここで騒ぎを起こすな!」男の背後でいきり立つ彼の部下達が抜刀しようとしたが、男が厳しい声で彼らをそう制すると、部下達は渋々と抜きかけたサーベルを鞘に納めた。「貴様、名はなんという?わたしはレオン=アーネストだ。」「新選組一番隊組長、沖田総司。君が望むんだったら、ここで相手になるけど?」男はチラリと町民たちの方を見て自分達が歓迎されない存在である事に気づいたらしく、地面に突き刺さったサーベルを引き抜き、それを鞘に納めた。「わたしを愚弄した事、後悔するといい。行くぞ。」白いマントを翻した男はそう言うと総司に背を向け、部下達を引き連れて雑踏の中へと消えていった。「まったく、変な連中に目をつけられちゃったな・・」「沖田組長、只今戻りました。」 総司が蒼い瞳で男達が去っていくのを見ていると、件の娘を屯所へと連れて行った隊士が彼の元に戻って来た。「お役目ご苦労様。あの子の様子はどうだったの?」「それが・・あの娘、副長の姿を見た途端、恐怖で泣き叫んで取り乱してしまいまして・・」「そう。あの娘の事が気になるから、巡察はここらへんで切り上げて早く屯所に戻ろうか。」 総司達が屯所に戻ると、副長室の方から娘の悲鳴が聞こえた。「おい、落ち着け!」「嫌ぁ~、近づかないで!」 総司が副長室に入ると、そこには恐怖で泣き叫ぶ娘と、彼女を必死に宥める歳三の姿があった。「土方さん、どうしたんですか?まさかこの娘を手籠めにしたんじゃ・・」「馬鹿野郎、そんな事する訳ねぇだろう!こいつ、俺の顔を見た途端誰かと勘違いしていやがるんだ!」「何だ、つまんないの。ねぇ君、わたしは沖田総司。君の名前を教えてくれる?」 総司がそう言って膝を抱えて部屋の隅に座っている娘に声を掛けると、彼女は俯いていた顔をゆっくりと上げた。 黒髪に紫の瞳―彼女は、歳三と瓜二つの顔をしていた。「アメリア・・アメリアと申します。」「アメリアちゃん、君はどうしてここへ逃げて来たの?もしかして、あいつらに追われていたの?」作品の目次はコチラです。にほんブログ村
Dec 3, 2016
コメント(0)
歳三が自分の置かれている状況を全く理解できずに困惑しながら松本医師の診察を受けていると、副長室の外から人の気配がした。「土方さん、お茶をお持ちいたしました。」 そう言って茶が入った湯呑を盆に載せた一人の少年が、副長室に入って来た。 日本人にしては珍しい、金髪に自分と同じ紫色の瞳をしたその少年は、歳三の様子がおかしい事にすぐに気づいたようで、彼は松本医師の方を見た。「松本先生、土方さんはどうかされたのですか?」「どうやら、彼は頭を酷く打って混乱しているようなんだ。」「そんな・・土方さんは大丈夫なのですか?」「大丈夫だよ、雪華(せっか)ちゃん。土方さんは頭を打ったくらいで死なないって。」総司が歳三の事を心配する少年に対してそう言うと、彼は安堵の表情を浮かべた。 歳三は少年の顔を見つめると、彼が自分の恋人であるという事を思い出した。だが、彼の名前がどうしても思い出せない。「お前、誰だ?」「土方さん、自分の小姓の名前を忘れるなんて酷いですよ。」「すいません、僕ちょっと失礼します。」少年はそう言って急に立ち上がると、副長室から出て行ってしまった。「あ~あ、雪華ちゃんを泣かせるなんて酷いですね。」「うるせぇ。それよりも総司、俺はどうしてここに居るんだ?」「土方さん、本当に憶えていないんですか?」 総司は歳三の言葉を聞いて呆れたような顔をした後、溜息を吐いた。「土方さん、巡察中に変な男達と揉み合いになって、その時に頭を強く打って気を失ったんですよ。土方さんの意識が戻らなかった間、雪華ちゃんが土方さんに付きっ切りで看病していたんですから、さっきの態度は酷いですよ。」「そうか、そんな事があったのか・・」「後で雪華ちゃんに謝ってくださいね。わたしはこれから巡察に行ってきますから。」 総司はちらりと歳三を見ると、そのまま副長室から出て行った。 総司が部下の隊士達と共に隊服を着て巡察へと向かう為屯所から出て行こうとすると、彼は中庭の灯籠の陰ですすり泣いている少年―雪華の姿を見つけた。「ねぇ、そんなに泣くことないじゃない?土方さんだって何も悪気がなくてあんな事を言った訳じゃないんだし。」「沖田さん、すいません、見苦しい所をお見せしてしまって・・」 総司から声を掛けられ、慌てて涙を手の甲で拭った雪華がそう言って総司を見ると、彼は優しい笑みを浮かべた。「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。帰りにお団子買ってくるから、元気出して。」雪華の頭を撫でながら総司が彼を励ますと、雪華は彼の言葉に頷いて屯所の中へと戻っていった。(土方さん、早く記憶を取り戻して欲しいなぁ。迷惑を被るのはごめんだよ。) 総司達がいつものように巡察をしていると、通りの向こうから女の悲鳴が聞こえて来たかと思うと、彼らの前に血と泥で汚れた一人の娘が現れた。「助けてください、人に追われているんです!」そう叫びながら総司にしがみ付いて来た娘の切迫した表情を見た彼は、部下達に彼女を屯所まで連れて行くように命じた。「さてと、さっさと仕事を終わらせて雪華ちゃんにお土産買って帰らないとね。」総司はそう呟くと、愛刀の鯉口を切った。やがて彼の前に、軍服を着た数人の男達が現れた。作品の目次はコチラです。にほんブログ村
Dec 3, 2016
コメント(0)
歳三は底の見えない暗い海の底へと、ゆっくりと沈んでいった。 この世に生を享けてから35年間、なりふり構わず、ただ前だけを向いて生きて来た。どんなに辛い事があっても、ただがむしゃらに前進してきた。まるで嵐の海を征く船のように、歳三の前には次々と困難が立ちはだかった。だが、その困難を歳三は近藤や総司をはじめとする仲間達と共に乗り越えて来た。“トシ”“土方さん”いつも自分の傍には、近藤と総司、そして試衛館の仲間達が居た。しかし嵐の海が鎮まった今となっては、歳三の傍には誰も居なくなってしまった。(この先には、一体何があるんだろうな?) 暗い海を見つめ、歳三はそう思いながらゆっくりと瞳を閉じた。「・・さん、土方さん!」 誰かの声が聞こえ、歳三は低く唸って身体を反転させた。すると、誰かが自分の身体を大きく揺さぶった。「土方さん、そんなところで寝てないで起きてくださいよ!」 歳三がゆっくりと目を開けると、そこには労咳で死んだ筈の総司が自分の顔を覗き込んでいた。「総司、お前ぇ死んだ筈じゃなかったのか?」「何を言っているんですか?」総司は歳三の言葉を聞いた途端、そう言うと噴き出した。 彼の笑顔を見た歳三は、嬉しさを感じると共に何故か彼に違和感を抱いた。「おおトシ、目を覚ましたか!」「近藤さん・・」歳三が賑やかな声が聞こえた方を見つめると、そこには自分が生涯を共にした親友の姿があった。「どうした、トシ?幽霊を見たかのような顔をして?」「そうですよ、さっきから土方さん、様子がおかしいんですよ。頭を打っておかしくなったんじゃないんですかねぇ?」「俺が、頭を・・?」「もう、土方さんったら、あんな事があったのに全く憶えていないんですか?」総司はそう言って笑いながら、歳三の肩を力強く叩いた。「おや、何やら賑やかな声が聞こえたと思ったら・・漸く意識を取り戻されたみたいですね、土方さん?」 副長室にそう言いながら入って来た禿頭(とくとう)の男が誰なのか、歳三は暫く思い出せなかった。「松本・・先生?」「先生、丁度いい所に来てくださいました。トシがおかしいので、診てやってくれませんか?」「頭を酷く打ってしまったから、その所為で土方さん、酷く混乱してしまったそうなんですよ。早く診てあげてください。」「解りました。」 禿頭の男―松本良順医師の診察を受けた歳三は、近藤と総司に対して抱いている違和感が拭えずにいた。 本当にここは、現実の世界なのだろうかと。作品の目次はコチラです。にほんブログ村
Nov 30, 2016
コメント(0)
※BGMと共にお楽しみください。 1869年5月11日、箱館・一本木関門。「土方さん、大変です!弁天台場が敵の攻撃を受けて孤立しました!」「わかった。」 部下から新政府軍の攻撃を受けて新選組が居る弁天台場が孤立した事を聞いた元新選組副長・土方歳三は、すぐさま部下達と共に五稜郭を出て弁天台場へと向かった。「土方だ!」「奴を逃がすな、生け捕りにしろ!」 歳三の姿を見た新政府軍は、口々にそう叫びながら彼らに突進していった。「退く者は斬る、俺に続け!」馬上で彼がそう部下達に言った時、一発の銃声が空気を切り裂いた。 気が付くと歳三は腹を撃たれ、そのまま落馬して地面に叩きつけられた。「土方さん!」 遠くから、自分が愛する人の声を聞いた歳三は、ゆっくりと目を閉じた。(あぁ、もう俺は死ぬのか・・) 目蓋の裏に、次々と自分よりも先に逝ってしまった仲間達の顔が浮かんだ。 漸く彼らの元へと逝ける―そう思いながら歳三が天に向かって手を伸ばすと、誰かがそれを握る感触がした。それを最後に、歳三の意識は闇へと沈んでいった。作品の目次はコチラです。にほんブログ村
Nov 30, 2016
コメント(0)
全15件 (15件中 1-15件目)
1