薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月 10
F&B 腐向け転生パラレル二次創作小説:Rewrite The Stars 6
天上の愛地上の恋 大河転生パラレル二次創作小説:愛別離苦 0
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁 12
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻 10
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁 1
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ 5
天上の愛 地上の恋 転生現代パラレル二次創作小説:祝福の華 10
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華 14
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄 1
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊 1
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法 7
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜 18
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は 10
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て 5
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計 9
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫 20
火宵の月 帝国オメガバースファンタジーパラレル二次創作小説:炎の后 1
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母 13
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん 6
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥 7
天上の愛地上の恋 転生オメガバースパラレル二次創作小説:囚われの愛 9
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華 1
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師 4
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥 27
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚 2
ハリポタ×天上の愛地上の恋 クロスオーバー二次創作小説:光と闇の邂逅 2
天上の愛地上の恋 転生昼ドラパラレル二次創作小説:アイタイノエンド 6
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師 1
天愛×火宵の月 異民族クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼と翠の邂逅 1
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている 3
天愛×薄桜鬼×火宵の月 吸血鬼クロスオーバ―パラレル二次創作小説:金と黒 4
火宵の月 昼ドラハーレクイン風ファンタジーパラレル二次創作小説:夢の華 0
火宵の月 吸血鬼転生オメガバースパラレル二次創作小説:炎の中に咲く華 1
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉 54
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~ 6
火宵の月異世界転生昼ドラファンタジー二次創作小説:闇の巫女炎の神子 0
バチ官×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:二人の天使 3
火宵の月 異世界ファンタジーロマンスパラレル二次創作小説:月下の恋人達 1
FLESH&BLOOD 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の騎士 1
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して 20
火宵の月 戦国風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:泥中に咲く 1
PEACEMAKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で 9
火宵の月 和風ファンタジーパラレル二次創作小説:紅の花嫁~妖狐異譚~ 3
天上の愛地上の恋 現代昼ドラ風パラレル二次創作小説:黒髪の天使~約束~ 3
火宵の月 異世界軍事風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:奈落の花 2
天上の愛 地上の恋 転生昼ドラ寄宿学校パラレル二次創作小説:天使の箱庭 7
天上の愛地上の恋 昼ドラ転生遊郭パラレル二次創作小説:蜜愛~ふたつの唇~ 1
天上の愛地上の恋 帝国昼ドラ転生パラレル二次創作小説:蒼穹の王 翠の天使 1
火宵の月 地獄先生ぬ~べ~パラレル二次創作小説:誰かの心臓になれたなら 2
火宵の月 異世界ロマンスファンタジーパラレル二次創作小説:鳳凰の系譜 1
火宵の月 昼ドラハーレクインパラレル二次創作小説:運命の花嫁~愛しの君へ~ 0
黒執事 昼ドラ風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:君の神様になりたい 4
天愛×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー 2
FLESH&BLOOD ハーレクイロマンスパラレル二次創作小説:愛の炎に抱かれて 10
薄桜鬼腐向け転生刑事パラレル二次創作小説 :警視庁の姫!!~螺旋の輪廻~ 15
FLESH&BLOOD 帝国ハーレクインロマンスパラレル二次創作小説:炎の紋章 3
PEACEMAKER鐵 オメガバースパラレル二次創作小説:愛しい人へ、ありがとう 8
天上の愛地上の恋 現代転生ハーレクイン風パラレル二次創作小説:最高の片想い 6
FLESH&BLOOD ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の花嫁と金髪の悪魔 6
薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう) 10
薄桜鬼×天上の愛地上の恋 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:玉響の夢 6
天上の愛地上の恋 昼ドラ風パラレル二次創作小説:愛の炎~愛し君へ・・~ 1
天上の愛地上の恋 異世界転生ファンタジーパラレル二次創作小説:綺羅星の如く 0
天愛×腐滅の刃クロスオーバーパラレル二次創作小説:夢幻の果て~soranji~ 1
天愛×相棒×名探偵コナン× クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧に融ける 1
黒執事×天上の愛地上の恋 吸血鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼に沈む 0
魔道祖師×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想うは、あなたひとり 2
天上の愛地上の恋 BLOOD+パラレル二次創作小説:美しき日々〜ファタール〜 0
天上の愛地上の恋 現代転生パラレル二次創作小説:愛唄〜君に伝えたいこと〜 1
天愛 夢小説:千の瞳を持つ女~21世紀の腐女子、19世紀で女官になりました~ 1
FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇ 2
YOI×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:皇帝の愛しき真珠 6
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず 2
薔薇王の葬列×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:黒衣の聖母 3
天愛×F&B 昼ドラ転生ハーレクインクロスオーパラレル二次創作小説:獅子と不死鳥 1
刀剣乱舞 腐向けエリザベート風パラレル二次創作小説:獅子の后~愛と死の輪舞~ 1
薄桜鬼×火宵の月 遊郭転生昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:不死鳥の花嫁 1
薄桜鬼×天上の愛地上の恋腐向け昼ドラクロスオーバー二次創作小説:元皇子の仕立屋 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君~愛の果て~ 1
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師~嵐の果て~ 1
YOI×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:氷上に咲く華たち 1
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰 2
F&B×天愛 昼ドラハーレクインクロスオーバ―パラレル二次創作小説:金糸雀と獅子 2
F&B×天愛吸血鬼ハーレクインクロスオーバーパラレル二次創作小説:白銀の夜明け 2
天上の愛地上の恋現代昼ドラ人魚転生パラレル二次創作小説:何度生まれ変わっても… 2
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師 1
薄桜鬼×天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿 2
火宵の月 異世界ハーレクインヒストリカルファンタジー二次創作小説:鳥籠の花嫁 0
天愛 異世界ハーレクイン転生ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女 氷の皇子 1
天愛×火宵の月陰陽師クロスオーバパラレル二次創作小説:雪月花~また、あの場所で~ 0
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※BGMと共にお楽しみください。「火宵の月」オメガバースパラレルです。作者様・出版社様とは一切関係ありません。オメガバース・二次創作が苦手な方はご注意ください。「何だ、知らないの?あ、先生にとって君は・・」「うるさいんだよ、さっさと消えな。」火月にしつこく絡んで来た麗を、神官はそう言って撃退した。麗は舌打ちすると、図書館から出て行った。「助けてくれて、ありがとう。」「礼なんていいよ。神官はああいう奴が嫌いなだけ。それに、アリマサについて色々とイラついてんの。」神官はそう言うと、鬱陶しそうに前髪を搔き上げた。「有匡って、僕の・・」「その様子だと、まだ記憶が戻ってないみたいだね。」神官はそう言うと、一枚のメモを火月に手渡した。「これ、アリマサが泊まっているホテル。記憶が戻っていなくても、アリマサとちゃんと話し合いなよ。」「わかった・・」 放課後、火月は有匡が泊まっている高級ホテルへと向かった。「すいません、こちらに土御門有匡様という方は・・」「火月、お前どうしてここに?」ホテルのロビーで有匡が火月に声を掛けると、彼女は突然彼に抱きついて来た。「火月?」「ごめんなさい・・あなたに、会いたくて・・」「部屋へ行こう。」火月を泊まっている部屋まで連れて行った有匡は、彼女をベッドの上に押し倒した。「あ、あの・・」「わたしに会いに来たという事は、わたしに抱かれに来たのだろう?」「そ、そんなつもりは・・」「黙れ。」有匡は火月に向かって威嚇フェロモンを放つと、火月は苦しみ始めた。「お願い、やめて・・」「お前が、わたしの“何”なのか、今からその躰に教え込んでやる。」有匡はそう言うと、火月の上に覆い被さった。「痛い、やめてぇ・・」有匡は、ただ欲望の赴くがままに、火月を乱暴に抱いた。「わたしを忘れるなど許さない。お前はわたしのものだ、決して忘れるな。」嬉しい筈の、彼の言葉が、火月の耳朶に残酷に響いた。痛む躰を引き摺りながら、火月は有匡の部屋から出た。「お帰り。火月、どうしたの、有匡と何があったの?」「ごめん禍蛇、一人にして。」火月はそう言って部屋に入ると、浴室で頭から冷たいシャワーを浴びた。ここなら誰にも聞かれる事は無い―そう思った火月は、大声で泣いた。「火月ちゃん、どうしたの?」「ちょっと、風邪をひいたみたい。パーティーに出られなくてごめんねって。」「そう・・」シェアハウスを卒業した禍蛇は、仲間達と別れを惜しんだ後、琥龍と共に旅立った。「禍蛇、元気でね。」「うん。火月、本当に独りで大丈夫?」「大丈夫だよ。」「落ち着いたらメールするからね。」空港で琥龍と禍蛇を見送った後、火月は家族連れやカップルで賑わうクリスマスツリーの前を足早に通り過ぎた。有匡と、擦れ違っている事など気づかずに。「ただいま・・」「お帰りなさい、火月ちゃん。外、寒かったでしょう?」「うん・・」火月は、シェアハウスの仲間達と夕飯を取ろうとした時、炊き立てのご飯の匂いを嗅いだ途端激しい吐き気に襲われ、トイレに入って朝食を便器の中に吐いた。「大丈夫?」「うん、ただの胃腸風邪だから・・」「そう。」しかし、火月の体調は良くなるどころか、悪化していった。「これ、使ったら?もしかしたら、という事もあるかもしれないし・・」ある日、火月はシェアハウスの仲間から妊娠検査薬を渡された。(まさか、ね・・)火月は、早速妊娠検査薬をトイレで試した。すると、検査窓に「陽性」を示す二本線が出て来た。「シェアハウスから出て行く?どうして?」「だって・・妊娠しちゃったので・・皆さんに、ご迷惑をかけてしまうし・・」「馬鹿言わないで!あたし達、家族でしょう?これから、皆であなたの事を支えてあげるから!」「ありがとうございます・・」火月は高校を卒業し、安定期を迎えるまで生活の為に懸命に働いた。「お疲れ様~!」「火月ちゃん、体調は大丈夫なの?」「はい。つわりは治まったし、無理しない程度に運動した方がお腹の赤ちゃん達にもいいって、お医者様が。」「双子なの?だったらこれから大変ね。明日、買い物に付き合ってあげるわよ!」火月に何かと親切にしてくれるパート仲間の西田は、そう言って彼女の少し膨らんだ腹を見た。「初産で双子って、産むのも大変だけど、育てるのも大変よ。困った事があったら、何でも相談してね。」「ありがとうございます。」パート先であるパン屋の前で火月と別れた西田は、ある場所へと向かった。そこは都内の一等地にあるタワーマンションの最上階だった。「坊ちゃま、わたしです。」『入れ。』最上階の部屋の主―有匡はそう言うと、オートロックを解除した。「あの子は・・火月様は、間もなく臨月を迎えられます。初めての出産で、彼女は不安がっております。」「そうか。」「火月様には、お会いにならないのですか?」「彼女は、自分を乱暴した男の顔など見たくないだろう。それに、彼女はわたしと居たら不幸になる。」「坊ちゃま・・」「報告ご苦労、もうさがっていい。」「はい・・」翌日、火月は西田と共に、ベビー用品を買いに駅前にある大型商業施設へとやって来た。「沢山買っちゃったわねぇ~」「すいません、色々と・・」「いいのよ~、火月ちゃんを見ていると、娘を思い出しちゃってねぇ、放っておけないのよ。」「そ、そうなんですか・・」「お腹空いたでしょう、そろそろお昼にしましょうか?」「はい・・」西田と共に火月が入ったのは、お洒落なカフェだった。昼時とあってか、店内は混んでいた。「ここに座ってて。わたしが注文してくるから。」大きなお腹を抱えながら、火月がソファの上に腰を下ろした時、突然店内がざわつき始めた。―何あの人?―イケメン!―きゃぁ、こっちに来たわ!火月が周囲の声に気づいて俯いていた顔を上げると、そこには自分を見つめる有匡の顔があった。“火月。”「先生・・?」「火月、記憶が戻って・・」有匡がそう言って火月を見た時、火月は突然苦しそうに顔を歪ませた。「お腹、痛い・・」「火月、しっかりしろ!」病院に搬送された火月は、緊急帝王切開によって男女の双子を出産したが、意識不明の重体に陥った。「わたしの所為だ・・わたしが・・」「しっかりなさって下さい、坊っちゃん!あなたはもう、護るべきものがあるでしょう!」自責の念に駆られ、弱気になっている有匡を、西田は平手打ちした。「そうか、そうだな・・」 有匡はそう言うと、新生児室に居る双子を見た。“起きて・・”(誰?)“早く起きて。”(僕を呼ぶのは、誰?) 火月が目を開けると、そこには自分と瓜二つの顔をした女性が立っていた。(あなたは、誰?)“僕は、あなた。昔、あなたの先生と夫婦だった。” 女性は、そう言うと火月の手を握った。”早く起きて、先生達の元へ戻って。“(先生・・) 火月は、何処かで自分を呼ぶ声が聞こえ、その声が聞こえる方へと歩いて行くと、白い光に彼女は包まれ、意識を失った。「火月、よかった!」「先生?」「高原さん、良かった、意識が戻ったんですね!」 火月が病院を退院出来たのは、出産してから三ヶ月後の事だった。「先生、本当に、一緒に住んでもいいんですか?」「何を今更。お前は、わたしと暮らしたくないのか?」「そ、そんな事、思ってないですけど。」 退院後に有匡に連れられて彼の部屋に入った火月は、彼からそう尋ねられ、そう言った後頬を膨らませた。「そう拗ねるな、少し揶揄っただけだ。」「もうっ!」「お帰りなさいませ、坊ちゃま、奥様。」 二人が玄関先でそんなやり取りをしていると、奥から西田が出て来た。「え、西田さん、何でここに!?」「ごめんなさい、火月ちゃん。わたしは、坊ちゃま・・有匡様に頼まれて、あなたの事を陰ながらサポートしてきたの。」「え、えぇ~!」「余り騒ぐな、双子が起きるだろう。」 有匡がそう言った後、今まで寝ていた双子が急に泣き出した。「ほら、言わんこっちゃない。」「先生の所為じゃないですか~!」(はぁ、この先どうなるのやら・・) それから二人は西田に手伝って貰いながら、双子の育児に奮闘した。 双子の育児は、二人が想像していたよりもハードだった。 睡眠時間はまとめて三時間取れるのがいい方で、西田の助けがなかったら、二人は共倒れしていたかもしれない。「奥様、どうぞ。」「ありがとう、西田さん。こんなに良く寝たのは、久し振りだなぁ。」「一人でも大変なのに、双子だとその倍の大変さですからね。でも、こうして双子ちゃん達をお世話していると、娘の事を思い出してしまいました・・交通事故で亡くなった娘を。」「ごめんなさい、辛い事を思い出させちゃって・・」「いえ、いいんです。」 西田はそう言った後、涙を手の甲で拭った。 その時、チャイムが鳴った。「あら、こんな時間に誰かしら?」「先生は、まだお仕事の筈・・西田さん、警察を呼んで。」「は、はいっ!」 謎の訪問者が土御門家に来てから一週間後、火月が禍蛇達と西田と共に双子達の満一歳の誕生日パーティーの準備をしていた時、再びチャイムが鳴った。『宅配です。』「は~い。」 西田がそう言ってオートロックを解除しようとした時、その宅配業者の姿が見えなくなった。「火月、無事か!?」「先生、どうしたんです?宅配の人は?」「あいつは宅配業者じゃない、お前を拉致しようとした遠縁の従兄だ。まぁ、あいつは警察に連れて行かれたから、もう心配しなくていい。」「そうですか・・あれ、先生、お仕事だった筈じゃ・・」「嫌な予感がして、早退してきた。それに、今日という日を、家族でゆっくりと過ごしたいからな。」「え・・」「何を驚いている?」「あの、本当に先生ですか?」「殴られたいのか、お前?」「いえ・・」 その日の夜、土御門家の双子、雛と仁の満一歳を祝う誕生パーティーが華々しく開かれた。「この一年間は、怒濤の一年間だったな。」「ええ。」「火月、順序が逆になってしまったが、わたしと結婚してくれないか?」 有匡のプロポーズの言葉に、火月はこう返事した。「はい、喜んで。」「これからも、宜しく頼む。」「こちらこそ。」(良かった・・坊ちゃま、どうか火月さんとお幸せに。) 二人の様子をキッチンから見ていた西田は、そう思った後仕事に戻った。「え、結婚式!?」「うん。この一年、色々とあって、落ち着いたから結婚式を挙げようって、先生が・・」「ふ~ん、あいつにしては珍しいな。何処かで浮気でも・・」「お前は黙ってろ!」 琥龍は禍蛇に股間を蹴られ、呻いて床に転がった。 有匡と火月が転生し、運命的な再会を果たしてから、二年の歳月が経った。 六月、都内のホテルで、二人は結婚式を挙げた。「うわぁ、火月、綺麗だよ!」「ありがとう、禍蛇。」「フェロモンボンバー!有匡なんかと別れて、俺と一緒になってくれ~!」「しつけーんだよ、お前ぇは!」 禍蛇はそう言うと、琥龍にかかと落としを喰らわせた。 新婦控室にある鏡の前で、火月はうっとりとした様子で己の花嫁姿を見た。 この日の為に、有匡と相談して誂えたマーメイドラインのドレスには、襟と裾にはガーネットとルビーがそれぞれ縫い付けられていた。「お互いの誕生石をドレスにつけるなんて、エモいよね~!琥龍には真似できないな~」「何だか、嘘みたい・・Ωの僕が、幸せになれるなんて。」「もう、まだそんな事を言ってるの?これから有匡と幸せになるんだから、もっと自信を持ちなよ!」「う、うん・・」「新婦様、そろそろお時間です。」「はい、わかりました。」 火月はドレスの裾を摘むと、禍蛇と琥龍と共に新婦控室から出た。「有匡、おめでとう。火月さんと幸せにな。」「ありがとうございます、母上。」「馬子にも衣装ってやつだね。」「お前、火月を虐めたら承知せんぞ。」「そんなことする訳ないじゃん。ま、神官も近い内に結婚するからいいけどね。」「相手は誰だ?」「後で教えるよ。」 神官はそう言って笑うと、スウリヤと共に新婦控室から出た。「新郎様、お時間です。」 有匡は、颯爽とした様子で新郎控室から出た。 初夏の陽光を受け、七色に光るステンドグラスの下に立つ火月の姿は、とても美しかった。「それでは、誓いのキスを。」 有匡と火月が神の下で永遠の誓いを交わし、ホテル内のチャペルから出ると、外には美しい青空が広がっていた。 まるで、空が二人を祝福しているようだった。「おとうさん、おかあさん、おめでとう!」「おめでとう~!」 雛と仁は、そう言うと有匡と火月に抱きついた。「二人共、ありがとう。」「火月さん、不肖の息子をよろしく頼む。」「こちらこそ、よろしくお願い致します、お義母様。」 スウリヤは、火月と笑顔で握手を交わした。「母上、神官は?」「神官なら、彼と一緒に居たぞ。」「彼?」「やぁ、有匡殿。この度はご結婚おめでとうございます。」「文観、貴様何しに来た?」「そんなにカリカリしなくても良いじゃん、アリマサ。近い内に親戚になるんだし。」「親戚だと?」「もしかして、聞いていなかったのか?まぁそうだろう。」 有匡はこめかみに青筋を立てながら文観を睨みつけると、彼は笑いながら神官の肩を抱いた。「これから、よろしくお願いしますね、お義兄さん。」「わたしは認めん!」「先生、落ち着いて~!」「やはり、こうなるか。」~完~にほんブログ村
Feb 23, 2024
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「火宵の月」オメガバースパラレルです。作者様・出版社様とは一切関係ありません。オメガバース・二次創作が苦手な方はご注意ください。「火月、花火大会、楽しんだみたいで良かったね。」「え?」「いやぁ、そんだけあからさまにマーキングされたら、わかんだろう。」 琥龍はそう言うと、火月に手鏡を手渡した。「うわぁ・・」 火月は、首筋に有匡がつけたキスマークがついている事に気づいて、顔を赤くした。「最近独占欲出し過ぎだよな、あいつ。俺がこの前、火月をシェアハウスまで送ろうとしたら、殺気を放って来たし。」「う~ん、最近先生、色々とナーバスになっているんだよねぇ。この前、お父様の法事に出席した時に、何かあったみたいで・・」「え、有匡もしかして、実家に火月の事を言っていないの?ちゃんとした嫁なのに?」「嫁って、僕は先生とは・・」「毎日Hしてりゃ、嫁と一緒じゃん。」 禍蛇の言葉を聞いた火月は、飲んでいたアイスコーヒーを噴き出してしまった。「そ、そんっ・・」「てかさぁ~、もう有匡の所に住めば?いくら近所とはいえ、通い妻はキツイよね。」「先生、色々と忙しいし、余り自分の縄張りというか、領域に他人を入れたくなさそうだし・・」「火月は、有匡にとって特別な相手って事だろ?」「う~ん、そうかな?」「まぁ、俺シェアハウスを近々出て行くし、一度有匡に話してみたら?」「わかった。」 火月がそう言いながら禍蛇とカフェから出た時、店の前に一台の高級車が停まっている事に気づいた。「あれ、有匡の?」「ううん、違うよ。」 火月がその高級車の前を通り過ぎようとした時、突然車の中から数本の腕が伸びて来て、あっという間に火月を車の中へと引き摺り込んだ。「火月が拉致された!?」「うん、今さっき!有匡、何か心当たりある?」「火月を拉致したのは、実家の者だ。あいつらは、火月をわたしから排除しようとしている。」「どういう事?」「義父は、わたしに、家に相応しいΩを宛がうつもりだ。だから、火月をわたしから引き離そうと・・」 有匡はそう言うと、唇を噛んだ。「引き離すって、一方的に番契約を解消させようとしているって事?」「あぁ。だが、番契約はαの方からしか解消できない。義父の狙いはこのわたしだ。必ず、わたしが必ず火月を取り戻してみせる。」 そう言った有匡の瞳には、決意の炎が宿っていた。「う・・」「目が覚めたか?」 火月が目を開けると、そこは暗く湿った蔵の中だった。 彼女の前には、数人の男達の姿があった。「あなた達は・・」「お前が、有匡の番か?」「先生を、知っているの?」「知っているも何も、あいつには散々、煮え湯を飲まされて来たからな。」 有匡の義兄達は、そう言うと火月の頬を平手打ちした。「お前には、消えて貰う。」「嫌、嫌!」(先生、助けて・・)「あの者は、どうであった?」「あの娘、中々強情で、頑として有匡との番契約を解消すると言いません。如何致しましょう、父上?」「あの娘をバース機関へ送り、一生繁殖用として向こうへ監禁すればいい。」 有匡の義父が息子達とそんな事を話していると、突然廊下の方が騒がしくなった。「火月は何処だ、火月を出せ!」「有匡、何を騒いでおる?」「義父上、火月を何処へやったのです?火月は、わたしの大切な・・」「あの娘は、お前の番には相応しくない。あの娘は、敵の血をひいている。」 有匡の義父は、そう言うと茶を一口飲んだ。「敵の血?」「あの娘の家は、魔物を神として祀る巫女の末裔だ。そのような忌まわしい者は、この家には相応しくない。」「火月が相応しいかどうかは、わたしが決めます。そこを退いて下さい。」「有匡、お前は有仁と同じ過ちを犯すつもりか?」「火月は何処に居る?」 有匡は苛立ち、傍にあった果物ナイフを義父に突きつけた。「あの娘は、離れに監禁しておる。案内しよう。」 有匡が義父と共に火月が監禁されている蔵の中に入ると、そこは甘い花の蜜のような匂いが漂っていた。(これは、Ωのフェロモン・・番が居るΩは、発情しない筈・・)「強制発情剤を打っておったが、こうもすぐに効くとはな。」「火月に、何をしたぁ!」 火月は、有匡の全身から発せられた威圧フェロモンに気絶してしまった。(先生、助けに、来てくれたんだ・・) 火月が有匡の方を見ると、彼は義父達に襲い掛かっていた。(駄目・・先生、お願い・・) 有匡に呼び掛けようとした火月は、突然額が疼くのを感じた。(何?)「火月、どうした!?」 火月が苦しみ出すのを見た有匡は我に返ると、火月の周りを囲んでいる注連縄を傍にあった太刀で切り、彼女を抱き締めた。「火月、わたしだ。わかるか?」「う・・先生、お願い、離れて・・」「火月?」 火月は、激しい頭痛に襲われ、その場に蹲った。「しっかりしろ、火月・・」―目覚めよ。 何処からか、自分を呼ぶ声がした。―我を・・(嫌だ・・)「この娘を早く殺せ!」―呼べ。(嫌だぁ~!) 突然、紅い稲光りが空に光り、雷鳴が轟いた。「火月?」 雷の直撃を免れた有匡は、火月の額にあるものが浮かんでいる事に気づいた。(あれは・・) それはかつて、自分が封じた筈の紅牙―邪悪な獣の証である、「第3の瞳」だった。(あの時、わたしは紅牙を封じた筈・・それなのに・・)「先生、助けて・・」 有匡は、苦しそうに息をする火月を抱き締めた。「大丈夫だ、わたしはここに居る。」「良かった・・」 火月は、そう言うと気を失った。「火月、しっかりしろ!」 遠くから、サイレンの音が聞こえた。「有匡、火月は?」「わからない。」「どういう事だよ、それ!?」「火月の額に、“第3の瞳”が現れた。あれは、わたしが昔、封じた筈・・」 有匡がそう言った時、手術室の“使用中”のランプが消え、ストレッチャーに乗せられ、酸素マスクをつけた火月が中から出て来た。「火月、しっかりしろ!」「あなたが、高原火月さんの番ですね?」「はい。火月は、大丈夫なんですか?」「脈拍、呼吸共に異常はありませんが、ひとつ問題があります。」「問題?」「はい。彼女の脳は重篤なダメージを受けており、いつ意識が回復するのかが定かではありません。下手すれば、一生植物人間になる可能性もあります。」「そうですか・・」 火月は集中治療室に入れられ、医師達の治療を受けていた。「わたしの所為だ、わたしが・・」「お前の所為じゃねぇって!そういや、土御門家のオッサン達はどうしてんだ?」「さぁな。今はあいつらの事よりも、火月の方を優先せねば。」有匡はそう言うと、コーヒーを一口飲み、病院へと向かった。―ねぇ、土御門先生、今日も休みなの?―うん、番の子が・・―え、番ってあの・・ 神官は時折聞こえて来る“事件”の噂話に耳を傾けながら、ある場所へと向かった。 そこは、文観が居るバース関連の研究所だった。「おや、久しいですね―艶夜。」「アリマサとカゲツに会わせて。」「これは異な事を。あの二人はここには居ませんよ。」「本当?神官を騙したら承知しないよ。」「おお、恐い。」 文観はそう言って笑いながら、神官を見た。「二人なら、病院に居ますよ。」「病院?アリマサ、怪我したの?」「いいえ、入院しているのは火月だけです。一月前に土御門家で起きた“事件”に、彼女が深く関わっているようなんですよ。」「どういう事?」 文観は神官に、ある週刊誌の記事を見せた。 そこには、黒焦げの遺体が転がる中で、火月を抱き締めている有匡の姿が写っていた。「土御門家を焼き、火月は意識不明の重体に陥っています。有匡は、毎日彼女に時間が許すまで付き添っているそうです。」「なんで?カゲツの中の紅牙は、アリマサが倒したんじゃないの?なのに、どうして・・」「それはわたしにもわかりません。しかし、彼女の家と深い関りがあるかと。」「アリマサに会う。」「今の彼は、手負いの獣同然。彼と同じαでも、あなたは会わない方が良い。」「わかった・・」」(もう、あれから二月も経つのか・・) 有匡は、何杯目かのコーヒーを飲みながら、集中治療室の中で眠っている火月を見た。「火月、起きてくれ・・」 有匡の声に応えるかのように、火月の瞳が静かに開いた。「火月!?」 駆け付けた医師によって、火月は生命の危機を脱したと告げられた時、有匡は安堵の溜息を吐いた。「先生、火月は・・妻は、いつ退院出来るんですか?」「それは、今のところわかりません。」「そうですか・・」 集中治療室から一般病棟へと移った火月を有匡が見舞いに行くと、彼女が居る個室の中から賑やかな笑い声が聞こえて来た。「良かった、元気そうで。」「ごめんね禍蛇、心配ばかりかけちゃって・・」「早く有匡に会ってあげなよ、あいつ心配してたんだから!」「火月。」 有匡が火月の病室に入ると、彼女の頬から笑みが消えた。「良かった、その様子だと大丈夫そうだな。」 有匡がそう言って火月の髪を梳こうとした時、彼女は怯えて有匡から後ずさりすると、彼に向かってこう言った。「あなた、誰?」「火月?」 火月が記憶の一部を喪失している事を有匡が彼女の主治医に話すと、彼は有匡にこう言った。「脳に重篤なダメージを受けた際、彼女の海馬―記憶を司る部分が少し損傷しているようです。それもありますが、やはり精神的なものが原因かと・・」「精神的なもの、ですか?」「ストレスが原因で、稀にそうなる方がいます。記憶が戻るのはいつになるのか、わかりませんが・・」「そうですか・・」 主治医の説明を受けた有匡は、火月を見舞おうとしたが、やめた。 今彼女にとって、自分は“見知らぬ男”でしかないのだから。「火月、有匡の事忘れたの?あんなに大好きな人だったのに。」「禍蛇、どうしてあの人は、僕の事を悲しそうな目で見ていたの?あの人に見られていると、胸がチクチクするんだ。」「火月、本当に有匡の事を忘れてしまったの?ずっと、想い続けて来たのに・・」 禍蛇はそう言うと、火月に紅玉の耳飾りを見せた。「これ、憶えている?昔、有匡が火月の涙で作った耳飾りだよ。」「う~ん・・」 火月が呻きながら禍蛇から紅玉の耳飾りを受け取った時、脳裏にある光景が浮かんで来た。『火月・・愛している・・』(誰?)『生まれ変わっても、ずっと・・』「火月、どうしたの?」「頭が痛い・・」「ゆっくり休みなよ。」「うん・・」 禍蛇が火月と病院でそんな話をしていると、そこへ一人の青年がやって来た。「あぁ、やはり炎様に似ておられる。」 青年はそう言うと、美しい切れ長の碧い瞳で火月を見つめた。「あなたは?」「わたしは、高原優斗。あなたの遠縁の、従兄にあたる者です。」「従・・兄・・?」「何も心配する事はありません。これからは、わたしがあなたを守ります。」「え・・」 青年の姿が、火月は“誰か”の姿と重なったような気がした。「貴様、何者だ!?」「また来ますね、炎様。」 青年―優斗は、そう言って火月の額に唇を落とした後、病室から去っていった。「火月、どうした?あいつに何かされたのか?」「触らないで!」 自分を抱き寄せようとした有匡の手を、火月は冷たく振り払った。「ごめんなさい、僕・・」「火月、わたし達は暫く距離を置いた方が良いだろう。」「え?」「達者でな。」 そう言って自分に背を向けて去ってゆく有匡の背中が、火月には“誰か”の背中に重なって見えた。「本当に、気が変わりませんか?」「はい。」「あなたのような有能な方が、我が校から居なくなるのは惜しいですが、仕方ありませんね。」 そう言った暁人は、嬉しそうに笑った。 厄介払い出来て嬉しいというように。「それでは、わたしはこれで失礼致します。」 有匡はそう言って暁人に辞表を出し、理事長室から出ると、国語科準備室で私物を整理していた。「これは、取っておくか・・」 そう言った有匡は、火月の耳飾りを絹の袋の中に、大切そうにしまった。 火月が退院し、復学すると、麗が図書館で彼女に突然話し掛けて来た。「高原さん、土御門先生は学校を辞めたよ。」「え?」にほんブログ村
Feb 22, 2024
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※BGMと共にお楽しみください。「火宵の月」オメガバースパラレルです。作者様・出版社様とは一切関係ありません。オメガバース・二次創作が苦手な方はご注意ください。一部性描写有りです、苦手な方はご注意ください。「火月、どうしたの?」「ちょっと、身体が怠くて・・」一学期がそろそろ終わろうとしている頃、火月は己の体調の異変に気づいた。倦怠感に微熱、強い眠気―それらは全て、生理前の症状と似たようなものだった。「あのさぁ、こんな事聞くのもどうかと思うんだけどさぁ、火月、有匡とエッチしている時、避妊しているの?」「え、ひっ、避妊って・・」「だってさぁ~、最近火月遅いじゃん。ヤることヤッてんのかなぁって。」「やめてよ、そんな事言うの!先生は、ちゃんとゴムつけてくれるもん!」「あのさぁ、ゴムつけてもαの繁殖力強いんだよ?もし子供が出来たらどうすんの?有匡の事だからちゃんと男として責任取ると思うけど。」「そ、それは・・」「ちゃんとそういう事、話し合いなよ。」「うん・・」火月がそんな事を禍蛇と話した後、彼女は有匡の部屋に呼び出された。「そうか、そういう話が・・」「禍蛇は、友達想いの子なんです。」「もし、子供が出来たら、か・・今まで、考えた事がなかったな。今まで、“結婚”や“家庭”といったものは、わたしには縁遠いものだと思っていたから。」有匡は、そう言うとスコッチを一口飲んだ。「やっぱり、それはお母様の事で・・」「前世の事もある。お前とは、二人の子宝に恵まれたが。」「僕は、今も昔も先生に家族を作ってあげたいんです。先生は、どう思うんですか?」「愚問だな。」有匡はそう言った後、火月の唇を塞いで彼女をソファの上に押し倒した。「ん、先生・・」「どうした、気が乗らないか?」「そ、そんな事は・・」その時、不意に玄関のドアチャイムが鳴った。「先生、誰か来て・・」「少し、そこで待っていろ。」有匡が舌打ちしながらインターフォンの画面を見ると、そこには誰も居なかった。(気の所為、か・・)有匡がリビングに戻ると、火月はソファの上で眠っていた。(こいつは、男の部屋に居るというのに、警戒心がないな。)有匡は溜息を吐きながら、火月の上にタオルケットを掛けてやると、彼女の隣で眠った。―先生・・悲しい夢を、見た。―先生、嫌です、僕を置いて逝かないで!これは、自分の最期の夢だ。疫病を鎮める為、その瘴気を受けた後の・・『泣くな、必ず迎えに行くから、待ってろ。』そう言って火月の頬を優しく撫でた後、有匡は息を引き取った。もう二度と、火月にあんな思いはさせまいと、今度こそ手を離さないと思っていたのに。それなのに―「う・・」「先生、おはようございます。」有匡がソファで目を覚ますと、キッチンで火月がコーヒーを淹れていた。「すいません、勝手に・・」「いや、いい。」有匡はそう言ってソファから立ち上がると、火月を背後から抱き締めた。「先生・・」朝日がカーテン越しに二人を照らした。「先生、あの・・」「動くなよ。」有匡は火月の制服のリボンを解き、ブラウスのボタンを外し、ブラジャー越しに彼女の乳房を揉んだ。「あっ、先生・・」「お前が、欲しい・・」耳元で有匡に掠れた声で囁かれ、火月は全身に電流のような強い快感に襲われた。「嫌か?」有匡はそう言いながら、火月の下着の中に手を入れ、彼女の陰核をいじり始めた。すると、それは暫くして膨らんで来た。「こんなに床を濡らして、悪い子だ。」有匡は荒い息を吐きながら、火月の膣に前戯無しで己のものを挿入した。「先生、ゴム・・」「そんな余裕はない。それに、抜こうにも、お前の締め付けがキツ過ぎて抜けない。」「せ、先生ぇ・・」有匡はズボンのポケットから隠し持っていたローターを取り出し、電極に繋がっている紐を火月の陰核につけた。「何を・・」「こうすると、ほら、締まってきた。」「あぁ~!」有匡が激しく突くと、それと連動してローターの振動が火月の陰核を刺激した。徐々に腰奥からせり上がって来る強い快感に耐え切れず、有匡は火月の中に欲望を迸らせた。「済まない・・」「先生、もっと、して・・」「お前、そういう所だぞ。」キッチンで火月を抱き潰した後、有匡は火月を浴室へと連れて行った。「熱くないか?」「はい・・」「ちゃんと、洗わないと。」麻薬のように、有匡は火月の躰に溺れていった。車内でも、学校の空き教室や国語科準備室でも、何処でも火月を抱いた。火月も、有匡を欲した。雌の本能に只管、彼女は従っていた。しかし―「高原さん、どうしたの?」「う・・」ある日の体育の授業の後、火月は突然下腹の激痛に襲われて倒れ、病院に運ばれた。「この子はΩだそうだが、番のαは・・」「αは、わたしです。」「そうかい。お前さん、番ならもっとこの子を大切にせんか。幾ら若いからといっても、抱き潰したらこの子の躰がもたんぞ。」火月が倒れたと聞き、病院に駆けつけた有匡は、火月を診察した医師から説教された。「彼女は・・」「妊娠はしとらん。それにしてもお前さん、他のαよりもかなり繁殖力や支配欲が強いとみれる。Ωは、繁殖に特化した種だが、短命な者が多い。番を大切にしろ。」「はい・・」有匡が火月を見舞おうとすると、そこには先客が居た。「久しいな、有匡。最後に会ったのは、二十年振りか。」「母・・上・・」突然自分の前に現れた母・スウリヤの姿を見た有匡は、突然息が苦しくなった。「母上、何故・・」「お前の番に会いに来た。」「わたしは、ずっと・・あなたを、憎んで・・」「先生、しっかりして下さい!」意識が遠のく中、有匡は必死に火月に向かって手を伸ばした。―先生・・“有匡、お父さんのようになっちゃいけない。” 父が久しぶりに夢に出て来た。―ねぇお父さん、お母さんは何処へ行ったの?“お母さんは、お父さんや有匡よりも大切な物が出来たんだ。” そう言った父の寂し気な横顔を、有匡は今でも忘れる事が出来ない。 父は、母を想いながら死んでいった。―お父さん、逝かないで! 最期の瞬間、有仁は有匡に優しく微笑んでくれた。「先生・・」「火月、ここは・・」「先生、さっき突然倒れられたんですよ。過呼吸を起こされて・・」「母上は?あの人はどうした?」「スウリヤ様なら、帰られました。これ、滞在先の住所だそうです。」 火月が受け取ったメモには、都内のホテルの住所が書かれていた。 何故、今更になって自分の前に現れたのだろう。「スウリヤ様は、先生の身を案じておられました。事情があったにせよ、先生を捨ててしまった事を後悔しているって、おっしゃっていました。」「嘘だ、そんなの信じない。」「先生・・」「お前は前に、Ωで生まれて来てどんな苦労をしたのか知らない癖に、と言ったな。お前こそわかっていない、わたしがどんな思いで生きて来たのか・・」 親族や周囲から向けられる、好奇の視線。 そして、種馬のように品定めするΩ達の視線。―有匡、お前なんて生まれて来なければよかったんだ。 有匡は、いつしか笑う事も、泣く事もしなくなった。 何の反応もしなかったら、誰も有匡に関心を持たなくなった。 あぁ、これでいいのだと思いながら、有匡は一抹の寂しさを感じていた。 どうして、僕は独りぼっちなの? 独りぼっちは、嫌だよー「先生。」 不意に火月に抱き締められ、有匡が俯いている顔を上げると、彼女は優しく有匡の頬を撫でた。「ずっと、寂しかったんですよね?僕も、先生に会うまでは独りぼっちで寂しかったんです。でも、もう僕達は独りぼっちじゃないんです。だから、僕の前では我慢しないで。」 有匡は、生まれて初めて、火月の胸に顔を埋めて泣いた。「躰の方は、大丈夫なのか?」「はい。先生が言うには、“若いからって調子に乗っていたら痛い目に遭う”って。」「そうか。火月、また来る。」「ありがとうございます。」「礼を言うな。夫が妻を見舞うのは当然だろう?」「え、今何て・・」「じゃぁな。」 有匡が去った後、火月はその夜一睡も出来なかった。(信じていいのかな?先生と、もう一度家族になれるのかな?) また、“あの頃”と同じように、有匡と暮らせるのだろうか。「有匡。」「お久し振りです、母上。」「明日は、有仁の十三回忌だろう。せめて、あの人の妻として、法事に出席しようと思って、帰国した。」「わたしは、まだあなたを憎んでいます。父は、最期まであなたに会いたがっていました。」「済まない。」 スウリヤが泊まっているホテル内にあるバーで、有匡は初めてスウリヤと酒を酌み交わした。「お前の番に、病院で会ったぞ。」「火月は、わたしが守ります。」「お前は最近、ますます有仁に似て来たな。」「そうですか?」「火月さんから、お前とは前世からの縁で結ばれているとわたしに話してくれた。お前と火月さんは、“魂の番”なのかもしれぬな。」「母上、わたしは・・」「許すな、わたしを。複雑に絡み合った糸を解すには、時間が必要だ。」 スウリヤは、そっと有匡の手を握った後、バーから出た。 翌日、有仁の十三回忌の法事が土御門家の菩提寺で行われた。 そこには、有匡とスウリヤ、そして神官の姿があった。―どうして・・―よくこの場に顔を出せるものだな。―恥知らず。 時折聞こえて来る、悪意に満ちた声。「母上、これからどうなさるのですか?」「英国に帰る。」「そうですか。短い間でしたが、あなたに会えて良かったです、母上。」「わたしも会えて良かった、有匡。」 スウリヤと有匡は、生れてはじめて抱擁を交わした。 それから彼女は、一度も振り返る事なく英国へと旅立っていった。「え、花火大会?」「お前、知らなかったのか?まぁ、このところ追試や補習で忙しくて知らないのは当然だろう。」「うっ・・」 赤点で補習ばかり受けていた火月は、有匡の言葉を聞いてへこんだ。「まぁ、お前も今日まで頑張ったから、明日の花火大会は楽しめるな。」「え!?」「そんなに驚く事は無いだろう?」 花火大会当日、火月は有匡に連れられて都内の呉服屋へと向かった。「うわぁ、こんなに高い着物や浴衣、僕が着てもいいんですか?」「当然だろう。妻を着飾らせるのが、夫の本望だからな。」「先生・・」「そろそろ行かないと、遅れるぞ。」「はい・・」 花火大会の会場となっている河川敷は、沢山の人でごった返していた。「う、わわっ!」「全く、そそっかしい奴だな、ほら。」 有匡が差し出した手を、火月はしっかりと握った。「ここなら、花火が良く見える。」 有匡が火月を連れて来たのは、河川敷から少し離れた、高台にある神社だった。 そこは、人気がなくて静かだった。「どうして、ここへ?」「誰にも邪魔されずに済むだろう。」 そう言うなり、有匡は火月のうなじを甘噛みした。「やぁっ、浴衣、汚れちゃうっ!」「どうして欲しい?」「先生ので、中を掻き回して欲しい・・」「いい子だ。」 花火の音と連動するかのように、獣のように交わる二人の姿を、木陰から狐面を被った男が見ていた。「あっ、あっ~!」 嬌声を上げる火月の顔が花火で照らされた時、男は己の欲望を解き放った。「炎様・・」 間違いない―長い間、自分が恋い焦がれ続けて来た、美しい金髪紅眼の、生きた宝石。 やっと見つけた―男は息を殺しながら、そっとその場を去った。「お館様に、ご報告しなくては・・」にほんブログ村
Feb 4, 2024
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「火宵の月」オメガバースパラレルです。作者様・出版社様とは一切関係ありません。オメガバース・二次創作が苦手な方はご注意ください。一部性描写有りです、苦手な方はご注意ください。「もうカゲツとエッチしたんでしょ?」「お前にそれを言う必要があるのか?」「ちゃんと避妊したの?」ズケズケとそう詮索してくる妹を適当に有匡があしらっていると、国語科準備室に控え目なノックがした後、火月が入って来た。「先生、失礼します。」「どうした、火月?」「あのプリントを届けに・・」「そうか。」「じゃ、お邪魔虫は退散するね。」神官はそう言って有匡に向かって意味深長な笑みを浮かべた後、国語科準備室から出て行った。「どうした?」「あ、あの・・すいません、何でもないです。」「その様子だと、お前またクラスの女達から何か言われたのだろう?」「僕じゃ、先生と釣り合わないって・・」「お前は、どうなんだ?」「そ、それは・・」火月は俯いていた顔を上げると、有匡に抱きついた。「僕は、“今も”先生の傍に居たいです!離れる位なら死んだ方がいい!」“離れる位なら、死んだ方がいい。”「そうか。わたしも、お前を失うつもりも、離れるつもりなどないから、覚悟しておけ。」有匡はそう言うと、火月の唇を塞いだ。「んっ、はぁ・・」有匡に口内を犯され、火月は徐々に下腹の奥が疼いて来るのを感じていた。「キスだけで、こんなに感じるとはな。」「や、やだ、そんな所・・」スカート越しに敏感な所を有匡によって愛撫され、火月は声を押さえようとしたが、有匡にそれを阻まれた。「我慢するな。ここには、わたし達しかいない。それに・・」有匡が熱く濡れた火月の膣を下着の上から指で巧みに愛撫すると、火月は甘く喘いだ。「こうしてわたしが巧みに指を動かせば、お前は好い声で啼く。どうした、やめて欲しいか?」「先生の、意地悪っ!」 有匡は、そう叫んで自分を睨んだ火月の涙を、天鵞絨のような舌で舐め取った。「残念だな、お前の涙は昔、美しい紅玉に変わったのに・・」火月は、そっと有匡の下半身へと手を伸ばすと、そこはズボンの上からでもわかる位に、熱く猛っていた。「おい、何してる?」「僕ばっかり気持ち良くなると、先生がお辛いでしょうから。」「言ってくれるな。」有匡は火月の下着を脱がすと、ズボンの前を寛がせた。「これが、欲しいんだろ?」「欲しいです・・」「わかった。」有匡はそっと己の分身に避妊具を装着した後、火月の中へと入っていった。「先生、愛しています。」「わたしもだ。」有匡と火月が愛し合っている頃、神官は屋上で火月のクラスメイト達に取り囲まれていた。「一人に対して五人って、これから神官をリンチするつもり?何処までバカなの、あんたら?」「うるさい!」神官に挑発された女子生徒の一人がそう叫んで彼女の頬を平手打ちすると、彼女は口端を歪めて笑った後、こう言った。「先に手を出して来たのは、そっちだからね?」彼女の達の顔が、恐怖で蒼褪めた。「火月、大丈夫か?」「ん・・」何度も共に果てた後、有匡は己の腕の中で眠る火月の髪を、優しく梳いた。「無理をさせたな。」「いいえ。」有匡は火月の身体を清めた後、溜息を吐いた。「年甲斐も無くあんなにお前に夢中になるなんて、わたしらしくないな。」「え、先生らしいですよ?テクニシャンだしツンデレだし、ドSだし・・」「殴られたいのか、お前?」「ご、ごめんなさいっ!」「まぁいい。放課後、時間あるか?」「はい、今日はバイトがお休みなので・・何か、あるんですか?」「お前、もうすぐ誕生日だろう?一緒にプレゼントでも選ぼうと思ってな。」「え、僕の誕生日、憶えていてくれていたんですか!?」「当たり前だろう。」(どうしよう、嬉しくて死にそう!)屋上では、神官にリンチされ倒れている仲間を見ながら、リーダー格の女子生徒は恐怖に震えながら彼女に命乞いをした。「お願い、助け・・」「何びびってんの?お前らみたいな雑魚、ハナから神官の相手じゃないんだよ。神官を今度怒らせたら、殺すよ?」「ひ、ひぃぃっ!」「あ、そうだ、もうひとつ。お前ら、アリマサを狙っているらしいけど、アリマサにはカゲツっていう番が居るから、粉かけても無駄だから。」昼休みになり、火月がいつものように空き教室で弁当を食べていると、そこへ神官が入って来た。「あ・・」「そんな顔しなくてもいいじゃん。別に取って喰うつもりないし。それに、もうあんたには神官、嫉妬しないよ。」神官の頬に、少し腫れた痕がある事に火月は気づいた。「それ・・」「あぁこれ?あんたのクラスメイトに屋上へ呼び出されたけれど、逆に返り討ちにしてやった。」「そ、そうなんですか・・」「あんた、これからアリマサとどうするの?」「どうするって・・」「結婚とか、考えてんでしょ?ま、アリマサは最初からそのつもりだけどね。」「えっ・・」「そんなに驚く事ないじゃん。あんたって、昔から鈍いよね。」神官はそう言った後、顔を赤くしている火月を見た。“昔”は、火月の事が憎くて堪らなかった。長年生き別れた兄の愛情を独占していた彼女に。産まれてからずっと、独りだったから、有匡という存在に縋りつきたかった。しかし、神官は気づいてしまった。二人の間には、誰にも入る隙間が無いと。だから転生し、再び有匡と兄妹となっても、神官は有匡にもう執着しなかった。「ま、あんたとアリマサ、お似合いじゃん。」六時間目は、体育の時間で、火月のクラスは水泳をやっていた。「高原、おっぱいでかいな~」「一度だけでいいから、触ってみてぇ~」教室で別のクラスの男子生徒達がそんな事を言いながら笑い合っていると、数本のチョークが彼らの額に突き刺さった。「私語を慎め!」(油断も隙も無いな。)有匡は溜息を吐くと、授業を再開した。「高原さん、またね~」「うん、バイバイ。」放課後、火月は友人達と別れると、有匡が居る国語科準備室へと向かった。「先生、居ますか?」「あぁ。」有匡はそう言うと、笑顔で火月を迎えた。「さぁ、行こうか。」有匡が火月を連れていったのは、六本木にある高級宝石店だった。「え、いいんですか、こんな高そうな所・・」「遠慮するな。」有匡が火月を連れて店に入ると、店員が恭しく彼らを出迎えた。「予約していた土御門だが・・」「土御門様ですね、どうぞこちらへ。」店員が二人を案内したのは、店の奥にある個室だった。「土御門様、ご予約された品をお持ち致しました。」店長と思しき女性がそう言って有匡達に見せたのは、紅玉と柘榴石のペアリングだった。「うわぁ、綺麗・・」「火月、手を出せ。」「え、こうですか?」火月はそう言うと、有匡に向かって右手を出した。「違う、出すのは左手だ。」「は、はい・・」有匡は、柘榴石の指輪を火月の左手薬指に嵌めた。「これ‥確か先生の・・」「互いの誕生石を身に着けるのも、いいだろう?」「大切にします・・」宝石店を出た後、有匡と火月は近くにあるファミレスで夕食を取った。「珍しいですね、先生がこういう所で食事するなんて。」「まぁな。」二人がそんな事を話していると、時折幼子の泣き声が聞こえて来た。「子供、か・・」「先生、子供苦手なんじゃないんですか?」「あぁ。だが子供をお前と持つのも悪くはない。」「え、子供に僕を取られると嫉妬していたのに?」「それは昔の話だ。」食事を終え、店から出た二人が駐車場へと向かっていると、そこへスーツ姿の屈強な男達が現れた。「先生・・」「何だ、貴様ら!?」「我々はバース機関の者だ。Ω隔離政策の為、そちらのΩの身柄を拘束する。」「いやっ、離して!」「火月に触るな!」火月を取り戻そうと男達と揉み合いになった有匡だったが、男達の一人にスタンガンで気絶されられた。「嫌だ、先生~!」「連れて行け!」目隠しをされ、手錠をされた火月が連れて来られたのは、バース機関が運営する隔離施設だった。「僕をうちへ帰して!先生の所へ帰してよ!」白一色の部屋へと閉じ込められた火月は、声が枯れるまでそう叫びながらドアを叩いたが、何の反応もなかった。(ここは何処?先生の元に帰りたい・・)「被験体の様子は?」「今の所、異常なしです。」「このΩは、番あり、か・・少し、厄介な事になったな。」「ええ・・」「番持ちのΩ?実に興味深い話ですね。」研究員達が監視カメラの動画で火月の様子を観察していると、そこへ一人の男がモニタールームに入って来た。「主任・・」「おや、この子は・・」(よもや、このような形で再会するとは・・面白い!)この隔離施設の主任・殊音文観は、そう思った後、ある事を企んだ。「この子の部屋は?」「3Aですが・・」「わたしが、この子と話をしてきます。」「ですが・・」「安心なさい、彼女とは“古い”知り合いなのですよ。彼女とは、少し“昔話”をするだけです。」火月が有匡と引き離されてから、数日が経った。「先生・・」有匡から贈られた柘榴石の指輪を首に提げているプラチナのチェーンごと服の下から取り出した火月は、有匡の事を想い、涙した。「お久し振りですね、火月さん・・いや、義姉上とお呼びした方がよろしいかな?」「あ、あんたは・・」「おや、わたしの事を憶えて下さったのですね。」鉄格子の窓越しに火月を見た文観は、そう言って笑った。―先生、助けて・・火月が、自分を呼んでいる。―先生・・(火月!?)虚空に向かって有匡は手を伸ばした後、溜息を吐いた。火月がバース機関と名乗る男達に拉致されてから、彼女の消息はわからずじまいだ。(一体、どうなっている?政府は、Ω隔離政策については本格的に辿り着いていない筈・・)「有匡、お前に手紙が来ている。」「手紙、ですか?」義父から自分宛の手紙を受け取った有匡は、差出人が誰なのかわかった。封筒の中に、火月に自分が贈った紅玉の耳飾りが入っていたからだ。「父上、有匡は?」「さぁな。」(ここが、隔離施設か・・)鬱蒼と茂った森を抜けると、有匡の目の前に白亜の研究所と思しき巨大な建物が現れた。「ようこそ、我が城へ。こうして会うのは、実に七百年振りですね、有匡殿。いや、義兄上。」「文観・・」有匡が殺意を宿した瞳で文観を睨みつけると、彼は嬉しそうな顔をした後、口元に笑みを閃かせた。「火月は何処だ?」「彼女なら、病室に居ますよ。安心して下さい、彼女に危害を加えてはいませんよ。彼女は、大切なΩですからね。」文観はそう言って研究所のパスコードを打ち込むと、有匡と共にその中へと入った。そこには、揃いの服を着たΩ達が、研究員達によって強制的に採卵されて悲鳴を上げる姿があった。「これは、一体何だ?」「種の保存、というやつですよ。優秀な遺伝子を遺す為のね。」「火月に会わせろ、今すぐに。」「そんな怖い顔で睨まないでください。なぁに、あなたの大切な宝石は、すぐに返してさしあげますよ。我々に協力して下されば、ね。」「協力?」「えぇ、あなたには、その優秀な遺伝子を三日間提供して頂きます。」「本当に、それだけで火月を解放してくれるのか?」「ええ。さぁ、こちらの契約書にサインを。」文観はそう言うと、有匡に一枚の契約書を差し出した。「本当に、これにサインすればいいんだな?」「ええ。何を迷う事があるのです?あなたには火月という番が居る。己の遺伝子を提供するだけの話ですよ。さぁさぁ、どうなさるのです?」有匡は火月の身を案じ、契約書にサインした。「さてと、早速その遺伝子を提供して頂きましょうか。」文観はそう言って笑うと、有匡に痺薬を打った。三日間、有匡と火月と会えぬまま休む間も与えられず、遺伝子を半強制的に採取された。それは、地獄のような苦しみだった。そして三日後、有匡は漸く火月と再会した。「火月・・」「先生、ごめんなさい、僕・・」「謝るな・・」有匡はそう言うと、火月を抱き締めた。(もう二度と、離さない。)にほんブログ村
Feb 4, 2024
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「火宵の月」オメガバースパラレルです。作者様・出版社様とは一切関係ありません。オメガバース・二次創作が苦手な方はご注意ください。「やめろ、来るな!」有匡は女を睨むと、威嚇フェロモンを彼女にはなった。女は悲鳴を上げ、壁に激突し気絶した。「一体、何があったのですか!?」「お前か、この女を部屋に入れたのは?」「アダム様、お許しを!」気絶した女の仲間は、そう言うと手枷と足枷を外した後、有匡の前に平伏した。「ここは何処で、火月は何処に居る?」「そ、それは・・」「わたくしから、お話ししましょう。」凛とした声が部屋から響いたかと思うと、高原鈴子が部屋に入って来た。「手荒な真似をして申し訳ありませんでした。」高原鈴子は、そう言うと有匡の手を握り、微笑んだ。「お待ちしておりました、土御門有匡様。」「何故、わたしの名を・・」「スウリヤ様から、あなたの事をお聞きしておりましたよ。」「母から・・」母の名を聞いた途端、有匡の胸に見えない棘が刺さったような気がした。自分と父を捨てた母。その母が、この施設内に居る。「母を、知っているのか?」「ええ、存じておりますとも。スウリヤ様は、長年我々に貢献して下さいました。」「貢献、ねぇ・・随分と立派なこの建物は、信者達の金によって建てられたのですね。わたしの母は、あなた方の為に貢献したのだから、家を捨てなければならなかったのかもしれない・・」「それは違います。スウリヤ様は、妊娠されていたのですが、旦那様のご親族に反対された上に暴力をふるわれて、ここへ逃げて来たのです。」「そんな事、父は何も・・」「あなたのお父様は、あなたの事を慮って、自分が悪者になったのでしょう。」高原鈴子の言葉が嘘ではないと有匡が確信したのは、ある物を彼女から渡された時だった。それは、生前父が母に贈った、ペアリングだった。プラチナの台座には、美しく研磨され加工されたガーネットとダイヤモンドが載っていた。―有匡、どうした?―お父さん、それなぁに?―これは、この世で一番大切な物なんだ。亡くなる一月前、有仁は有匡に、首に提げている指輪を見せた。―いつか、大切な人が出来たら・・「こちらです。」高原鈴子が有匡を案内したのは、“聖母の間”と呼ばれた部屋だった。「ここは・・」「我らが聖母・炎様の遺骨が安置されているお部屋です。」白一色の部屋で、女性の肖像画が一際存在感を放っていた。女性は、火月と瓜二つの顔をしていた。「火月・・」「“マザー”、“聖女”様をお連れしました。」「せ、先生・・」「火月、無事だったのか?」有匡がそう言って火月に駆け寄ると、彼女は苦しそうに喘ぐと床に蹲った。「どうした?」「躰・・熱い・・」「どうやら、発情期を迎えたようですね。我々はΩだけで構成された教団です。αは、あなただけです。」「そんな・・」有匡は、火月の全身から漂う、蜜のような甘い匂いを嗅ぎ、気が狂いそうな程欲情していた。αの本能―今まで向き合おうとしなかった雄の本能が、火月を抱いてしまえと、悪魔のように耳元で囁くのを感じた。「彼女を、抱きなさい。」「わたしは・・」生涯番を持たない、父のようにはならないと、そう己に言い聞かせていた。だが―「抑え込まれていた本能を、解放なさい。」「火月、立てるか?」「はい・・」「あちらの部屋をお使いください。」高原鈴子は、そう言うと有匡と火月を、“紅の部屋”へと案内した。「火月、この部屋で休んでいろ。」「嫌です、お願いです、抱いて下さい。」有匡は、火月の華奢な身体を寝台の上に横たえた。「どういう意味か、言ってわかっているのか?」「はい。」「抑制剤は?」「飲んでいません。」「そうか。」有匡は火月から離れようとしたが、火月は有匡から離れようとしなかった。「僕、あなたの子供を産みたいんです。」「望むところだ。」有匡はそう言うと、火月の唇を激しく貪った。―“運命の番”?―あぁ、お父さんとお母さんは、“運命の番”だったんだ。―お父さん、僕にも、“運命の番”が現れるかなぁ?―あぁ、現れるよ。その時は、運命に抗ってはいけないよ。―うん!ずっと、こわかった。大切な人が、自分の前から居なくなってしまうのが。大切なものが、両手の隙間から零れ落ちてしまうのが。ずっと、こわかった。だが―「先生・・噛んで・・僕のうなじ・・」「あぁ・・」もう、迷わない。有匡は、鋭い犬歯を、火月の白いうなじに突き立てた。「後悔していないか?わたしと番になった事を?」「はい。あの、こんな事を言うのはおかしいと思うんですが、先生と初めて会った時、僕は嬉しかったんです。やっと、先生に会えたって。」「そうか・・」「もしかしたら、僕と先生は、前世では夫婦だったかもしれませんね。」互いの想いが通じ合った後、火月はそう言うと有匡を見た。「これから、どうします?」「それは、これから考える。色々と問題が山積みだからな―母の事や、妹の事、それに家の事も。」有匡は火月に、スウリヤと、彼女の娘の事を話した。「それで、お母様とは会えたのですか?」「母は、半年前にここを出て、妹と共に渡英したそうだ。」「渡英?」「英国は、母が生まれ育った国だからな。それに、Ωに対する福利厚生が整っており、バース性による差別も厳しく罰している国らしい。」「先生は、お母様と妹さんに会いたくないんですか?」「さぁ、わからん。母が自分達を捨てたのではなく、止む負えぬ事情があって逃げたのだろうと頭では理解していても、まだ混乱している。」「そうですか・・」有匡は今、ただ静かに眠りたかった―愛しい人の隣で。―先生、おやすみなさい。その声に応えるかのように、有匡は静かに目を閉じた。―先生、起きて下さい。 有匡が目を開けると、そこには袿姿の火月が立っていた。―先生、もうすぐ家族が増えますよ。 火月はそう言うと、嬉しそうに笑った。「ん・・」「おはようございます。昨夜は良く眠れましたか?」 有匡が目を開けると、隣に火月の姿は無かった。「“聖女”様なら、“マザー”と共に菜園にいらっしゃいますよ。」「ありがとう。」 菜園には、様々な種類のハーブや花が植えられていた。「火月。」「先生、おはようございます。」「おはよう。」 有匡はそう言うと、火月の頬にキスをした。「火月、お前はこれからどうしたい?このまま、ここで暮らすのか?」「いいえ。ここは居心地が良いけれど、僕の居場所じゃありません。僕の居場所は、先生の傍しかありませんから。」「そうか・・」 そんな二人の姿を、高原鈴子が木陰から見ていた。「“マザー”・・」「あの二人は、ここに居てはなりません。」(あの二人に、この世界は似合わない。)「わざわざお二人をこちらに呼んだのは、“聖女”様・・いえ、火月様、あなたのお母様についてのお話があるのです。」「え・・」「炎様は、孤児のΩでした。彼女は、あなたと同じように施設で暮らしていましたが、彼女は酷い虐待を受けていました。」 火月の母・炎は、施設を抜け出し、山中を彷徨った末に、“輝きの星”へと辿り着いた。 そして彼女は、一人の男性と出会った。 彼は、高原良―鈴子の一人息子だった。 良と炎はいつしか惹かれ合い、番となった。「そして、あなたが生まれたのです。」「でも、どうしてお母さんは、死んでしまったの?」「二人は、死んだのではありません。殺されたのです、炎様の親族に。」 炎の親族は、平安の御世から続く、由緒ある巫女の家系だった。 だが度重なる血族婚の末に、その家系は断絶寸前になってしまった。 しかし、彼らは炎の血を濃く受け継いだ火月に目をつけ、炎から奪おうとした。 炎は彼らから火月を守ろうと、火月を施設に預けた後、夫と共に事故死した。「そんな事が・・」「炎様の親族は、あなたの事を諦めていません。いずれ、この場所も彼らに知られる事でしょう。」 鈴子がそう言った時、外から激しい音と悲鳴が聞こえた。「“マザー”、大変です、襲撃が・・」「あなた達は、逃げて下さい。もう、ここは終わりです。」「でも・・」「有匡様、火月様を・・わたしの孫娘を宜しくお願い致します。」 鈴子は有匡にスウリヤのペアリングを手渡すと、炎の中へと消えていった。「嫌ぁ~、お祖母様!」「行こう。」 有匡と火月は、燃え盛る教団の施設から命からがら脱出した。「僕、また独りになっちゃった・・」「独りじゃないだろ。」「え?」「わたしが、お前を護ってやる。」「先生・・」 夜が明け、朝日の光を浴びた二人を、警察が発見・保護した。「火月、無事で良かった!」「心配かけてごめんね、禍蛇。」「本当だよ!」 禍蛇は火月と抱き合った後、有匡に向かって頭を下げた。「火月を助けてくれて、ありがとう。」「礼は要らん。」 事件から数ヶ月後、有匡と火月は日常に戻っていった。 ただひとつ、変わったのは―「え、火月あいつと番になったの!?」「うん・・」「おめでとう~、俺、いつかあいつと結ばれるんだろうなって思ってたんだよね。」「え?」「いや、昔色々あったじゃん、火月と有匡。結ばれて双子が産まれるまで・・」「昔って・・禍蛇、もしかして、前世の記憶、あるの?」「うん。だから施設で火月と会えた時、嬉しかったんだ。あ、琥龍ともね!」「そうか・・」 火月は禍蛇とそんな事を話しながら、有匡と築く未来へと想いを馳せた。「先生、おはようございます。」「おはよう。」 火月が登校すると、丁度出勤してきた有匡と会えた。「丁度良かった。お前に贈り物がある。」「贈り物?」「あぁ。」 有匡はそう言うと、火月の左耳に紅玉の耳飾りをつけた。「お前の瞳の色と同じだ。」“証さ、専属契約更新の” 火月の脳裏に、遥か遠い昔に、有匡が自分に言ってくれた台詞がよみがえった。「ありがとうございます、大切にします。」「泣く事はないだろ。」「すいません、嬉しくて、つい・・」―何あれ・・―どうなっているの? 教室の窓から、火月のクラスメイト達が恨めしそうに二人の様子を見ていた。「高原さん、ちょっといい?」「僕、急いでいるんだけれど。」「あなた、先生と一体どういう関係なのよ?」「別に。」「ふ~ん、じゃぁ言うけど、あんたみたいな子は、先生とは釣り合わないの!」「そうよ!」 クラスメイト達から一方的に責め立てられた火月は、黙って俯く事しか出来なかった。「その耳飾り、寄越しなさいよ!」「嫌だ、放して!」 彼女達と火月が揉み合っていると、突然冷水が彼女達を襲った。「きゃぁ~、冷たい!」「少しは頭冷えた?ギャーギャーうるさいんだよ、メス猿共。」 少し甲高い声と共に、一人の少女が教室に入って来た。 彼女は美しい銀髪をお団子にし、両耳には個性的な耳飾りをつけていた。「あ、あんた誰よ!?」「エル=ティムール神官、今日からこの学校に世話になる転校生さ。」 少女―神官はそう言うと、火月を見た。「ふ~ん、あんたがアリマサの・・」「え・・」(もしかして、この子・・)「神官、こんな所に居たのか?」「アリマサ~!」 教室に渋面を浮かべながら入って来た有匡に、少女は躊躇いなく抱きついた。「先生、その子誰ですか!?」「アリマサの妹だよ。」(え~!) 突然の有匡の妹・神官の出現に、学校中が騒然となった。「妹、聞いてないわよ!?」「嘘でしょ、そんなの!」にほんブログ村
Jan 25, 2024
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「火宵の月」オメガバースパラレルです。作者様・出版社様とは一切関係ありません。オメガバース・二次創作が苦手な方はご注意ください。「お疲れ様です。」「お疲れ~」火月はアルバイト先のスーパーから出て、従業員用の駐輪場に停めてあった自転車に乗ってシェアハウスへと向かっている途中、一台の車が自分を尾行している事に気づいた。気味が悪いな―そう思いながら火月が自転車を漕いでいると、その車は一定の距離を取り、火月を尾行した。恐怖とパニックに陥った火月が闇雲に自転車を漕いで車から逃れようと脇道を抜けた時、彼女の前に一台のトラックが現れた。「バカ野郎!」あと少しでトラックに轢かれそうになった火月が我に返って背後を振り向くと、そこにはあの車の姿はなかった。「ただいま・・」「遅かったね、どうしたの?」「実は・・」シェアハウスに無事帰宅した火月は、禍蛇に車の事を話した。「え~、何それ怖い!最近変質者がここら辺に出没しているみたいだから、気をつけないとね。」「うん・・」「それにしても聞いた?Ω隔離政策、いよいよ本格的に進んでいるらしいよ。」「本当?」「嫌な世の中になったよね。」禍蛇はそう言うと、溜息を吐いた。「火月、バイト先では苛められていない?」「うん。バイト先の人は皆優しいよ。学校では、転校生に目をつけられて疲れるけど・・」「転校生?どんな奴?」「銀髪の、帰国子女って奴?何でも、理事長の親戚みたい。」「ふぅん。」禍蛇はそう言うと、鶏の唐揚げを口の中に放り込んだ。「何かさぁ、俺達Ωには人権ないって言われているような気がしてならないんだよね。俺さぁ、偶々俺達Ωに生まれただけだっていうのに、“居ない者”扱いされてさぁ・・」「わかる。」夕食後、火月と禍蛇が食べ終わった食器を流しで洗いながらそんな事を話していると、突然玄関のチャイムが鳴った。(こんな時間に、誰だろう?)火月が恐る恐るインターフォンの画面を覗き込むと、そこには自分を尾行していた一台の黒塗りの車が映っていた。「警察、呼ぼうか?」火月の怯える様子を見て何かを察した禍蛇がそう言うと、火月は無言で頷いた。『本当に、ここなの?』『間違いありません、お母様。』『待って・・あれ・・』車から出て来た親子と見られる三十代前半位と見られる男性と、五十代前半と思しき女性は、そんな会話を交わした後、遠くから見えるパトカーの赤色灯に気づいたのか、素早く車の中へと戻り、去っていった。「そうでしたか。最近物騒なので、パトロールを強化していきますね。」「お願いします。」通報を受けてシェアハウスに駆け付けて来た警察は、そう言って去っていった。「戸締りをしっかりしないとね。」「うん。」「お休み。」「お休み。」火月と禍蛇がそれぞれの部屋で眠りに就いた頃、一組の親子が都内某所にあるマンションの一室である事を話していた。「“あの子”には、会えなかったわね。」「お母様・・」「どんな手を使ってでも、“あの子”をこの家に取り戻さないと・・」『マザー、“お時間”です。』「わかりました、すぐ行きます。」「お母様、気を付けて。」激しい雷鳴と共に、部屋が闇一色に包まれた。(停電か・・)有匡は舌打ちすると、懐中電灯のスイッチを入れ、読んでいた週刊誌の記事に目を通した。そこには、ある新興宗教団体が起こしたリンチ殺人事件についての、凄惨な内容が書かれていた。(“輝く星”か・・確か、数年前に何処かでこの団体を見たような気がするな。)有匡は記憶の糸を手繰り寄せながら、“ある出来事”を思い出そうとしたが、いつの間にか眠ってしまった。雷鳴が轟く中、森の中にある白亜の宮殿で、“儀式”が行われた。「さぁ、祈りなさい。」祭壇の中央には、心臓を抉り出され絶命している少年の遺体があった。「さぁ!」雷鳴が轟き、それに呼応するかのように信者たちが一定のリズムで祈り始めた。「マザー!」「マザー!」信者達に崇められ、彼らに“施し”を授けている女性は、神域“輝く星”の代表である、高原鈴子である。「さぁ、祈りなさい。祈ればあなた方は救われるのです!」―オォォッ!宮殿内は、異様な熱気に包まれていた。―お父さん、お母さんは何処に行ったの?―有匡、これからはお父さんと一緒に暗そうね。幼い頃、母が家から出て行った後、父はそう言って自分を抱き締めた。―お父さんは・・だから・・時折、父の言葉が、一部ノイズが入り聞こえなくなってしまう。(一体、これは・・父は、わたしに何を伝えようとしているんだ?)「土御門先生、少しやつれた顔をしていますね?大丈夫ですか?」「昨夜、中々寝付けなくて・・」職員室で有匡が自分の机で仕事をしていると、同僚の女性教師がそう言って有匡を見つめて来た。「寝不足は身体に良くないですよ?」「そうですね、気をつけます。」有匡はそう言った後、仕事を再開した。「はぁ・・」火月は、図書館で何度目かの溜息を吐いた。麗がいつも火月の姿を見ると何かと絡んで来るので、火月は教室には行かずに、図書館に避難していたのだった。図書館には、火月のようにΩの生徒が居て、火月はすぐさま彼らと親しくなった。「高原さん、シェアハウスに住んでいるの?」「うん。それまで、施設で暮らしていたんだ。」「へぇ、そうなの。Ωでも住めるシェアハウスってあるんだ。」「Ωっていうだけで、門前払いする不動産屋が多いからね。」昼休み、火月達が中庭で昼食を取っていると、そこへ麗がやって来た。「高原さん、この子達は?」「あなたには関係ないでしょう。」「おやおや、冷たいねぇ。」麗はそう言ってわざと口笛を吹くと、去っていった。「気にしなくてもいいわよ、あんなの。」「九条君って、わたし苦手。」「わたしも。」有匡は中庭での光景を廊下で見ながら、口元に笑みを浮かべた。「先生、どうされました?」「いいえ、何でもありません。」「早くしないと、職員会議に遅れますよ。」「はい・・」職員室に入った有匡は、自分の席に暁人の姿がある事に気づいた。「理事長、わたしの机で何をしているのですか?」「いえ、ちょっと汚れを取ろうと思いまして・・」暁人は少しバツの悪そうな顔をすると、有匡の机から離れた。(何だったんだ・・)「皆さん、揃いましたね。では、職員会議を始めます。」「理事長、手短に終わらせましょう。」「そうですね。今回皆さんに集まって貰ったのは、Ω隔離政策についてです。」暁人はそう言うと、有匡達に書類を渡した。「Ωについてのアンケート?」「この学校には、αやβの生徒が多く、Ωの生徒は少数派です。なので、Ωについての意識調査のアンケートを・・」「そのアンケートを全校生徒に取って、どうなさるおつもりなのですか?」「そ、それは・・」「もしかして、バース性の差別解消の為だとお思いになっているのなら、それは大間違いです。」有匡がそう言って暁人を睨むと、彼は顔を赤くして俯いた。「先生方、期末テストがもうすぐ行われますので、カンニング対策や試験問題の漏洩対策を万全にして下さいね。」職員会議は滞りなく終わった。「それにしても、理事長は一体何を考えているのかしら?」「本当ですよ、あんなアンケート、何の意味もありませんよ。」「そうそう、今は期末テストへの対策をしなければ。」「高田先生、聞きました?最近、“輝く星”が復活したそうですよ。」「“輝きの星”?何です、それは?」「高田先生は、若いから知りませんよね。今から三年前、凄惨なリンチ殺人事件が起きたでしょう?その事件を起こしたのが、“輝く星”なんです。」「そういえば、この前駅前で集会を開いていた人達を見ましたけれど、みんな赤い服を着て不気味でした。」「その人達が、“輝く星”の団員達だよ。赤は、教団のシンボルカラーなんだってさ。」「へぇ・・」「ここだけの話だけど、理事長が“輝く星”の信者みたいだよ。」「え~!」そんな噂が学内を飛び交う中、有匡達は期末テストを迎えた。「ただいま・・」「お帰り。テスト、どうだった?」「何とか、出来たかも。禍蛇は?」「微妙。数学は出来た方かなぁ。」「今日は疲れたから、もう寝るね。」「お休み。」期末テストが無事終わり、火月は安堵の溜息を吐きながら自転車を漕いでいると、一台のワゴン車が近づいて来た。「見つけた!」「聖女様だ!」ワゴン車から出て来たのは、鮮やかな赤い服を着た数人の男女だった。火月は助けを呼ぼうとしたが、口に薬品が染み込んだハンカチを押し当てられ、意識を失った。「火月、遅いな・・」「もうバイトが終わった頃よね?火月ちゃんのスマホにかけてみたら?」「うん・・」禍蛇は火月のスマホに何度もかけたが、繋がらなかった。「繋がらない・・」「警察に行きましょう、手遅れになる前に!」(火月、どうか無事でいて!)「暁人様、“彼女”を捕えました。」「そうか。」「“彼”は、どうなさいますか?」「それはわたしに任せて下さい。」暁人はそう言った後、口端を上げて笑った。(誰だ、こんな時間に?)自宅で仕事をしていた有匡は、知らない番号がスマホに表示され、詐欺電話だと思いながらも、通話ボタンを押した。「もしもし・・」『あぁ、やっと繋がった!あんたが有匡!?』「誰?」電話を掛けて来た相手は、火月の親友だという。彼女の話によると、火月がアルバイト先のスーパーから未だにシェアハウスに帰宅していないという。『あんた、火月が何処に居るのか知っているよね!?』「知る訳がないだろう。どうしてわたしのスマホの番号がわかったんだ?」『火月が、自分に何かあったらあんたにかけるようにって、俺に教えてくれたんだよ。』「警察には連絡したのか?」『もうとっくにしているよ!』「わかった。わたしも火月を捜してみる。」有匡はそう言うと、車で火月のバイト先へと向かった。「あぁ、彼女なら三時間前に帰りましたよ。」「そうですか・・」「そういえば、以前彼女の事をしつこく尋ねて来た人が居ましてね。」「どんな人でした?」「赤い服を着た、女の人ですよ。髪はお団子にしていて、高そうな眼鏡を掛けていました。」(赤い服・・)ゾワリと、有匡は嫌な“何か”を感じた。「あ、名刺貰いましたよ。」スーパーの店長は、そう言うと一枚の名刺を有匡に手渡した。そこには、“輝く星・代表 高原鈴子”と印刷されていた。「ありがとうございました。」「いえいえ、彼女、早く見つかるといいですね。」「え、えぇ・・」店長の言葉に微かな違和感を抱きながら、有匡は人気のない道を車で走っていた。すると、脇道に一台の自転車が倒れている事に気づいた。(これは・・)車から降りた有匡は、スマホで自転車の写真を撮り、それを禍蛇のスマホに送った。『火月の自転車だよ。』何故火月の自転車がここにあるのか―有匡は、スーパーの店長の話を思い出しながら、火月が何者かに拉致されたのだろうと考えた。(一体、彼女は何処に・・)「あのう、すいません・・」突然背後から声を掛けられ、有匡が振り向くと、そこには赤いワンピースを着た女が立っていた。「A町には、どう行けばいいのでしょう?」「あぁ、A町には、その先の交差点を右に曲がって・・」有匡は女性に道案内をしていると、突然首筋に激痛が走り、意識を失った。―有匡、ごらん、あれが、“聖女”様よ。幼い頃、母に連れられた白亜の宮殿で、有匡は子を抱いている“聖女”を見た。―あの方に抱かれているのが、希望の子よ。母は、“輝く星”の信者だった。彼女は土御門家の財産を、教団に献金する為に食い潰していた。だから―「う・・」「お目覚めになられましたか、“聖女”様?」火月がゆっくりと目を開けると、そこは白一色の世界だった。「ここは・・」「ここは、“聖域”。」火月が部屋の中を見渡すと、壁には一人の女性の肖像画が掛けられていた。女性は、自分と瓜二つの顔をしていた。(お母・・さん・・?)同じ頃、有匡は手枷と足枷をつけられた状態で目を覚ました。「アダム様・・」部屋の中に、あの赤いワンピースの女性が入って来た。「どうか、お情けを・・」彼女はそう言った後、徐にワンピースを脱いで裸になった。にほんブログ村
Oct 15, 2023
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「火宵の月」オメガバースパラレルです。作者様・出版社様とは一切関係ありません。オメガバース・二次創作が苦手な方はご注意ください。「土御門先生、まだ帰らないんですか?」「えぇ、少し調べたい事があるので。」「そうですか。戸締りに気を付けて下さいね。」「はい。」同僚の男性教師が職員室から出て行ったのを確めた後、有匡はある事件について調べ始めた。それは三年前、この学校で起きた凄惨な殺人事件の資料だった。被害者はΩの男子生徒で、密かに想いを寄せていた教師Aに呼び出され、頭や顔、首など数十回タガ―ナイフで刺した後、出口へと向かおうとした男子生徒を背後から切りつけ、失血死させた。現場は血の海で、教室のドアは内側から施錠されていた。犯人の教師Aは、“生徒が自分を拒絶したので殺した。”と全面的に犯行を認めた。弁護側は犯人が精神疾患であり、心神喪失を主張した。しかし検察側は、教師A(被告)が犯行時教室のドアを内側から施錠した上で現場を密室状態にしたのは計画的な犯行であり、被告には責任能力があるとして、死刑を求刑した。被害者がしつこく被告に交際を迫られて拒絶していたという検察側の証言と、“あいつを殺してやる。”という被告の肉声のテープが決定的な証拠となり、被告は昨年暮れに死刑判決が下った。学校という聖域内で起きた教師による凄惨な殺人事件はマスコミに大きく取り上げられ、話題となった。有匡は被害者生徒の個人ファイルを見ると、彼はあの自殺した生徒の親族だとわかった。(三年前と、今回の事件、何かが繋がっているように思えてならない。一体、何が・・)有匡がそう思いながらノートパソコンをシャットダウンしようとすると、廊下の方から物音が聞こえた。「誰だ?」懐中電灯を手に廊下を出た有匡は、数人分の足音が向こうから駆けてゆく音に気づいた。その向こうには、事件の現場となり、今は封鎖された教室があった。「ねぇ、本当に出るの?」「出るに決まってんじゃん!」「そこで何をしている?」「きゃぁぁ~!」有匡が教室の中に入ると、そこには数人の女子高生達の姿があった。「今回は見逃しておいてやるから、早くここから失せろ。」「す、すいませんでした!」女子高生達は、有匡に叱責された後一目散に逃げていった。(ったく、しょうがないな。)あの事件の所為で、夜になるとあの教室へ“肝試し”に来る者は絶えない。「先生、どうかしましたか?」「またあの、肝試しの連中ですよ。困ったものです。」「あぁ、あれねぇ。まったく、困ったもんです。」警備員とそんな事を話しながら有匡が教室から出ようとすると、何かが落ちる音がした。(気の所為か・・)その日の夜、有匡は幸せな夢を見た。あの少女―火月に良く似た女性と、仲良く中庭で遊んでいる我が子達を見ていた。―ねぇ、もし来世というものがあるのなら、僕は・・そこで、有匡は目を覚ました。(一体、あの夢は何だったんだ・・)「土御門先生、理事長がお呼びです。」「わかりました、すぐに行きます。」「失礼致します。」「入り給え。土御門先生、あなたとは一度お話ししてみたかった。」そう言った理事長は笑っていたが、目は笑っていなかった。彼がαだと、有匡は一目合った瞬間にわかった。やり手の経営者のような、クールな顔立ちをしているが、本性は残酷な狼そのもの―αの本能を有匡の前では上手く隠しているものの、オーラでわかった。「わたしに、何がご用ですか?」「わが校は、Ω優遇措置校だという事はご存知で?」「えぇ。」そんなシステムは、ただの、“政府に媚を売る為のパフォーマンス”だと有匡は知っていた。「わたしは、いつか子供達が第二性に縛られない生き方をさせてやりたいんですよ。」「はぁ・・」「ですから先生、わたしに力を貸して頂けないでしょうか?」「は?」「同じα同士、これからお互いに親交を深めていきましょう。」「そうですね・・」(一体、何が目的なんだ、この男?)「理事長。」「すいませんが、用事がありますので、これで失礼を。今度、二人きりで食事でもしませんか?」「えぇ、是非。」理事長室から出た有匡は、深い溜息を吐いた。(あぁいう奴は苦手だ。)廊下を歩きながら有匡がそんな事を思っていると、数人の女子生徒達が向こうからやって来た。「先生、お昼まだでしたら、一緒に食べましょう!」「え~、ずるい!」「先生は、好きな人とか居るんですか?」「居ないな。それよりもお前達、一体わたしに何の用だ?」「わたし達は別に、ねぇ?」「先生と仲良くしたいだけですよ~」「あ、先生あのΩの生徒の事を知っています?」「知っているが、あいつがどうした?」「あいつの事、先生がどう思っているのかなぁって、わたし達それを聞きに来ただけなんです。」「何故、そんな事を聞く?」「それは・・」「わたしは、誰とも番わない。」「そうなんですか・・」女子生徒達は有匡の言葉を聞いた途端、落胆したような表情を浮かべながら彼の元から去っていった。「なぁんだ、狙っていたのにがっかり。」「でもあれ、嘘かもよ?」「え、じゃぁ・・」「わたし達にもチャンスはあるわよね!?」「きっとあるわよ!」火月はそんな彼女達の話を聞きながら、教室で一人自分の机に座って弁当を食べていた。彼女は伊達眼鏡だが少し底が厚い眼鏡をかけ、いつも結ばずにいる金色の髪は、ダサいおさげにしていた。Ωだというだけで目をつけられているのに、これ以上彼女達と関わり合いたくなかったので、火月は敢えて地味な格好をする事にした。「ねぇ、明日転校生来るって!」「へぇ、楽しみ~」「漸く始まりますわね、暁人様。」「あぁ。」都内の一等地にあるタワーマンションの最上階にある部屋で、火月達が通う高校の理事長・権名暁人は、愛人の恵とそんな事を言いながら、美しい夜景を見てワインを楽しんでいた。「“あの子”は、どんな活躍をしてくれるのかしら?」「さぁ・・でも、あのいけすかない土御門を学校から追い出してくれるだろうよ。」「まぁ、彼がそんなにお気に召さないのですか?」「あぁ。同族嫌悪、というやつかな?」同じαでありながらも、名家の御曹司である有匡と、愛人の子である自分とは境遇が全く違う。そう、有匡は、自分にはないものを持っている。それが、憎くて堪らないのだ。「暁人様?」「いや、何でもない。」「そうですか。それよりも、大切な話があるのですが・・」「大切な話?」「わたし、妊娠したのかもしれません。」「それは、確かなんか?」「えぇ。」「恵、こんな事を言うのは何なんだが・・君は、どうしたいんだ?」「決して、暁人様のお手を煩わせるような事は、致しませんわ。」「そうか・・」「では、わたくしはこれで失礼致します。」(さて、どうするか・・)恵には、色々と協力して貰っている。彼女とは利害関係で繋がっているだけの存在で、いくらでも切り捨てることが出来る。恵は、敵に回せば厄介な女だ。今まで自分がして来た悪事の証拠は、全て彼女が握っている。そうすると、自分がなすべき事はひとつ。それは―「わかった、今度そっちに帰るわ。」実家の母親とスマホで会話をしなければ、恵はこの後己の身に降りかかる災難から逃れられたのかもしれない。彼女は有名コーヒーチェーン店で好きなフラペチーノを飲みながら歩き、横断歩道で信号待ちをしていると、突然彼女は誰かに押され、バランスを崩した。体勢を立て直そうとした彼女の目の前に、トラックが迫っていた。「理事長、おはようございます。」「おはよう。」「理事長、相沢が出勤途中、交通事故に遭って亡くなりました。」「そうですか・・」恵の死を悲しむ振りをして、暁人は密かに口端を上げて笑った。「へぇ、ここか・・」「麗様、どうぞこちらへ。」「あぁ。」黒塗りのリムジンから降りて来たのは、白銀の髪をなびかせた、何処か妖しい雰囲気を纏う少年だった。「皆さん、今日からこのクラスに転校してきた、九条麗君です。」「九条麗です、よろしくお願い致します。」教壇の前に立ってクラスメイト達に挨拶をした麗は、一人の少女の存在に気づいた。(へぇ、可愛いじゃん。)「ねぇ、九条君って、前は何処かに住んでいたの?」「イギリス。まぁ、長い間向こうで暮らしていたから、まだ日本の暮らしには慣れなくて・・」「え~、じゃぁわたし達が色々と教えてあげる!」「はは、それは嬉しいなぁ。」麗の周りには、すぐさま女子生徒達が群がって来た。「あれ、あの子は?」「あぁ、あのダサい子?」「あの子はΩよ。」「うちのクラスには、αやβが多いけれど、Ωなのはあの子だけ。いい迷惑よねぇ。」「へぇ・・」麗達が自分の事を話しているとは知らず、火月は読書をしていた。その本は、有匡が数日前に貸してくれたものだ。『もし良かったら、感想を聞かせて欲しい。』そう言って自分に優しく微笑んで本を貸してくれた有匡の笑顔を浮かべると、思わず火月は頬を赤らめてしまった。「なに読んでいるの?」「え?」我に返ると、火月の前には麗が立っていた。「この本は、人から借りた物なんです、失礼します。」「へぇ、そうなんだ。」火月はそれ以上麗と話したくなくて、鞄を持って教室から出て行った。「ふぅ・・」漸く図書室で一人になれた火月は、そのまま次の授業が始まるまでそこで本を読んでいた。「雨、か・・」「うわ~、かなり降って来てますね。」「それにしても理事長、今日はお休みですか?」「あぁ、今朝理事長の秘書の方がお亡くなりになられたそうですよ。」「へぇ・・」放課後、雨は朝よりもかなり激しく降っていた。「うわぁ~、最悪。」「あたし、傘持って来てない~」「じゃぁ、みんな俺の車に乗っていく?みんなともっと仲良くしたいし!」「え~、いいの?」「やったぁ!」「高原さんは?」「僕は・・」「あの子は放っておいていいわよ、早く行きましょう!」「う、うん・・」麗はちらりと火月を見た後、取り巻き達と共に教室から出て行った。(はぁ、どうしよう・・)火月は教室の窓から土砂降りの雨を見ながら、このまま帰ってしまおうかと思い始めていた。「何だ、まだ居たのか?」「先生・・」教室のドアが開き、有匡が教室に残っている火月を見た。「傘を持っていなくて・・」「そうか。じゃぁ家まで送ってやろう。」「え、いいんですか?」「いいに決まっているだろう。」「ありがとうございます。」火月は有匡に車で家まで送って貰う事になった。「先生、貸して頂いた本、今度返しますね。」「そんなに急いで読まなくていい。」「はい、すいません・・」「謝るな。」(何だろう、先生と居ると何だか安心する・・)(こいつと居ると、何故か心が落ち着く・・)二人は徐々に、だが気づかぬ内に互いの心の距離を縮めていった。にほんブログ村
May 22, 2023
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「火宵の月」オメガバースパラレルです。作者様・出版社様とは一切関係ありません。オメガバース・二次創作が苦手な方はご注意ください。(全く、義父上にはいい加減にして貰いたいものだ。) パーティー会場から出た有匡は、溜息を吐きながら人気のないバルコニーで冷たい風に当たっていた。 αとして生まれた彼の元には、山の様に名家出身のΩからの縁談が持ち込まれた。 土御門家は名門のαとして戦前からこの国に君臨してきた名家だった。それ故、その血統を絶やさぬために唯一直系の血をひいている有匡の元へ縁談が殺到するのは当然の事なのだが、有匡はその縁談を全て断って来た。 それは、有匡の亡き父・有仁が相思相愛だった番の母親と家の者に引き離された後、そのショックで病死してしまったからだった。 αとΩは番となり、αの優秀な遺伝子を継ぐ子孫を産む―それが世の理であると、家の為であると、有匡は幼少の頃からそんな教えを学校から、社会から叩き込まれて育った。 しかし、有仁は番であった妻との契約を解消した後、後妻を迎えなかった。“お父さん、どうして再婚しないの?” ある日、有匡はいつものように病室の外から窓を眺めている父にそんな質問をぶつけてみた。 すると彼は寂しそうに笑いながら、こう答えた。―何故だろうね、もう二度と会えないと想っている人が、わたしの事を待っていると想っているからかな・・ その時、まだ子供だった有匡は、父の言葉の意味がわからなかったが、大人になった今となってはわかる。 父は、番だった母の事を待っていたのだ。亡くなるその日まで、ずっと。 その事を知った時、有匡は家の為だけに利害が一致する名家のΩと番うことを一切拒否した。(わたしは誰とも番わない・・決して父のようにはならない。) そう自分に誓いを立てながら、有匡は高校教師として普通の生活を送っていた。しかし、αである自分を周囲は放っておくはずがなかった。 翌朝、パーティーでの事で早速有匡は義父から小言を食らった。「有匡、結婚はまだ考えていないのか?お前もそろそろいい年だ。身を固めておいた方が・・」「お言葉ですが義父上、わたしは一生誰とも番いません。貴方はどうやら、わたしの父にした事をもう忘れてしまったようですね?」「あ、あれは仕方がなかったのだ!ああしなければ、お前の父親はあのΩに滅ぼされるところだったのだぞ!」 自分に都合のいい言い訳ばかりを並べ立てる義父の姿に、有匡は嫌悪を感じた。「わたしを、父の二の舞にさせるおつもりですか?」「有匡・・」「この際だからはっきりと言っておきます。わたしは家の為の道具ではありません。」 有匡はそう言って椅子から乱暴に立ち上がると、そのままダイニングルームから出て行った。「まったく、有匡には困ったものだ・・」「旦那様、そんなに気を落とさずに・・」そう言って義父を慰めたのは、彼の愛人であるΩだ。彼女は義父にしなだれかかると、嫣然とした笑みを口元に浮かべた。「そういえば、有匡様が働いておられる高校では、Ωの特殊学級があると聞きましたわ。その特殊学級の生徒達の中から、有匡様の番を選べば宜しいのではなくて?」「名案だな。そうしないと、いつまで経ってもあいつは独身のままだろう。」義父はそう言った後、美味そうにワインを飲んだ。 有匡が高校に出勤すると、校長が彼を校長室に呼んだ。「校長先生、わたしにお話とは何でしょうか?」「・・実は、こんな物が先程保護者の皆さんから渡されてね。うちの高校に在籍しているΩの生徒を、専門機関へと隔離して欲しいという嘆願の署名だ。」「何故、そのような事を?バース性の差別は法律で禁じられている筈・・」「ああ、表面上ではな。だが、人種差別や性差別が未だ根絶できないのと同じく、バース性への差別は、わたし達の生活に深い根を下ろしている。」 校長がそう言って溜息を吐いた時、廊下が急に騒がしくなった。 有匡が校長と共に校長室から廊下へと出ると、一人の女性が髪を振り乱しながら一人の生徒に掴みかかっていた。「あの子を返してよ、この人殺し!」「奥様、落ち着いて下さい!」「あんたが唆した所為で、あの子は自殺したのよ~!」女性に掴みかかられた生徒は、無言で俯いているだけだった。「あれは一体、何なのですか?」「あぁ、あの女性は、先月自殺した生徒の母親だ。」「じゃぁ、あの殴られている生徒は?」「Ω(オメガ)だ。彼は自殺した生徒の番だった。だが、彼は自殺した生徒との番契約を一方的に破棄した。」「それは、何故です?」「さぁ・・」 校長はそう言葉を濁すと、校長室へと戻っていった。(彼は、何かを隠している・・) 職員室に戻った有匡は、教職員専用のサイトにアクセスした。生徒名簿にアクセスし、自殺した生徒の名前をクリックしようとしたら、“パスワードを入力して下さい”というメッセージが画面に表示された。いつの間にか、何者かによってアクセス制限がかけられていた。 何処かが、おかしい。「先生、どうかなさったのですか?」「いえ、何でもありません・・」「これから、色々と忙しくなりますねぇ。」「何か、あるんですか?」「あぁ、土御門先生はご存知ないんでしたっけ?来週、国のバース機関の視察があるんです。」「そうですか・・」「うちは、表向きはΩ優遇措置校ですからね。あ、もうわたし授業に行かないと!」 同僚の女性教師は少し喋り過ぎたと思ったのか、そう言うとそのまま有匡と目を合わさずに職員室から出て行ってしまった。 この学校には、何かがある―有匡は、彼女の話を聞いて確信した。 一方、家庭科室では、火月がクラスメイト達と共にクッキーを作っていた。「あ、ごめん、手が滑っちゃった!」 火月が、教師が居る席に提出用のクッキーを置いた後、一人の女子生徒がそう言った後、わざと火月に向かって足を突き出した。 火月は、転びはしなかったものの、その女子生徒を睨んだ。「何よ、文句でもあるの?出来損ないのΩの癖に。」「そうよ、あんた達Ωが居るだけでも迷惑なのよ。」 悔しいが、火月は何も言い返す事が出来ぬまま、授業が終わるなり片付けを済ませて家庭科室を後にした。 何故Ωに生まれただけで、理不尽な差別を受けなければならないのだろうか。(α(アルファ)に生まれていれば、人生は楽しいものになってたかなぁ?) そんな事を思いながら人気のない空き教室で弁当を食べていると、そこへ有匡がやって来た。「先生、どうしてここに?」「職員室に居ると何かと息が詰まってな。」「αの先生も色々と大変なんですね。」「まぁな。教師は派閥があって、新人のわたしには余り馴染めないんだ。」「そうですか・・」「その弁当、自分で作ったのか?」「はい。シェアハウスでは、“自分の事は自分でする”のがルールなんです。なので、みんな家事全般が出来て、お互いに助け合いながら生活しています。」「そのシェアハウスには、Ωしか居ないのか?」「いいえ、βの人も居ます。シェアハウスのオーナーはとても良い人で助かっています。」「そうか・・」 Ωが差別を受けるのは、就職・進学だけではなく、部屋を借りる際もΩというだけで断られる事があると、有匡は雑誌の記事で知っていた。「親は居ないのか?」「えぇ。僕が生まれてすぐに、両親は交通事故で亡くなったんです。ですから僕は、シェアハウスで暮らすまで施設で暮らしていたんです。先生は、どうなんですか?」「結婚はしていないし、これからするつもりもない。わたしの父は、無理矢理番(つがい)だった母と引き離されて病死した。母は今生きているのか死んでいるのかわからない。」「すいません、変な事を聞いてしまって・・」「いや、いいんだ。包み隠さずに話しておけば楽になる。」 有匡はそう言って笑うと、コンビニで買ったサンドイッチを一口食べた。「あの子は?」「あの子はΩの生徒です。どうかされましたか、理事長?」「いや・・昔の知り合いに彼女が何処か似ているような気がしてね・・」「そうですか・・」「彼は確か・・」「あぁ、土御門有匡先生ですか?今年こちらに赴任されたばかりですが、生徒達から慕われていますよ。」「ほぅ・・」 理事長は、暫く空き教室に居る有匡と火月を見つめた後、秘書を従えて廊下から去っていった。にほんブログ村
May 22, 2023
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「火宵の月」オメガバースパラレルです。作者様・出版社様とは一切関係ありません。オメガバース・二次創作が苦手な方はご注意ください。火月と禍蛇が暮らしている家は、同じ児童養護施設出身の者達が暮らしているシェアハウスだった。 バース性に対する差別を法律上では禁止されているものの、未だにバース性の差別は社会に蔓延っており、Ωの子供達は親から虐待を受けたり、捨てられたりして児童養護施設に引き取られた。 二人は共にΩで、彼女達は16歳の誕生日を迎えて施設から出た後、このシェアハウスで暮らし始めた。 このシェアハウスでは男女共にΩが多く、そのほかにβの男女が数人と、合計20人が共同生活を送っている。「他の皆は帰ってないの?」「うん。ねぇ火月、学校で何かあったの?俺にだけは隠さないでちゃんと話してよ。」「実はね・・」火月は親友に、学校で起きたことを話した。「何だよそいつ、腹立つな!Ωには何してもいいっていうのか?」「僕が悪いんだよ、番が居ないから。禍蛇はいいよね、番が居て。」「あぁ、琥龍のこと?あいつ俺の番の癖に、この前俺とデート中なのにもかかわらずあいつ、βの女を見かけたらナンパしてるんだぜ、俺の前で堂々と!まぁ、後でシメてやったけどな。」 禍蛇の番である琥龍とは同じ施設仲間で、彼は事情があって親から捨てられたαだった。主に貴族や政治家、資産家などの特権階級出身のαだが、家督争いや遺産相続などの「お家騒動」に巻き込まれ、施設に預けられたりするαの子供が稀に存在している。琥龍も、そんなαの一人だった。彼の実家は戦前華族であったが、戦後すぐに没落の憂き目に遭い、それから日本では有名な財閥の一つとして国内外でも知られている。「あいつ、俺と番になって結婚する気あるのかな?まぁ、あいつはαだから、色々と縁談が来ているんだろうけど。」「番が居るのと居ないのとでは大違いだよ。禍蛇は羨ましいよ、琥龍から愛されているんだもん。」「火月も番を探せばいいじゃん。そうすれば襲われなくなるかもよ?」「僕はいい。僕みたいなΩを欲しがる人なんて居ないもん。」「そんなに自分を卑下しなくてもいいんじゃない?俺は火月の方が羨ましいよ。俺よりもスタイルいいし、頭もいいしさ。」「そうかなぁ。ねぇ禍蛇、禍蛇が通っている学校にはαの生徒や先生は居るの?」「居るよ。でも殆どβの生徒や先生が多いかな。火月の学校の方はどうなの?」「どっちかというと、βが少数派で、αの方が多いかな。僕と同じΩの生徒は居るけれど、αやβと同じ教室で勉強できないんだ。」「何それ、酷いじゃん。まぁ、火月が通っている学校は進学校だから、そうするのも無理もないけどさぁ、学校側がΩを軽く扱っているんじゃないの?」「まぁ、学校側が決めた事に僕達は逆らえないし、別の学校でαの生徒がΩの生徒のヒートに当てられて集団レイプ事件が起きたっていうから、そういった事件を未然に防ごうとしているから、仕方ないよ。」「でもさぁ、それだと俺達Ωが男女見境なくフェロモン撒き散らしている獣だって見ているようなもんじゃん。何かすっげぇ腹立つ~!」禍蛇がそう叫んだ時、玄関のチャイムが鳴った。「誰かな、こんな時間に?」「今日は俺達を除いてみんな、会社の研修に行ってて明日の朝まで帰って来ないって言ってたし・・一体誰なんだろう?」 禍蛇がそう言いながらインターフォンの画面を見ると、そこには泥酔状態のαと思しき数人の男達が映し出された。『男日照りのΩちゃん、俺達の相手しろよ~』『金なら沢山払うからさ~』「警察に通報するね。」火月がスマホを持って二階の部屋に逃げ込もうとした時、裏口のドアの鍵が誰かに回される音がした。「おい二人とも、無事か!?」「琥龍か、脅かさないでよ!」ドアを開けて姿を現したのは、禍蛇と火月の幼馴染である琥龍だった。「さっきαの野郎どもがこの家に来るのを見たから、警察に通報したぜ。二人とも、大丈夫か?」「うん。それにしてもあいつら、何でここの場所知ってたんだろう?」「さぁな。最近ここらへんでΩの襲撃事件が増えているから、警察に通報したらすぐに来てくれたぜ。ったく、最近変な奴が多くて困るよな。」琥龍はそう言うと夕飯のカレーを一口スプーンで掬ってそれを頬張った。「今後もこんなことがあるようなら、引っ越しを考えた方がいいかもしれないね。」「そうだね・・でもさ、引っ越したら色々と不便だよ?それに、お金ないし・・」 施設から出て、禍蛇と火月はアルバイトをしながら高校に通っているが、バイト代ではスマホ代を含む生活費を稼ぐだけで精一杯だった。「何だったら俺ん家来るか?部屋沢山余ってるし、万が一の事を考えたらそれがベストだと思うんだけどなぁ。」「却下。琥龍ん家は周りにαが沢山居るし、琥龍の家から学校に通う距離が遠いし、色々と不便だよ。」「そうか。なぁ火月、お前学校で虐められたりしてねぇか?」「え、なんでそんな事急に聞くの?」そう言って火月が琥龍の方を見ると、彼は低く唸った後、こう言った。「実はこの前、俺が住んでるマンションの近くで飛び降り自殺があったんだよ。自殺したのは、お前と同じ高校に通ってた男子高校生で、最近Ωだって病院の検査でわかって、人生を悲観して死んだんだってさ。Ωだからって人生終わりっていう事はないのになぁ。でも、お前と同じ高校に通っていたって聞いたから、お前もΩだって事で色々と苛められているんじゃないかと思ってさぁ・・」「僕は大丈夫だよ、琥龍。まぁ、うちの学校はΩの生徒ばかり集めた特殊学級があるから、αやβの生徒とは余り交流がないし・・」火月はそう言いながら、数日前自分の机が何者かによって傷つけられていた事を思い出した。「何かあったら俺を呼べよ、火月。お前を苛める奴は片っ端からぶっ飛ばしてやるから。」「有難う琥龍、そう言ってくれるだけでも嬉しいよ。」「琥龍、俺がお前の番なんだけど?何で火月ばっかり構う訳?」「何だぁ、ヤキモチか?」「違う、俺が隙見せるとてめぇが火月に手ぇ出しそうで油断できねぇんだよ!」禍蛇はそう琥龍に向かって怒鳴ると、彼の頭を拳骨で殴った。「いってぇな、何すんだ暴力女!」「うるせぇスケベ野郎、この間も部屋に女連れ込んでただろう?」 隣で口論を始める禍蛇と琥龍の姿を見ながら、火月は彼らの関係が羨ましいと思った。 いつか自分にも、番が現れるのだろうか。「火月、どうしたの?」「ううん、何でもない。先にお風呂、入ってくるね。」無理に二人に向かって笑顔を浮かべると、火月はリビングから出て浴室へと入ると、深い溜息を吐いた。 その頃、有匡は都内某所にあるホテルで開かれている資産家のパーティーに出席していた。「有匡、来てくれて嬉しいよ。」「お久しぶりです、義父上(ちちうえ)。」有匡がそう言って養父に挨拶すると、彼の隣に美しい振袖姿の若い女性が立っている事に気づいた。 その姿を見た途端、彼はこのパーティーの目的が解った。「有匡、紹介するよ。こちらは三条家の・・」「申し訳ありませんが義父上、少し酒に酔ってしまったようです。外の風に当たってきます。」 義父に反論する隙を与えず有匡は彼にそう言うと、そのままパーティー会場から出て行った。にほんブログ村
May 22, 2023
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「火宵の月」オメガバースパラレルです。作者様・出版社様とは一切関係ありません。オメガバース・二次創作が苦手な方はご注意ください。 この世には、二次性別というものが存在する。男女という性別の他に、α(アルファ)、β(ベータ)、Ω(オメガ)という三種類の性別が存在し、βが世界の全人口の大半を占め、主にエリート階級に属するα、そしてかつて被差別階級であったΩは人口の約3%を占める。 これは、一人のαと、Ωの物語である―「先生、さようなら。」「気を付けて帰れよ~」 茜色に染まりつつある廊下を歩く生徒達に同僚教師・高田が声を掛けている姿を遠くから眺めながら、土御門有匡は彼に気づかれぬように今来た道を戻った。 彼はこの学校に赴任してきたばかりの自分に対して親切にしてくれているのだが、顔を合わせると毎日放課後に飲みに誘われるので、それが苦痛で有匡は彼を避けるようになった。 余り人付き合いが得意ではない有匡は、高田のような熱血教師タイプが苦手だった。高田だけではなく、他の同僚教師達とも何だか反りが合わないような気がするのは、自分が無愛想で事務的な態度を彼らに取っているからだろう。 革靴を履き、有匡が職員用駐車場へと向かおうとした時、人気のない体育用具倉庫からくぐもった声が聞こえた。(気のせいか?) そう思いながら有匡が体育用具倉庫の扉を開けると、そこには一人の少女が今まさに中年男性に組み敷かれているところだった。「そこで何をしている!」有匡が男性を怒鳴りつけると、彼は飢えた獣のような目で有匡を睨みつけた。 それと同時に、男性の全身から威嚇フェロモンが放たれた。(こいつ、αか・・)「Ωの癖に、こいつが俺に逆らうから懲らしめてやろうとしているだけだ、邪魔するな!」「獣め、消え失せろ。」有匡は舌打ちしながらそう言って男を睨みつけると、男が放っているよりも強烈な威嚇フェロモンを男に向かって放った。 男は覚束ない足取りで喉元を掻き毟りながら体育用具倉庫から出て行った。「大丈夫か?」「はい、助けてくださって有難うございます。」金髪紅眼の少女と目が合った瞬間、有匡は彼女から花の蜜の様な甘い匂いが漂って来ている事に気づいた。“運命の番”―αとΩ間であっても極稀にしか存在しないという“魂の番”。「お前、名前は?」「火月・・炎の月という意味の名です。あの、先生?」この少女が、自分の“運命の番”だというのか?「家まで送ろう。」「有難うございます。」 火月を助手席に乗せ、有匡が車に乗り込もうとした時、上着の胸ポケットに入れていたスマートフォンが振動した。 スマートフォンの液晶画面を見た有匡は舌打ちするとスマートフォンの電源を切った。「すいません、ここで降ります。」有匡の運転する車が市街地を抜け、閑静な住宅街に入っていくと、火月はそう言ってシートベルトを外した。「家までまだ距離があるだろう?」「そうですけど、余り男の人と一緒に居るところを家族に見られたくないんです・・」火月は何か複雑な事情を抱えているらしく、それだけ言うと俯いてしまった。「男に襲われた時、何故抵抗しなかった?」「僕はΩで、男を誘うフェロモンを出しているから、男に襲われて当然だと思って・・無駄に抵抗するよりは、嵐が過ぎ去るのを待った方がいいと・・」「馬鹿な事を!」 Ωはエリート階級に属しているαと比べ、αを誘うフェロモンを発するΩは、長年“劣等品種”とされ、謂れのない迫害と差別を受けてきた時代があった。 Ωの発情を抑える抑制剤や、バース性に対する差別撤廃運動、そしてバース性に対しての法整備が進みつつある現代に於いても、未だにΩに対する差別は根強く残っている。 それ故にαの男性によるΩ男性、女性へのレイプなどが頻発し、その結果違法な堕胎手術により命を落とすΩが少なくはない。 Ωは種の繁殖に適するものと思われている為、その社会的地位は低く、妊婦が出生前判断で腹の胎児がΩである事がわかると中絶し、また生まれて来た子供がΩである事を理由に殺害し、遺棄したりする事件も後を絶たず、社会問題となっている。 しかし一番問題なのが、Ωとして生まれた者の自己肯定感が低い事だった。「あの時、もしわたしがお前を助けていなかったら、お前はあの男に犯されていたんだぞ?それなのに、お前はそれを当たり前だと思っているのか?」「先生にはわからないんです、Ωとして生まれてきた僕の苦しみが!僕だって好きでΩに生まれてきた訳じゃないのに・・」「済まん、言い過ぎた。」 有匡は顔を両手で覆って泣く火月の背中を優しく擦った。「すいません、取り乱してしまって・・」「あんな事は、いつもあるのか?」「いいえ。僕がフリーのΩで、油断していたから襲われてしまったんです。」「番は居るのか?番を持てば、発情フェロモンが抑えられると噂に聞いたが?」「番は持っていません。強い抑制剤をいつも服用しているので、今日も大丈夫だと思っていたんですが、襲われるなんて思いもしませんでした。」「あの男は学校関係者じゃないな。今日の事を学校に報告して、警備を強化して貰うようにしよう。」「でも、そんな事をしたら迷惑を掛けます。」「生徒の身の安全を守るのが教師の役目だろう?」「それはαやβの生徒に対してだけでしょう?Ωの生徒を守る学校なんてありません。」「火月、お前・・」「送ってくださって有難うございました、さようなら先生。」有匡が止める間もなく、火月は車の助手席から降りて住宅街の中へと消えていった。(少し言い過ぎたかな・・) 火月はそんな事を思いながら溜息を吐くと、一軒の家の前に立った。 そこは、自分と同じ境遇で育った者達が共同生活を送るシェアハウスだった。 火月が玄関先のインターフォンを鳴らすと、玄関先に黒髪紅眼の少女が現れた。「火月、お帰り。帰りが遅かったから、また襲われたんじゃないかって心配していたんだよ?」「ごめん、禍蛇(かだ)。心配かけちゃって・・」「謝らないで。ご飯もう出来てるから、配膳手伝って。」「うん、わかった。」 火月は黒髪の少女と共に家の中へと入った。にほんブログ村
May 22, 2023
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