



ジムメルの言葉
「愛と憎しみとを正確な対立物とみることは完全な誤りである。愛の反対物は愛でないもの、つまり無関心である」
ゲーテ「ファウスト」のメフィストーフェレスは、
「わたしは常に物を否定する霊です。そしてそれが至当です。なぜというに、一切の生じるものは滅してもよいものです。して見れば、なんにも生ぜぬしくはない。・・・」
つまり「無関心」をすすめていけば「無」になるのではないか。有の世界では、無はほかならぬ破壊、否定になるというのでしょう。愛の最も困難な問題は、殆ど無数の質の愛があるからではない。愛が往々にして破壊や否定に結びつくという点であろう。サディズム、マゾヒズム、愛死など。しかしまた無償の、静かな、ものいわぬ愛もある。
しかしね、悪魔は年寄りだ。
歳をとったら悪魔の言うこともわかるでしょう。
メフィストの言葉だ。ファウスト博士に化けて学業を終えて意気揚々と学徒が引揚げたあとで、
「馬鹿者めが、いいから威張ってやっていけ・・・」
と独り言を言う。不思議なことに、それまではよくわかっていると信じている言葉も、その意味が、よく考え、じっくり眺めてみると、曖昧にもなっていく。その意味が明々白々と思い込んでもいるだけに興味を惹かないのか。メフィストのことばも、ただのせりふではない。ゲーテというひとは油断がならなぬ。大変なことを、時にさりげなくさらりといっている。
「悪魔」は、ただの悪魔の話ではない。