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カルーア啓子さんサイド自由欄
「今年は何年ですか。」
「498年だ。」
「年号の最初の数え始めは?」
「数え始め?」
「498年の最初、元年,1年はどこから?例えば、この国の昔の建国からとか。」
「ああ、聞いたことがある。昔、明け方の東の空が真っ白になり、それが空全体に広がって、やがて空全体が真っ黒になったことがあったと。しばらくして元に戻ったが、それが天地の終わりで始まりだから年号の始まりになったと。」
「ありがとうございます。まだ聞きたいことがあります。スパン帝国も2つの街だけですか。」
「そうだ、街道にいくつかの村があるが。」
「スパンの南にロマスク帝国と言う国があるそうですが、その国も同じですか。」
「そこは知らない。」レアルはそう答えて、変なことを聞くやつだと思った。
(なんとなく、分かってきた。この地域の人口は少ない。この地域だけではない。西方大陸でもそうだった。この世界は科学技術の発達の割には歴史が浅い。この惑星で人類が誕生してからどれだけの年月が過ぎてから、年号を数え始めたか分からない。しかし、地球で西暦500年と言えば、日本では飛鳥時代より前の古墳時代、ヨーロッパではゲルマン民族の大移動、古代から中世の始まりの頃だ。そのころの地球の科学技術では思いつきもしない核兵器を造ろうとするのだから、異常である。たった2・3の街や村で国を名乗り政治体系ができるのは、この異常な知識のせいなのでは。そして、有り余るほどの未開の大地が自国にあるのに他を侵略しようとするのも、この異常な知識のせいなのだ。やはり、この世界はいびつだ。)
三木はそんなことを考えながら、窓の外を眺めていたが、ふと思いついて、レアルに尋ねた。
「古の民のことを知っていますか?言い伝えとか。」
「古の民、何だそれは?知らない。」とレアル。
「そうですか。では、我々と形態の違う、例えば、猫の耳をした人はいますか。」
「何だ、それは。漫画のような想像の生き物だ。皮膚の色が違う人ならいるが。」
「じゃあ、魔法なんてファンタジーなこともないですね。」
「魔法のようなことはあるさ。それは二ホンの攻撃だ。」
(古の民の伝承もトメリア人の言う亜人も存在しないか。西方大陸とこことは交流もなかったようだ。日本の攻撃が魔法?そうかもしれない。古の民の国は、日本より50年も100年も科学技術が進んでいると考えられている。耳の尖った人たちの長の話では、猫耳も熊耳も尖った耳も古の民が造った人であると言う。そんな国から攻撃を受けたら、我々も魔法だと思うかもしれない。そんな国が滅んでいるはずがない。その国から攻撃を受ける前に対処しなければ、日本が滅ぶ。)
三木には古の民の遺跡にあったパワードスーツの訳の分からない構造の一部が解明されたという報告が届いていた。それは電気を通す度合いがいろいろ違う微小なプラスチックで構成された回路がコンピュータの回路に似ており、人工知能がプログラムされているものがスーツの中に組み込まれているので、戦闘ロボットではないかという報告である。
三木は、この惑星の奇妙ないびつさは古の民の仕業かもしれないと感じていた。
(古の民が亜人を造った。では、そうでない人たちはどうなのだ。肌の浅黒い人たちが圧倒的に多い。白人も黒人もいるが数が少ない。プロリの人たちも観察したが、リベルテの人たちと全く同じ。わしは薩摩だ、わしは長州だと言わなければ分からないのと同じで、みかけで区別がつかない。それに、トメリア人もバーキー人もみかけはリベルテの人たちと全く同じ、名乗らなければ分からない。見てはいないが、サンパル皇国の人たちも同じような気がする。人種の多様な地球とは全く違う。
地球では、黒人や肌の浅黒い人達が差別されたが、肌の色の違いで差別している形跡は全くない。西方大陸でもそうだった。差別は亜人に対してだけだった。)
三木は護衛艦いずもに連絡を入れる。いずもから輸送ヘリが飛んできて、海軍基地の広場に着陸。三木がそれに乗り込むと、離陸して飛び立つ。
(とんでもない国の只者でない男だった。たった1人で異国に潜り込んで、仕事をして去るのだから。)それを眺めていたレアル大佐は そう思った。
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ナナヨン戦車で攻撃をしていた日本は、リベルテ国の戦車や軽トラを全て破壊したことを確認すると、装甲戦闘車と機動戦闘車が進行し、攻撃に参加する。コガタと呼ばれるトラックと輸送防護車はその場で待機している。
日本の圧倒的な破壊力に恐れをなしたリベルテ国の兵たちは武器を捨て、瓦礫となった街の方へ逃げて行く。
バーダン率いる反政府集団とプロリ反乱軍は、リベルテの兵たちの激しい抵抗に、一進一退を続けていた。ドカーン、ドカーン、ドカーン。西方からナナヨン戦車が砲撃。二ホンの戦闘車両がやってくると、兵たちは武器を捨てて街へ逃げて行った。
しばらくすると、コガタトラックや輸送防護車もやって来た。リベルテ反政府集団とプロリ反乱軍に二ホンの自動小銃を配ると、二ホンの戦闘車両を先頭に街へ進行して行く。右手は爆撃により瓦礫となっており、爆撃のなかったところも人はいなかった。二ホンの自衛隊と反政府集団とプロリ反乱軍は、反撃されることもなく街中をトスリン宮殿に向かって進行して行った。
トスリン宮殿内の港で、近衛兵を攻撃していた戦闘艇の乗組員たちは、港湾に兵の姿も反撃もなくなったことから、艇を桟橋につけて上陸しようとしていた。それを止めたのは、マイト中尉であった。
近衛兵が隠れて待ち受けていることも考えられたからだ。戦闘艇にいる限りは安全、外は危険。そう思ったマイトは、陸路から侵攻してくる仲間を艇で待つことにした。