薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月 10
F&B 腐向け転生パラレル二次創作小説:Rewrite The Stars 6
天上の愛地上の恋 大河転生パラレル二次創作小説:愛別離苦 0
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁 12
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻 10
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁 1
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ 5
天上の愛 地上の恋 転生現代パラレル二次創作小説:祝福の華 10
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華 14
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄 1
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊 1
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法 7
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜 18
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は 10
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て 5
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計 9
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫 20
火宵の月 帝国オメガバースファンタジーパラレル二次創作小説:炎の后 1
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母 13
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん 6
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥 7
天上の愛地上の恋 転生オメガバースパラレル二次創作小説:囚われの愛 9
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華 1
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師 4
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥 27
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚 2
ハリポタ×天上の愛地上の恋 クロスオーバー二次創作小説:光と闇の邂逅 2
天上の愛地上の恋 転生昼ドラパラレル二次創作小説:アイタイノエンド 6
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師 1
天愛×火宵の月 異民族クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼と翠の邂逅 1
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている 3
天愛×薄桜鬼×火宵の月 吸血鬼クロスオーバ―パラレル二次創作小説:金と黒 4
火宵の月 昼ドラハーレクイン風ファンタジーパラレル二次創作小説:夢の華 0
火宵の月 吸血鬼転生オメガバースパラレル二次創作小説:炎の中に咲く華 1
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉 54
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~ 6
火宵の月異世界転生昼ドラファンタジー二次創作小説:闇の巫女炎の神子 0
バチ官×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:二人の天使 3
火宵の月 異世界ファンタジーロマンスパラレル二次創作小説:月下の恋人達 1
FLESH&BLOOD 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の騎士 1
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して 20
火宵の月 戦国風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:泥中に咲く 1
PEACEMAKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で 9
火宵の月 和風ファンタジーパラレル二次創作小説:紅の花嫁~妖狐異譚~ 3
天上の愛地上の恋 現代昼ドラ風パラレル二次創作小説:黒髪の天使~約束~ 3
火宵の月 異世界軍事風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:奈落の花 2
天上の愛 地上の恋 転生昼ドラ寄宿学校パラレル二次創作小説:天使の箱庭 7
天上の愛地上の恋 昼ドラ転生遊郭パラレル二次創作小説:蜜愛~ふたつの唇~ 1
天上の愛地上の恋 帝国昼ドラ転生パラレル二次創作小説:蒼穹の王 翠の天使 1
火宵の月 地獄先生ぬ~べ~パラレル二次創作小説:誰かの心臓になれたなら 2
火宵の月 異世界ロマンスファンタジーパラレル二次創作小説:鳳凰の系譜 1
火宵の月 昼ドラハーレクインパラレル二次創作小説:運命の花嫁~愛しの君へ~ 0
黒執事 昼ドラ風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:君の神様になりたい 4
天愛×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー 2
FLESH&BLOOD ハーレクイロマンスパラレル二次創作小説:愛の炎に抱かれて 10
薄桜鬼腐向け転生刑事パラレル二次創作小説 :警視庁の姫!!~螺旋の輪廻~ 15
FLESH&BLOOD 帝国ハーレクインロマンスパラレル二次創作小説:炎の紋章 3
PEACEMAKER鐵 オメガバースパラレル二次創作小説:愛しい人へ、ありがとう 8
天上の愛地上の恋 現代転生ハーレクイン風パラレル二次創作小説:最高の片想い 6
FLESH&BLOOD ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の花嫁と金髪の悪魔 6
薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう) 10
薄桜鬼×天上の愛地上の恋 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:玉響の夢 6
天上の愛地上の恋 昼ドラ風パラレル二次創作小説:愛の炎~愛し君へ・・~ 1
天上の愛地上の恋 異世界転生ファンタジーパラレル二次創作小説:綺羅星の如く 0
天愛×腐滅の刃クロスオーバーパラレル二次創作小説:夢幻の果て~soranji~ 1
天愛×相棒×名探偵コナン× クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧に融ける 1
黒執事×天上の愛地上の恋 吸血鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼に沈む 0
魔道祖師×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想うは、あなたひとり 2
天上の愛地上の恋 BLOOD+パラレル二次創作小説:美しき日々〜ファタール〜 0
天上の愛地上の恋 現代転生パラレル二次創作小説:愛唄〜君に伝えたいこと〜 1
天愛 夢小説:千の瞳を持つ女~21世紀の腐女子、19世紀で女官になりました~ 1
FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇ 2
YOI×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:皇帝の愛しき真珠 6
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず 2
薔薇王の葬列×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:黒衣の聖母 3
天愛×F&B 昼ドラ転生ハーレクインクロスオーパラレル二次創作小説:獅子と不死鳥 1
刀剣乱舞 腐向けエリザベート風パラレル二次創作小説:獅子の后~愛と死の輪舞~ 1
薄桜鬼×火宵の月 遊郭転生昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:不死鳥の花嫁 1
薄桜鬼×天上の愛地上の恋腐向け昼ドラクロスオーバー二次創作小説:元皇子の仕立屋 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君~愛の果て~ 1
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師~嵐の果て~ 1
YOI×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:氷上に咲く華たち 1
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰 2
F&B×天愛 昼ドラハーレクインクロスオーバ―パラレル二次創作小説:金糸雀と獅子 2
F&B×天愛吸血鬼ハーレクインクロスオーバーパラレル二次創作小説:白銀の夜明け 2
天上の愛地上の恋現代昼ドラ人魚転生パラレル二次創作小説:何度生まれ変わっても… 2
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師 1
薄桜鬼×天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿 2
火宵の月 異世界ハーレクインヒストリカルファンタジー二次創作小説:鳥籠の花嫁 0
天愛 異世界ハーレクイン転生ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女 氷の皇子 1
天愛×火宵の月陰陽師クロスオーバパラレル二次創作小説:雪月花~また、あの場所で~ 0
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。土方さんが両性具有設定です、苦手な方は閲覧なさらないでください。「ここなら、助産師や看護師が多胎児育児の相談に乗ってくれる。双子の育児はかなり辛いと聞く。俺は仕事で殆ど家に居ないし、お前が一人で三歳児と双子の育児をしながら家事やママ友との付き合いを完璧にこなすのは難しい。」「そうか?そんなの・・」「お前は何でも自分一人で抱え込む。お前はこれから誰かに頼る癖を身につければいい。」「あぁ。」 今まで歳三は、誰にも頼れぬ状況で、必死に歯を食い縛って生きて来た。 誰かを頼るよりも、頼られる存在だった。 だから、いつも弱音を吐かず、己の“弱さ”を見せないようにしていた。 だが、千景の言葉を聞いた歳三は、長年纏っていた、“心の鎧”を脱ぎ捨てた。「なぁ千景、俺はお前ぇと結婚して良かったのかもしれねぇ。」「何だ、惚気か?」「ま、まぁな・・」「あらぁ、千景さんも来てたのねぇ。」「信子さん、お久しぶりです。」「可愛い双子ちゃんねぇ。」信子はそう言うと、誠と千歳の寝顔を見た。「これからが大変ね。」「産後ケア施設で暫く世話になる事にした。初めての事ばかりだから、プロに相談した方が良いと思ってな。」「そうね。」「姉貴、勇太の事なんだが・・」「勇太なら俺が面倒を見よう。」「大丈夫か?」「あぁ。」 千景はこの時、育児を完全に嘗めていた。「母様~!」 歳三が産後ケア施設に入所した後、勇太は四六時中歳三を恋しがって泣いた。「母様は今忙しいから、父様が・・」「やだ~、母様がいいっ!」 朝食を何とか食べさせ、着替えさせたりするまで二時間もかかってしまった。 世の男性達は、家事育児をしている女性をもっと尊重した方が良いのではないか。 専業主婦を、“三食昼寝付き”の贅沢な職業だと誰が決めたのか。 家族の健康管理や家計の管理など、家事はトイレットペッパーの補充やトイレ掃除に至るまで、多岐にわたるものだ。 それを年中無休で、見返りもなくやっているのだ。 SNSを開けば、彼女達の日常生活―特に夫への不満が溢れている。(全く、こんな大変な事を歳三は一人でやっていたのか・・) 勇太を幼稚園へと送った後、千景はそう思いながら駐車場へと向かっていると、自分の車の前には意外な人物の姿があった。「千景さん、お久しぶりね。」「義母上・・」「ちょっと、お茶でも飲みながら話さない?」「・・はい。」 千景はそう言うと、継母・富貴子と共に都内にあるオーガニック・カフェへと向かった。「お話とは一体なんでしょう?」「これを、歳三さんに渡して頂戴。初めて双子ちゃんが産まれた時に立ち会えなかったから。」「ありがとうございます。」「ねぇ、今度食事会でも開きましょうよ。結婚式の相談もしたいし。」「えぇ、考えておきます。」「千景さん、こんな事を言うのも何なのだけれど、四人目の予定は無いのかしら?」「ありませんね。今は勇太が反抗期真っ只中で双子育児が忙しいので・・」「そう?歳三さんは、今どちらに?」「産後ケア施設に居ます。」「それじゃぁ、あなたが今家事と育児をしているの?嫁の癖に夫に家事をさせるなんて・・」「今は性別など、関係ありませんよ。」「大体、そんな所に頼るなんて・・うちへ来ればいいのに。」 口を開けば、歳三への不満ばかり。「ねぇ、そうしなさいよ。」「申し訳ありませんが、我妻とその子供達は、あなたの所有物ではないので。」「まぁ・・」「先約がありますので、これで。」 気色ばんだ富貴子を残し、千景は足早にその場から去った。 ストレスが溜まる相手と同居する物好きなどいるものか。「社長、おはようございます。」「天霧、今から会議を始める。」「わかりました。」 数分後、千景は社内の空きスペースを社内託児所として利用した上で、子供の育児や親の介護などを抱えている社員には在宅勤務を許可する旨を全社員に伝えた。「風間、本気なのですか?」「あぁ。」「このような事をしたら・・」「会社の利益が落ちるとでも?社員一人一人の幸せよりも会社の利益ばかり求めている会社の方が、生産性が落ちるとは思わぬか?」「そうですか、ではそのように致します。」 千景の試みは、たちまちネット上で話題となった。『千景さん、あなた何勝手な事を・・』「失礼。」 千景はそう言って携帯の電源を切ると、仕事を早く切り上げて帰宅した。「お帰りなさいませ、千景様。」 玄関先でそう言って千景を出迎えたのは、土方家の家政夫・清だった。「貴様は・・」「千景、暫くうちで預かる事になった清だ。」「はじめまして、清です。」「そんなに俺の家事能力は低いのか、歳三?」「いや、そういうつもりじゃねぇ。お前ぇ一人だと何かと大変だし、家事を三人で分担した方が楽だろう?」「そうだな。貴様、清といったな?俺はまだ、貴様を認めた訳ではないぞ。」「あれ、いいんですか?」「まぁ、あいつ天邪鬼な所あるからな。気にするな。」 こうして、大人三人の奇妙な同居生活が始まった。にほんブログ村
Sep 24, 2020
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。土方さんが両性具有設定です、苦手な方は閲覧なさらないでください。「もう出歩いて大丈夫なのか?」「あぁ。」 七夕祭りの日、歳三は安定期を迎え、病院から退院の許可が下りた。「母様~!」「勇太、元気で良かった。その浴衣、良く似合っているぞ。」 歳三は実家に預けていた勇太を千景と共に迎えに行くと、彼は水色に土方家の家紋である左三つ巴の模様の浴衣姿だった。「トシ、あんたも着替えなさいよ。」「わかった。」 信子に着付けを手伝って貰いながら、歳三は時折苦しそうに息を吐いた。「さっき千景さんから聞いたわよ。お腹の赤ちゃん、双子なんだってね?」「あぁ。勇太の時は安定期になっても悪阻が治まらなかったけれど、こいつらの時はその逆で、何か口にしてねぇと吐きそうなんだよ。」「あ~、いわゆる食べつわりってやつね。赤ちゃんの性別はわかったの?」「男の子らしい。まぁ、元気に生まれてくれれば、どっちでもいい。」「帯、きつくない?」「あぁ。」 歳三が着たのは、藤の花をあしらった上品な浴衣だった。「良く似合っているな。やはりお前は紫が似合う。」 そう言いながら部屋に入って来た千景は、赤字に大きな花柄の、派手な浴衣姿だった。「では、行こうか?」「あぁ。」 七夕祭りの会場である幼稚園には、既に常子達が来ていた。「すいません、遅れました。」「あらぁ、土方さん。綺麗な色の浴衣ねぇ。」「ありがとうございます。」「土方さんって、運が良いわよね。」「え?」「素敵な旦那様が居て、可愛いお子さんも居るのに・・何で不倫なんかしているの?」 馴れ馴れしく自分に話しかけて来た一人の母親が、そう言って歳三を睨むと、子供の手を引いてヨーヨー釣りの方へと行ってしまった。(何だ?)「ねぇ、あの人でしょう?」「嘘、あの人が!?」「大人しそうな顔をして、やるわね・・」 母親達がそんな事を話しながら、ジロジロと自分の方を見ている事に歳三は気づいた。「常子さん、本当なの?」「えぇ・・」「酷いわね、土方さんって!あんなに素敵な旦那様が居るのに、どうして・・」「不潔だわ!」「皆さん、落ち着いて。」 義憤に駆られ、歳三を避難し始めたママ友達をそう宥めながらも、常子は口端を歪めて笑った。「あれ、おかしいな・・」「どうした、歳三?」「さっき祭りの売上金の確認をしていたんだが、足りねぇんだよ・・」「いくらだ?」「2万円程だ。さっきまで、ここにあったんだが・・」「もしかしてそのお金、あなたが盗ったんじゃないの?」「俺ぁ、そんな事してねぇ!」「さぁ、どうかしら?あなたはわたしの夫を盗んだ・・」 常子はそう言うと、歳三を睨んだ。「あなたを絶対に幸せなんかにさせないわ。」「歳三、暫く日陰で休んでいろ。」「わかった。」 歳三が藤棚の下へと向かうのを確認した千景は、常子をにらみつけた。「我妻への誹謗中傷をこれ以上続けるつもりなら、法的措置を取る。」「まさかわたしを訴えるつもり?だったら、わたしもあなたの奥さんに対して慰謝料を請求するわ。」「貴様は一体何がしたいのだ?我妻と貴様の夫との関係は、もう終わった事だ。」「いいえ、終わってなどいないわ!勇太君が居る限り、主人とあなたの奥さんとの縁は永遠に切れないの!」「それは、どういう意味だ?」「あら、知らないの?勇太君は、主人と、あなたの奥さんとの間に出来た子なのよ。」 常子はそう言うと、車内で勇と歳三が激しくセックスしている動画を千景に見せた。「これを観て、少しはわたしの気持ちがわかるでしょう?」 七夕祭りの後、千景は帰りの車の中で歳三を抱いた。「何で、こんな事・・」「お前は、車の中でするのが好きだろう?」「千景、何でそんな事知って・・」「勇太は、あの男との子なんだろう?」「・・あぁ、そうだ。勇太は・・あいつの父親は、近藤さんだ。でも、勇太は俺とお前の子だ。もう、あの人との縁は切れた。信じてくれ。」「乱暴に抱いて済まなかった。安定期とはいえ無理をさせたな。」 千景はそう言うと、歳三の大きく迫り出した下腹を撫でた。「もうすぐハロウィンか、早ぇもんだな。」「歳三、そんなに動いて大丈夫なのか?」「余り動かねぇと難産になるから、少しは動いた方が良いって先生から言われたんだよ。」「そうか・・どうした、歳三?」「陣痛、来たのかもしれねぇ・・」「何だと!?」 2014年10月31日、歳三は元気な双子の男児を帝王切開で出産した。 金髪に紫の瞳を持った長男を誠、黒髪に真紅の瞳を持った次男を千歳と、歳三は千景と考えた末にそう名付けた。「歳三、これからの事だが、勇太と共にお前は暫く実家に行っていろ。」「そうしたいのは山々なんだが、実家はこれから繁忙期に入るから、余り頼れねぇんだよな。」「ではこういった所はどうだ?」 千景がそう言って歳三に見せたのは、産後ケア施設のパンフレットだった。にほんブログ村
Sep 22, 2020
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。土方さんが両性具有設定です、苦手な方は閲覧なさらないでください。「何よ、ネットで悪い噂を流してやるからねっ!」「ええどうぞ、お構いなく。名誉棄損で訴えてやりますから。」 母親達は子供達を連れて座敷席から出て行った。「姉貴、あんな事を言ってもいいのか?」「構やしないわよ。うちは客を選ぶ権利があるんだから。」「そうか。なぁ姉貴、手伝おうか?」「いいわよ。今日あんたはお客様として来たんだから、ゆっくりしていって。」「わかった。」「すぐに料理を運ばせるから、個室で待っていてね。」 歳三が千景と個室に入ると、彼は突然吹き出した。「どうした?」「お前の気の強さは、姉に似たのだな・・」「まぁな。姉貴は俺の母親代わりみたいなものだから、性格も似ているのかもしれねぇ。」「そうか。仲の良い姉弟で羨ましいな、うちとは大違いだ。」「お前にも兄弟が居るのか?」「あぁ。だが継母の連れ子だから、俺にとっては義理の兄弟にあたるな。」「色々とあるみてぇだな。」「うちは茶道の家元だが、風間コンツェルン総帥でもある。」「そうか。」「父はかなりの遊び人だったようでな、女の噂は死ぬまで絶えなかった。母は旧華族の深窓育ちの令嬢で、潔癖な人だったそうだ。俺が7つの時、父の度重なる浮気に耐えかねて出て行ったらしい。継母は、その時父が付き合っていた愛人だ。」「複雑だな・・」「あぁ。」「そういえば、一度もお前ぇの家族に会った事がねぇな。今度、うちで食事会でも開くか?」「今度義母に予定を聞いてみる。」「済まねぇな、辛い事を思い出させちまって・・」「いや、もう昔の事だ。それよりも歳三、七夕祭りの準備は進んでいるか?」「あぁ。幼稚園のイベントなんてやるのは簡単だと思ったが、色々と大変なんだな。」「お前には家の事を任せきりで、済まないな。俺もこれから、幼稚園の行事や保護者の集まりに顔を出そう。」「ありがとう。」「トシ、お待たせ。」「ありがとう。」 信子が運んで来たランチの炊き込みご飯が入った椀の蓋を開けてその匂いを嗅いだ途端、歳三は猛烈な吐き気に襲われた。「大丈夫?」「あぁ。只の消化不良だ。胃薬でも飲んどきゃ治るさ。」「そうか・・」 その吐き気はすぐに治まったが、歳三は何故か食欲が湧かなかった。「あんた、一度病院に診て貰った方がいいんじゃない?」「本当に大丈夫だから・・」 そう言って歳三が立ち上がろうとした時、彼は突然下腹の激痛に襲われ、その場に蹲った。「トシ、トシ!」「救急車を呼んだからな、しっかりしろ、歳三!」 薄れゆく意識の中で、歳三は勇を呼んだ。 何処からか、子供の泣き声が聞こえた。「おい、何で泣いているんだ?」 歳三がそう言って泣いている子供に声を掛けると、その子供は自分と同じ菫色の瞳をしていた。―帰る場所がないの。「帰る場所なら、俺が見つけてやる。」―本当?「あぁ。」―じゃぁ、僕と弟を守ってくれる? 子供はそう言うと、歳三の下腹―子宮の辺りを指した。「必ずお前達を守ってやる、約束だ。」 歳三は子供と指切りをした後、夢から覚めた。「歳三、大丈夫か?」「千景・・ここは?」「病院だ。お前は切迫流産しそうになったんだ。」「切迫流産、じゃぁ・・」「6週目に入っているそうだ。暫く安静にしていろ。七夕祭りの準備は俺がする。」「済まねぇな。」「お前はお腹の子達の事だけ考えろ。」「お腹の子達?」「双子だから、悪阻や貧血が酷くなる妊婦も居るそうだ。」「そうか・・」歳三はそう言うと、あの夢の意味はこういう事だったのかと悟った。千景は切迫流産で入院した歳三に代わって保護者会に出席する事になった。「あら、勇太君パパ。珍しいですね、あなたが保護者会に来られるなんて。」「妻が入院中なので、暫くわたしが七夕祭りの経理を務めさせて頂きます。」「まぁ、そうなのですか。これから、お願いしますね。」 そう言って千景に愛想笑いを浮かべた朋代は、すぐさま常子の元へと走っていった。「どうしたの、朋代さん?」「常子さん、大変よ!土方さんが入院したんですって!」「入院?それは確かなの!?」「えぇ。」「もしかしたら、妊娠したのかしら!?」「さぁね。」「皆さん、ここはわたしに任せて仕事して下さいね。」 常子はそう言って朋代達に微笑むと、七夕祭りの実行委員のメンバーに話しかけている千景に声を掛けた。「風間さん、またお会いしましたね。」「貴殿は、近藤殿の細君か?」「まぁ、憶えてくださったのですね、嬉しいわ。」 常子はそう言うと、千景に微笑んだ。「この後、少しお話ししません?」 保護者会の後、常子は風間と共にマンションの近くにあるカフェへと向かった。「俺に話したい事とは何だ?」「あなたの奥さん、うちの主人と不倫していますよ。だから・・」「それがどうした?歳三が今その身に宿している子が貴様の主人の子だとでも?下らん。」「下らないですって!?あなたは、怒りを感じないの!?」「俺は妻の昔の男に悋気を起こすような男ではない。」 呆然とする常子に背を向け、千景はカフェから出て行った。「そう・・あなたがそのつもりなら、わたしにも考えがあるわ。」にほんブログ村
Sep 19, 2020
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。土方さんが両性具有設定です、苦手な方は閲覧なさらないでください。 三年前、歳三が西口家から出て行った後、暫くは信也が二人の姪達の世話をしていたが、彼はやがて結婚して家から出て行ってしまった。「香苗さんはどうしているんだ?」「あの人、再婚して今はアメリカに住んでいるの。一度彼女にあの子達の事で話し合ってみたんだけれど、引き取りたくないって。」「は?」「“あの子達を見ると、あいつの事を思い出すから嫌なの。”彼女、もうあの子達とは縁を切りたいみたいで・・」「じゃぁ、二人は実母から捨てられたのか・・お義母さんはどうしたんだ?」「“二人の世話をしたいのは山々なんだけれど、こっちも色々と大変なのよ”とおっしゃって・・」「それで、困り果てて俺の所に来たと。悪ぃが、俺にとっちゃ二人は完全に赤の他人だ。どうしてもあいつらが可哀想だと思うなら、あんたが引き取るか、施設に入れるかどちらかを選ぶべきじゃねぇのか?」「それは、そうですけれど・・」「あんたは、二人を引き取るつもりはねぇんだろ?10代のガキ二人を、路頭に迷わせる程俺は冷酷じゃねぇ。」「じゃぁ・・」「他に頼れる親戚は居ねぇのか?」「確か、博多の方に・・」「それじゃぁ、その親戚と連絡が取れるまでの間、俺が二人を預かる。」「ありがとうございます。」「言っておくが、俺は俺のやり方であいつらに接するから、そのつもりでいてくれ。」 こうして、華と梓は遠縁の親族から連絡が来るまで、歳三の元で世話になる事になった。 「お世話になります。」「言っておくが、お前達は俺にとっちゃ赤の他人だ。少しでも俺達に舐めた態度を取ったら問答無用で叩き出すからな。」「はい、わかりました。」「そうか。じゃぁ明日から朝5時に起きて俺と朝食の支度をしろ。」「えっ」「家事は出来る人がやればいいとか、甘えた考えは捨てろ。最低限てめぇの世話が出来る位になれ、他人を頼るな。」「はい・・」 夕食後、二人は溜息を吐きながら用意された部屋に入った。「これから、どうなるのかなぁ?」「さぁね。でも、あたし達はお客様じゃないんだから、大人しくしないとね。」「わかった。」 二人がそんな事を話している頃、夫婦の寝室では歳三に千景が七夕祭りの事を話した。「母親同士の付き合いというものは、大変だな。」「あぁ。しかもママ友の大半が中学時代の同窓生。面倒臭いったらありゃしねぇ。」「お前が中学生の頃を見てみたかったな。」「そんなもん、見てどうするんだよ?あの頃の俺は、今みてぇにお淑やかじゃなかったな。」「ほう・・」「ま、寝物語ついでに話してやるよ。」 歳三はそう言うと、千景に中学時代の話をした。 彼が在籍していた聖林学院は、幼稚園から大学までのエスカレーター式の、所謂お嬢様学校だった。 戦前から華族女学校として名を馳せた学校だけあってか、そこに通う生徒達の大半は皆資産家令嬢や旧華族令嬢だった。 その中で老舗料亭の娘である歳三は、いじめの恰好の的となった。 女同士のいじめというものは、実に陰湿かつ狡猾なものだった。 最初は無視から始まり、事実無根の噂を流されたりした。 だが、そんな事でやられっ放しになっている歳三ではなかった。 彼はいじめの加害者達にされた事を倍以上にやり返した。 いつしか、歳三は学院内で“鬼番長”と呼ばれるようになった。 結局、歳三は学院側から強制退学させられ、彼は共学の高校へと入学した。 そこで、近藤勇と出会った。「そうか。」「おい、明日は早いからやめろ・・」「基礎体温はちゃんとつけているのか?」「ま、まぁな・・」「では、今日が排卵日なのか?」「馬鹿・・」「それは、“イエス”という意味だな?」「あ、あぁ・・」そう言った歳三は、頬を赤く染めて、千景にその身を委ねた。「短い間でしたが、お世話になりました。」「おう、達者でな。」 二週間後、華と梓は博多へと旅立っていった。「はぁ、これでやっと休めるな。」「そうか。それよりも歳三、昨夜は徹夜していたな?」「何で、そんな事・・」「顔色が悪いぞ、余り無理をするな。」「あぁ、わかった・・」 空港からの帰り道、歳三と風間は『石田屋』に寄った。「あらぁ、いらっしゃい!」「済まねぇな、急に来ちまって。個室、空いているか?」「気を遣わなくてもいいのよ。今日は個室はあるけれど、一室だけだから、もしかして愛席になるけれど、いい?」「構わねぇよ。」 姉の信子とそんな話を玄関先でした後、歳三と千景は奥の個室へと向かった。 その日は、近くにある小学校で何か集まりが会ったのか、座敷席には何組か小学校低学年位の子供と母親達が居た。 母親達は自分達のおしゃべりに夢中で、子供達が騒いでいても注意しない。 周囲の客達が迷惑そうな顔をその親子連れに向けていた時、信子が軽く咳払いをしながら彼らの元へと向かった。「すいませんがお客様、これ以上騒いでいるのなら、他のお客様のご迷惑になるので出て行って貰えませんか?」「はぁ、店員の癖にあたし達に向かって何なのその態度!?お客様は神様じゃないの!?」「えぇ、良く言いますけどね、でもあなた方は神でも何でもない、只の迷惑な人達です!うちは客商売ですが、あなた方みたいな人達にまで媚を売る程、落ちぶれちゃいませんよ!」 信子の啖呵を聞いた周囲の客達は、一斉に拍手した。にほんブログ村
Sep 19, 2020
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。土方さんが両性具有設定です、苦手な方は閲覧なさらないでください。第二部「あっ、勝っちゃん、もう・・」「トシ、トシ!」 勇はそう叫ぶと、歳三の乳房を鷲掴みにした後、何度目かの絶頂を迎えた。「いきなり来て、何盛ってんだよ?」「お前に聞きたい事があって来たんだ。」 勇はそう言いながら、ウェットティッシュで歳三の陰部の汚れを拭った。「勇太の事か?」「プレイルームであの子を見た時、すぐにわかった。勇太は・・あの子は、俺の子だ。」「今更それを知ってどうするんだ?」「責任を取りたいんだ、父親として。」「馬鹿な事言うな。あんたには家族がいる。俺には夫が居る。あんたは俺達の存在を無視してくれて構わない。」「そんな事、出来る訳がない、俺は・・」「常子さんは、俺達の関係を知っている。それに、彼女とはママ友になるから、厄介事は起こしたくねぇんだ。」 歳三はそう言うと、着ているワンピースの皺を直した。「もう、ここには来ないでくれ。」「・・連絡する。」 勇が去った後、歳三は溜息を吐きながらコーヒーを淹れた。 あの様子だと、勇は勇太の事を諦めないだろう。 一体、どうすれば―そう思いながら歳三が溜息を吐いてコーヒーを飲んでいると、インターフォンのチャイムが鳴った。「突然お邪魔しちゃって、ごめんなさいね~」「いえ、別に忙しくないので・・何か飲み物でも・・」「あらぁ、ありがとう。頂くわ。」 そう言って歳三に愛想笑いを浮かべているのは、中学時代の同級生で、ママ友の一人である山崎朋代だった。「何か、ご用ですか?」「七夕祭りの事、ご存知よねぇ?」「ええ。」「それがねぇ、祭りの実行委員会が今夜六時に26階で開かれるの。必ず出席して下さいね。」「わかりました。」 歳三は朋代が部屋から出て行った後、スマートフォンに着信が一件来ている事に気づいた。(誰だ?) 急いで彼がスマートフォンを確認すると、その画面には懐かしい男の名前が表示されていた。「トシさん、久しぶり!」「八郎、どうしてここに?」「英国から昨日帰国したんだ。トシさん、暫く会わない内に変わったね。」「そうか?」 都内某所にあるホテルのカフェで歳三は遅めのランチを取りながら、高校時代の同級生である伊庭八郎ととりとめのない話をしていた。「八郎、お前今何してんだ?」「今、僕は大手食品会社に勤めてるよ。」「へぇ、凄ぇな。」「あ、今度うちの顧客を招いたパーティーがあるんだ。これ、招待状。」「ありがとう。今日は久しぶりに会えて嬉しかったよ。」「またね。」 カフェの前で別れる八郎と歳三の姿を、常子が見ていた。「あらぁ、来て下さったのねぇ。」 六時五分前に歳三が26階にある会議室に入ると、そこには朋代の他に、六人のママ友の姿があった。「土方君、また会ったねぇ。」そう言って歳三に抱き着いて来たのは、山本有紗だった。「あのね~、さっき榊さんと話していたんだけれど、土方君には会計やって貰おうと思って。」「会計、ですか?」「あたし、お金の計算できなくてぇ。土方君、昔同じ会社で経理やってたからぁ、安心できるなぁって。」「わかりました。」「やったぁ、助かる~!」 有紗がそう言って嬉しそうに飛び跳ねているのを、歳三は何処か冷めた目で見ていた。「お祭りのメニュー、どうしようかしら?」「普通に焼きそばとかでいいんじゃないんですか?」「食物アレルギーの子にも楽しんで貰いたいのよねぇ。」「じゃぁ、ブッフェとかはどうですか?良いケータリング業者、わたし知っていますよ。」「それじゃぁ、常子さんにお願いしようかな。」 会議は三十分位で終わった。「土方さん、お久しぶりです。少し、お話ししませんか?」 そう言った山田文華の目は、何処か冷たかった。「あんたとまた会う事になるとはな。それで、話って何だ?」「華ちゃんと梓ちゃん、そちらで引き取れませんか?」「断る。あいつらとは赤の他人だ。あんたが引き取ればいいだろ?」「実は・・」 文華は、静かに西口家の現状を歳三に話し始めた。にほんブログ村
Sep 12, 2020
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。土方さんが両性具有設定です、苦手な方は閲覧なさらないでください。「うわぁ~、凄い所ね!」「そうだろう。いやぁ、俺もこんな所に住めるなんて思わなかった。」 勇は三年振りに単身赴任を終えて妻子と共に新居であるタワーマンションの住民説明会に来ていた。 受付には、既に何組かの家族連れや夫婦が集まっていた。「あら、信ちゃんママ。」「たまこちゃんママ、お久しぶりです・」「ねぇ、このマンションの50階を購入した人、あの風間コンツェルンのCEOですって。」「えぇ、それ本当なの!」「セレブと一緒に住む事になるなんて、信じられないわ。」「そうね・・」 常子がママ友の文華とそんな話をしていると、マンションのコンシェルジェ達が何やら慌てた様子で、ロビーへと走っていった。「何かしら?」「さぁ・・」 暫く二人が様子を見ていると、一台の黒塗りのリムジンがマンションの前に停まり、その中から一組の家族が出て来た。 全身オーダーメイドの高級スーツ姿の男は、風間千景だとすぐにわかった。 そして、彼の隣に居るのは―「トシ・・」「土方さん・・」 幼児を抱いていた歳三は、自分を姿を見て唖然としている勇と文華を無視すると、住民説明会の受付に立った。「50階に住む風間です。」「風間様、この度はご購入して下さりありがとうございます。どうぞ、あちらへ・・」「ありがとう。」 住民説明会が終わった後、歳三は勇太を7階のプレイルームで遊ばせていた。「トシ・・」 頭上から声がして歳三が振り向くと、そこにはもう二度と会わないと決めた人が立っていた。「あの子は、もしかして・・」「勇太は、俺が産んだ子だ。」「お願いだトシ、話を・・」「俺はあんたと話す事なんてねぇ。」 歳三はそう言うと、勇太の自分の元へと呼び寄せた。「母様、その人誰ですか?」 勇太の琥珀色の瞳に見つめられた勇は、堪らず彼を抱き締めた。「やめろ、息子から離れろ!」「母様、助けて~!」 歳三は慌てて勇から勇太を引き剥がすと、そのままプレイルームを後にした。「母様・・」「大丈夫だ、母様がお前を守ってやるから。」 勇太を寝かしつけた後、歳三は溜息を吐いて彼を起こさぬように子供部屋のドアを閉めた。「漸く寝たか。」「あぁ。」「歳三、こちらへ来い。」 千景はそう言うと、ベッドカバーを捲って自分の隣の空いたスペースをポンポンと叩いた。 彼に言わるがまま歳三が千景の隣に寝ると、千景は寝間着の合わせ目から手を入れ、歳三の乳房を触って来た。「やめろ、今はそんな気分じゃ・・」「ここは濡れているが?」 執拗に陰部を弄られ、歳三は必死に声を抑えていたが、堪らず白い喉を仰け反らせて喘いだ。「そろそろ頃合いだな。」 千景はそう言うと、己の猛ったものを歳三の中に奥まで穿った。「済まない、乱暴にしたな。」「初めて俺を抱いた時、あんたは下手糞だったのに、こんなに上達するなんてな・・」 歳三はそう言いながら、枕に顔を埋めた。「おい、もう終わったつもりでいるのか?」 千景はそう言うと、歳三に覆い被さった。「てめぇ、何しやがる!?」「朝まで寝かせぬから、覚悟しておくのだな。」 翌朝、歳三は痛む腰を擦りながら夫婦の寝室から出てリビングに行くと、そこには出来立ての朝食と一枚のメモがキッチンテーブルに置かれてあった。『昨夜は無理をさせて済まなかった。勇太は俺が幼稚園へ送るから、ゆっくり休め。』(気障な奴め・・) 料理のプレートの上には、味噌汁とご飯、そして歳三の好物である沢庵が盛られた小皿が載せられていた。「あら~、風間様がこちらにいらっしゃるなんてお珍しい!」 勇太を幼稚園へ送った後、千景は突然見知らぬ母親達から声を掛けられた。「どちら様ですか?」「初めまして、わたし、土方君の中学時代の同級生の、山本有紗です。」「わたしは、山田文華と申します。」「近藤常子です。あの、よろしかったら、一緒にお茶でも・・」「申し訳ありませんが、急いでいるので。」 風間はそう言って彼女達に背を向けると、そのまま幼稚園を後にした。「何あれ、感じ悪い~。」「初対面だから、仕方ないでしょう。ねぇ常子さん、わたし達に話したい事って何?」「それはカフェに行ってからにしましょう。」 常子はそう言うと、新しくオープンしたばかりのカフェへと有紗を連れて行った。「わぁ、お洒落な店内ですね!」「でしょう?このカフェ、実は主人が手がけたものなの。」「え~、確か常子さんのご主人って、大手の食品会社にお勤めなんですよねぇ?」「そうよ。ねぇ有紗さん、あなたあの人・・土方さんとは中学時代の友人だったのでしょう?」「う~ん、友人というかぁ、ちょっと複雑なんですよねぇ。」「有紗さん、確かあなたは聖林学院出身よねぇ?土方さんと同じクラスだったの?」「えぇ。三年間同じクラスでした。ほら、あそこって元華族女学校だったから、周りには名家のお嬢様しか居なかったんです。その中で、土方君は老舗料亭の娘で、周りからは良く、“飯屋の娘”とか呼ばれて陰口を叩かれていましたね。それに、“逆賊の子孫”とか呼ばれていました。」「“逆賊の子孫”?もしかして、土方さんのご先祖様は、旧幕府側の人間かしら?」「そうかもしれませんね。常子さん、どうしてそんな事を聞くんですか?」「・・知りたいのよ、あの人の事を。あの人がどんな過去を背負っているのか、興味があるの。」 そう言った常子は、邪悪な笑みを口元に閃かせた。 一方、歳三が自宅のリビングで寛いでいると、インターフォンが鳴った。「どちら様ですか?」『・・俺だ、トシ。少し話したい事がある、開けてくれないか?』「わかった。」 歳三がそう言ってドアロックを解除すると、勇は玄関先で靴を脱いだ後、歳三をソファに押し倒し、彼の唇を強引に塞いだ。「勝っちゃん、何する・・」「済まんトシ、我慢出来ない!」―第一部・完―にほんブログ村
Sep 12, 2020
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。土方さんが両性具有設定です、苦手な方は閲覧なさらないでください。歳三は風間と共に招待客達へ挨拶回りをしていた。「そのネックレス、とても素敵だわ。」「まぁ、ありがとう。」「土方様、今度わたくし達とランチに行きません?新しくオープンしたカフェのオーナーとお知り合いで・・」「考えておきますわ。」「ワインをどうぞ。」そう言って給仕人が歳三にワインを差し出した。―紛い物だろうが何だろうが、貫きゃ真実になる筈だ! そう叫んで、真紅の液体を飲み干した。 たちまち艶やかな黒髪は白銀へと変わり、菫色の瞳は血のような真紅のそれへと変わっていった。―絶対に見捨てきゃいけねぇ相手を見捨てて、てめぇだけ生き残って! 茜空に染まる丘の上で、敵の返り血を全身に浴びた己の姿。「歳三、どうした?」「いや、何でもない・・」「母乳を赤子にやるのだから、酒は飲むな。」「わかった・・」 耳の奥で、何かがゴウゴウと唸りを上げて迫って来る感覚に襲われ、歳三は意識を失った。―トシ、そろそろ楽にさせてくれ。 流山で、最期にあの人が自分に言った言葉。 悲しんでいるというよりも、何処か辛そうでそれでいて安堵していそうな顔。 そんな顔、させたくなかったのに。 ずっと、あんたの為に俺は・・「気がついたか?」「ここは・・」「寝室だ。」 千景はそう言うと、苦しそうに喘いでいる歳三の額に水で濡らしたタオルを置いた。「パーティーの最中に、突然倒れたのだ。その様子だと、“昔”を思い出したのか?」「何で、それが・・」「わかったのかと?愚問だな。」 千景は歳三を真紅の瞳で見つめながらそう言った後、恭しい仕草で彼の左手薬指にダイヤモンドの指輪をはめた。「俺も、お前と同じだ。」「さっき、俺が“見た”のは・・」「貴様の前世・・新選組副長・土方歳三、そして己の生きた道を貫いた“薄桜鬼”としての記憶だ。」「だから、俺は・・」「これからは、俺がお前を幸せにしてやる。」 千景はそう言うと、歳三の宝石のような美しい菫色の瞳から流れる涙を、そっと拭った。「今は休め・」「あぁ・・」 急に眠気が襲って来て、歳三はゆっくりと目を閉じた。 懐かしくも悲しい夢は、何故か見なかった。 子供の成長は早い。 あれ程自分を求めて泣き叫び、自分が離れると泣いていた勇太は、三歳の誕生日を迎えた。「母様~!」「勇太、どうした?」 風間と結婚して、久しぶりに実家に帰った歳三は、庭でボール遊びをしている勇太に気づいて、そう彼に声を掛けると、彼は歳三に開口一番、こう言った。「勇太、赤ちゃんが欲しい!」「・・は?」 歳三は、息子の爆弾発言に目を丸くした。「そうか、勇太がそんな事を・・」「何でも、友達ん家に赤ん坊が産まれたから、自分も“お兄ちゃん”になりたいんだと。」「そうか。」 千景はそう言うと、飲んでいたコーヒーを半分残してそれが入ったマグカップをキッチンテーブルに置いた。「二人目は、考えていないのか?」「勇太を産んだ時、大変だったんだぞ?5日間も陣痛に苦しんで、不眠不休であいつを育てて・・もう俺はあんなの体験したくねぇ。」「子供が手のかからない年になるまで、二人目は考えたくないと?」「あぁ、そうだ。」「実は、継母から二人目を催促されてな。今日、こんな物を渡された。」 千景がそう言って歳三に見せたのは、不妊治療専門クリニックのパンフレット合った。「一度、ここに行ってみないか?」「わかった・・」 千景と歳三が向かったのは、セレブ御用達の不妊専門クリニックだった。「先生、どうなのでしょう?」「お二人共、問題はありませんよ。ただ、奥様が過去に堕胎手術を受けられたので、もし妊娠されたとしても、出産は帝王切開でされるのが望ましいでしょう。」「わかりました・・」 クリニックから出た二人は、暫く帰宅する車の中で黙り込んでいた。 最初に口火を切ったのは、歳三だった。「どうして、俺はこんなに・・」「それ以上言うな、自分を惨めにするな。」「出来れば、俺は勇太に弟妹を抱かせてやりてぇ。10人兄姉の末っ子として可愛がられてきたから、兄姉の良さをあいつにも知って貰いてぇんだ。」「そうか。お前がそういうつもりなら、俺も力になろう。この問題は、夫婦二人のものだからな。」「ありがとう。」「それよりも、引っ越しの事だが・・新居が決まったぞ。」「へぇ、何処だ?」「ここだ。」 千景がそう言って歳三に見せたタブレット画面に表示されているのは、一週間前に完成したばかりのタワーマンションだった。「いい所だな。で、何階に住むんだ?」「最上階だ。」 数日後、二人は都内某所にあるタワーマンションの住民説明会に出席した。にほんブログ村
Sep 12, 2020
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。土方さんが両性具有設定です、苦手な方は閲覧なさらないでください。「まさかあの風間様がご結婚されるなんて、喜ばしい事ですわね。」「お相手は、どんな方なのかしら?」「さぁ・・」「何でも、老舗料亭の娘さんみたいですって。」「料亭ですって?議員の先生や旧華族のお嬢様ならともかく、飯屋の娘なんて・・」「あらあなた、『石田屋』をご存知ないの?あそこは昨年、フランスで三ツ星を獲得された事がある名店なのよ。」「それに、土方様のお祖父様は元警察庁長官でいらっしゃったのよ。」「まぁ・・」「土方?今土方とおっしゃったわよね?」 パーティー会場で上流階級に属する女性達が主役の登場を待ちながらそんな話をしていると、そこへ一人の女性がやって来た。 彼女は、キッズカフェの授乳室で歳三に声を掛けて来た女性だった。「あら、あなた見ない顔ね?」「はじめまして、わたくしこういう者です。」 女性はそう言うと、彼女達に自分の名刺を手渡した。「“ネイルサロン・ジュリー 社長 山本有紗”?まぁ、あなたあの“ARISA”なの!?」「まぁ、こんな所に有名人がいらっしゃるなんて嘘みたい!」「後でサイン頂けないかしら?」「えぇ、勿論ですわ。」(注目されるって、やっぱり気持ちが良い!) 一方、歳三は風間家専属のヘアメイクアーティスト達によって朝からエステの全身コースや脱毛などを施され、苛々していた。「なぁ、俺はもうクタクタなんだよ!たかがパーティーにこんな大掛かりな準備なんざしなくてもいいだろうが!」「まぁ歳三様、そんな心構えではこの先社交界を生きていけませんわ。」 歳三の言葉を聞いてそう言った後柳眉を吊り上げたのは、かの国民的アニメに登場する家庭教師を連想させるかのような風間家の執事長・大江敏子だった。「はぁ!?」「社交界は常に嫉妬と欺瞞に満ちた世界ですわ。女達はそこで常に笑顔で殴り合いをし、策を巡らし、足を引っ張り合うのです。あなた様は風間様の婚約者。彼女達にとってあなた様は新しい生贄の子羊なのです。」「良くわからねぇが、はじめが肝心だって事だな?」「えぇ。」「何を女同士でコソコソと話している?」「風間様・・」「大江、下がれ。」「失礼致します。」 大江が部屋から出た後、彼女と入れ違いに千景が入って来た。「何の用だ?」「別に。これから俺達は夫婦になるのだから、互いに遠慮など要らぬだろう。」「それもそうだけど・・」「今夜は俺達が夫婦として社交界にお披露目される日だ。その記念として、お前にこれを贈ってやろう。」 千景はそう言うと、大人の握り拳大位の大きさがあるエメラルドの首飾りを歳三の白い首につけた。「良く似合っている。」「こんな高ぇ物、要らねぇ。」「お前は、俺の妻となるのだ。俺の妻になるのだから、これ位の宝石が似合ってもらわねば困る。」「風間・・」「歳三、俺にあってお前にないものは何だ?」「さぁな。」「力だ。他者を圧倒させ、ねじ伏せ、君臨する程の力。それさえあれば、誰にも負けぬ。」 千景はそう言うと、歳三のうなじに軽く口づけた。「歳三、今夜お前は生まれ変わるのだ。」「生まれ変わる・・」「そうだ。今までお前は、力ある者に虐げられて来た。だが今夜、お前は俺と共に力ある者となる。力を欲しろ、歳三。」「力が欲しい・・」「そうだ。」 歳三は、鏡に映る己の顔を見た。 その顔は、三年前に西口家の半分割れた鏡で見た時のそれとは違い、自信に満ち溢れたものだった。「さぁ行くぞ、準備は良いか?」「あぁ。」「待て、戦化粧を施してやる。」 千景はそう言うと、ドレッサーの上に置かれている口紅を手に取り、それを優しく歳三の唇に塗った。「行こうか?」 歳三は自分に差し出された千景の手を、しっかりと握った。「恐れるな、堂々と前を向け。」 今まで俺は、強い者から虐げられ、自由を奪われて、半ば死んだように生きてきた。 だが、これからは力を持って強くなる。 勇太を守る為に、俺は強くなる―「いらっしゃったわ!」「あれが、風間様の・・」「とても素敵な方ね・・」(嘘、あれがあの土方君・・) 有紗は自分の前に現れた歳三の変わりように驚いた。 真紅のワンピースを纏い、美しいエメラルドの首飾りをつけた歳三は、全身から強いオーラに満ち溢れていた。にほんブログ村
Sep 12, 2020
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。土方さんが両性具有設定です、苦手な方は閲覧なさらないでください。「・・その様子だと、初対面という訳ではなさそうだな?」「芹沢さん、こいつと知り合いなのか?」「こいつとは、こいつが襁褓(むつき)を穿いていた頃から知っておる。」「今日から何しにここへ来たんだ?」「そう尖るな。出産祝いを渡しに来ただけだ。」「ありがとう・・」「息子は元気か?」「あぁ、良く乳を飲んでクソして寝てるよ。一日中俺はあいつの世話でクタクタだけどな。」「土方、俺がこいつを連れて来たのは、お前にある提案をしに来たのだ。」「ある提案、だと?」「そうだ。お前は、こいつ―風間千景と契約結婚しろ。」「ハァッ!?」 思わぬ芹沢の言葉に、歳三はそう叫ぶと芹沢と風間を見た。「何、何で・・」「こいつは親から勧められた縁談を断っているのだが、ならば相手を連れて来いと言われたらしいのだ。こいつの親は、名のある茶道の家元だ。その縁談相手はこの辺りの有力者の娘だ。」「で、何で俺がこいつの相手をしないといけないんだ?」「そこら辺に居る娘は、こいつの相手は務まらん。だが、お前の家は老舗料亭で、お前の祖父が元国会議員だったからだ。人間は肩書きに弱い。」「言っとくが、俺は・・」「勘違いするな、土方。これは決定事項だ。貴様に拒否権はない。」「何だと・・」「また来る。その時には覚悟を決めておくのだな。」 芹沢は一方的に歳三に向かってそう言うと、風間と共に部屋から出て行った。「トシさん、どうしたんだ?」「なぁ源さん、俺はどうすればいいんだ?」「焦らずに自分で答えを出せばいい。」「そうか・・」「もうすぐ勇ちゃんのお宮参りだね。」「そんな時期になるのか・・早ぇな。」「トシさん、母乳の出はどうだい?」「出過ぎて病気なんじゃないかって思うんだが・・」「トシ、話があるんだけど、いい?」「あぁ。」「芹沢様から、例の話は聞いたわね?」「俺は、この話を受けようと思う。」「本気なの?」「勇太には父親が必要だ。」「トシ・・」「大丈夫、これで大丈夫だ。」(こいつには、勇太には幸せになって欲しいな・・)そう思いながら、歳三は勇太を寝かしつけた。「トシ、良く似合っているわよ。」「ありがとう。これ、アンティーク着物だろ?何処から持って来たんだ?」「これは、曽祖母ちゃんから譲り受けたものよ。何でも、ここが料亭を始める前には診療所だったそうよ。」「診療所?」「えぇ。何でも維新後にはここに旧幕府軍のお侍さんが刀を捨てて包丁を代わりに握ってからだって。」「へぇ・・」「ここの屋号は、そのお侍さんの故郷の村にちなんで名付けたそうよ。」「初めて聞くな、それ。」「ま、あたしも昨日蔵に入った時に曽祖母ちゃんの形見の品を探していた時にね、色々と見つけたのよ。」信子がそう言って歳三に見せたのは、白梅の模様が施された、紅い櫛だった。「これも、曽祖母さんの?」「いいえ、違うわよ。」 その紅い櫛に、歳三は何処か懐かしさを感じた。 ―トシ、寝癖を直してやろう。―いいって。―トシの髪は綺麗だなぁ 朧気でありながらも、懐かしさと愛しさに溢れた記憶が、洪水のように歳三の脳裏に押し寄せてきた。「トシ、大丈夫?」「あ、あぁ・・」「さ、行きましょうか。」 歳三は、家族総出でお宮参りをした。「それにしても、勇ちゃんは何だか不思議な瞳をしているわね。」「えぇ、本当に。顔は歳三さんにそっくりなのにね。」「隔世遺伝ってやつですよ。」「ねぇ、勇ちゃんを何処の幼稚園に入れるのかは決まったよ。」「いいえ。それに、保育園もまだ・・」「駄目よ、早く決めないと幼稚園に入れなくなるわよ!」「もう、皆そんなにトシを脅さないでよ。それに、勇太はわたし達が面倒を見るから、心配要らないわよ。」「そうねぇ。それよりも歳三さん、これからどうするの?」「どうするって・・」「もうあの家とは完全に縁が切れたんでしょう?自分の幸せを・・」「実は、芹沢さんから風間家の縁談が持ち込まれましてねぇ・・」「まぁ、それはめでたい事ねぇ。」 勇太が生後半年を迎えた頃、歳三と風間は結納を交わした。 その日の夜、二人の結納を祝うパーティーが風間邸で開かれた。にほんブログ村
Sep 8, 2020
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。土方さんが両性具有設定です、苦手な方は閲覧なさらないでください。 歳三は電車が病院の最寄駅に着くなり、むずがりそうになっている勇太を抱えて、駅の多目的トイレへと駆け込んだ。 便座の上に腰を下ろし、ネクタイを外してワイシャツの胸元を寛がせた歳三は、勇太に母乳を与えた。 彼を出産してから、何だか自分の身体が変わってしまっている事に歳三は気づいた。 授乳を終えた彼は、マザーズバッグからワイシャツを取り出した。 ワイシャツを着る前に晒しをきつく胸に巻き、勇太を抱いて多目的トイレから出た。(この出口から左へ曲がればいいんだな・・) そんな事を思いながら歳三がスマートフォンで病院までの道を確めていると、彼は誰かとぶつかりそうになった。「済まない、怪我は無かったか?」「あぁ・・こっちこそ、よそ見してて・・」そう言って自分にぶつかってきた赤髪の男の顔を見た歳三は、彼が学生時代の友人・原田左之助である事に気づいた。「左之、久しぶりだな?」「土方さん、その子は?」「あぁ・・こいつは・・」 原田にどう勇太の事を説明しようかと歳三が考えていると、原田は気を利かせて歳三にこう言った。「こんな所で立ち話も何だから、後で落ち着いた所で話そうぜ。」「あ、あぁ・・」 気まずい空気の後原田と互いの連絡先を交換した歳三は、そのまま病院へと向かった。 病院のロビーは、朝早い時間帯だというのに沢山の人で溢れていた。「すいません、乳児健診に来たのですが・・」「小児科は4階になります。」「ありがとうございます。」 受付で小児科の場所を聞いた歳三がエレベーターに乗って4階に向かうと、扉が開いた瞬間、乳幼児特有の甲高い泣き声と、母親達の怒鳴り声が歳三の耳朶に突き刺さった。 何とか長椅子の空いているスペースに腰を下ろすと、見慣れないスーツ姿の彼に、母親達はヒソヒソと何かを囁き合っていた。(面倒臭ぇな・・) そんな事を思いながら歳三が健診の順番を待っていると、そこへ先程駅で別れた原田と赤ん坊を抱いた女性がやって来た。「土方さん、また会ったな。」「原田、何で・・」「左之助さん、こちらの方はお知り合いなのですか?」 赤ん坊を抱いた女性はそう言うと、円らな黒い瞳で歳三を見た。「土方さん、紹介するぜ。こいつは俺の嫁さんの紗奈と、息子の茂だ。」「嫁って、お前結婚していたのか?」「まぁな。それよりも土方さん、健診の後ランチでもどうだ?」「わかった。」 歳三は急激に喉が渇いて来るのを感じた。 歳三が乳児健診の後に原田達に連れられて入ったのは、キッズカフェだった。 店内には子供が遊べるスペースがあり、授乳室もあった。「駅で会った時、この子事俺が尋ねた時に、土方さん明らかに態度がおかしかったよな?何か事情があるんだろう?」「左之、実は・・」 歳三が勇太の事を原田に話そうとした時、勇太が突然火をついたかのように泣き出した。 勇太のおむつが濡れているのかと歳三が彼の尻を触ったが、そこは濡れていなかった。「済まねぇ、あの・・」「話は後にしよう。」 歳三が授乳室に入ると、中に居た数人の母親達が彼に訝しげな視線を送って来た。 居たたまれない思いで歳三が勇太の授乳を終えると、一人の母親が突然彼に向かって話しかけて来た。「ねぇ、もしかして土方君よね?」「どちら様ですか?」「やだぁ、あたしの事忘れちゃった?中学の時、クラスが一緒だった・・」 彼女の言葉を聞いた歳三の脳裏に、過去の忌まわしい記憶が甦った。「この子、もしかして土方君の子?やだぁ、可愛い。」「息子に触るな!」 歳三は勇太に触れようとする女の手を邪険に振り払うと、そのまま授乳室から出て行った。「どうしたんだ土方さん、顔色悪いぜ?」「ちょっと嫌な奴に会っちまった。」「そうか。」「左之、この子は・・勇太は俺が産んだ子なんだ。」「父親は?」「死んだ。」「あんた、嘘吐く時はいつも目を合わそうとせずに頭を掻く癖があるよな?」「ったく、お前ぇはいつも鋭いな・・」歳三はそう言って苦笑した。「それで、この子の父親は誰だ?」「・・お前も知っている人だよ。」「近藤さんには、この事は・・」「知らせてねぇ。俺はあの人の家庭を壊すつもりはねぇ。」「一度、近藤さんと話し合ったらどうだ?今は違うとしても、昔は愛し合っていた仲だろう?」「俺の家族は、勇太だけだ。」「何か困った事があったら、連絡してくれ。」「あぁ、わかった。」 原田達とキッズカフェの前で別れ、歳三が帰宅すると、奥から仲居の鈴木理沙が何やら慌てた様子でやって来た。「歳三様、良い所に帰って来ました。」「どうした、何かあったのか?」「芹沢様が歳三様にお会いしたいと・・」「芹沢さんが?」「はい。」「わかった。」 スーツから着物に着替えた歳三が芹沢の待つ部屋に入ると、そこには高校の同窓会の夜にワンナイト・ラブを過ごした金髪紅眼の男が芹沢の隣に座っていた。にほんブログ村
Sep 8, 2020
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。土方さんが両性具有設定です、苦手な方は閲覧なさらないでください。「痛ぇ~!」「トシ、大丈夫?」「大丈夫な訳ねぇだろ、早く先生呼んで俺の腹を切ってくれるように頼んでくれ!」「そんな事言わないで!」 痛い。 全身の骨が粉々に砕け散るような痛みだ。 歳三が痛みの余り叫んでいると、信子が彼の背中を擦りながらこう言った。「あんた、自分一人だけが痛いと思っているの?お腹の赤ちゃんも頑張っているのよ。」「そうか・・」「土方さん、もうそろそろですね。」 歳三が、看護師が押す車椅子に乗って分娩室へと入ったのは、陣痛が始まってから5日目の事だった。「先生、土方さんが!」「土方さん、しっかりして下さい、土方さん!」 闇の中に、歳三は居た。(俺は、一体・・) 周りは、何処までも続きそうな漆黒の闇に包まれていた。―おい、誰か居ねぇのか! 歳三が闇の中でそう叫んだが、返事は返って来なかった。“トシ。” 遥か彼方から、また優しい“誰か”の声が聞こえた。 この声を、自分は良く知っている。“トシ、こっちだ。” 温かく優しい光に満ちた場所へと導かれるように、歳三は声が聞こえる場所に向かって歩いていった。「先生、土方さんの意識が戻りました!」「土方さん、もうすぐ赤ちゃんに会えますよ。」 息を荒く吐きながら、歳三は最後の力を振り絞った。 その直後、元気な産声が分娩室に響いた。「おめでとうございます、元気な男の子ですよ。」 看護師から血と羊水に塗れた赤ん坊を渡されると、歳三はその姿を見て涙を流した。 赤ん坊の瞳は、愛しい人と同じ琥珀色の瞳だった。 2011年5月11日―その日は奇しくも、“彼”の命日だった。 歳三は、産まれた赤ん坊に「勇太」と名付けた。(これからは、こいつと二人で生きていく。) 眠い。 眠くて仕方がない。 歳三が勇太を出産してから、一週間が経った。 あの地獄のような痛みは未だに続いており、ベッドからトイレに移動するまでの距離が長く感じた。 その上、約三時間おきの母乳育児におむつ替えに、沐浴。 これまで何度か歳三は甥っ子達の面倒を見ていたが、我が子となると勝手が違う。 勇太は良く泣く子で、歳三がトイレに行ったりして彼の元を少し離れただけでも泣いた。 歳三は赤ん坊が泣き止む方法をネットで調べて実践してみたが、全て無駄に終わった。「あんたどうしたの、酷い顔ね!?」「こいつが乳欲しがっているから、眠りたくても眠れねぇんだよ!」 そう姉に向かって怒鳴った歳三の両目の下には隈が出来ていた。「俺はもう、こいつが可愛く思えねぇんだ。あんなに苦しい思いをして産んだってのに・・」「慣れない育児で疲れてんのよ。この子はあたしが見とくからさ、ちょっと休みなさいよ。」「わかった・・」 勇太を信子に任せ、歳三は一週間振りに眠った。 そこからが、歳三にとって試練の日々だった。「トシさん、トシさんは居るかい!?」「どうした、源さん?」「勇ちゃんが、ちっとも泣き止まないんだよ。」「またかよ・・」 歳三は溜息を吐いて、源さんから勇太を受け取ると、彼をあやした。だがどんなにあやしても、勇太は一向に泣き止まない。「あ~もう、何で泣き止まねぇんだよ!」「トシさん・・」「何で人が忙しい時に限って泣くんだよ、もう嫌だ!」「トシさん、駄目だよ。赤ん坊は泣くのが仕事だからね。」「一体俺ぁどうしちまったんだ。今までこんな事、なかったのに。」「誰もが完璧な、昔話に出て来るような母親になれる訳じゃない。“子育ては親育て”と、昔から言われているじゃないか。」「そうだな・・」「余り思い詰めちゃ駄目だよ。」「わかった・・」 歳三は勇太を出産して初めて、電車で乳児健診へ向かう事になった。 朝の通勤・通学ラッシュの時間帯を避けたつもりだったのだが、車内はほぼ満席に近い状態だった。 スーツに抱っこ紐をつけた歳三の姿は、否が応にも乗客達の注目を集めた。 病院の最寄り駅まであと一駅という時、歳三は胸辺りが何かで濡れている感覚がした。(畜生、こんな時に!)にほんブログ村
Sep 5, 2020
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。土方さんが両性具有設定です、苦手な方は閲覧なさらないでください。 2011年4月25日。 その日、常子は長男・勇人を出産した。 大阪に単身赴任中の勇は、彼女が産気づいた事を知るとすぐに仕事を早く切り上げて新幹線の最終便に飛び乗って常子が入院する病院に駆けつけてくれた。 分娩室で、勇は常子の手を握り、陣痛に苦しむ彼女の腰を擦ってくれた。 元気な勇人の産声を聞いた時、勇は常子に労いの言葉を掛けた。「ありがとう、良く頑張ったな。」「ありがとう、あなた。」「君に似て、可愛い子だ。」「ふふ、そうかしら。」産まれたばかりの息子を抱きながら、常子は勝利の笑みを浮かべた。「あなた、ずっとわたし達と一緒に居てくれるわよね?」「あ、あぁ・・」そう言った夫の目が少し泳いでいたのを常子は見逃さなかった。「じゃぁ、また来る。」「えぇ。」 病院の前で勇と別れた常子が自分の病室へと戻る途中、丁度歳三が自販機で飲み物を買っている所だった。 彼の下腹は、大きく迫り出していた。「あら、お久しぶりね。」「どうも・・」 歳三の顔は、少し蒼褪めていた。「あなた、まだ産んでいないのね?」「えぇ。」「わたしは、さっき産んで来たわ。勇さんは、陣痛に苦しんでいる間、わたしの手を握ってくれたのよ。彼、ずっとわたし達と一緒に居てくれるって約束してくれたの。」「それを俺に話してどうする気です?」「うちの家族に・・いいえ、勇さんに二度と会わないで。言いたいのはそれだけよ。」 常子はそう言うと、歳三に背を向けて病室へと戻った。 常子と話した後、歳三は病室に戻り、ベッドへ行こうとしたが、その前に激しい吐き気に襲われてトイレの便器に顔を突っ込んで胃の中の物を全て吐いた。 安定期を過ぎても悪阻は治まるどころか、ますます酷くなっていった。 毎日吐いてばかりいる所為で、口内炎が出来てしまい、水以外の物を全く受け付けなくなってしまった。「トシ、あんたまた吐いたの?」」「あぁ。こんな状態で産めるのかねぇ?」「少し休んで。」「わかった、そうする。」 歳三はベッドに横になると、ゆっくりと目を閉じて眠った。 目を開けると、歳三は見知らぬ部屋の中に居た。(何処だ、ここ?) 歳三が辺りを見渡していると、そこは洋館の一室のようで、部屋にはベッドと机が置かれてあった。 ベッドから起き上がった彼は、鏡の前に立った。 するとそこには、黒を基調とした軍服姿の自分が映っていた。(ここは・・一体・・) 窓を開けて外を見ると、そこは一面雪景色だった。―トシ。 北風に乗って、愛しい人の声が優しく耳朶を震わせた。―お前は生きてくれ・・腹の子と共に。 そこで歳三は、不思議な夢から覚めた。(何だったんだ、ありゃ・・) 喉が渇いたので歳三がミネラルウォーターのペットボトルの蓋を開けようとした時、誰かが背後からそっと自分を抱き締める感覚があった。 それは夢の中で聞こえた、優しい誰かの温もりだった。 窓の外を見ると、丁度太陽が東の空に昇るところだった。 不思議な事に、あれ程歳三を苦しめてきた悪阻がまるで嘘のように治まった。「トシ、あんたもう大丈夫なの?」「あぁ。何だか不思議な夢を見たら、悪阻がなくなった。」「不思議な夢?」「今まで食べられなかった分、腹の子の分まで食べるぞ。」そう言った歳三は、美味そうに炊き込みご飯を頬張った。 2011年5月5日―その日は、歳三の誕生日だった。「トシ、誕生日おめでとう。」「何言っているの。あんたが産まれた時は酷い難産で、あたし達あんたの産声を聞いてどんなに安心したか・・」「そうか。俺が生まれて来なかったら、勝っちゃんにも出会えていなかった訳か・・」「そうよ。」 歳三が溜息を吐くと、病室に看護師が入って来た。「おっぱいマッサージの時間ですよ。」「信姉、済まねぇが、向こうを・・」「わかったわ。」「じゃぁ、始めますね。」 看護師から乳房のマッサージを受けていた歳三は、急に下腹が張るのを感じて思わず顔を顰めた。「どうされました?」「急に下腹が・・」「先生呼んで来ますね!」 看護師が主治医を呼んでいる間も、下腹の張りは続いていた。「まだ子宮口が全開になっていないですね。」「先生、手術を・・帝王切開手術をするんですよね?」「う~ん、どうかなぁ・・このまま暫く様子を見ましょう。」「そんな・・」 こうして、歳三にとって地獄の6日間が始まった。にほんブログ村
Sep 5, 2020
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。 制作会社様とは関係ありません。 二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 土方さんが両性具有設定です、苦手な方は閲覧なさらないでください。 「ねぇトシ、信夫さんは・・」 「俺は殺してねぇ。あんなクズの為に人生を棒に振る程、俺は馬鹿じゃねぇ。」 「そう。あんた、今まで苦しかったのよね?ごめんね。」 「もう済んだ事だ。それよりも今は、この子の為に生きてぇんだ。」 歳三はそう言うと、下腹に手を置いた。 貧血と悪阻が酷いので、歳三は安定期を迎えるまで入院する事になった。 「子供一人産むってのは、こんなに大変なもんなんだな。」 「当然よ。産んだら終わりじゃないからね。この事、勇さんには・・」 「言わねぇ。」 「でもね、子供は必ず自分のルーツを知りたがるものよ。」 「父親は死んだと、そう言や諦めるだろう。それに、これから常子さんとの子とうちの子が・・」 「え、ちょっと待って、じゃぁ・・」 「常子さんは、二人目の子を身籠っているんだ。出産予定日は知らねぇ。」 「そう。」 「信姉、この事は誰にも言わねぇでくれ。」 「えぇ、わかったわ。」 信子はそう言うと、歳三の病室から出た。 「お帰りなさい、女将さん。歳三様の方は大丈夫でしたか?」 信子が帰宅すると、奥から板長の島田魁が出て来た。 「島田さん、源さんは?」 「源さんなら、夜の仕込みをしています。」 「後で二人共、わたしの部屋に来て頂戴。」 「わかりました。」 夜の営業が始まる前、島田と父・隼人の代から『石田屋』で働いている板前・井上源三郎が信子の部屋に入って来た。 「女将さん、井上です。」 「島田です。」 「二人共、忙しい時にごめんなさいね。」 「いいえ、女将さん、話っていうのはトシさんの事なんでしょう?」 「源さんにはかなわないわね。」 信子はそう言って苦笑すると、歳三の妊娠を二人に告げた。 「トシさんは、産むつもりなんだね?」 「えぇ。でも主治医の先生は、中絶手術の後遺症で子宮内膜が傷ついているから、自然分娩は難しいでしょうって。」 「トシさんは、その事を・・」 「先生から出産の説明をされた時、トシは、こう言ったの・・“罰が当たったんだな”って。」 「トシさんの事は、わたし達で支えていきましょう。」 「そうね。」 二人がそんな話をしていた時、仲居頭の山田光子が何処か慌てた様子で信子の部屋に入って来た。 「女将さん、週刊誌の記者さんがお見えです。」 「週刊誌の記者ですって?」 「追い返しましょうか?」 「いいえ、一応話だけでも聞いてみるわ。二人は仕事に戻って。」 「わかりました。」 「どうもすいませんね、お忙しい所をお邪魔してしまって。」 「週刊誌の記者さんが、うちに何のご用かしら?」 「実は、あなたの弟さん・・歳三さんについて、うちで来週こんな記事を出す事になりましてね。」 “週刊文秋”の記者・武田観柳斎はそう言うと、信子にある記事を見せた。 それは、信夫の事故死は歳三と友華が手を組んで殺したのではないかという、憶測だけで書かれた内容だった。 「歳三は、信夫さんを殺してなんかいません。本人から直接話を聞きました。」 「そうですか・・そういえば、歳三さんは今どちらに?」 「弟は今、体調を崩して入院中です。弟の事よりも、信夫さんの方を調べた方がいいのでは?」 「信夫さんは、酷く粗暴な男だったみたいですね。見た目は好青年で、周囲から良く慕われていたようですが・・」 「そりゃ、あの男は外面が良かったからみんな騙されたんでしょうよ。弟はあの男に酷い目に遭わされていたんです!」 「・・詳しくお聞かせ願えませんかねぇ、その話。」 そう言った武田の目が、キラリと光った。 「女将さん、あの人と何を話したんです?」 「いずれわかるわ。」 信子はそう言うと、武田に背を向けて歩き出した。 数日後、常子は単身赴任で大阪へと旅立つ夫を見送る為、東京駅のホームに居た。 「俺が留守の間、子供達の事を頼む。」 「わかりました。」 常子はそう言うと勇に抱きついた。 「歳三さん、あなたの子を妊娠しているわ。」 常子にそう耳元で囁かれ、呆然とした表情を浮かべている勇の鼻先で、非情にも新幹線のドアが閉まった。 勇はすぐに歳三のスマートフォンにかけたが、繋がらなかった。 (トシ・・) その日の真夜中、歳三は急に喉が渇いて目を覚ました。 自販機で飲み物を買おうとベッドから起き上がった時、廊下に人の気配がしたが、それはすぐに消えた。 (気の所為か・・) 歳三がベッドに戻って眠ろうとしていると、急に誰かが自分の首を絞めてきた。 「・・さない。」 かすかに聞こえてくる女の声に、歳三は恐怖に震えながら意識を失った。 翌朝、歳三が顔を洗った後鏡を見ると、首には女のものと思われる細い指の痕がついていた。 (何だ、これ?) にほんブログ村
Sep 5, 2020
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。土方さんが両性具有設定です、苦手な方は閲覧なさらないでください。 歳三が信夫に事情を話したが、彼から返って来たのは拳と舌打ちだった。「お前はここに売られて来たんだ!生理だからって関係ない、俺の相手をしろ!」「そんなに女を抱きたきゃ、風俗にでも行け!」 負けん気が強かった歳三は、そう言うと信夫に向かって中指を突き立てた。激昂した信夫は歳三の下腹を執拗に殴った後、乱暴に彼を抱いた。 それはロマンティックとは程遠く、性暴力そのものだった。 歳三と勇は高校生の頃から付き合っていたが、キス以上の関係には進まなかった。 中々自分を抱かない勇に痺れを切らした歳三は、高校二年の修学旅行の夜に、勇に夜這いをかけた事があった。『トシ、どうして・・』『勝っちゃん、良い加減俺を抱いてくれよ。』『駄目だ。』『何でだよ、この前俺に似た女が出ているエロ本でマスかいていたの、知っているんだぜ?』『トシ、俺達はまだ学生だ。お前を抱くのは、お前と結婚する時だ。』『勝っちゃん・・』『お前の事を愛しているから、お前を大切にしているから今は抱きたくないんだ、トシ。』『勝っちゃん・・』 歳三は、勇と夫婦になれる日を夢見ていた。だが今自分は、好きでもない男に抱かれている。 突然抵抗しなくなった歳三を見た信夫は、己の欲望の赴くままに歳三の純潔を散らし、彼の心を蹂躙(じゅうりん)した。「二度と俺に逆らうなよ。」 その日から、信夫は一方的にまるで獣のように歳三を抱いた。 はじめは抵抗していたが、その度に歳三は殴られ、事あるごとに父の医療費を打ち切ると脅された。 信夫から受けた暴力は、性暴力や肉体的暴力だけではなかった。 彼は歳三に生活費を渡さなかったり、電気代の節約だと言ってエアコンがない部屋を彼に宛がったりした。 その上、歳三は信夫から携帯を取り上げられ、歳三を信夫は外で働かせなかった。 自由を奪われ、毎日信夫から罵倒され犯され、歳三の心を傷つけ、疲弊させ、罅割(ひびわ)れた部分を修復する間もなく、その傷は徐々に増えていった。 実家の家族との連絡も禁じられ、歳三は孤独だった。 そんな中、歳三は一度だけ西口家にから逃げ出した。 信夫が時折理由もなく外出している日を狙って、彼の金庫から自分の携帯と現金を持ち出して駅前のビジネスホテルに一泊した。 翌朝、始発の電車に乗ろうとホテルのフロントで歳三がチェックアウトをしていると、そこへ信夫がやって来た。 信夫は怒り狂い、歳三の首を絞めながら彼を犯した。 その二ヶ月後、歳三は望まぬ妊娠をした。 信夫の子だった。 妊娠を告げた歳三に、信夫は中絶を命じた。「俺、まだ遊んでいたいんだよな。それに、俺には娘が二人居るし。」「何で、そんな・・」「俺から逃げたら、どうなるかわかったろ。これはお前への罰だ。」 数日後、歳三は隣町の病院にある産婦人科で、人工妊娠中絶手術を受けた。 それは心身に負担がかからない中絶薬によるものではなく、苦痛を伴うものだった。 歳三はその後遺症で子宮内膜が傷つき、妊娠しにくい身体となってしまった。 だが、信夫は悪びれもせず不妊の原因は歳三にあると一方的に決めつけた。 そんな中、歳三が勇と再会したのは、結婚二年目を迎えた師走のある日の事だった。 その日、信夫は泥酔しており、彼の部下である勇が西口家まで彼を送っていったのだった。「勝っちゃん・・」「トシ、久しぶりだな。」 信夫を彼の寝室に寝かせ、歳三は自室で勇と積もる話をした。「勝っちゃん、結婚したのか・・」「トシ、幸せか?」「幸せなんかじゃねぇ!俺はもう、こんな所に居たくねぇ!」「トシ・・」「抱いてくれよ、勝っちゃん・・」 骨まで凍えるような寒い部屋の中で、勇と歳三は互いの熱を求め合った。「済まない、ゴムをつけるのを忘れた・・」「いいんだ。」「昔より痩せたな・・ちゃんと飯、食べているのか?」「あぁ。家族の食べ残しだけどな。」「逃げたらいいのに。」「逃げたら、酷い目に遭わされた。だから、俺はあいつに従う振りをして、あいつを油断させようと思う。」「トシ・・」「俺はあいつに愛人が居る事も、ガキが居る事も知っている。俺はこのままやられっ放しのままじゃ気が済まねぇ。」「何をするつもりだ?」「さぁな。」 勇はその日を境に、歳三の元を訪ねるようになった。「なぁトシ、本当に避妊しなくていいのか?」「あぁ。俺はあいつから自由になりてぇ。だから、俺は鬼になる。」「トシ・・」「勝っちゃん、今日はアレが来ちまったから、その・・」「余り無理をしない方がいい。生理痛はどうだ?辛くないか?」「・・勝っちゃんの奥さんは、幸せ者だな。」 歳三はそう言うと、勇の優しさに涙した。 勇と会った数日後、都内のカフェで歳三は、ある人物とランチをしていた。「今日、子供はどうした?」「実家の母に預けて来ました。」「そうか、くれぐれも、俺達の関係を誰にも話すんじゃぁねぇぞ。」「わかっています。」 そんな話を歳三が友華とした約一年後、信夫は事故死した。にほんブログ村
Sep 5, 2020
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。 制作会社様とは関係ありません。 二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 土方さんが両性具有設定です、苦手な方は閲覧なさらないでください。 「おめでとうございます、現在六週目に入っていますね。」 「そうですか・・」 あの時、勇に抱かれた日から、歳三は何処かで確信していた―勇の子を妊娠している事に。 「どうなさいますか?堕胎手術をするのであれば、なるべく早い方がいいですよ。」 「は、はぁ・・」 「今はまだ母体と胎児が不安定な状態で、流産しやすい時期ですので、ピンヒールは履かない方がいいですね。」 「わかりました。」 歳三は医師から『妊娠・出産ガイドブック』という冊子を貰うと、診察室から出た。 「どうだったの?」 「六週目だって。」 「そう。」 「信子さん、歳三さんはわたしと一緒にランチするので・・」 「あら、そうなの。じゃぁトシ、先に家に帰っているわね。」 「わかった・・」 「じゃぁ歳三さん、行きましょうか?」 常子はそう言った後、有無を言わさず歳三を自分の車の方へと連れて行った。 「ねぇ、その子は勇さんの子よねぇ?」 「それは・・」 「今まであの人と何していたのか、わたし知っているんだからね!何よその服、自分のスタイルの良さを自慢しているの!?」 常子から憎悪と怨嗟の言葉を一方的にぶつけられ、歳三は俯く事しか出来なかった。 常子と共に歳三がランチを食べに入った店は、こぢんまりとした喫茶店だった。 「ここは、ピザトーストが美味しいのよ。」 「そうですか。」 「ねぇ歳三さん、あなた死んだ旦那さんとはどんなセックスをしていたの?」 「急に、何でそんな事を?」 「わたし、今まで勇さん以外の男性に抱かれた事がないの。でも、あなたは違うでしょう?」 常子はそう言って身を乗り出すと、狂気に満ちた目で歳三を見た。 「ねぇ、教えてよ。あなたは勇さん以外の男とはどんなセックスをしていたの?」 歳三が答えに窮していると、気を利かせた店員が二人の元にピザトーストを持って来てくれた。 「冷めないうちに、食べましょう。」 「はい・・」 歳三はピザトーストを一口食べようとしたが、チーズの匂いを嗅いだ途端、猛烈な吐き気に襲われ、トイレに駆け込んだ。 「大丈夫?」 「はい・・」 歳三は吐き気を堪えながら、何とかピザトーストを完食した。 「そういえば、この前あなたの元義弟さんと会ったわよ。」 「信也さんと?」 何故、常子と信也が会うのだろうか―歳三がそんな事を思っていると、常子は彼にある画像を見せた。 それは、あの時歳三と勇が激しくセックスしている画像だった。 「旦那が死んだっていうのに、勇さんのものをすぐに下の口に咥えるなんて・・とんだ淫乱ね!」 「常子さん、俺は・・」 「勇さんはわたしにとって全てなの!あなたが勇さんの子を産むんだったら勝手に産んで育てればいいでしょう、でもわたし達の家庭を壊さないで!」 常子はそう言って歳三を睨みつけると、そのまま店から出て行った。 歳三は店の公衆電話を借りてタクシーを呼び、それに乗って帰宅した。 「お帰りなさい、あら、常子さんは?」 「何か用事があって先に帰るって・・」 そう言った歳三の顔から、完全に血の気が失せていた。 「あんた、大丈夫?」 「部屋で少し休む・・」 歳三はそう言って玄関先で靴を脱ごうとして、そのまま気を失った。 「トシ、大丈夫?」 「信姉、俺は一体・・」 「あんた、貧血で倒れたのよ。栄養剤の点滴打って貰っているから、少しは気分が良くなったでしょう?」 「まぁな。」 「トシ、お腹の子の父親って、まさか・・」 「その“まさか”だよ。」 「どうするの?」 「産んで、一人で育てる。」 「馬鹿じゃないの、あんた!?妊娠出産育児を嘗めるんじゃないよ!一人で産んで育てる!?そんな簡単なものじゃないよ!現にあんた、貧血と悪阻で死にかけているじゃない!」 「信姉・・」 「何でも自分一人で背負いこもうとするな!あんたはあたしの大切な弟でもあり、妹なんだから、もっとあたしを頼りなよ。」 「わかった。」 「ねぇトシ、あんた嫁ぎ先でどんな生活をしていたの?あんた、痣だらけになって・・」 「あいつ・・信夫からは奴が死ぬまで三年間、毎日俺は暴力を受けていた。」 歳三は信子に初めて、婚家で過ごした地獄のような三年間の結婚生活を話した。 三年前―2007年初夏。 父・隼人が脳梗塞で倒れ、多額の借金を抱えた実家を救う為、歳三は当時交際し結婚の約束までしていた勇と別れ、西口醤油の御曹司・信夫と政略結婚する事になった。 白無垢姿の歳三は、まるで天から降りて来た天女のような美しさだったと、その日信夫の結婚式に参列していた親族はそう信夫の事故死について取材に来ていた記者に語った。 歳三がはじめて信夫から暴力を受けたのは、彼と結婚式を挙げた日の夜―新婚初夜での事だった。 その時、歳三は急に生理になってしまったのだった。 にほんブログ村
Sep 1, 2020
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。 制作会社様とは関係ありません。 二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 土方さんが両性具有設定です、苦手な方は閲覧なさらないでください。 性描写を含みます、苦手な方はご注意ください。 「トシ、三番テーブルの片付けお願い!」 「五番テーブルに料理運んで!」 三年振りに実家に戻った歳三は、家業の料亭『石田屋』を手伝っていた。 以前は会長だった父・隼人が従業員と共に板場に立っていたが、脳梗塞で倒れてその後遺症で左半身が麻痺してしまい、包丁が握れなくなってしまったので、今は社長であり義兄ある彦五郎が会社を継いでいる。 「あんた、どうしたの?少し顔色が悪いわよ?」 「ただの夏バテだろ。」 「そう・・ねぇトシ、あんたも行くんでしょう、花火大会。」 「そういや、今夜だったな・・」 隼人が病に倒れる前、歳三達は毎年夏になると家族総出で花火大会に行っていた。 「あんた、少し太った?」 「そうかな?最近帯を締める時苦しいなと思っていたんだが、ストレスの所為かな・・」 そんな歳三の言葉を聞いた信子は、彼の白い肌に映える紫の浴衣を着せた時、いつも晒しで潰している胸が少し膨らんでいる事に気づいた。 「トシ、あんたこの前生理来たの、いつ?」 「は?何でそんな事急に聞くんだよ?」 「いいから、答えなさい。」 「そうだな・・丁度あいつが死んだ時だから、二ヶ月位前かな。」 「じゃぁ、それから生理は来たの?」 「さぁ・・元々俺は月経不順だから、今回もそうじゃないかと・・」 「そう。トシ、明日あたしと病院に行きましょう。」 「わかった・・」 花火大会の会場は、車で10分くらいの距離がある河川敷だった。 そこには、家族連れやカップルなどで賑わっていた。 「あら、常子ちゃん、久しぶりね!」 「信子さん、お久しぶりです・・歳三さんも。」 「どうも。」 勇の妻・常子は、幼い娘の手を強く握りながら歳三を見た。 「トシ、来ていたのか。」 「勝っちゃん・・」 「その浴衣、良く似合っているぞ。」 「ありがとう。」 「ねぇあなた、そろそろ花火が始まるわよ。」 「わかった。」 勇に甘えた声を出しながら、彼にしなだれかかる常子の目は、何処か歳三への敵意に満ちていた。 彼女はきっと、自分と勇の関係に気づいている。 だから自分を牽制するような事をしたのだ。 “あなたには、夫は渡さない”―常子の心の声が、夏風に乗って歳三は聞こえたような気がした。 帰宅して自室に引き籠った歳三は、勇との結ばれぬ恋に涙を流した。 翌朝、歳三は勇に呼び出され、彼が運転する車で人気のない公園から外れた雑木林へと彼と共にやって来た。 「話ってなんだ、勝っちゃん?」 「実は、関西支社に転勤になった。」 「そうか。」 「もう、東京には戻って来られないかもしれない。だから・・」 勇はそう言うと、歳三が着ているワンピースの中に手を入れ、下着の上から彼の秘部を愛撫した。 「もう、濡れているな・・」 「勝っちゃんだって・・」 歳三はクスクスと笑いながら、そっと勇のデニムの上から膨らんでいる彼のものを撫でた。 「車でするのなんて、久しぶりだな・・」 「あぁ・・」 歳三はそう言って勇のものを口に含むと、それを舌で愛撫した。 車内には、二人の嬌声と水音だけが響いていた。 「なぁ勝っちゃん、転勤はいつなんだ?」 「明後日だ。単身赴任だから、常子は俺が浮気しないか心配しているよ。」 「常子さんは、俺と勝っちゃんの浮気に気づいているぜ。」 「そうか・・どうして、そんな事を?」 「昨夜の花火大会で、常子さんやけにお前に甘えていただろう?あれは、俺への牽制だよ。」 「トシ・・」 「俺ぁ、勝っちゃんの家庭を壊すつもりはねぇ。ただ、こうしてあんたと会ってセックスしたいだけだ。」 歳三はそう言うと、再び勇のものを口に含んだ。 二人がセックスする度に、車体が激しく揺れた。 「トシ、もう・・」 「中に出してくれ!」 歳三がそう叫んだ直後、勇は彼の中で果てた。 「・・許さない。」 夫の車に取り付けた車載カメラの映像を自宅のPCで見ていた常子は、そう呟くと机の上のものを薙ぎ払った。 「ママ?」 ソファで昼寝をしていた娘の瓊子(たまこ)が目を覚ました。 「ごめんね、起こしちゃったね。」 「ママ、笑って。」 「そうだね。怒りんぼママは嫌だよね。」 優しく娘に話しかけながら、常子はそっとまだ膨らんでいない下腹に手を当てた。 「あんた、今まで何処に居たの?スマホも全然繋がらないし・・」 「ちょっとな・・」 信子に連れられ、歳三は近所で腕が良いと評判の産婦人科クリニックへと向かった。 待合室は、案の定お腹の大きい妊婦や、乳幼児を連れた母親で溢れていた。 膝上のワンピース姿で9センチのピンヒールを履いた歳三は、彼女達の中で浮いていた。 「土方さ~ん、土方歳三さん。」 「は、はい。」 歳三が診察室に入ると、看護師から下着を脱いで内診台に上がるように言われた。 「あら、奇遇ね。こんな所で会うなんて。」 「常子さん・・」 「わたし、今日は二人目の健診に来たの。ねぇ、この後少しお話ししましょうよ。」 そう言って自分を見つめる常子の目は、冷たい光を宿していた。 にほんブログ村
Aug 29, 2020
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。土方さんが両性具有設定です、苦手な方は閲覧なさらないでください。性描写を含みます、苦手な方はご注意ください。 行きずりで一夜を共にした男との情事は、勇とのそれとは違い、激しく暴力的かつ刺激的なものだった。「淑やかな女だと思っていたが、随分と大胆なのだな?」「俺ぁ、あんたみてぇな男は遊び慣れていると思ったが、顔に似合わず下手糞なんだな。」「フン、言ってくれるな。」歳三の言葉を聞いた金髪男―風間千景は、そう言って不快そうに鼻を鳴らすと、歳三の丸みを帯びながらも引き締まった腹筋を撫でた。「お前、生娘ではないな?」「そんなもの、とうの昔に捨てたさ。」「その指輪、いつまでつけているつもりだ?」 千景は、そう言うと歳三の左手薬指につけている結婚指輪を見た。「これは、夫の49日が明けたらゴミにでも出そうと思ってる。俺にはもう必要のねぇもんだしな。」「そうか・・」「そんな事、聞いてどうするんだ?」「貴様に興味があるからだ。」 千景は去り際、そう言うと歳三の胸の谷間に自分の名刺を挟んでいった。「“風間コンツェルンCEO”ねぇ・・二度と会う事はねぇな。」歳三はそう呟くと、千景の名刺をゴミ箱へ投げた。 シャワーを浴びた歳三は、昨夜着ていたワンピースとルブタンのピンヒールを丁寧にスーツケースにしまった後、そこから上品な薄紫色の色留袖を着て、その上にベージュ色の帯を締めた。 車で西口家本邸へと戻ると、玄関先には見慣れぬ白のハイソックス・スニーカーと、キャラクターがプリントされた子供用の靴が置かれていた。「ただいま帰りました、お義母様。」「歳三さん、お帰りなさい。」 歳三が姑の部屋に入ると、そこには三歳位の男児を膝上に抱えた、二十代後半と思しき女性の姿があった。「この方が・・」「主人がいつもお世話になっておりました、信夫の夫の歳三と申します。あなたは?」「わたしは、生前ご主人とお付き合いさせて頂いていた、山田文華と申します。」「それで、その子があなたと信夫さんの子供、という訳ね?」「はい・・信太郎と言って、今年三歳になります。」「へぇ。わざわざ主人の為に来てくださってありがとう。慰謝料については近々弁護士を交えてお話し致しましょう。」「歳三さん・・」「商工会議所のパーティーがありますので、これで失礼致します。」 夫の愛人が怯えているのを横目でチラリと見ながら、歳三は口端を歪めて笑うと部屋から出た。 自室に入った歳三は、自分の机の周りが荒らされている事に気づいた。「義姉さん、どうしたの?」 背後から声がして歳三が振り向くと、そこには何故か信也の姿があった。「ねぇ信也さん、わたしが留守にしている間、誰かこの部屋に入った?」「いや、誰も部屋には入っていないよ。」「警察を呼んで。」 西口家で盗難事件が発生したという通報を受け、千葉県警の田口刑事と大浦刑事が現場へ向かうと、所轄署の刑事に事情を話している西口家の長男の嫁・歳三の姿があった。 彼女の夫・信夫は一ヶ月前に不慮の事故で亡くなり、結婚三年目にして未亡人となった彼女は、時折憂いを帯びた紫の瞳を伏し目がちにしながら、口元をハンカチで覆った。「何処かお加減でも?」「いいえ・・少し帯をきつく締めてしまって・・」「そうですか。では、盗まれた物は・・」「パソコンです。仕事用のものなので、早く戻って来るといいですが・・」「先程、貴女のお姑さんからも、事情を聞きましたが、亡くなられたご主人と親しいお付き合いをされていた女性の方が・・」「あぁ、あの方は夫の愛人ですよ。彼女の息子が熱を出して、その看病をしに行った帰りに事故に遭って・・」 歳三はそう言うと、泣くのを堪える演技をした。「義姉さん、話がある。」「信也さん、話しって?」「義姉さんは、兄さんの事故には関わっていないんだよね?」「藪から棒に何を言っていやがる、俺があんな奴を殺したりする訳ねぇだろうが。」 いつも淑やかな物腰で自分達に接していた義姉の態度が突然豹変し、信也は困惑した。「義姉さん・・」「まさか、あいつの愛人の事を色々と調べていたら、色々と面白い物が見つかって良かったよ。まぁ、あのパソコンにデータを入れていなくて助かったよ・・信也、俺のパソコンを盗んだの、お前だろ?」「そ、それは・・」「あんなガラクタ同然のもの、捨てるなり売るなり好きにしな。」 呆然とする信也の鼻先で、歳三は乱暴に障子を閉めた。 そして、漸く信夫の49日が明けた、「あなた、本当にこの家から出てゆくつもり?」「えぇ。ここには血が繋がった孫が三人も居るんですから、わたしは邪魔者でしかないでしょう。」 歳三が数少ない荷物を車のトランクに入れていると、信夫の次女・梓が彼の腕を掴んだ。「行かないで、お母さん!」「新しいお母さんとお姉ちゃんと、仲良く四人で暮らしな。」 砂埃を巻き上げながら、歳三は三年間暮らした婚家を後にした。にほんブログ村
Aug 25, 2020
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。土方さんが両性具有設定です、苦手な方は閲覧なさらないでください。性描写を含みます、苦手な方はご注意ください。「勝っちゃん、何を・・」「トシ、お前が悪いんだぞ?」勇はそう言うと、いきなり前戯も無しに己のものを歳三の中に挿入した。「あぁっ!」「お前の中、程良く締め付けてくるぞ。」「やだ、やだぁ!」「嫌がっても、締め付けているぞ。」隣室に眠っている娘達を起こさぬよう、歳三は必死に声を抑えた。しかし、勇はその事を知ってか、激しく歳三を責め立てた。「トシ、愛している。」勇は歳三の中で達した。「勝っちゃん、何で、こんな・・」「俺は今まで、お前が不憫だと思っていた。家の為に好きでもない男の元に嫁いで、暴力を振るわれて・・」勇はそう言いながら、歳三の白い肌に痛々しく残る痣を優しく撫でた。「謝らねぇでくれ。俺は、大丈夫だから。」歳三はそう言いながら、勇の唇を塞いだ。「トシ?」「お願いだ、勝っちゃん・・あんたの子を俺に宿してくれ。」「いいのか?」「もうこの家には用はねぇ。父さんの身体も、会社の問題も全て解決したんだ。俺がこの家に居る必要なんてねぇ・・」「そうか。」 勇はそう言うと、歳三を抱き締めた。「こうしていると、何だか学生時代に戻ったみたいだな。」「あぁ・・もし、あの頃みたいに自由に生きられたら、良いのに・・」「生きられるさ、今でも。」(義姉さん、遅いな。)信也は中々自室から戻って来ない義姉の身を案じ、彼女の様子を見に行った。すると、部屋の雪見障子越しに歳三の足袋に包まれた白い足が見えた。暫く信也が廊下で部屋の様子を見ていると、歳三の身体が持ち上げられ、それは静かに律動を始めた。信也が恐る恐る部屋の障子を破って中を覗くと、そこでは歳三が兄の部下である男の膝上に抱かれ、彼と深く繋がっていた。歳三の紫の瞳は熱を帯びて潤み、夏の陽光を弾いて妖しく煌めいていた。男は己の身体ごと歳三の身体を抱き潰すように組み敷くと、欲望を解き放った。あの時、自分が見たものは幻ではなかったのだ―信也はそう思いながら脱兎の如くその場から逃げ出した。「どうした、トシ?」「・・いや、何でもねぇ。勝っちゃん、まだあんたが足りねぇ・・」歳三はそう言うと、勇にしながれかかった。信夫の急死から一ヶ月が過ぎた。歳三は高校の同窓会に約10年振りに出席した。車で西口家本邸がある房総半島の小さな町から東京まで運転しながら、歳三は時折自分の頬を撫でる潮風心地良さに自由を感じた。「みんな、久しぶり!」「え、誰!?」「嘘、信じられない!」同窓会の会場であるホテルの宴会場に歳三が入ると、高校の同級生達は彼の余りの変わりように驚いていた。それもその筈、高校時代の歳三は豊満な胸を晒しで潰し、女子の制服を着る事を一切拒否し、動きやすいズボンを穿いては良く男子達とつるんでいたのだった。それが今は、あれ程忌み嫌っていたスカート、もとい高級ブランドの真紅のワンピースを着て、ルブタンの黒地に裏が赤のピンヒールを履いている歳三の姿を見た一部の元男子生徒達は少し色めき立っていた。「土方君、暫く会わない内に綺麗になったね?旦那様から毎日愛されているの?」「その逆。旦那は俺に暴力ばかり振るって、外で女作って、挙句の果てには女の家に帰る途中で事故って死んだ。」「じゃぁ、これからどうするの?」「もうすぐ49日が明けるから、さっさと姻戚関係終了届出してあんな陰気臭い家、出て行ってやるよ。」「へぇ、賢いわね。でもさぁ、愛人が子供連れて家に来たらどうするの?」「そん時は貰うもんはちゃんともらう。やられっ放しなんて俺の性根には合わねぇからなぁ。」「うっわぁ、絶対に敵に回したくないタイプだわ~!」ホテルから出て二次会の会場である居酒屋で歳三が同級生達とそんな話をしていると、そこへ店員がこの店で一番高い刺身盛りをテーブルに運んで来た。「頼んでねぇぞ?」「あちらのお客様からです。」「へ?」歳三がチラリと奥のテーブル席の方を見ると、そこには仕立ての良い白いジャケットスーツを着た金髪の男が居た。「三次会行く人~!」「悪ぃ、俺パス。」「え~、つまんないの!」「またの機会でってことで!」店の前で三次会のカラオケへと向かう同級生達と別れ、宿泊先のホテルに帰る為にタクシーを待っていた歳三の前に、あの金髪男が現れた。「良かったら、この後一緒に飲まないか?」「あぁ、いいぜ。」居酒屋から近いショットバーで金髪男と飲んだ後、歳三は彼と共にホテルの部屋に入った。「あっ」少し酒を飲み過ぎてしまった所為か、歳三が覚束ない足取りで部屋に入ると、金髪男は彼をベッドへと押し倒した。膝丈のワンピースの裾を男に捲られると、白い足を包む漆黒のレースのガーターストッキングが、間接照明の橙色の光を受け、彼の目には艶めかしく映った。「俺を抱きてぇんだろ?来な。」にほんブログ村
Aug 25, 2020
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。土方さんが両性具有設定です、苦手な方は閲覧なさらないでください。性描写を含みます、苦手な方はご注意ください。 信夫の葬儀は、姑・和子が喪主を務めた。 本来なら長男の嫁である歳三が喪主を務める筈なのだが、葬儀の準備で休み無しに働いた所為で、彼は熱中症に罹り、信夫の告別式の前夜に倒れてしまった。「全く、熱中症で倒れるなんて・・」「申し訳ありません、お義母様・・」 和子は病院で点滴を打たれている嫁を労う事なく、そう言ってそのまま病院を後にした。「義姉さん、横になってなくても大丈夫なの?」「えぇ・・ごめんなさいね、皆さんに迷惑をおかけして・・」「そんなに謝らないで下さい、義姉さん。」 信夫の弟・信也は、点滴を終えて帰宅しようとする義姉を労った。婚家の為に三年間尽くしてきた歳三だったが、舅姑からは感謝されるどころか、子が出来ない事で蔑ろにされて来た。「義姉さん、これからどうなさるおつもりで?」「49日が明けたら、家を離れます。父は実家の姉達と施設の方が見て下さっているので、もうこの家に媚を売る必要はないでしょう?」「義姉さん・・」「ねぇ、信也さん、あの子達はどうしているの?」歳三が言う、“あの子達”とは、信夫の二人の娘達、華と梓の事だった。 二人はそれぞれ12歳と10歳で、娘と言っても、歳三にとっては赤の他人も同然だった。「二人共、ショックで食事もしていないそうだ。無理もないよ・・」「二人は、香苗さんと一緒に暮らした方がいいんじゃないかと思うのよ。」「それは、そうだけれど・・」「冷たい継母よりも、実母に育てられた方があの子達にとって幸せよ。」「義姉さん・・」「早く家にまたお義母様に嫌味を言われてしまうわ。」「そうですね・・」 信也と歳三を乗せた車が家の前に停まると、家の中から梓が泣きながら出て来た。「おじちゃん、助けて~!」「梓ちゃん、どうしたんだい?」「変な女の人が家に来て暴れている!」「何だって!?」 二人が梓と共に家の中に入ると、信夫の遺体が安置されている仏間の前で、和子と一人の老婆が激しく口論していた。「あんた達があたしの息子を殺したんだ~!」「“あたしの息子”ですって!?あの子達を虐待して捨てた癖に、よくもそんな事が言えるわね!?」「あんた、何しに来たんだ、帰ってくれ!」 老婆は和子と信也を口汚く罵った後、家から出て行った。「信也さん、あの人は・・」「あの女は、信夫と信也の実の母親よ!」「そんな事、今まで一度も・・」「全く、図々しい女!子供の頃から散々信夫達を虐待して捨てた癖に、生活費を無心して来て・・挙句の果てに、信夫の遺体を引き取りたいとか言い出して・・」「母さん、そろそろ葬儀の時間だよ。」「えぇ、そうね。さぁ、華と梓はわたくしと一緒にいらっしゃい。」和子はそう言って孫娘達を連れて、親族達が集まる部屋へと向かった。 信夫の葬儀には、彼の会社の同僚や上司、友人などが参列し、彼の早すぎる死を悼んだ。「ねぇ、信夫さんは愛人の家から帰る途中で事故に遭ったんですって・・」「まぁ、それじゃぁ奥様は可哀想ね。」「お父様が急にお倒れになって、当時付き合っていた恋人と泣く泣く別れてこの家に嫁いで来たっていうのに、とんだ貧乏くじを引いたみたいじゃないの。」 焼香に来た弔問客達の間から聞こえる口さがない噂話が耳に入って来る度に、歳三は終始親族席で俯いていた。「義姉さん、あんなの気にしなくていいですよ。」 信也がそう言って歳三の方を見ると、彼は口端を歪めて笑った。「義姉さん?」「ごめんなさい、信夫さんの事を思い出して、涙が・・」「そうですか・・」(あれは、僕が見た幻だったのか・・) 葬儀の後、親族達が集まり、故人を偲んでささやかな食事会が開かれた。「トシ、大丈夫か?」「勝っちゃん、来てくれたのか。」「お前の事が心配でな。信也さんから連絡を受けて来たんだ。顔色が悪いな?」「義姉さんはさっきまで熱中症で、病院で点滴を打っていたんです。近藤さん、後は僕達がやりますから、義姉さんを休ませてやって下さい。」「はい、わかりました。」 勇はそう言うと、今にも倒れそうな歳三の身体を支えながら部屋から出て行った。「あっ」 歳三は部屋の敷居に足を取られ、転倒しそうになり、思わず勇にしなだれかかった。「大丈夫ですか、義姉さん?」 信也がそう言って慌てて歳三に駆け寄ると、彼は何処か嬉しそうな顔をしながら勇の胸に顔を埋めていた。 それは、完全に雌の顔をしていた。 親族達が集まっている部屋から渡り廊下を挟んだ向かい側の建物が、西口家の家族の部屋だった。「トシ、大丈夫か?」「あぁ・・」 部屋に入った勇は、喪服の裾から覗く白い足を見て欲情し、歳三を背後から抱き締めると、喪服の裾を乱暴に捲り上げた。 隣の部屋には、眠っている二人の少女達が居た。にほんブログ村
Aug 22, 2020
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※BGMと共にお楽しみください。「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。土方さんが両性具有設定です、苦手な方は閲覧なさらないでください。性描写を含みます、苦手な方はご注意ください。「トシの身体は冷たいな。」「余りひっつくなよ・・暑苦しい。」 猛暑が続いているある夏の日の昼下がり、土方歳三はエアコンがない部屋でパソコンのキーボードを叩きながら書類仕事をしていた。 そんな彼を背後から抱き締めているのは、彼の親友である近藤勇だった。「なぁ、もう会社に戻った方がいいんじゃねぇのか?」「もう少し、こうしていたい・・」「あのなぁ、こっちだって暇じゃねぇんだ。」そう言ってあきれ顔で勇を見た歳三は、突然唇を彼に塞がれた。「おい、何す・・」「トシ、抱いてもいいか?」「急に何で、そんな・・」「いいだろう?」「・・そんな顔されたら、断れねぇな。」 歳三はノートパソコンの電源を落とすと、勇に抱きついた。「トシ・・」 勇は歳三が着ているワンピースの裾を捲り上げた。「下着、着けていないのか?」「・・あんたが来ると思って、着けなかったんだ。」「可愛い奴め。」 勇はそう言って笑うと、歳三の上に覆い被さった。「何で、髪を切ったんだ?」「暑いからに決まっているだろう。」「また、伸ばしてくれるか?」「・・あぁ。」 蝉時雨が、二人の嬌声も、水音も掻き消してくれる。「あぁ、もっと・・」「トシ、もうこれ以上は・・」 勇はそう言って歳三の中から出て行こうとしたが、歳三は彼の腰に白い足を絡めた。「う・・」 勇が堪え切れずに歳三の中に出すと、歳三は満足そうな笑みを浮かべた。「次はいつ会える?」「さぁな。」「連絡する。」 自宅の前で勇と別れた後、歳三が自室に戻ると、そこには出張に行っていた筈の夫・信夫の姿があった。「あなた・・」「また、あいつに会っていたのか?」「それは・・」 歳三が何かを言おうとした時、信夫は彼を拳で殴った。「この俺が、お前の父親の医療費を出してやっているんだ!その事を忘れるな!」「わ、わかりました・・」「俺はまた出かける。」 信夫はそう言うと、部屋から出て行った。 歳三が鏡で自分を見ると、そこには夫に殴られた惨めな妻の顔が映っていた。 父が突然病に倒れ、倒産寸前の実家を救う為にこの家に嫁いで来てから三年が過ぎようとしていた。 信夫には、前妻との間に二人の娘を儲けていた。 その妻は、信夫の暴力に耐えかねて家を出て行った。結婚して三年経ったが、信夫との間に子供を授かる事は出来なかった。『出来損ないの嫁を貰うなんて、うちもついていないわね。』 中々歳三が妊娠しない事を、昨年の盆に姑がそう愚痴を親戚にこぼしているのを、歳三は偶々聞いてしまった。 両性具有の身体を持って生まれながらも、この家に嫁ぐ前は、歳三は自分で自分の道を切り開いて歩いて来た。 それなのに― 歳三が物思いに耽っていると、テーブルの上に置いていたスマートフォンが突然鳴った。「もしもし、土方ですが・・」『もしもし、こちらT県警の者ですが、ご主人の携帯からかけています。』「主人に、何かあったのですか?」 『実は・・』 夫が愛人の家から帰る途中、事故に遭った事を警察から知らされた歳三は、事故現場から近い病院の霊安室で、夫の遺体と対面した。「・・主人で間違いありません。」(これで、俺は自由になれる。) 歳三は必死にこみ上げてくる笑いを堪えながら、“夫を亡くし悲嘆にくれる妻”を演じた。にほんブログ村
Aug 15, 2020
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