かずやんの旅日誌

かずやんの旅日誌

もうひとつの世界

~もうひとつの世界~



ある晴れた日の午後。

キリュウは、喪服姿で田舎の民家に立っていた。

「シンイチが死んだ」

学生時代からの旧友だったシンイチとは、よく青空を見上げていた。

お互い雲が悠々と流れる青空が好きだったのだ。

そんな空を見上げながら、将来のことを語ったり、他愛もない話をしたり、

たまにはケンカだってした。

社会人になってからは会う回数こそ減ったものの、

やはりお互いどこかで繋がっている青空を見上げていた。

あまり、物事に捉われないキリュウが、唯一「親友」と呼べる

存在だったのかもしれない。

そんなシンイチが死んだ。

3日前の事だった。


河原の土手で息絶えているシンイチが発見された。

死因は心臓発作。原因は過労だった。

毎日の激務に追われていたシンイチが久々に取れた休暇に、

大好きな青空を眺めていたらしい。

その証拠に、シンイチは空を見上げながら胸に手を組み息絶えていたという。


法要が終わり、キリュウは民家の庭に出た。

タバコに火をつけ、煙を吐きながら空を見上げる。

今日もシンイチの好きな青空である。

雲が一つ二つ。

数えるうちに、自然と涙が溢れる。

涙を拭うように視線を落とすと、そこには水瓶に映し出された

「もう一つの世界」があった。

この世界はシンイチのいる世界に繋がってるんだろうか。

シンイチは向こうでもこの青空を見上げているんだろうなぁ。


今のこの世界の空も、もう一つの世界の空も綺麗に晴れ渡っている。


本日快晴日本晴れ。


晴れ渡った空から吹いた風が、シンイチの笑い声に聞こえた。




もうひとつの世界






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