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空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の 愛妻家の食卓
『カラスのゾーロとぬいぐるみのコロ』
第1話・『ボクはぬいぐるみ』
ここはマンションのゴミ捨て場・・・
ボクはゴミになった・・・
なぜこんな所にいるのか、なぜボクが捨てられたのかは分からない・・・
ボクはコロ。クマのぬいぐるみ・・・
ボクは10年前、このマンションに住む女の子の誕生日プレゼントだった。
女の子はボクというプレゼントを喜び、毎日、抱きしめて寝てくれた。
「コロも連れて行く!」
そう言って、お出かけも一緒に連れて行ってくれた。
でも、それからどんどん新しいぬいぐるみが増えた。
ボクはベッドから机の上、机の上から窓際、窓際から本棚の上へと女の子は遠ざけた。
それでもボクは女の子が大好きで、抱きしめられなくなっても一緒に寝むれなくても、ただ女の子を見ているだけで幸せだった。
ボクは女の子の成長がとても嬉しかった・・・
(それなのにどうして・・・ボクを・・・)
だけど、どんなに悲しくても、悲しくてもボクはぬいぐるみだから声どころか涙さえ出ない。
ボクの前を沢山の人が通り過ぎていく・・・
(ボクをそんな目で見ないで・・・誰かボクを連れて帰って・・・)
誰かが言った
「汚い」
と、ボクはそんなに汚れてもいなければ、ボロでもないはず・・・
(ボクはゴミじゃない!)
いくらそう願ってもボクを抱き上げてくれる人はなく、時間が過ぎていった。
そして突然!
空からまっ黒で大きな鳥が降りてきてボクの目を引きちぎろうと引っ張った。
(やめてよ!ボクの目を引っ張らないで!)
「わっ!ぬいぐるみがしゃべった!」
(ボクはコロだよ、君は何?)
「おいらはカラスだ、カラスのゾーロだ」
(からす?)
「驚いた・・・魂が入ったぬいぐるみだなんて・・・」
(たましい?)
「なんだ、自分のことだろ?そんなことも知らないのか?」
(うん・・・何も・・・)
「魂っていうのは精神や心のかたまりだよ、生き物にはもちろん物にも宿るって聞いたけど実際に出くわすのは初めてだ」
(ボクにはその魂があるんだね?でもゾーロとは違うんでしょ?)
「違うさ、おいらには命があって生きている、コロは作られた物だ、だからおいらは自由に動けるけどコロは動けない。ほらっ、さっきおいらが目を引っ張っても痛くなかったろ?」
(いたい?・・・)
「ん~ん・・・難しいなぁ・・・とにかくコロはおいらとはまったく違うんだ」
(・・・でも、どうしてボクの目を?)
「キラキラきれいだったからさ、おいらはそういう光る物が大好きで集めているんだ」
(それなら2つあるから1つゾーロにあげるよ)
「何言ってるんだ、もうそんなこと出来ないにきまってるだろ?それよりいつまでもここに居たらダメだ、ゴミと一緒に連れて行かれてしまったらコロはもうコロじゃ無くなってしまう」
(ボクがボクじゃなくなる?)
「そうだ、自分がゴミだと感じてしまったらそこで魂もなくなってしまうんだ・・・」
(ボクはゴミじゃない・・・)
「そうだ!とりあえずおいらの巣に連れていってやろう、それからこれからのことを考えればいい」
(いいの?)
「あぁ、行こう!」
そう言うと、ゾーロはボクの両肩を両足でつかんで飛び立った。
風を感じないのは残念だけど、初めて見る光景にボクは胸のあたりが熱くなった。
きっとこれがゾーロの言った魂・・・ボクはボクなんだ・・・
つづく。
第2話・『カラスのゾーロ』
ゾーロは空高く飛んだ・・・
(わぁ、凄い!いろんな物が見えてとっても広いなぁー)
「これが世界さ」
(せかい?)
「見えている全てのことさ」
(・・・見えている全て・・・)
ボクが知っている世界は小さな部屋の中だった。
でも今、見ている世界はどこまでも続いているように思えた。
ずっとこの光景を見て、自由気ままに生きてきたゾーロを少しうらやましいと思った。
「よし、着いたぞ」
そう言ってゾーロがボクをおろしたのはいろんな物を積み重ねて作ったおうちだった。
それは高いビルの上のそのまた上の看板の下にあった。
(わぁーいい眺め・・・)
「おいらの自慢の巣さ、ほらっ中も見てみろよ」
(わぁーこんなに沢山・・・とってもきれいだね)
巣の中にはいろんな色のいろんな形をしたキラキラ光る物がびっしりと引き詰められていた。
「おいらの宝物さ」
(たからもの?)
「凄く大切にしている物だよ」
(・・・)
もちろんボクにはなかった。
「コロにぴったりな物があるかな・・・よし、これがいい!友情のしるしにこれをあげるよ」
ゾーロはボクにキラキラ光るミドリ色の首飾りをしてくれた。
(ありがとう!これをボクの宝物にするね)
「うん、よく似合う」
こうして、ボクはゴミにならずにすみ、ゾーロにいろんなことを教わりながら楽しい日々をすごした。
「おいらたちは友達だ」
(ともだち?)
「あぁ、仲良しってことだ」
「なぁ、コロ?」
(なぁに?)
「おいらたちは家族だ」
(かぞく?友達じゃなかったの?)
「あぁ、もっと仲良しだってことだ・・・」
でも、ボクの見る夢はいつも女の子に抱きしめられている夢ばかりだった。
「そんなに人間のことが好きなのか?」
(・・・ボクが好きなのは女の子だけだよ・・・)
「ふ~ん、おいらは人間が嫌いだからその気持ち分からないな・・・」
(どうして嫌いなの?)
「むこうがおいらたちを嫌いだからさ」
(どうして?ゾーロはとっても優しいのに)
「そんなこと人間には関係ないんだよ、おいらたちが黒くて気味悪いってただそれだけなんだ」
(それだけ?)
「そりゃおいらたちはゴミ捨て場を荒らすけど・・・生きていくためには仕方ないことだし・・・それ以上、無茶はしないさ」
(生きるって大変なんだね)
「おいらたちから見れば人間たちは贅沢すぎるんだ、まだまだ食べられる物を捨ててしまうんだから、それに食べ物だけじゃない、無駄に沢山の物を手に入れては捨ててしまう・・・コロだってそうだろ?」
(ボクも・・・でも、ゴミを荒らさないですむ方法はないの?)
「ないさ・・・もともとおいらの先祖はジャングルに住んでいたんだ。それから山に移って果物や小さな動物や虫なんかを食べてひっそりと暮らしていたんだ」
(こことは違うの?)
「あぁ、それなのに人間は山を切り崩し、実のならない木を植え、おいらたちを住めなくしたんだ。だからおいらたちは町に出たんだ!それに見てみろよ、町のいたるところにあるゴミのほとんどは人間自身が出して散らかしているんだ!」
(仲良くはできないの?)
「あぁ・・・勝ち目はないけど戦うしかない」
(たたかう?)
「まだ追いやるのさ」
(・・・)
「心配するな、なんとかなる・・・ほかの動物たちと同じようにはならないさ」
(どういうこと?)
「そうだな・・・それじゃあここから見える動物って何が見える?」
(ん~と・・・ゾーロが教えてくれたネコとイヌかな?)
「そんなものだろ?でも、昔はもっと、もっと沢山の動物たちが自由に過ごしていたんだ」
(沢山の動物が・・・)
「でも、人間たちは勝手な理由でそれを許さなかった。自分たちだけが過ごしやすい町を作ってしまったんだ。おいらたち鳥は空に逃れられたけどな」
(そんなぁ・・・)
それからだろうか・・・ボクは女の子の夢を見なくなった・・・
つづく。
最終話・『ゾーロとコロ』
ゾーロはボクに沢山の話をしてくれた。
そんなある日、ゾーロの実感する事件がおこった・・・
それはゾーロがお昼寝をしている時だった。
(起きて!ゾーロ!)
「・・・どうしたんだ?そんなに慌てて」
(なんだか下が騒がしいんだ!誰かの声がしたんだ!)
「よし、様子を見てこよう」
そうして、ゾーロは飛び立った・・・
そして、すぐに顔色を変えて戻ってきた。
「大変だ!人間たちだ!」
(人間?)
「あぁ!おいらの巣を壊しにやってきている!」
(えっ?)
ボクは何がなんだか分からなかった。
「ハシゴを使ってもうすぐ下まで来ている!」
(そんな・・・どうして?)
「おいらにだって分からないけど害鳥駆除ってやつだ」
(何それ?)
「害鳥っていうのは悪い鳥のことで駆除っていうのは殺したり追い払ったりすることだよ」
(ゾーロが害鳥だなんて・・・とってもいいカラスなのに、とっても優しいのに・・・)
「ありがとう。でも、そんなこと言っている場合じゃないんだ、ここはもうあきらめるしかない・・・」
ゾーロが自慢にしていた巣だったからボクは悲しかった・・・
(うん・・・)
そして、ゾーロはボクの両肩をつかんで飛び立とうとした。
「あれ?こんな時に!」
(どうしたの?)
「巣に引っかかってコロを持ち上がれない!」
ボクは巣の何かに引っかかっていた。
ゾーロは必死にボクを持ち上げようとしたけど人間はもう手の届くところまで来ていた・・・
(ゾーロ・・・ボクのことはいいから早く逃げて!)
「何、言ってんだ!おいらがどうにかしてやるから・・・」
(抵抗したって無理だってゾーロが一番知っているでしょ?)
「嫌だ!コロはおいらの唯一の友達なんだ、家族なんだ!くそーっ!」
ゾーロは涙を流した・・・
(それでもダメだよ!早く逃げて!ボクは大丈夫、痛みも死も無い物だから・・・お願い!ゾーロは生きて!)
「コロ・・・分かった・・・だけど絶対、自分をゴミだなんて思うなよよ!お前はコロなんだ!それだけは忘れるな!」
(うん、ありがとう!さようなら・・・ゾーロ大好きだよ・・・)
「おいらもだ!いいか、忘れるな!・・・」
そして、ゾーロは遠くへ飛んで行った・・・
ボクはそのまま巣と一緒にまっ黒なビニール袋に入れられた・・・
まっ暗だった・・・
ずっと、ずっとまっ暗で不安だった・・・
だけど、ボクはゾーロの言ったとおり
(ボクはゴミじゃない・・・ボクはコロだ・・・)
と、繰り返し強く思った。
だけど、あまりに長い時間のせいでボクはあきらめかけていた・・・
その時!
とても小さな声だけどゾーロの声が聞こえたような気がした。
(ゾーロ?ボクはここだよ!)
ボクは魂をふるわせて必死に叫んだ。
そうして、しばらく叫んでいると本当にゾーロがボクをみつけて袋から助け出してくれた。
(・・・夢じゃないよね?ゾーロだよね?ボクをさがしてくれたんだね・・・)
「夢じゃないさ、おいらだよ!でも、本当に良かった・・・コロでいてくれて・・・」
(うん、ボクはコロ)
「よし、行こう!」
(ゾーロ、今度はどこに行くの?)
「力の限り遠くへ飛んで行く、おいらたちの世界をみつけよう!」
(ボクたちの世界?)
「あぁ、どこかにあるさ・・・」
(うん!)
おわり。
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