かずやんの旅日誌

かずやんの旅日誌

不死への旅

~不死への旅~



ある夏の日。

キリュウは車に揺られながら、眼下に広がる海を眺めていた。

「いっそのこと、ここから飛び降りれば楽になれるのに」

そう呟きながらも、医者の言葉が脳裏を掠める。



「あなたに残された時間は長くて3ヶ月です」

その非情な言葉にキリュウは押し潰されそうになっていた。

病名は白血病。

自覚症状は全くなかった。

いや、厳密に言えば風邪のような症状はあったのだが、

これぐらいなら大丈夫だろうと受診しなかったのだ。

病気が発覚したときには、かなり病状が進行し、化学療法も効き目が無いほどであった。

最後の手段として残されたのは骨髄移植。

しかし、適合するドナーが現れず、キリュウは完全に希望を失っていた。

それから苦しく辛い闘病生活が始まった。

あまりに辛い抗がん治療。

髪は抜け落ち猛烈な吐き気に襲われ、死んだほうがマシという思いに包まれていた。

そんな辛い闘病生活を送っていたある日、抗がん剤の効果が出たのか

症状が一時的に落ち着き、医師から外出許可がおりたのだ。

しかしキリュウには外出する気力など残っていなかった。

そんなキリュウを友人のカズが「気が滅入るから」と半強制的に

海へと連れ出したのだった。



日差しが照りつける夏空の元、車が着いたのは寂れた海沿いの水族館だった。

「なんで水族館なんかに…」

渋るキリュウを「まぁいいから」とカズが連れ出し、入場する。

中は普通の水族館と変わらない。

キリュウは来た事を後悔し始めていた。

しかし、カズに連れられ地下に降りていくと、急に雰囲気が変わった。

暗い部屋に多くの水槽。

明かりはほとんどなく、その僅かな光が何かを照らしていた。

「クラゲだ!」

そこには大小様々なクラゲが、まるで宇宙を彷徨うかのように浮んでいた。

「綺麗だ…。」

クラゲが不思議に浮ぶ空間に心を奪われていると、係員の説明が始まった。

クラゲの種類から生態まで。

その中で係員のある一言にキリュウは釘付けとなった。

「クラゲは不死とも言われています」

「不死!?」

「クラゲの中には老衰で死ぬ寸前に、さなぎのような状態になり、

その中で細胞が若返り、やがて生まれたばかりの姿に戻って、

再び成長を始める種もいるのです」

キリュウは目を輝かせながらその説明を食い入るように聞いていた。

しかし、キリュウはふと我に戻った。

「これはクラゲの話だ。」

「人間には応用できない。」

「俺は一体何を期待してるんだ」

キリュウは苦笑しながら、水族館を後にした。

帰路についたキリュウ。

しかし、不思議と気持ちが軽い。

まるでクラゲたちと宇宙を漂っているかのようだ。


すると、突然携帯が鳴った。

カズが「お前にだ」とキリュウに手渡す。

話し始めると同時に、キリュウの目に涙が溢れた。


ドナーが見つかったのだ!

ありがとうございます、と電話を切ったキリュウの目には

「生きる」という気力がみなぎっていた。

その目を見て、カズが

「生き返ったな。まるでさっきのクラゲじゃないか」と笑いながら言った。

キリュウも笑いながら、しかし心を込めて「ありがとう」とカズに伝えた。

夏の青い空の下、ふたりの心もクラゲのように澄み渡っていた。







不死への旅






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