2003/12/29
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九州の北側の海、玄海灘の孤島にオガチという鳥がいる。

羽根が大きすぎる為に、地上からは飛び立つ時に邪魔になって飛べず、木の梢まで足とクチバシを使って登って行き、大きな羽根を広げて飛んで行くのだ。

しかし、かなりのオガチが木に登る途中に落ちてしまって、なかには二度と登れず死んでいくものもいる。

それでもオガチは飛ぶために木に登る。

飛ばねばならないのだ。


そんなオガチのような男の物語が、昭和40年代前半にあった。

60代半ばの高校の先生だ。

航空機科で、航空力学を教えているこの先生は、人力飛行機での世界記録を目指していた。

ある古い工場を借りて、自費で生徒たちの力を借りて製作している。



この先生、ただの物好きではない。

グライダーでは、当時の世界的な記録であった10数時間連続飛行を実現しているのだ。

家が貧しく学校に行けず、大工をしながら勉強して、最後は大工も辞めてグライダーに没頭して、成功している。

航空力学の専門家の大学の教授たちからも、一目も二目も置かれている存在なのだ。

それだからこそ生徒たちも、その夢に付いてくるのだ。

千分の一でも、可能性がある夢だからこそ、その夢に賭けているのだ。

しかし、この先生は残念ながらお金には縁がない。

グライダーも仕事を辞めて自費を投入し、世界的な記録を作っても大きくは発展させることは出来なかった。

高校の先生になったのも、そういう実績を買われて招かれたのだ。


人力飛行機は、1年以上の歳月を掛けて製作されて、体重が軽い競輪選手に依頼して、挑戦したが失敗に終わった。

全く飛ばなかったのだ。



製作スタッフである生徒たちは卒業しても、後輩たちが受け継いで夢を先生と追う。

そして、二回目の挑戦では僅か数秒であるが飛んだのだ。

生徒たちは、その数秒で歓喜した。

卒業生たちも、朗報を聞いて後日先生の元に駆け付けて来た。

それから更なる改造をして、記録に挑戦するが、また失敗。




まさに狂人、ドンキホーテのような生き方だが、これぞ日本の製造業の真髄ではないだろうか。

ホンダの創業者本多宗一郎も、この先生のような夢を追いかける執念を発揮し、社員もその夢を共有して成功した。

りんご箱の上に上がって、従業員の前で夢を語った話しは有名だが、この時は、世間は誰も世界のホンダになるとは思っていなかった筈だ。

人力飛行機に賭ける先生は、運に見放されただけのような気がする。


孤島に生息するオガチは、死を恐れずに木に登り、失敗しても失敗しても、木に登る。

空を飛ぶために。

その中で漸く木の梢に辿り着いたオガチだけが飛べるのだ。

それは、理由はただ一つ。

飛ばねばならないからなのだ。


この話しは、地元のドキュメント番組の傑作選として再放送されていた。

昭和40年代には、地方の放送局でも、この1時間足らずの番組を制作するために、数年掛けて取材している。

オガチという鳥と人力飛行機に賭ける先生を重ね合わせる手法は、数々の賞を取った名物ディレクターならではのものだろう。

製造業と重ね合わせたのは、私ではあるのだが、現在の地方の放送局が、グルメ番組やバラエティ番組で、インスタントラーメンを作っているような番組作りをしているのと比べると、天と地ほどの差があると思う。

製造業だけでなく、日本全体が勢いが無くなっているのは、目先の利益しか考えてず、夢を追わなくなったことが、要因ではないだろうか。


但し、木の梢に辿り着くオガチは僅かではあるのだが。






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最終更新日  2004/08/07 01:14:34 PM
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Re:飛べやオガチ・・日本人の日本の製造業の真(12/29)  
釈円融  さん
う~ん、思わずうなってしまいました。<br>光景が目に浮かびますね。<br>すでに文章が玄人の域に達しております。<br><br>今年はいろいろありがとうございました。<br>来年もご贔屓に(笑)<br><br>よいお年をお迎えください。 (2003/12/31 08:53:35 AM)

Re:飛べやオガチ・・日本人の日本の製造業の真(12/29)  
harumama08  さん
これまた熱いメッセージ!<br>年末にこのような熱いメッセージを<br>読んでしまっては、来年も頑張らねばいけません。<br>今年は、本当にお世話になりました。<br>本を読む習慣を思い出させて頂いたのは<br>非常に大きな出来事でした。<br>今では、ラクテンブックスで読みたい本を<br>取り寄せる毎日・・・。<br>来年もお兄様の復活模様をメルマガともども<br>拝見させていただきますよ!<br>覚悟してくださいませ! (2003/12/31 09:36:58 AM)

Re:飛べやオガチ・・日本人の日本の製造業の真髄ここにあり!(12/29)  
城後 光 さん
空飛ぶ自転車開発成功のニュースを見て、
思わずもう一度前田健一さんのことを思い出して、
こちらにお邪魔しました。

オガチは木の梢に辿りつくことを本当に願っているのでしょうか、ただ飛びたいのではないでしょうか。

そんなことを改めて、飛べやオガチを思い出しながら考えております。

本田宗一郎に世界一になって来いといったのは藤沢武夫がいたからです。本田には目の前のやつに勝つ執念しかありませんでした。

ニッポン人が忘れている気概だと改めて感じます。 (2013/06/13 02:20:26 PM)

Re[1]:飛べやオガチ・・日本人の日本の製造業の真髄ここにあり!(12/29)  
城後 光さん
>空飛ぶ自転車開発成功のニュースを見て、
>思わずもう一度前田健一さんのことを思い出して、
>こちらにお邪魔しました。

>オガチは木の梢に辿りつくことを本当に願っているのでしょうか、ただ飛びたいのではないでしょうか。

>そんなことを改めて、飛べやオガチを思い出しながら考えております。

>本田宗一郎に世界一になって来いといったのは藤沢武夫がいたからです。本田には目の前のやつに勝つ執念しかありませんでした。

>ニッポン人が忘れている気概だと改めて感じます。
-----

城後さん、コメントありがとうございます。
確かに、オガチはただ飛びたいだけで、その過程に木の梢があった、いや、それさえ見えていなかったかもしれませんね。

>本田には目の前のやつに勝つ執念しかありませんでした。
松下幸之助さんも「神様」などではなく、実際は、かなりがめつい人だったからこそ、あそこまで出来たという人がいますね。

城後さんが言われるように、気概、執念、最後はこれしかないですね。
理屈は、後付けです。
気概に、大企業も零細企業もないですし、有名人も市民もないですからね。
私も頑張らねば。

城後さん、お時間がある時は、また遠慮なくコメントください。
ありがとうございました。





(2013/06/14 09:50:48 AM)

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