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曹操閣下の食卓
☆『戦略ブーム』の後に
「戦略ブーム」とか「戦略ばやり」という巷の声を聞いて久しいものがある。
これはバブル時代に盛んに唱えられたもので、テレビの若い女性レポーターが年輩の経営者に「あなたの会社の戦略は?」と平然と問いかけ、相手が目を白黒させるという御粗末な有様であった。
その若い女性レポーターは別に多数の有能な経営者たちと長時間のインタビューを重ねて、その道の百戦錬磨のキャリアをもった人ではありえない。それどころか貸借対照表や人事組織について特別な勉強をしたわけでもない。
それでも知ったかぶりで、ポンと「戦略」という言葉を持ってくる。それだけでも十分に笑えるのだけれども、年配の経営者の狼狽ぶりは笑いごとではない。
バブル崩壊の後に、その会社は跡形もなくなってしまった。
それどころか、西武やダイエーが今日、こうなってしまうと、当時は誰が想像しえたであろうか。
日本の企業の大部分が「景気が急激に減速してバブルが崩壊したら、わが社はどうするのか」という危機意識とその発想そのものを持ち得なかった。
「愚か」と言えばそれまでだが、当時の多くの識者とか評論家と称する人々が、(閣下の知り合いの大学教授も含めて)「この景気はいつまでも続く」と盛んに発言していたことは事実で、バブル崩壊に突入しても「まだ日本は大丈夫だ」というぬるま湯のような考え方に浸っていたのである。
そのフィードバックが今日の日本経済である。
これについては多弁を要しないであろう。
その悪影響を最も受けているのが、お父さんが中高年のリストラ対象になって、失業した家庭であったり、就職率が極端に低くなって四年生大学生より内定が取りにくい女子短大生であったりする。
私事で失礼だが、私は日本新党に結成から参加して、細川内閣の時にはかなり政策決定にも関係をしたので、その時に大蔵官僚総当りの抵抗で、いわゆる「福祉税」騒動のために減税政策と税制改革が果断に実行できなかったのが実に残念でならない。
不良債権の問題も、あの時に制度として完全なルールを作っておけば、現在のような大きな政治的混乱になることはなかったであろう。
それから日本がとった政策方向はご存知の通りに消費税の増税であった。
これで日本経済は株式市場とともに崩壊する運命を歩み始めたといっても過言ではない。
それでは猫も杓子も「戦略」といっていたバブル時代の「戦略ブーム」はどうなったのか。
何の役にも立たなかったのか。
その答えはYESである。
それどころか、「戦略」という勇ましく聞こえる語感に惑わされて、さらに多くの人々が詐欺まがいのキャッチフレーズにだまされ、大きな損害を受けたのである。
ある有名証券会社は、バブル崩壊が続いている中、投資信託の《戦略ファンド》という金融商品を売り出したが、これは非常に良く売れて証券会社の好業績につながった。
しかし、その時点から株式市場は半分以下に大暴落しているのであるから、ほとんどの人々が間違いなく大損害を受けたであろう。
それで《戦略》と称している投資信託の内容といえば、ほとんどがコンピューターによる大量の自動売買に頼っている半面、他者の投資信託も同じようなソフトウェアで大量の売り買いを動かしているのであるから、実は独自の「戦略」といえるようなものは何もないのである。
「証券ストラテジスト」という人々はたくさんいるけれども、これは「相場師」という俗な日本語を、証券行政官僚の天下り財団が国家試験の認定をつけて、もったいぶって言い換えただけに過ぎない.
一つの会社の投信ファンドの買いが入ると、一瞬遅れて他社も一斉に動くという場面がしばしば株式市場で見られるということは、これは「戦略ファンド」ではなく、「お天気ファンド」とか「日和見ファンド」という命名が妥当かつ正確であろう。
特別な情報の入手はインサイダー取引の規制があるし、投資信託の成果は平等に分配されるので、特別な利益のために特別な労力をつくす知恵袋も情報源もいない。
これでは前後左右にゆれるだけで、上がったり落ちたりするダルマの徒競走のようなものではないか。
本当に証券ストラテジストといえるのは、投資信託の大量買いが入った時に、いつも反対に最も安値で仕入れたストックを短期間に売り抜けて大儲けする一匹狼のことだ。
私は今、全国の地方自治体の第三セクター事業の実態調査を、ステディかつ厳格で、定期的な監査制度に組み入れるために、国家と地方のあらゆる公的会計を強制的に標準化し、包括的な連結決算制度に再編成することを内閣府および財政諮問会議に提言している。
そこで判明したことはほとんど全国の地方自治体がバブル崩壊後の不景気の状況を十分に承知の上で、「○×リゾート」とか「△◇センター」といった奇妙奇天烈な名前の第三セクター組織に、さまざまな理由をつけて全くのお手盛りで巨額の公的資金を投入していることである。
そして、このように普通の常識では採算が取れないことが分かりきっている事業が、「やがて訪れる景気回復によって採算性は確保できる」という架空の前提に基づいて血税を惜しげもなく使って維持され、その経営責任を回避するために現在でも見直しもなく事業継続されていることである。
ここでも「戦略、戦略」という空しいキャッチフレーズが、実際に戦略学を学んだこともない人々によって唱和され、その「戦略」が実際に何を意味するかをも知りえない人々を誘惑したり、「バスに乗り遅れるな」と強迫してしまう構図が診て取れるのである。
このようなマイナス面を強調すると、皆さんに「戦略学は役に立つのか」という疑問が湧いてくることはもちろんであろうと思う。
しかし私は「戦略といえるようなものが何もない」のに、「戦略、戦略」と太鼓を叩いて回っているディレッタント(門外漢)は、政治家であろうと、詐欺師だと断言してはばからない。
その人々の実の姿といえば、つい子供のように調子に乗って「戦略、戦略」と言っているにすぎない。
詐欺だのウソと申し上げると、極端な表現になるけれども、《戦略・ストラテジー》という術語が不当に誤用されているために、多くの人々が不利益や大損害を受けているのが日本の現実なのである。
このような現実のありさまから出発することは、あるいは学問として実に不幸な旅立ちともいえるかも知れない。
しかし、誰かが「戦略」と一言でも口にしたら、
「あなたはどこで誰からどのような戦略理論を学んだので、そんなことが言えるのですか」と堂々と立ち上がって質問をして欲しい。
そして相手が答えに窮したら、
「知ったかぶりで物事を動かそうとするのは失敗の原因だというのが戦略理論第一章だ。よく覚えておけ」と私の代わりに言ってください。
それがモトで内定が取り消されることになったら、私も責任は取れません。
が、積極的に語学の資格を取るとか、いつも心の中で自分の会社を立ち上げるために必要なことを考えるとか、ますます自分自身に磨きをかけることをおすすめします。
これが戦略理論第二章、「本当に戦略を理解しない相手には決してついて行くな」ということ。
いわゆる「孫子兵法」を著したのは、孔子さんと同世代で、若くして活躍した孫武という人だが、そのお孫さんにあたる兵法家の著述、もう一つの孫子兵法が前述の≪晏子春秋≫と同じ中国の山東省銀雀山前漢墓から竹簡文献として発掘されている。
そこには「戦略が分からない君主を君主にするな」とはっきりと断言されているのである。
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