薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月 10
F&B 腐向け転生パラレル二次創作小説:Rewrite The Stars 6
天上の愛地上の恋 大河転生パラレル二次創作小説:愛別離苦 0
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁 12
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻 10
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁 1
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ 5
天上の愛 地上の恋 転生現代パラレル二次創作小説:祝福の華 10
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華 14
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄 1
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊 1
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法 7
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜 18
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は 10
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て 5
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計 9
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫 20
火宵の月 帝国オメガバースファンタジーパラレル二次創作小説:炎の后 1
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母 13
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん 6
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥 7
天上の愛地上の恋 転生オメガバースパラレル二次創作小説:囚われの愛 9
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華 1
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師 4
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥 27
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚 2
ハリポタ×天上の愛地上の恋 クロスオーバー二次創作小説:光と闇の邂逅 2
天上の愛地上の恋 転生昼ドラパラレル二次創作小説:アイタイノエンド 6
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師 1
天愛×火宵の月 異民族クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼と翠の邂逅 1
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている 3
天愛×薄桜鬼×火宵の月 吸血鬼クロスオーバ―パラレル二次創作小説:金と黒 4
火宵の月 昼ドラハーレクイン風ファンタジーパラレル二次創作小説:夢の華 0
火宵の月 吸血鬼転生オメガバースパラレル二次創作小説:炎の中に咲く華 1
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉 54
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~ 6
火宵の月異世界転生昼ドラファンタジー二次創作小説:闇の巫女炎の神子 0
バチ官×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:二人の天使 3
火宵の月 異世界ファンタジーロマンスパラレル二次創作小説:月下の恋人達 1
FLESH&BLOOD 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の騎士 1
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して 20
火宵の月 戦国風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:泥中に咲く 1
PEACEMAKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で 9
火宵の月 和風ファンタジーパラレル二次創作小説:紅の花嫁~妖狐異譚~ 3
天上の愛地上の恋 現代昼ドラ風パラレル二次創作小説:黒髪の天使~約束~ 3
火宵の月 異世界軍事風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:奈落の花 2
天上の愛 地上の恋 転生昼ドラ寄宿学校パラレル二次創作小説:天使の箱庭 7
天上の愛地上の恋 昼ドラ転生遊郭パラレル二次創作小説:蜜愛~ふたつの唇~ 1
天上の愛地上の恋 帝国昼ドラ転生パラレル二次創作小説:蒼穹の王 翠の天使 1
火宵の月 地獄先生ぬ~べ~パラレル二次創作小説:誰かの心臓になれたなら 2
火宵の月 異世界ロマンスファンタジーパラレル二次創作小説:鳳凰の系譜 1
火宵の月 昼ドラハーレクインパラレル二次創作小説:運命の花嫁~愛しの君へ~ 0
黒執事 昼ドラ風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:君の神様になりたい 4
天愛×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー 2
FLESH&BLOOD ハーレクイロマンスパラレル二次創作小説:愛の炎に抱かれて 10
薄桜鬼腐向け転生刑事パラレル二次創作小説 :警視庁の姫!!~螺旋の輪廻~ 15
FLESH&BLOOD 帝国ハーレクインロマンスパラレル二次創作小説:炎の紋章 3
PEACEMAKER鐵 オメガバースパラレル二次創作小説:愛しい人へ、ありがとう 8
天上の愛地上の恋 現代転生ハーレクイン風パラレル二次創作小説:最高の片想い 6
FLESH&BLOOD ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の花嫁と金髪の悪魔 6
薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう) 10
薄桜鬼×天上の愛地上の恋 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:玉響の夢 6
天上の愛地上の恋 昼ドラ風パラレル二次創作小説:愛の炎~愛し君へ・・~ 1
天上の愛地上の恋 異世界転生ファンタジーパラレル二次創作小説:綺羅星の如く 0
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魔道祖師×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想うは、あなたひとり 2
天上の愛地上の恋 BLOOD+パラレル二次創作小説:美しき日々〜ファタール〜 0
天上の愛地上の恋 現代転生パラレル二次創作小説:愛唄〜君に伝えたいこと〜 1
天愛 夢小説:千の瞳を持つ女~21世紀の腐女子、19世紀で女官になりました~ 1
FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇ 2
YOI×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:皇帝の愛しき真珠 6
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず 2
薔薇王の葬列×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:黒衣の聖母 3
天愛×F&B 昼ドラ転生ハーレクインクロスオーパラレル二次創作小説:獅子と不死鳥 1
刀剣乱舞 腐向けエリザベート風パラレル二次創作小説:獅子の后~愛と死の輪舞~ 1
薄桜鬼×火宵の月 遊郭転生昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:不死鳥の花嫁 1
薄桜鬼×天上の愛地上の恋腐向け昼ドラクロスオーバー二次創作小説:元皇子の仕立屋 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君~愛の果て~ 1
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師~嵐の果て~ 1
YOI×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:氷上に咲く華たち 1
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰 2
F&B×天愛 昼ドラハーレクインクロスオーバ―パラレル二次創作小説:金糸雀と獅子 2
F&B×天愛吸血鬼ハーレクインクロスオーバーパラレル二次創作小説:白銀の夜明け 2
天上の愛地上の恋現代昼ドラ人魚転生パラレル二次創作小説:何度生まれ変わっても… 2
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師 1
薄桜鬼×天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿 2
火宵の月 異世界ハーレクインヒストリカルファンタジー二次創作小説:鳥籠の花嫁 0
天愛 異世界ハーレクイン転生ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女 氷の皇子 1
天愛×火宵の月陰陽師クロスオーバパラレル二次創作小説:雪月花~また、あの場所で~ 0
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1
素材は、ヨシュケイ様からお借りしました。「薄桜鬼」「火宵の月」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「入内なんて、どうして・・」「何を言う!入内し、帝の目に留まれば、この家が繁栄する事間違いなしだ!」 義高は一方的に火月の入内を決めてしまった。「僕、入内なんてしたくない。」「そんな事をおっしゃらないで、もう決まった事なのですから。」 火月の乳母・あけびは、そう言って主を宥めた。「今、後宮では妖騒ぎが起きているのですって。そのような恐ろしい場所に何故姫様を・・」「お館様は一体、何をお考えなのかしら?」 高原家の女房達の噂話を聞きながら、有匡は後宮の騒ぎが未だに治まっていない事を知った。(後宮の妖騒ぎの原因は何だ?)「失礼致します、お館様。土御門家の方がいらしております。」「土御門家の者が我が家に何の用だ?」 土御門家といえば、安倍家と共に陰陽道の大家として名高いが、そんな家の者がうちに何の用だろうか―義高はそう思いながらも、有匡の従兄達と会った。「これはこれは、大したおもてなしも出来ずに申し訳ありません。」「いいえ。こちらこそ突然伺ってしまい、申し訳ありません。実はこちらに、我らの従弟と瓜二つの顔をした女房が居るという噂を聞きましてね。」「あなた方の従弟・・あぁ、陰陽師として名高い土御門有匡様ですか。いやぁ、そのような方に似た女房など我が家には居りませんね。」「しかし・・」「申し訳ありませんが、娘が近々入内を控えていましてね、色々と忙しいのですよ。どうぞ、お引き取り下さい。」「は、はぁ・・」 有匡の従兄達を追い払った後、義高は火月の元へと向かった。「お館様、火月様は・・」「有匡殿、先程あなたの従兄達があなたに会わせろとしつこく言って来ましたよ。」 義高はそう言うと笑った。「そうですか・・」「ここへわたしが来たのは、あなたにお願いがあるからです。」「お願い、とは?」「火月を、どうか守ってやってください。」「一体、どういう事なのでしょうか?」「実は・・火月は命を狙われているのです。彼女を入内させるのは、彼女の命を狙う輩から守る為です。」「わかりました。」 有匡は義高から火月が抱えている事情を知り、彼女を守る事を彼に誓った。 そして、火月が入内する日を迎えた。「“有子”、くれぐれも火月の事を宜しく頼むぞ。」「はい、お館様。」 入内した火月は、藤壺女御・爽子の元に仕える事になった。「まぁ有子、無事で良かったわ。急に姿を消したから、心配していたのよ。」「女御様、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。」「そちらの方が、あなたの新しい主?」「はい、そうなりますね。」「あなたは素直でいいわね。そういうところが好きよ。」「女御様、火月と申します。」「美しい髪と瞳だこと。生まれつきなの?」「はい。」「これからよろしくね、火月。」「こちらこそ宜しくお願い致します、女御様。」 有匡は、義高から火月の入内前に、ある物を預かっていた。 それは、火月の命を狙おうとしている者の名が書いた紙だった。 そこには、ある人物の名が書かれていた。(厄介な事になるな・・)「先生、こんな所に居たんですね。」「火月様、ここではわたしの事を“有子”と呼んで下さい。」「あ、ごめんなさい・・女御様が、管弦の宴を今宵開きたいと・・」「わかりました。それで、楽器は何を?」「和琴を・・」「では、わたしも同じ楽器を・・」「僕、先生の事が好きです。」「え?」 突然火月から告白され、有匡は動揺してしまった。「あ、ごめんなさい、忘れて下さい!」 火月はそう言うと、有匡の前から去っていった。(変な奴だな・・)「弘徽殿女御様、藤壺女御様付の女房が藤壺に戻って来たのですって。」「まぁ、それは本当なの?」「はい。一月前に姿を晦ましたと思ったら、無事に戻って来ました。」「神隠しに遭って無傷で戻って来るなんて、珍しいわね。一度、その者に会ってみたいわ。」 弘徽殿女御・彩子は、そう言うと笑った。 火月が入内した日の夜、藤壺で管弦の宴が開かれた。 火月は緊張の余り、和琴を演奏中に弦を切ってしまった。「申し訳ございません、女御様。」「いいのよ。それよりも有子、よく無傷で戻って来てくれたわね。」 爽子はそう言うと、檜扇で顔を扇いだ。「教えて頂戴、どうやって神隠しに遭って、無傷で帰って来たの?」「土方家の宴に出席した際、ある男に襲われそうになり、身を隠していた時に、火月様に匿って頂きました。」「まぁ、そうなの。」「女御様、主上がお渡りになられます!」「まぁ、主上が・・」「珍しいこと。」 衣擦れの音を立てながら、帝が藤壺へとやって来た。「主上、お珍しいですわね、こちらにお渡りになられるなんて。いつも弘徽殿の方に入り浸っておられると聞きましたが?」「はは、痛い所を突くな。」 帝はそう言うと、爽子の傍に居る火月を見た。「そなた、見ない顔だな?名は?」「高原火月と申します。」「火月か・・気に入ったぞ。」「え・・」 火月は、主の爽子を差し置いて、帝に抱かれる事になってしまった。「女御様、僕は・・」「無事に、お務めを果たしなさい。」「はい・・」 火月は、帝に抱かれる前に、有匡に会おうと思い、有匡が居る局へと向かった。「先生・・」「まぁ、どうなさったのです?」「僕を、抱いて下さい・・」「一体、何を・・」 火月は、有匡に抱きついた。「僕は、先生以外の子供を産みたくありません!だから・・」「わかった、わかったから、もう喋るな。」 有匡は、そう言うと火月の唇を塞いだ。 火月は、有匡の腕の中で蕩けた。「主上、どうかなさいましたか?」「いいや、風に乗って男女が睦み合う声が聞こえたような気がしたが、気の所為か。」「ええ、そうでしょうとも。」 爽子は、そう言うと帝に抱きついた。「お母様、何故お父様はあの子ばかり可愛がるの!?」 茜は、正室の娘でありながら、父が側室の娘である火月ばかりを溺愛しているのが気に喰わなかった。 火月は自分より美人で明るく、誰からも好かれている。(卑しい身分の癖に、わたしより幸せになるなんて許せない!)「落ち着きなさい、茜。わたくしが何とかしてあげるわ。」 倫子は、そう言うと茜を抱き締めた。 帝が火月を“抱いて”から、二月が経った。「火月、火月?」「申し訳ありません、女御様。少し、眩暈が・・」 火月はそう言うと、倒れてしまった。「火月。」「先‥生・・?」「有匡様、わたくしに黙って火月と懇ろになるなんて酷いわ。」「藤壺女御様、いつからわたしの正体を・・」「あなたが土方家の若様と後宮へ潜入した時から気づいていましたわ。」 爽子は、そう言うと笑った。「あの、僕・・」「貧血で倒れてしまったのよ。まぁ無理もないわね、双子を身籠っているのだから。」「え・・」「あら、気づかなかったの?」 火月の妊娠を知った義高は、喜びの余り涙を流したが、土御門家の反応は冷ややかなものだった。にほんブログ村二次小説ランキング
Jun 14, 2024
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素材は、ヨシュケイ様からお借りしました。「薄桜鬼」「火宵の月」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「何だ、子供か。」「兄者、この童、中々の上玉ですぞ。人買いにでも売って・・」「お待ちください、そのような・・」 従兄達の横暴な振る舞いを見かねた有匡は、咄嗟に彼らに抗議しようとしたが、彼らは有匡を殴った。「口答えをするな!」「そうだ、我が家に置いて貰えるだけ有難いと思え!」 従兄達は、有匡と女児をその場に残して去ってしまった・「大丈夫か?」「はい・・」 女児は、そう言うと真紅の瞳で有匡をじっと見つめた。「ありがとうございます。このご恩は必ず返します。」「そんな事はしなくてもいい。わたしは、当然の事をしただけだ。」 有匡がそう言った時、遠くから人の声が聞こえて来た。「では、僕はこれで。」「おい、待て!」 女児はさっと有匡に背を向けると、声が聞こえる方へと素早く走り去ってしまった。 彼女の事は、記憶の片隅に有匡が留めておいた筈―だった。 火月と再会するまでは。「お前、あの時の・・」「漸く、お会い出来ました・・有匡様。」 火月はそう言うと、有匡に抱きついた。「何故、わたしの名を?」「土御門有匡先生といえば、京では知らぬ者など居ない大陰陽師だと、噂で聞いております。」「噂など、あてにならぬ。それよりも、そろそろ離れてくれぬか?」「あっ、すいません・・」 有匡の言葉を聞いた火月は、顔を赤くしながらさっと有匡から離れた。「矢傷の方は、大丈夫ですか?」「あぁ、軽く掠った程度だ。」 有匡はそう言うと、血で汚れた衣を脱いだ。 それを見た火月は、悲鳴を上げて彼から後ずさった。「どうした?」「すいません、血が苦手で・・」「そういえば、まだお前の名を聞いていなかったな?」「火月・・炎の月と書いて、火月と申します。」(不思議な娘だ、大抵の者は、わたしの顔を見ただけで逃げる者が多いというのに・・)「傷の手当てをしてくれて礼を言う、火月。」「待って、待ってください!」「何だ?」「あの、先生にひとつお願いが・・」「わたしに?」「僕、あなたの子供を産みたいんです。」 火月の爆弾発言に、有匡は暫く驚きで固まってしまった。「それをわたしに告げて、どうしろと?」「すいません、忘れて下さい。」 そんなやり取りを有匡と火月が東の対にある局でしていた頃、西の対にある自室で歳三は御帳台の中で何度か寝返りを打ったが、眠れなかった。というのも、義成が敵対関係にある有匡の変装を見破り、彼を捕えようと騒ぎを起こしたからだった。「歳三、居るか!?」「ええ、居りますよ。何です、こんな夜中に大声をお出しになって・・」「そこに、あの男は居るのか!?」 義成はそう言うと、御帳台の方を指した。「さぁ、存じ上げませんよ、“あの男”の事など。それよりも、東宮様のお相手をするのは、もうお済みになられたのですか?」「東宮様は、元高殿と共に御所へお戻りになられた。どうやら、元高殿と東宮様は気が合うらしい。」「まぁ、それは残念でしたね。もう休みたいので、出て行って貰えませんか?」「邪魔したな!」 御簾を乱暴に捲り上げ、義成は歳三の自室から出て行った。(あぁ、うるさかった・・) 歳三は御帳台の中へと戻ると、今度こそ本当に眠った。「ん・・」 有匡が目を開けると、自分の胸の上に火月が寝ていた。「おい、起きろ。」「すいません・・」 夜の闇に紛れて土方邸から脱出しようとしたのだが、いつの間にか有匡は眠ってしまったらしい。「姫様、どちらにおられますか~?」「姫様~」 衣擦れの音が渡殿の方から聞こえ、その音が徐々にこちらへと近づいて来る事に有匡は気づき、慌てて火月を己の胸の上から退かそうとした。 しかし、火月が悲鳴を上げ、体勢を崩してしまった。「姫様、起きていらっしゃいますか・・きゃぁぁ~!」「姫様~!」 火月付きの女房が見たのは、有匡に押し倒されている主の姿だった。「姫様、大丈夫ですか!?この男をわたくし達と同じ牛車に乗せるなど!」「僕は本気です。あなた達が嫌なら、先に高原家へ戻っていなさい。」「は、はい・・」 有匡が自分達と同じ牛車に乗る事を知った火月の女房達は、咄嗟に火月に抗議したが、彼女からそんな言葉を返されて黙ってしまった。 彼らを乗せた牛車は、気まずい空気に包まれたまま土方邸から出て、高原邸に着いた。「殿、火月様が土方家から戻られました!」 高原家当主・義高は、女房から火月が土方家から帰宅した事を知り、寝殿から出て牛車から降りて来た火月を温かく出迎えた。「只今戻りました、父様。」「火月よ、土方家での宴はどうであった?和琴は上手く弾けたか?」「はい。父様、姉様は?」「茜なら、昨日から自分の部屋に引き籠もっておる。まったく、あいつはいつまでも拗ねておるのやら。」 義高はそう言った後、東の対の屋の方をちらりと見た。 そこには、彼の正室の娘・茜が住んでいた。 茜は美貌と知性を兼ね備えた高原家の一の姫なのだが、性格のきつさが災いし、義高から蔑ろにされていた。 火月の母は義高の側室であったが、火月が三歳の頃に亡くなり、彼女の母の忘れ形見である火月を、義高は溺愛していた。「火月よ、その女は見ぬ顔だな?」「土方家で、賊に襲われて僕達の局に逃げ込んで来たのです。何やら訳ありなので、我が家で匿う事に致しました。」「そうか・・」「火月、帰っていたのね。」「は、義母上・・」 火月の顔が、一人の女―義高の正室・倫子を見た途端に強張ったのを有匡は見逃さなかった。「そちらの方は?」 ジロリと蛇のような冷たい目で倫子に睨みつけられ、有匡は咄嗟に顔を絹の袖口で隠した。「火月が土方家で匿った訳有りの女らしい。」「まぁ、そなた、名は?」「義母上、この方は賊に襲われたショックで声が出ないようなんですの。」「まぁ、そうなの。殿、このような素性がわからぬ女をこの家に入れるなど・・」「僕付きの女房に致します。決して、義母上や姉様にはご迷惑をお掛けしません。」「そう。ならばいいわ。」 こうして、有匡は高原家で火月付きの女房として暮らす事になった。 一方、土御門家では有匡が失踪し、彼の伯父はショックの余り床に臥せってしまった。「父上には困ったものだ。実子である我らよりも、従弟である有匡ばかり可愛がって・・」「狐の子の癖に、お情けでこの家に置いてやっているというのに・・」 有匡の従兄達は、今日も彼の悪口に華を咲かせながら囲碁を打っていた。「爽子様、有子様が行方知れずになってもう七日も経ちましたわね。」「有子様は、無事なのかしら?」「有子様なら大丈夫よ、無事に帰って来るでしょう。」 爽子は飄々とした口調でそう言うと、檜扇で顔を扇いだ。 そんな中、火月に縁談が来た。「相手は、三条高人様ですよ。何でも、あの光源氏のような方だとか。」「その縁談、断っちゃ駄目?」「まぁ、何故断るのです?」「だって、僕には既に、心に決めた方がいらっしゃるもの。」「火月、火月は居るのか!?」「どうかなさったのですか、父様?そんなに大声を出されて・・」「喜べ、お前の入内が決まったぞ!」「え・・」にほんブログ村二次小説ランキング
Mar 22, 2024
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素材は、ヨシュケイ様からお借りしました。「薄桜鬼」「火宵の月」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「このまま、トシさんを攫っても良い?」「馬鹿な事を言うんじゃねぇ。」 歳三はそう言うと、和琴を爪弾く手を止めた。「お前ぇは、早く良い女を見つけろ。」「嫌だ、トシさん以外の女と番いたくない!」「我儘言うな。俺は人間、お前は妖。決して結ばれない仲なんだ。」「そんなの、トシさんが勝手に決めつけているだけじゃないか!」 八郎は叫ぶと、風と共に掻き消えた。(どうしちまったんだ、あいつ?)「土方家で、管弦の宴?」「えぇ、そうなのよ。有子様は和琴の名手とお聞きしましたわ。」「はぁ・・」 藤壺女御・爽子から急にそう話を振られた有匡は、柚奈が密かに逢引きをしていた男の事を頭の隅へと追いやった。「その宴に、出て下さらない?」「わたくしのような身分卑しき女が、あのような華やかな場に出るなど出来ませぬ。」 そう言って辞退しようとした有匡だったが、爽子は彼に笑みを浮かべた後、次の言葉を継いだ。「何をおっしゃるの、あなたの事は高く評価しているのよ。」「はぁ・・」「そうよ、是非ご出席なさって。」 半ば押し切られるような形で、有匡は土方家で開かれる管弦の宴に出席する事になった。「え、有匡が我が家の管弦の宴に?」「はい、藤壺女御様に押し切られる形で、出席する事になました。まぁ、土方家の方々にはこの姿では気づかれないので、内情を探るには好都合かと・・」「好都合?」「実は・・」 有匡は歳三に、爽子から義兄・義成について密かに探りを入れて欲しいと言われたと話した。「女人の考えている事はわかりませぬが、恐らく爽子様は義成様に想いを寄せられているご様子のようです。」「物好きな方なのですね、藤壺女御様は。」「ええ、あの方の気まぐれに色々と付き合わされて大変です。」 歳三と有匡がそんな事を話していると、不意に二人は禍々しい何かの気配を感じた。(何だ、この絡みつくような“気”は・・) 有匡と歳三が辺りを警戒していると、渡殿の方から衣擦れの音が聞こえて来たかと思ったら、元高が二人の前に現れた。「鬼姫よ、今日こそその花の顔を見せておくれ。」「なりません!」「良いではないか、良いではないか!」 元高が御簾を捲ろうとしたので、有匡と歳三は慌ててそれを押さえた。「諦めが悪い殿方は嫌われますぞ、元高様!」「その声、義妹に仕える雌狐!何故其方が弘徽殿に居るのだ!?」「わたくしには有子という名があります。それに、わたくしが弘徽殿に参ったのは、“例の件”で色々と梅様にお話ししたい事がありまして・・」「なんだと・・」 御簾越しに、元高の声が震えているのがわかった。「元高様、どうかこのままお引き取り下さいませ。」「わ、わかった・・」 有匡の言葉を聞いた元高は、そそくさと弘徽殿から去っていってしまった。「有匡様、“例の件”というのは?」「呪詛が、内裏にて行われたようです。中宮様と柚奈様を殺した大蛇は、誰かが呪詛によって産み出したもののようです。」「そうですか・・頭中将様と良政様が数日前に話されていたのは、呪詛の事だったのですね。」「ええ。その呪詛に、義成様が関わっているという噂があります。」「義兄上が!?」「あくまで、噂ですが。さてと、もう藤壺に戻らねば、爽子様に色々とうるさく言われてしまいます。」「後宮仕えがいつまで続くのやら・・」 歳三は、陰陽寮の権力闘争よりも、後宮内で繰り広げられる権力闘争と愛憎劇の方が恐ろしいと感じていた。 それは有匡も同じようで、彼は溜息を吐いて歳三の言葉に深く頷いた。「明日の宴で、少し探りを入れなければ。これ以上事が大きくならないように。」「ええ。」 翌日、土方家で管弦の宴が開かれ、そこには千鶴と、有匡の姿があった。「あなたは確か、土御門様の・・」「わたしの事をご存知なのですか?」「はい。右大臣家で開かれた管弦の宴で、お目にかかりました。」「柚奈様の事件の後、ご実家はどうなさったのです?」「義父は義姉上の魂の平安を祈る為に出家され、義兄上が跡を継いでおります。」「そうですか。」 有匡と千鶴がそんな話をしていると、そこへ一人の少女がやって来た。 その少女は、美しい金色の髪と、血の如く美しい真紅の瞳を持っていた。「あなた、見ない顔ですね?」「初めまして・・僕は姉の名代で参りました、高原火月と申します。」「そう・・あなた、楽器は何をおやりになるの?」「和琴を・・」「まぁ、わたし達と同じね。共に頑張りましょう。」「はい・・」 千鶴、有匡、少女が奏でる和琴の音色に、宴で酒を酌み交わしていた者達はうっとりと聞き惚れていた。「おや義成殿、歳三様は今宵どちらにいらっしゃるのですか?」「それが、東宮様に気に入られてしまったので、義弟は御簾の中に居りますよ。」「まぁ・・其方の義父上は、野心家なのですね。」「はは・・」 元高の嫌味をさらりと受け流した義成は、父と千景が居る寝殿へと向かった。「東宮様、遅くなってしまい、申し訳ありません。」「よい。それよりも義成、右大臣家の千鶴姫の事は知っておるか?」「はい、存じ上げております。彼女の父親の事も。」「そうか。忠道は、はぐれ鬼だ。故に、見つけ次第殺しても構わん。“口封じ”の為にな。」「は・・」「頼りにしているぞ。」「有難き幸せにございます。」 そんな彼らの“密談”を、有匡は息を潜めながら聞いていた。「失礼致します。」 檜扇で顔を隠しながら、彼が千景達が居る寝殿に入ると、義成がじっと自分を見つめている事に気づいた。(何だ?)「義成様、我が主・爽子様から文を預かりました。どうぞお受け取り下さいませ。」「藤壺女御様から?」「はい。では、わたくしはこれで失礼致します。」 有匡がそう言いながら千景達の前から辞そうとした時、不意に義成が有匡の腕を掴んだ。「何をなさいますっ!」「其方、何故顔を隠しておる?顔を見せよ。」「お止め下さいませ!」 義成と揉み合っている内に、有匡は顔を隠していた檜扇を落としてしまい、彼の前に顔を晒してしまった。「其方、土御門家の・・」義成に正体が露見し、有匡は舌打ちして襲ねた衣を脱ぎそれを彼に向かって投げつけると、高欄を乗り越え、闇夜に紛れた。「逃げたぞ!」「追え!」(クソ、こんな筈ではなかったのに!)有匡は裏口から脱出しようとしたが、裏口には土方家の家人達が集まっていて無理だった。 このままだと埒が明かないので、有匡は正面突破しようとしたのだが、肩に矢を受け失敗に終わった。「相手は手負いだ、まだ遠くには行っておらぬ!」 松明を掲げた家人達の声を聞きながら、有匡は床下に潜んでいた。 すると、衣擦れの音と共に有匡の頭上から声が聞こえた。「もし、そこの方、どうされました?」「少し訳有りでな、匿って貰えぬか?」「暫くお待ち下さいませ。」 管弦の宴が終わりに差し掛かろうとしている時、雷鳴が轟くと共に、土砂降りの雨が降って来た。「さぁ、こちらへ。」 少女の乳母と思しき中年の女に案内され、有匡が入ったのは、宴に招かれた姫達にそれぞれ宛がわれた局のひとつだった。「其方、あの時の・・」 蝋燭の仄かな灯りに照らされた少女―火月の顔を見た有匡は、火月と初めて会った時の事を思い出していた。 それはまだ、有匡が元服する前の事だった。 その日、彼は従兄達と共に鷹狩りに来ていた。「きゃぁっ!」 従兄の一人が放った矢が、偶々近くを通りかかった女児に当たってしまったのだった。にほんブログ村
Mar 13, 2024
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素材は、ヨシュケイ様からお借りしました。「薄桜鬼」「火宵の月」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。歳三が周囲を見渡すと、まさに大蛇が牙を剥き自分に襲い掛かろうとしているところだった。 歳三は隠し持っていた懐剣で大蛇の首を切り落とした。“おのれ・・” 大蛇はそう呟き息絶えた後、灰となって消えた。「一体、何があったの!?」「大蛇が、わたくしの局に・・」「まぁ、大変!怪我は無い!?」「はい。」(妙だな・・大蛇の気配をまだ感じる・・)「そうか。あの鬼の子が・・」 闇の中で、男はそう呟くと傷ついた大蛇を慰めた。「ほぅ、美しい顔をしているではないか。」 男は、水鏡に映し出された歳三の顔を見た後、そう言って笑った。「あ~、疲れた。」 大蛇騒ぎから一夜明け、歳三は女房達から根掘り葉掘り大蛇の事を尋ねられて疲れ果てていた。『歳三様・・』「梅、あなたにお客様よ。」「わたくしに、ですか?」「えぇ。」 歳三が衣擦れの音を立てながら渡殿へと出ると、そこには有匡の姿があった。「土御門殿、お久しぶりです。」「実は、土方殿にお話ししたい事がありまして・・」「まぁ、それならば中へどうぞ。」「はい。」 歳三は、有匡から思わぬ事を聞いた。 それは、右大臣家の二の姫・柚奈についての事だった。 柚奈は、大蛇に喰われる前に見知らぬ男と逢引きをしていたという。「その相手は?」「それが、金髪紅眼の男だとか。」「金髪紅眼の男、ねぇ・・」「土方殿、どうされたのですか?」「いえ、少し思い出した事があって・・」 歳三はそう思うと、幼い頃の事を思い出した。 それは、まだ歳三が土方家に引き取られる前の事だった。 歳三が良く遊んでいた裏山を歩いていると、そこへ一人の少年が現れた。 金色の髪に、血のように紅い瞳を持ったその少年は、じっと歳三を見た後、こう言った。「貴様、気に入ったぞ。将来、嫁に来い。」 少年は口元に不敵な笑みを浮かべた後、歳三の唇を塞いだ。「てめぇ、何しやがる!」 歳三はそう叫ぶと、少年の顔を平手打ちして裏山から去っていった。「昔、その男に会ったような気がする・・」「そうですか。柚奈殿は、貴殿を誘き出す囮だったのかもしれませんね。」「囮?」「その男の真の狙いは、貴殿なのかもしれません。」「もうしそうだとしたら・・」「警戒を怠らぬようにしなければなりませんね。」「ええ・・」「梅様、頭中将様がお見えです。」「頭中将様が?」 頭中将は確か、藤壺女御の義兄にあたる人物だが、その彼が一体自分に何の用があるのだろうか。「では、わたくしはこれにて。」 局から辞した有匡と入れ違いに、若草色の直衣を纏った青年が入って来た。「頭中将様、お初にお目にかかります、梅と申します。」「そなたか、麗しの鬼姫とやらは。」 頭中将―藤原元高は、そう言った後徐に御簾を捲ろうとしたので、歳三が慌てて彼を止めた。「なりません、そのような事をなさっては!」「良いではないか。」「良くありません!」「鬼姫よ、一度でも良いからその顔を拝ませておくれ!」「なりませぬ!」「おやおや、誰かと思ったら頭中将様ではありませぬか?」 渡殿から少し澄ましたかのような声が聞こえ、一人の男が元高の前に現れた。 彼の名は、橘良政、頭中将の政敵である。「橘殿、貴殿も鬼姫に会いに?」「いいえ、わたしはそのような不粋な事は致しません。」「そうか。」 頭中将はそう言うと、良政を見た。「わたしは、貴殿の義妹に会いに来たのです・・“例の件”で。」「“例の件”だと?」 御簾を隔てていても、頭中将と良政との間に険悪な空気が流れている事に歳三は気づいた。(“例の件”って、何だ?) 歳三が二人の話に耳を傾けようと少し耳を傾けようと身を乗り出した時、その弾みで懐剣が渡殿の方へと転がってしまった。「おや、これは・・」「わたくしの物です、どうか返して下さいませ。」 歳三はそう御簾の中から頭中将に声を掛けたが、彼は懐剣を握り、じっとその柄に刻まれた家紋を見つめていた。「あの・・」「この紋・・見覚えがありますぞ。」「おや、貴殿もですか?わたしもです。」(不味い・・)「貴様ら、ここで何をしている?」「と、東宮様・・」 御簾の向こうからでもわかる程の、鮮やかな紅の衣を纏った男は、頭中将から懐剣を奪い取った。「これは・・」「東宮様も、この紋に見覚えが?」「あぁ。」 男はそう言った後、勢いよく御簾を捲り上げた。「きゃぁぁ~!」 突然御簾を捲られ、女房達は悲鳴を上げながら、扇で顔を隠して逃げ惑った。「また会えたな、我妻よ。」「てめぇ、もしかして、あの時の・・」 歳三がそう言って金髪紅眼の男を睨むと、彼は歳三の唇を塞いだ。「何しやがる!」 小気味の良い音が、夏空に響いた。「東宮様、そのお顔はどうされたのです?」「何でもないです。」「また、土方家の姫にちょっかいを出したのでしょう?」 顔を赤く腫らした男―東宮・千景に、天霧はそう言って溜息を吐いた。「まぁ、土方家に姫君など居たのかしら?」「ふふ、それが居たのだ。」 千景は、そう言って嬉しそうな顔を祖母である皇太后に向けたが、彼女は少し呆れた顔をしていた。「東宮様、少し大人しくなったと思ったら、また問題を起こしてわたしを困らせて・・」「皇太后様・・」「お祖母様、俺は土方家の姫を妻として迎えます。」「ならば、文を土方家の姫に贈りなさい。いいですが、くれぐれも問題を起こさぬようにするのですよ。」「わかりました・・」 こうして、千景は歳三に求婚の文を贈る事になった。 しかし、待てど暮らせど歳三からの返事はなかった。「一体、どうしたというのだ?」「愛想を尽かされてしまったのでは?」「うるさい、黙れ。」「失礼致します、東宮様。土方家から文が届きました。」「寄越せ!」 女房から土方家から届いた文をひったくると、千景はそれに目を通した。 そこには、明日の夜に管弦の宴を開くので是非来て欲しいという旨が書かれていた。「義父上、お呼びでしょうか?」「歳三、お前東宮様に見初められたようだな?」「一方的に向こうが迫っているだけです。」「どうでもいい。管弦の宴には、お前も出席してくれ。女装して、な。」「義父上・・」「お前の意思など、関係ない。東宮妃になること、それがこの家の為にお前が出来る、唯一の事だ。」「はい・・」(どいつもこいつも、勝手な事を言いやがって・・) 歳三は溜息を吐くと、気を紛らわす為に和琴を弾いた。 その音色に導かれるかのように、八郎が歳三の前に現れた。「トシさん、久しぶり!」「八郎、どうした?」「トシさんに呼ばれたような気がしたから、来ちゃった!」 八郎はそう言って屈託の無い笑みを浮かべた。にほんブログ村
Oct 29, 2023
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素材は、ヨシュケイ様からお借りしました。「薄桜鬼」「火宵の月」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。―許しておくれ、歳三。そう言って女は、幼い自分を抱き締めて涙を流した。―奥方様、早く参りませんと・・―必ず、迎えに来るからね。(かあさま!)歳三は必死に女を追い掛けようとしたが、女は闇の中へと消えていった。「歳三様、どうされました?」「あ・・」「酷く、うなされておいででしたよ?」歳三が目を覚ますと、そこは右大臣家の一の姫・美雪の局だった。「どうして、俺はここに・・」「宴の時、突然気を失って倒れられてしまったので、わたくしが介抱いたしました。」「済まない、迷惑をかけたな。」「いいえ。それよりも土方様、少し妹の事―千鶴の事でご相談がございます。」「ご相談?」「はい、あの子は訳あってこの家に引き取られました。正確に言えば、彼女は赤子の時の我が家の前に捨てられていたのです。」「そうなのですか・・」「千鶴の事を、どうか守って頂けないでしょうか?」「美雪殿・・」「最近巷で騒がれている鬼騒ぎですが、それは千鶴の実の父親が引き起こしたものなのです。」美雪の話によると、鬼騒ぎを起こしているのは、千鶴の実父・忠道だという。「あの方は、帝を殺し、鬼が治める国を作りたいと・・」「彼は、今何処に?」「それが、わからないのです。彼は、いずれ妹を攫いに来ます。」「そうですか。では、“その日”まで千鶴殿をその鬼からお守りすればいいのですね?」「はい。歳三様、どうか妹の事をお守りくださいませ。」「わかりました。」こうして、歳三は千鶴の警護の為、右大臣家に通う事になった。「納得いかないわ!どうしてあんな子が、歳三様に目を掛けられるの?」「姫様・・」「早く鬼が来て、あの子を攫ってくれないかしら?」「ひ、ひぃぃ~!」「どうしたの、そんな大声を出して・・」柚奈の背後には、巨大な蛇が迫っていた。「誰か~!」助けを呼ぶ間もなく、柚奈は大蛇に呑み込まれてしまった。「姫様~!」翌朝、大蛇はある場所に現れた。そこは、中宮の寝所だった。「中宮様、お逃げ下さい!」「何をしておる、早く大蛇を倒さぬか!」「ひ、ひぃぃ~!」周囲に悲鳴と怒号が響き渡る中、大蛇はその牙を中宮の喉元に突き立てた。「中宮様~!」衛士達が慌てて中宮から大蛇を引き離そうとしたが、遅かった。「あぁ、何という事だ・・」衛士達がそう言いながら中宮を呑み込んだ大蛇の膨れた腹を見た後、突然大蛇が苦しみ出した。「な、何だ?」大蛇の腹は大きく裂け、その血と臓腑が周囲に飛び獲った。「ひぃぃ~!」「逃げろ!」皆が恐怖と混沌で逃げ惑う中、蛇の裂けた腹から死んだ筈の中宮が出て来た。「中宮・・様?」中宮だった“モノ”は、ゆらりと逃げ遅れた女房へと近づくと、その喉を鋭い牙で食いちぎった。「化け物・・」中宮は―否、中宮に化けた“何か”は、高らかに笑った後、闇の中へと消えていった。「歳三様、起きて下さいませ!」「どうした?」「後宮に、大蛇が現れました!中宮様が鬼になってしまいました!」「それは本当か!?」歳三が自分の局で休んでいると、そこへ何処か慌てた表情を浮かべた土方家の使用人が入って来た。歳三は欠伸を噛み殺しながら、大蛇騒ぎが起きた後宮へと向かった。「おお、土方殿!」「一体、何があったのですか?」「右大臣家の二の姫様が大蛇に喰われた後、それは中宮様を呑み込み、大蛇の腹から鬼となった中宮様が・・」公達の話を歳三が聞いていると、そこへ一人の少年がやって来た。「土方様、どうか中宮様をお助け下さいませ!」「お前は?」「中宮様の側仕えを務めている、蛍と申します。」「中宮様は今どちらに?」「中宮様は・・」蛍がそう言った時、後宮から悲鳴が聞こえて来た。「何だ、今のは!?」「失礼!」歳三が、悲鳴が聞こえた方へと向かうと、そこには中宮が一人の女房の喉に牙を立てていた。「破っ!」歳三が祭文を唱えた後、中宮に護符を放つと、彼女は悲鳴を上げて苦しみ出した。―お願い、殺して・・歳三は、中宮の声が聞こえたような気がした。彼は、腰に帯びていた太刀を抜くと、その刃で中宮の首を斬った。―ありがとう・・中宮は、その姿を灰に変えて消えていった。「何と・・」「中宮様、おいたわしや・・」「一体、大蛇は誰が・・」中宮と柚奈の事件が起き、歳三と有匡が所属する陰陽寮では、事件の捜査を行う事になった。「右大臣家の二の姫様に続き、中宮様までこのように・・」「これは鬼の仕業に違いない・・」「皆、揃ったな。」陰陽頭・安倍雅光は、歳三と有匡に後宮への潜入捜査を命じた。「何故、わたくし達なのですか?」「他の者は、女装に向かぬからな。そこでお前達には白羽の矢が立ったという訳だ。」「そうですか・・」「後宮は男子禁制故、くれぐれも正体を露見せぬよう頑張ってくれよ。」「はい・・」歳三は溜息を吐いた後、雅光の局から出た。「土方殿、厄介な仕事を押し付けられたものですな。」「ええ、しかし陰陽頭様がお決めになられた事なので、頑張るしかありませんね。」「はは、そうですね・・」こうして、歳三と有匡は後宮に潜入する事になった。歳三は中宮が居た弘徽殿の内侍司に、有匡は藤壺の薬司にそれぞれ潜入する事になった。「畜生、内袴を捌き方がわからねぇし、唐衣と裳が重くて敵わねぇや・・」『まぁまぁ歳三様、そのような事をおっしゃってはなりませぬ。』「でもなぁ・・」歳三が小鳥の式神を肩に乗せながらそんな事を話していると、向こうから衣擦れの音が聞こえて来た。見ると、渡殿の向こうから美しい衣を纏った少女がゆっくりと歳三達の元へとやって来た。「あら、あなたが今日、弘徽殿にいらっしゃった方ね。」「はい・・梅と申します。」「そう・・」少女は歳三を見ると、興味がなさそうな顔をして彼の脇を通り過ぎていった。(これから、どうなるんだろうな、俺・・)歳三がそんな事を思いながら自分に宛がわれた局の中で休んでいると、ずるずると何かが這っているかのような音が渡殿から聞こえて来た。(何だ?)にほんブログ村
Oct 29, 2023
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素材は、ヨシュケイ様からお借りしました。「薄桜鬼」「火宵の月」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「だって、トシさんをお嫁さんにするって約束したんだもん!」「・・そんな約束をした覚えはねぇぞ?」「え~!」八郎はそう言うと、潤んだ瞳で歳三を見つめた。「そんな顔をするな。」「じゃぁ・・」「八郎、腹減っただろ?丁度飯の時間だから一緒に食うか?」「いいの!?」八郎は尻尾を振りながら歳三に抱き着こうとした時、烏天狗の斎藤が彼の前に降りて来た。「おう斎藤、久しぶりだな!」「お久しぶりです、土方さん!」「斎藤、斎藤じゃねぇか!今までどうしていたんだ?」「トシさん、この子誰なの!?」「あぁ、こいつは昔、怪我をしていた時、俺が世話して・・」「ひどい、僕というものがありながら浮気なんて!」「誤解するな。」「言っとくけれど、トシさんは僕のだぞ!」「久しぶりに会えたんだ、ゆっくりしていけ。」「はい。」その夜、歳三達は楽しく酒を酌み交わした。「トシさん、結婚はしたくないの?」「あぁ。義父上からは勝手に縁談を勧められているが、俺は一生独り身でいい。」「それじゃぁ・・僕のお嫁さんになってくれるって事?」「・・何でそうなる?」「土方さん、少しよろしいでしょうか?」「どうした、深刻そうな顔をして?」「実は・・」斎藤は、酒を飲みながらぽつりぽつりと彼が住む山が抱えている問題を歳三に話し始めた。かつては、“神域”とされていた烏天狗の里は、ここ数年都の貴族達が山荘を建てては連日宴を開くので、うるさくて堪らないという。「このままでは、我らの心が乱れてしまいます。実際、貴族の山荘を襲う事件が相次いで起きております。このままだと、争いが起きます・・どうすればよいのか・・」「切実な問題だな。人と妖との境界線が徐々になくなってきやがる。」「そうだね。うちの里でも斎藤君の里と同じ問題が起きているよ。」「どうにしかしねぇとな・・」歳三達は腕を組んで深い溜息を吐いた。彼らが人間達とどう共存し合えるかどうかを話し合っている頃、右大臣家では一人の姫君が和琴を奏でていた。彼女の名は、雪村千鶴といった。彼女は、訳あって右大臣家へと引き取られた、鬼の血をひく姫だった。「千鶴、入るわよ。」「姉様・・」「近々、ここで管弦の宴が開かれる事は知っているわよね?」「はい。」「その宴に、あなたも出てみない?」「でも、わたしは・・」「大丈夫、わたしの方からお父様を説得してみるわ。あなたも右大臣家の姫なのだから、公の場に出る資格はあるわ。」「えぇ・・」千鶴はそう言って、右大臣家の一の姫・美雪に向かって嬉しそうに笑った。「ねぇ、ここ最近都で鬼騒ぎがあったのですって。」「物騒ですね。」「本当に。」都では、貴族の姫君を狙った人攫いが多発していた。「うちには、厄介な居候が居るから心配ね。」「姫様、お言葉が過ぎますよ。」「あら、いいじゃないの。本当の事なのだから。」右大臣家の二の姫・柚奈はそう言うと、扇を顔の前にかざして意地の悪い笑みを浮かべた。「ねぇ、管弦の宴にはあの土方家の歳三様がいらっしゃるのでしょう?」「えぇ、何でも宴には土御門家の若様もいらっしゃるようですよ。」「楽しみだわ!」柚奈がそんな事を女房と話していると、右大臣が彼女の元へやって来た。「まぁ父様、こんな所にいらっしゃるなんてお珍しい事。」「管弦の宴の事だが、あの娘も宴に出す事に決めた。」「嫌よ!」「これはもう、決まった事なのだ。」「そう。わかりました。」柚奈はそう言いながら、千鶴を宴の席で恥をかかせてやろうと企んでいた。「美雪様、今よろしいでしょうか?」「その顔は、また西の対屋で何かあったのね?」「はい・・」柚奈の女房から、彼女のたくらみを知った美雪は、ある事を企んだ。そして、管弦の宴の夜が来た。「今宵の宴には、あの鬼姫が出るそうだ。」「あぁ、あの・・」「“鬼姫”ですと?それは興味深い話ですな。」酒を酌み交わしながらそんな事を公達達が話していると、そこへ歳三が現れた。「おや、お珍しい。あなた様がこちらにいらっしゃるなんて・・」「義父に無理矢理連れて来られましてね。」「まぁ、そうなのですか。」「道理で、右大臣家の女房達が騒いでいる訳だ。」「華やかな場所は苦手なので・・」「またまた、ご冗談を。」(早く帰りてぇな。)「おや有匡殿、どうかなさったのですか?」「いえ、あちらの方は初めて見るお顔ですね。」「あぁ、彼は土方歳三殿ですよ。何でも、半分鬼の血をひいておられるとか・・」「ほぉ・・」「どうやら、土方殿は右大臣家の姫君様方と見合いをされるそうですよ。」有匡が少し歳三に興味を持ち始めた頃、歳三は右大臣家の姫君達と見合いをしていた。見合いといっても、御簾越しに互いの顔を見るだけであった。「歳三様、半分鬼の血が流れているというのは本当ですの?」「えぇ、本当ですよ。」「まぁ、それならば“あの子”にお似合いなのかもしれませんわ。」「“あの子”?」「ほら、今池で和琴を弾いているのが、我が家の居候ですわ。」柚奈がそう言って扇で指し示した先には、池に浮かぶ船の中で和琴を弾いている真紅の唐衣を纏った一人の姫君の姿があった。頭に黄金色のかざしを挿し、目元に紅をさしたその姿は、まるで天から舞い降りて来た天女のように美しかった。「あの子がこの家に来てから、不吉な事ばかり起こるんですの。」「失礼。」「待って!」自分を慌てて引き留めようとする柚奈に背を向け、歳三は庭の方へと向かった。「おや、歳三殿は鬼姫に興味がおありのようだ。」「同族同士、惹かれ合うようなものがあるのだろう。」ヒソヒソと悪意に満ちた囁きを無視して、歳三は和琴を弾いている娘を見た。その時、雲に隠れていた月が、歳三とその姫君の姿を照らした。(やっぱり、こいつ、あの時の・・)姫君の姿と、あの時池で会った少女の姿が、歳三の中で重なって見えた。それは、彼女も同じだったようで、彼女も歳三をじっと見つめていた。『歳三・・』歳三の脳裏に、自分の名を呼ぶ“誰か”の姿が浮かんだ。それは、自分と瓜二つの顔をした女だった。にほんブログ村
Oct 29, 2023
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素材は、ヨシュケイ様からお借りしました。「薄桜鬼」「火宵の月」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。漆黒の闇の中、一人の男が息を切らしながら走っていた。彼は、一夜の宿を借りる為、貴族が住んでいた屋敷で寝ていたら、“ただならぬ気配”を感じ、屋敷から出た。すると、奥から恐ろしい声が聞こえて来た。“何故わかった”堪らず男は屋敷から出て闇の中へと駆けてゆくと、背後に禍々しい気配が迫って来るのを感じた。橋の下で隠れて暫くそこで息を殺していると、橋の上から鎧がガチャガチャと鳴る音がした。“あの者はいずこへ?”「ここに、おりますよ。」男のすぐ傍で、若い男の声が聞こえて来た。その声が聞こえた途端、男の意識は途絶えた。「おい、どうした?」「申し訳ありませぬ、牛が・・」牛車が突然止まり、歳三はそっとそこから降りて牛の元へと向かった。「いけません、若様!」「大丈夫。」彼はそう言うと、牛に纏わりついている雑鬼を祓った。「歳三、勝手に何処かに行っては駄目だろう!」「申し訳ありません、“父上”・・」歳三がそう言って詫びると、義父は舌打ちして彼を睨んだ。“薄気味悪い・・鬼の子など、引き取りたくなかった。”(鬼の子、か・・)歳三は、鬼と人との間に生まれた、半妖だ。幼少の頃から父母はすでに亡く、歳三は父方の実家である土方家の養子となった。土方家は、陰陽道の大家として安倍家や土御門家にひけをとらぬほどの名門であった。義父―父方の叔父には四人の息子達が居たが、彼らは皆、“見鬼の才”がなかった。陰陽師の家の者として生まれた彼らにとってそれは、致命的なものであった。だが、養子として迎え入れた歳三にだけ、“見鬼の才”があった。漆黒の髪に雪のような白い肌、そして宝石のような美しい紫の瞳を持った歳三は、たちまち嫉妬と羨望の的となった。―気味が悪い・・―いくら学が出来てもねぇ・・使用人達は歳三を恐がり、誰一人彼に近づこうとしなかった。歳三は孤独な日々を、ネズミ達や雑鬼達と過ごした。時折横笛や箏を奏でながら、歳三は長い夜が明けるのを静かに待っていた。水干姿に髪をひと纏めにして高い位置に結んでいた歳三は、ある日夏の茹だるような暑さを凌ぐ為、近くの泉で水浴びをしていた。するとそこへ、一人の少女がやって来た。薄紅の衣を纏ったその少女は、円らな瞳で歳三を見た。その瞳の色は、美しい黄金色をしていた。「てめぇ、誰だ?」「あ・・」「姫様、どちらにいらっしゃいますか~」「姫様~!」遠くで女房達の自分を呼ぶ声が聞こえ、少女はまるで弾かれたかのように泉の前から離れていった。(何だったんだ、あいつ?)それが、小さな鬼姫との出逢いだった。「は、見合いですか?」「そうだ。お相手は右大臣家の姫君様方でな、近々そこで管弦の宴が開かれる。」「義父上、俺は・・」「お前にはそろそろ身を固めなければな。次期当主となるのだから。」「それは・・」「そなたは、この家の希望。そなたには、陰陽師としてこの家を支えて欲しいのだ。」元服を迎えた日の夜、歳三は義父に呼ばれ、彼が自分に家督を譲る気である事を知った。「随分と長い間、父上と話されていたな?」「兄上・・」「馴れ馴れしくわたしを呼ぶな、鬼の子風情が。」歳三の義兄・義成は、そう言った後冷たく歳三を睨んだ。「先程、義父上からこの家の次期当主はお前しか居ないと言われましてね。」「何だと!?」「あなた方が、陰陽師として力不足だと申し上げているのです。血など、所詮役に立たないものですね。」「おのれ・・」「良い気になるな、貴様はこの家の恥晒しだ!」「何とでもおっしゃるがいい・・負け犬の遠吠えなど、聞いても虚しいだけだ。」「兄者、あんな奴放っておきましょう。」義兄達が去った後、歳三はふと庭の方へと目をやると、藤の木の近くに幼い狐が倒れている事に気づいた。(何だ・・)歳三が狐に近づいてみると、その狐は、まだ幼い妖狐だった。癖のある栗色の毛は血に汚れ、狐は苦しそうに息をしていた。歳三は祭文を唱えながら、己の“気”を狐に当てた。すると、狐はゆっくりと翡翠の瞳を開いて歳三を見た。「良かった・・」「トシさん・・」「もう喋るな。」歳三はそう言って狐を抱えると、暫く彼を自室で匿った。「ありがとう、トシさん。この恩は、いつか必ず返すからね!」「気を付けて帰れよ。」「わかった、じゃぁね!」狐は栗色の九本の尻尾を振ると、その姿を煙のように掻き消した。「八郎、どうしたのです?大事な話とは・・」「母上、僕トシさんをお嫁さんにしたいです!」「あなたの好きなようになさい。」時が経ち、陰陽師として働いている歳三の元に、成人した狐もとい、伊庭八郎がやって来た。「トシさ~ん、迎えに来たよ!」「本当に来たのか・・」にほんブログ村
Oct 29, 2023
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