・星々の舟


書籍名:星々の舟
著者名:村山由佳
出版社:集英社




『家族だからさびしい。他人だからせつない──禁断の恋に悩む兄妹、他人の男ばかり好きになる末っ子、
居場所を探す団塊世代の長兄と、いじめの過去から脱却できないその娘。厳格な父は戦争の傷痕を抱いて
──平凡な家庭像を保ちながらも、突然訪れる残酷な破綻。
性別、世代、価値観のちがう人間同士が、夜空の星々のようにそれぞれ瞬き、輝きながら
「家」というひとつの舟に乗り、時の海を渡っていく。愛とは、家族とはなにか』


FAVORITE PHRASES


・俺がどれほどの激しさで愛したか、 どれほどの思いで遠ざかったか、 
 ただ一点に向かって注がれていた想いが突然対象を奪われた時、
 その切っ先がどれほどの鋭さで宿主を刺し貫くか。

・「行き止まりまで見届けないから、いつまでもずるずる引きずることになるんだ」
 「そうかしら……どこまで見届けても、あきらめのつかないことだってあるんじゃない?」

・べつに何かを失ったわけじゃない、と自分に言い聞かせる。
 そもそも初めから持っていないものを 失えるわけがない。

・願っても、どうせかなわない。期待したって裏切られるだけ。
 誰かを心底愛するなんて自殺行為。
 人前で口にしたことはないけれど、いつもそう思ってきた。
 別段、人生のすべてに絶望しているわけでも、
 特別にペシミストというわけでもない。
 ただ、それくらい淡白に考えておいたほうが人生楽に生きられる
 という考え方が、あの日を境に骨の髄までしみこんでしまっただけだ。

・どうしてみんな、誰かと一対一で向かい合うことに無防備でいられるのだろう。
 自分をまるごと差し出してしまうことを、どうして怖いと思わないのだろう。
 愛しすぎたばかりにぼろぼろに傷つき果てて、自らを痛めるけるなんてまっぴらだ。

・「月とか星とか、花やなんかがやたらときれいにみえるのって、
 何かすごく悲しいことがある時だから。私の場合はね」
 「何回くらい、そういうきれいなものを見た?」
 「どうだったかな。忘れちゃった」

・まなざしを、今は無理にでも高くあげて歩き出す。まだ新しい剥き出しの痛みを抱いて。
 誰と分かち合うこともできない、消せない痛み。
 それさえも、確かに自分だけのものなら 愛してやろうじゃないか。

・眠りながら見る夢より、目覚めて見る夢のほうが百倍も罪深い

・いまだに上手な甘え方がわからない。
 上手だの下手だのと頭で考えてしまうこと自体が、
 この溝の埋められなさの表れであるようにも思う。

・<ずっと好きだったの>
 そういう言葉を信じて酔えればどんなにいいだろうと思うが、
 残念ながらそこまでお人好しでもなければ、自信もなかった。
 歳を取るとはそういうことだ。傷を負う危険を、
 あらかじめよけて通る術にばかり長けていく。

・何かが欲しいと願いながら、そのじつ何が欲しいのかわからない。
 生ぬるい飢餓感ばかりをもてあまし、
 いつかは何かいいものが見つかるような気がして探すのを
 やめられないでいる。

・人に指図するわけではないが、必要な助言はきっちりしてくれる。
 こちらも、聞くべきところは聞くが、要望はきっちり伝える。
 大人の人間関係とはそういうものじゃないか

・どこへ向かっていようが、所詮は線路の上。最後には、いやでもどこかの駅に着く。

・その『私なんか』って言う癖やめな?自分で自分のこと
 そういうふうに思ってると、ほんとにそうなってっちゃうよ。

・本当はこっちに非があるのに顔を合わせるたびに謝られるくらいなら、
 ちゃんと恨んでもらった方がまだ気が楽

・胸の内で繰り返してきた詫びさえ、彼女のためというより自分のためではなかったか。
 詫びることでいささかでも楽になれたのは自分だけではなかったか。
 自分で自分を責め続けてみせて、そのじつ結局は、
 ただ赦されたかっただけではないのか。
 赦されるのを前提に謝ることを、詫びとは言わない。

・謝ることで気が済んでしまって、自分のしたことを忘れるくらいなら、
 いっそ謝らないで後悔をかかえていった方がまだましというものだ。

・忘れたいことほど忘れられず、これだけは忘れまいと思うことから忘れていく……

・幸福とは呼べぬ幸せも、あるのかもしれない。
 叶う恋ばかりが恋ではないように、みごと花と散ることもかなわず、
 ただ老いさらばえて枯れてゆくだけの人生にも、意味はあるのかもしれない。



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