かずやんの旅日誌

かずやんの旅日誌

~紅~



10月も半ばの肌寒い日。

キリュウはCBを駆り、東北道を北上していた。

「結局、間に合わなかったなぁ」

そう呟きながら、アクセルを捻る。

キリュウは、お袋の墓がある故郷へ向かっていた。

お袋の年忌に仕事の都合がつかず、結局盆に帰省できずにいた。

兄貴の怒鳴り声が耳の奥でこだまする。

「分かってるよ」

その声をかき消すようにCBに加速をくれてやる。

「…もう3年になるか。」


お袋がこの世を去って3年。

早くに親父が死んで、女手ひとつで兄弟を育ててくれた。

朝から晩まで働きずめで、昼の仕事から帰ってきては

夜の仕事に出かける為、真っ赤な口紅を差すお袋の姿が印象的だった。

「…そういやお袋、紅色が好きだったなぁ。」

幼い頃に、真っ赤な花の絵をプレゼントしたら、涙を流しながら

喜んだお袋の姿が浮かぶ。

「親不孝者でごめん…」

キリュウが実家を出て10年。

その間、仕事を理由に実家には全くといっていいほど、帰っていなかった。

ようやく帰ったのは、お袋の葬式だった。

柩に横たわるお袋。

死に化粧も、真っ赤な紅を差していた。

そんなお袋の姿を思い出していると、故郷のインターまで来ていた。

実家はもうすぐだ。

高速から1時間ほどで実家に着くと、そこは既に更地となっていた。

CBから降り、土を手に取ると、懐かしい日々が蘇る。

木々のざわめき。草木の匂い。

その全てが昔のままだ。

その時、ふと吹いた風がキリュウを呼んだ気がした。


「お袋。」

踵を返すと再びCBに跨る。

お袋の墓まではそう遠くない。

草が被い茂る墓地に、お袋の墓はあった。

「遅くなっちまったな」

「ごめん…。お袋」

これまでの親不幸さと身勝手さで自分が情けなくなる。

無意識に頬を雫が落ちる。




「泣くんじゃないよ」




「え?」

「今の声は、お袋の! いやでも…。」

声が聞こえた方に視線を向けると、そこには紅く燃えるように

彼岸花が咲き誇っていた。

その紅い色が、幼い頃に見たお袋の姿と重なる。

「お袋…」

その彼岸花はなにも語らず、しかしどこか優しく包み込むように私を諭してくれた。

すると突然夕日が墓地に差し、彼岸花はより一層その紅さを増した。

キリュウには、それがお袋の微笑みに見えた。

「ありがとう、お袋」

キリュウはそう言うと、いつまでもその彼岸花に手を合わせるのであった。






紅



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