ちょっと本を作っています

ちょっと本を作っています

両国の年の瀬

両国慕情



真夜中に目覚めて聞こえる騒音は
眠れぬ都会の二十五時かな


オハヨウと声掛けたれど返事なく
人過ぎゆくは都会の朝か


通学路傘振り回し子らがゆく
篠つく雨もかなわじと見ゆ


長雨にいつまでそこに居るのかな
洗濯物と軒の鳩たち


e-mailまた来てないかとキー叩く
皆は俺ほど暇なわけなし


郵便は何時もと同じ督促状
封切らずとも変わらぬものを


息子来て何を馬鹿をと小言言う
筋確かさに一人ほくそ笑む


人は人、金が蝕む世の中で
馬鹿と言わりょと俺は俺だよ


木枯らしが枯れ葉舞いあぐ散歩道
師走の声はまだ遠いのに


何処にて冬を越すやら都鳥
墨田の川は我が棲家なり


何処より飛んできたのかモンシロチョウ
お前の春は、ほら雲の上


第九聴き年の瀬思う我もまた
日本人よと寂しくもなる


秋晴れに金の無いのも何のその
今日も一日東へ西へ


下町の猫の額の小春陽に
花競いけり誰も見んとも


縁日でうつら舟こぐ物売りに
声をかけるは良しや悪しや


シクラメン屋台で買い来て枕元
物言わずとも秋波を送る


何時の間に忍び込んだか部屋の隅
クモの子一匹そっと追い出す


時刻む時計の針も友と見ゆ
一人焼酎飲む深夜かな


原稿の桝目に浮かぶ思い入れ
手を付けかねてそっと押しやる


テーブルに一つ残った大福は
昨日来し友の置き土産かな


さすらへどまたさすらへど夢遥か
都会は夢を食らうところか


五十路過ぎ未だ迷えるでくの坊
こりゃあ百まで生きるしかない


月日経て終の棲家となろうとも
悔い(杭)は残さじ両国の淵


朝空に雲と見がもう白い月
そこまで行けば陽は高かろう


長雨に三日居たのか風来坊
雲の切れ間にハイさようなら


喧騒が何か寂しや六本木
飛び交う声も客引きばかり


自炊して出来たはいいが三日分
明日も朝からカレーライスか


何時の間にオタクの街か秋葉原
猫背の小太り色白眼鏡


カサカサと音をたて舞うプラタナス
都会の秋が肩に寄り添う


諭吉去り漱石一人手に残り
財布の隅に桜花かな


イラナイヨ冷たく追い出すセールスに
若き息子の面影浮かぶ


公園にお前もいたかスズメの子
ブランコに乗る児も居ないのに


両国のビルの谷間の我が庵
これ貧ションと呼ぶにしかずや


出歩かず何もせぬのに仕事来る
天は吾おも見捨てじと見ゆ


友が逝き思い出だけが染みとおる
白い煙は青空に融け


一人減り二人減ったる知己の数
あの世の庭は賑やかならん


吉良邸で討ち果たされたる主もまた
想いは苦し年の暮れかな


震災と空襲受けて命絶え
想い渦巻く被服廠跡


幾度もの災害偲ぶ回向院
ネズミ小僧の墓が救いか


別れてもやはり気になる古女房
手足の冷えに今いかんせん


転職を悩んでいるらし吾が息子
己の道は自ら拓け


独り者今日の晩飯チャーハンか
悩む間もなくもう腹の中


見つけたぞカモメ漂う川の中
身を翻し魚影が走る


汐に乗りやって来たのかボラの群れ
小さき堀の橋桁の陰


人をみな子供のころへ誘えり
水上バスで手を振る老婆


誰一人知る人も無き両国で
心緩むは下町風情


何時か居た街に似ている下町は
幼きころの我がふるさとか


魚屋に肉屋と八百屋も軒並べ
駄菓子屋一つ子供らを待つ


客も無き文房具店開きおり
声をかけたき年寄り独り


海舟の生家も近し馬車道に
子供を叱る小吉の声する


植木鉢寄せ集めたる裏通り
どれが花やらゴミの山やら


客を待つ店主が一人店に居て
今日もテレビを見る床屋かな


喫茶店客より多い店員の
何やら楽し井戸端会議
玉子二個玉葱一個の炒め物
今日のツマミは三十五円


冬来ぬに春待つ今は仕込みどき
苦労承知の夢を追いかけ


静かだと思えば今は秋場所か
お相撲一人見ぬ暮れの街


彷徨いて今日も一日異邦人
言葉使わぬ一日が過ぎ


祭日と知らずにネクタイ締め直し
街へ出たれど行くとこもなし


焼き芋と物干し売りの声がして
なぜかのどかな下町の昼


何処に居る大島部屋の相撲取り
近所のよしみか番付を見る


愛してる一日一度のラブコール
他には何も聞くこともなし


クラブなど元々縁無き風来坊
天のいたずら世の不思議かな


一生の面倒見ると彼女言う
見返り持たぬ己恥ずかし


あと五日南の島へ帰るのを
目を輝かし語るホステス


島へ来い声かけられて何迷う
世間の義理か、えせプライドか


息子には近くへ住めよと勧められ
想いは二つ身は一つのみ


両国は下総武蔵の国境
橋を渡りて何処の空へ


金もなし職もなければ夢もなし
いつまで続くこのぬかるみぞ


年が明けもしも機会があるのなら
行ってみようか常夏の島


白妙の真砂の磯のその先に
コバルトに清む穏やかな海


世を拗ねて移り住んだる下町は
鏡に写る異次元世界


橋桁を幾つ越えても道続く
隅田の川に舟は行き交い


鳩もまた散歩したいか吾が後を
今度はエサを持って来てやる


釣り人も期待をしない釣果かな
言葉もかけず竿先を見る


名も知らぬ秋の草花咲き乱れ
山茶花見つけ懐かしく思う


来てみれば知ったる店は表閉じ
垣間見たれば空き家の様子


また一人都落ちかな秋空に
笑顔優しき好々爺が


ホームレス小屋の内外整いて
我が家へ戻り掃除せんとす


懲りもせず今日も作れり
シチュー十人前


今日もまた次々来る来客は
オアシス求めるビジネス戦士


燻製になってしまうぞ皆の衆
小さき部屋に喫煙者満ち


いつのまにこんなに増えたか知己の数
笑い声満つ我が作業場に


知り合って未だ間もない輩(ともがら)に
知らぬ世界の入口を見る


一日の仕事の時間は僅かでも
なぜかはかどる一人身の妙


テレビなく新聞もなければ電話なく
これは得した自分の時間


問屋街山と積たる箱の数
記したる国は中国本土


忘れてたワイシャツ全て洗濯屋
明日のお出掛け午後にするかな


商売は追うと逃げるし運任せ
待てば海路の日和あるかな


三億円買わなきゃ当たらぬ宝くじ
買うか買わぬか財布を覗く


欲張らず山がひとつに島ひとつ
後は一億金有ればいい


金できりゃ買ってみようかズック靴
行き交う人見るこの散歩道


ちゃんこ鍋痩せた店員ミスマッチ
使用前かなこの店の味


今日もまた忘れてないぞと声をかけ
そっと水やるシクラメンかな


旧友に無事にいるぞと便りだし
生きてりゃいいと返事一言


路地裏を巡り巡ってたそがれて
さてこの街はどこの街やら


ひと気なき寺の境内訪れて
手を合わせけり崩れた地蔵


花もなき多くの墓が建ち並ぶ
ペット塚のみ花束の山


植木市庭もないのに訪れて
この松の木は買得と思う


ちゃんこ鍋何処が美味いか食べ歩き
こりゃあベルトがきつくもなるか


七転び思えば遠く来たもんだ
八起しようか六十路までには


元禄祭吉良と赤穂がツーショット
ほお張るオデンに太鼓が響く


面影が浮かんでは消え振り返る
笑顔ばかりの義母の思い出


もう二度と話すことない寂しさに
時の流れの無情を思う


縁ありて母と呼んだるその人の
苦難の人生重く受け止め


孫多く末広がりの義母の跡
幸せだよと言ってやりたや






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