Midnight waltz Cafe 

2nd Dance -第4幕-



          第4幕     Rumbling hearts



「まだ暑いよな。もう少し休んでいたいよ。」

9月1日、始業式の日の登校中に、ぼやく涼がいた。

涼にとって、七夕の日以降に大きな事件はなく、平和な夏休みを過ごすことになった。そのことに不満はないのだが、何か物足りなさを感じていた。

「十分遊んだじゃない。」

「だけどさ。何もなかったからさぁ。」

「いいじゃない、平和だってことなんだから。」

雪絵は、涼の物足りなさに気づいてか、笑顔で涼に話しかける。

「それはそうなんだけどさぁ。・・・今日は午前中で終わりだから、どっか遊びに行かない?」

「そうだね。でもどこに行くの?」

「そうだなぁ・・・」

「おはよう。おひさしぶりね。2人とも。」

2人の後ろから声をかけていたのは、真理であった。

「相変わらずね。あなたたちは・・・」

真理は、あきれている。

「どういう意味だよ。」

涼は、真理に食いかかる。

「そういう意味よ。まぁ、いいわ。また放課後にね。 ・・・・・・・・ 」

真理は、2人を追い抜く際に、涼に囁く。

「え・・・」

涼はそのささやきを聞いて止まる。

「どうしたの?涼。」

そう雪絵に聞かれ、なんでもないよと答えるのが精一杯であった。

・・・どういうことだ。今神尾の奴、なんて言いやがった。俺のことを・・・「怪盗チェリーさん」と呼びやがった。

気のせいか、いやそんなわけがない。彼女は気づいたのか。まさかな。

涼が一人で悩んでいるうちに、始業式は終わり、放課後となる。

「雪絵、悪い。用事ができた。」

涼は、そう言って教室を走り出る。

「(?_?) 何があったのかしら。」

キュピーン!! 「これは後をつけるしかないわね。」 私の中の『乙女の直感』がそう囁くわ。



とりあえず、神尾を探さなきゃ。涼は、始業式後の誰もいない校内を走り回る。

「どうしたの。そんなに急いで。」

涼は、呼び止められた。

「神尾か。」

「何か探し物?」

「ああ、ちょっと大切なものを落としてな。」

「探すのを手伝いましょうか。」

「別にいいよ。神尾だって忙しいだろうしな。」

「そんなことはないわよ。だって私は滝河君を探していたんだから。」

「え?俺を?」

「そう。滝河君、いえ・・・怪盗チェリーさん。」

不適に笑う真理。

「この俺が、怪盗チェリー? それはおもしろい。怪盗と探偵がよく会っていたなんて。まるでマンガの世界だぜ。」

涼は内心あせっていた。 朝の台詞から若干の覚悟はあったとしても。

「これを聞いても、そんな冗談が言えるかしら?」

そう言って、真理はICレコーダーのスイッチを入れる。



『最近の怪盗チェリーは・・・・・・涼君だったのですね』

『おそらく涼君、君と雪絵ちゃんもそうなのでしょう。・・・君だけが怪盗チェリーであるのと同じように』



「これでも、まだ冗談が言えるかしら?」 真理は強気に言う。

「・・・お手上げだな。」

涼は、そう言って軽く両手を挙げる。

「どうやったんだ? そんな録音を。」

「あのペンダントには、すぐ気づかれる位置に発信機と、気づかれないところに小型の盗聴器を仕掛けていたの。さっきのは、その録音した一部よ。 あ、安心してあの録音機あれから一時間しかバッテリーで動かないから。本当の持ち主の人の話を盗聴なんてしてないから。」

「神尾、お前。一人でやったのか。」

「そうよ、でもあの事件のせいで父があなたの捜査から外れ、当然私も外れてしまって、そのショックで最近まで忘れていたわ。」

「だから今になってからか、せっかくだからそのまま忘れてくれていてもよかったのに。」

「あら、残念でした。でも思い出したおかげで、あの事件の蒼波や黒い水晶のことがわかったわ。いろいろしゃべってくれてありがとう。お礼を言うわ。」

「それはそれは、どういたしまして。あんまり嬉しくないけどな。 ・・・で、どうする気だ?」

涼の顔が、急に真剣なものになる。

「そうね、警察に突き出すのも考えたんだけどね。 やめたわ。」

「!!」

驚く涼。

「こんなモノじゃ、誰も信じてくれないし、証拠能力もないから。」

そう言って、ICレコーダーを涼に手渡す。

「これって。」

「いいの、好きにしてちょうだい。」

笑顔で真理は言う。

「いいのかよ、俺に渡しても」

真理の行動が理解できない涼。

「いいのよ、だけどこれで貸し借りなしだからね。」

「貸し借りとかそんな問題じゃねぇだろ。せっかくのチャンスなのによ。」

「本当にいいの。今あなたを捕まえても面白くないし、やっぱりあなたは『現行犯』で捕まえないとね。」

「え!」

一瞬雪絵の表情が微妙に変わったが、真理は続けて・・・

「私が捜査を再開できるようになったら、あなたを現行犯で捕まえて見せるわ。それまで、私以外の人に捕まらないでね。」

「!!!」

雪絵の表情は、悪化の一途をたどる。

「俺は誰にも捕まらないよ。まぁ、今回はミスをしたが。次からはこうはいかないからな。」

涼は、雪絵と違って真理の言葉を純粋に『挑戦状』と思っている。

(この鈍感。と雪絵が思ったとか、思わないとか、思ったとか・・・)

「グッドラック、名探偵さん。」

そう言って真理は去ろうとするも、何を思ったか振り向きこう言った。

「そうだ、高校生の間は私も『怪盗チェリー』の仲間にしてくれない?」

「ダ、ダメ!!怪盗と探偵は敵でしょ!!!」

大慌ての雪絵。

「別にいいじゃない。今の私は探偵じゃないし。それに正体を知っている人が近くにいたほうがいいでしょ?」

「たしかに・・・」

納得する涼。当然猛反対するのは・・・・

「ダメなものはダメなの!!」雪絵である。

「いいじゃない。」 「ダメです。」・・・・・・

その押し問答は、何時間も繰り広げられ、伝説となったのは言うまでもない。

・・・「「伝説になんて、なっていません!!」」

一瞬雪絵と真理は同意した。

でも、まだ押し問答は続いていた。



さてさて、それからどうなったかというと・・・・



―こうして「深夜の舞踏会」第二部の幕が、下りようとしていた。-





                -EPILOGUE-





午前零時、その時刻は今も怪盗の時刻である。

黒のシルクハットに、スーツ、赤のネクタイ。そして銀色の眼鏡。 

不思議なマジックで、予告どおりに現れては盗んでいき、消えていく。



「あ~ぁ、夏休みも終わり、仕事と勉強かぁ。」

「涼、そんなことないわよ。もうすぐ修学旅行があるんだから。」

「修学旅行か、それは楽しみだよな。 イギリスだっけ。楽しみだよな。」

涼と雪絵の平和な光景である。

「こんばんは。」

真理が現れる。

「神尾さん、こんばんは。」

「おいおい、ほんとに来たのかよ。」

「あら、そんなことを言うの?だったらこのデータあげないわよ。」

「冗談だよ、冗談。それよりどうだった。」

「ほんとに驚いたわ。あなたの考えどおりで。なるほど。あなたを簡単に捕まえられないはずよね」

「サンキュ、それじゃ、行ってきますか。」

怪盗チェリーとして、涼は夜の闇に溶け込む。

「いってらっしゃい。」

「まぁ、気をつけて。」

押し問答の結果、しぶしぶ雪絵がおれ、2人でやってきたこの仕事に新たなメンバーが加わった。





「あ、そうだ。高瀬さん。あなた、私が滝河君をとるとでも思っているの?」

真理は、挑発的に言う。

「別にそんな・・・」

どもる雪絵。

「とられたくはないんでしょ?」

「う、うん・・・」

「大丈夫よ。」

微笑む真理。

「え!?」

驚く雪絵。

「あなたたちはラブラブなんですから。」

そう言って真理は帰ろうとする。ただその帰る前に・・・

「でも、私は、私の居場所はキープするから。」

真理は、笑顔で強くそう言って歩き出す。

「え、どういうこと?」

「ふふっ、べ・つ・に。」

微笑を残して真理は去った。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」 唖然とする雪絵だけが残った。







「おー、いるいる。わざわざご苦労なこった。」

怪盗チェリーのいる屋上の風が、少し強くなってきた。

「少し涼しくなってきたな。そろそろ時間だ。さぁて、いただきに参りましょうか。」





・・・そして今宵もまだ、舞踏会は続いていて終わりを見せないのであった。







                          To be continued.


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